セミモジュラー天国へのいざない【4】

セミ!セミ!と言いつつズブズブとハマってしまうユーロラック・ワールド。
今回は最も多種多様で機材選びが楽しいシーケンサーの紹介です。
アナログライクなステップシーケンサーからiPad+BlueToothで制御する妙に近未来チックなものまで、
とにかく個性が強いのが大きな特徴です。

グルボにしろDAWにしろ、一つの機材に対してシーケンサーは一つなのが普通ですが、
ユーロラックは自由が効くので「一つに音源に対して二つ三つのシーケンサー」なんて事も可能。
何でもこなす万能型もあれば特定の用途に特化した個性派シーケンサーも選り取り見取りです。

とはいえ問題なのが、個性的過ぎてリファレンス動画を観ても何をやってるのか分からない、
日本語の情報や個人のレビューが極端に少ない、など購入を躊躇ってしまう方も多いと思います。

そこで今回は定番と言われるユーロラック・シーケンサー各種をセンパイがたに貸して貰い、
色々と試してきた物や穴が開くまで調べた物をレビューしますね。
但し数時間~数日程度の利用なので、あまり突っ込んだ使い方は把握しきれていません。
第一印象程度になってしまうのはご了承下さい。

○ユーロラックシーケンサーを選ぶメリット

これはシーケンサーに限った話ではないんですが、
ほとんどのモジュールが即興性を重視した作りになっているので、
インプロヴァイスプレイに適しているという事です。
近年のグルーブボックスはリアルタイムでの操作にも対応するようにはなっていますが、
元々の設計が打ち込み型をベースに考えられているのでここまで器用にはいきません。
同じ電子楽器でもより楽器としての意味合いが強いのがモジュラーシンセの特徴です。

○ユーロラックシーケンサーを選ぶ時の注意点

・シーケンスさせるのは音程とは限らない

フィルターだろうとアンプだろうと、
挿れる穴さえあれば何でもシーケンス出来るのが大きな違いです。
ユーロラック業界ではシーケンサーとモジュレーターの区別が曖昧なのも楽しいポイント。
LFOの変わりに使っても良いしランダマイザーを全自動シーケンサーとして使うのもアリなのです。

・「CVシーケンサー」と「GATEシーケンサー」は別物と考える

一般的なシーケンサーですと「トラック数」で幾つの音源を制御するかが決まりますが、
ユーロラックの場合は「CV+GATE」「CVのみ」「GATEのみ」といった機種もあります。
CVのみのモジュールは(パラメーターロックやモーションシーケンスのように)
LFO的な使い方も目的としていて、
ゲートのみの場合は主にドラム音源のトリガーやアクセントとして利用します。
マルチトラックシーケンサーの場合は1つのトラックでCVとGATEを別々のモジュールに振り分ける事も出来ます。

・パターンやプリセットといった概念が希薄

グルボのようにパターンを登録してソングを組んで、、、というシーケンサーは極端に少ないです。
後述するエロケンサーくらいかもしれません。
あくまでも楽器としての色が濃いのです。

・マスタークロックが無いと動かないのが普通

普通シーケンサーと言えばクロックのマスターになるでしょ?と思ってしまいますが、
ユーロラックの場合はそうでもない事が多々あります。
この場合はマスタークロックとなる別モジュールが必要になります。
またクロック内蔵式の物でも外部からクロックを入力してスレーブとなる事が出来ます。
これらは例えば「クロックディバイダー」などを使うとより多彩なシーケンスが可能となります。

・MIDI to CVは沢山あるけどCV to MIDIはほとんどない

これらの個性的なシーケンサーでソフトシンセやVAシンセを鳴らしたら楽しいかな?
と思いついた事がありお店で伺ったんですが、
そういう製品は無い事は無いけど精度が悪くて使い物にならない、と教わりました。
これが出来たらDAWでもMIDI音源でも本当に面白いんですけどねぇ。
素直にSQ-1で我慢しましょう。

○ユーロラックシーケンサーの機能でチェックしたい所

・仕込み型か即興型か

これは普通のシーケンサーでも同じ事ですが、
ノートとトリガーをあらかじめ打ち込んでパターン登録してからプレイさせる物と、
その場その場でパラメーターを変化させ易い物とがあります。
ユーロラックでは即興型の傾向が強い物が多いんですが、
もちろん完全にどちらかに振った物もあれば、若干他方の要素を取り入れた物も。

・シングルトラックかマルチトラックか

自分もそうですがグルボからモジュラーに興味を持つ人には
単純明快で直感的な操作感を求める人が少なくありません。
となると必ずしもシングルよりマルチの方がお勧めとは限らず
シンプルなシーケンサーを複数導入している例も多いです。

・ステップ

64ステップが一般的なグルボに比べれば8~16ステップが平均的と少々短いのが特徴。
これは多くのモジュラーユーザーが打ち込みよりも即興演奏を重視しているからでしょう。
ページの切り替えなんてやってらんないっすよね。
中には3ステップや5ステップなど変則的なシーケンス専用の小型モジュールもあります。

・ランダマイズ

少ないステップ数を補うのがランダマイズ機能。
シーケンスの走行をバラバラにしてしまう機能ですが、
ここを使う事によって多彩なフレーズが可能となります。
ランダマイズはトリガーだけでなくCVの方もランダムに出来たり、
ある程度の条件(スケールとか)に沿ったランダマイズなどもあります。

・スケールクオンタイズ

グルボで言う所のクオンタイズとは普通はトリガータイミングを指しますが、
モジュラーではスケールの方を指すのが一般的なようです。
デタラメな音程入力でもそれっぽく鳴らしてしまう楽器オンチには救世主な機能です。
シーケンサーに備わっていない物でも大丈夫。
「クオンタイザー」と言われる専用の小型モジュールが各社からリリースされています。

・リセット入力があるか

リセット信号とは(主に)小節の頭にだけ発振される信号で、
これを受けられるジャックがついたモジュールは有難いのです。
あまり精度の良くないクロック信号が大きくズレるのを防いでくれるし、
ディバイダーやマルチプライヤーなどでメチャクチャになったステップもチャラにしてくれます。

○代表的なシーケンサー各種

クロックの項でINのみの場合はマスタークロックが必要なタイプ。
OUTがあれば自走出来るタイプ、両方あるのがベストですよね。

・WinterModuler ELOQUENCER

https://www.modulargrid.net/e/winter-modular-eloquencer

CV/GATE:8
ステップ:256
クロック:IN/OUT
ランダム:あり
クオンタイズ:あり

「エロケンサー」といいます。最初「エロ検査?」というスラングかと思ったら本名らしいのです。
これは8トラックのCV/GATEをシーケンスする事が可能で、
最も大きな特徴は真ん中のディスプレイで全てのトラックのトリガーが俯瞰して観られる事。

右側の縦に並んでいるキーがトラックの選択、下の8x2列がトリガーキーで、
基本操作はトラックを選択⇢トリガーを置く⇢トリガーのパラメータをツマミで決定と、
端的に言ってしまえば「まんまELEKTRON」です。充実したランダマイズ機能や
LFOも内蔵しているので偶然性に富んだシーケンスも組み上げる事ができます。

ただ「ほぼ100%仕込み型」というべきかキッチリとしたパターンを組むのが得意な方でないと
使っていてストレスを感じてしまうかもしれません。
ELEKTRONやelectribe、はたまたDAWでの打ち込みが得意な方にお勧めです。

・Malekko VARIGATE8+

https://www.modulargrid.net/e/malekko-heavy-industry-varigate-8

CV:2
GATE:8
ステップ:16
クロック:IN/OUT
ランダム:あり
クオンタイズ:あり

一見してシーケンサーと捉えづらいルックスですが愛用している人がとても多いモジュールです。
特にドラムシーケンスに向いていて自分も試しに触ったつもりが15分で注文してました!
VARIGATEの基本的な使い方は各スライダーが左端の時がゼロ、
右端の時は100%という「ゲート信号を吐く確率」を制御します。
実際に触ってみるとこれがまた新感覚!新しい性癖を見つけてしまったようです。。
一見CVに見えますがお間違えの無いように。CVトラックは二つだけです。
他にもリピートやステップ長、スケールやゲート長など様々なパラメーターを制御出来ます。

特に気に入った点がリコールとクリアのし易さ。
リコールとはあらかじめ登録しておいたパターンにサクっと戻す機能。
クリアはトラック毎でも全トラックでも出来ます。
過密になったドラムを一瞬で「抜く」テクニックは必殺技になりまずぜ。

このVARIGETE8+にCVトラックを8つ追加出来るCVシーケンサー「VOLTAGE BLOCK」や、
コンパクトにした8ステップ4トラック(CV/GATE選択可)の「VARIGATE4+」もあります。

・MAKE NOUISE RENE mk2

https://www.modulargrid.net/e/make-noise-rene-mk2

CV/GATE:3
ステップ:16
クロック:INのみ2系統
ランダム:あり
クオンタイズ:あり

独特のデザインと直感的な操作感、複雑なシーケンスが組める事から、
初代は大HITしたようでかなり愛用者が多い人気のシーケンサーです。
クロック入力が二つありトラックごとに違うスピードで走らせる事も可能、
ステップの方向も自由に変えられたりと、かなり奥の深い機材ですね。

・WMD METRON

https://www.modulargrid.net/e/wmd-metron

CV:0
GATE:16
ステップ:16
クロック:IN/OUT
ランダム:あり
クオンタイズ:あり

ドラムシーケンスに特化した高機能シーケンサー。
大きな特徴は4トラック分のトリガー箇所をひと目で把握出来る256のボタンです。
仕込み寄りだけど即興性にも優れたバランスの良いモデルでしょうね。

・Antumbra ROT8

https://www.modulargrid.net/e/antumbra-rot8

CV:1
GATE:1
ステップ:8
クロック:INのみ
ランダム:あり
クオンタイズ:なし

SQ-1と同じ系統の8ステップシーケンサーです。
直感的な操作性に最も優れているのがこのタイプ。
これはDIY専用で基盤とパネルのみの販売ですが、
作ってくれるビルダーは国内にも居るので紹介しますよ。

・Mutable Instruments Marbles

https://www.modulargrid.net/e/mutable-instruments-marbles

CV:3
GATE:3
ステップ:8?
クロック:IN/OUT
ランダム:あり
クオンタイズ:あり

これはシーケンサーと言って良いのか、前記事の内容に近いCVジェネレーターなのか、
上手く分類できませんがとにかく大人気の不思議フレーズ製造機です。
CV/GATEランダムジェネレーターとスケールクオンタイザーが3系統あるよって説明で良いのかな?
簡単に言ってしまえば軽く設定するだけで何かイイ感じのGATEとCVを延々と吐き続けます。
「これとRingsさえあれば君もアンビエント・アーティストだ!」とモジュラー屋の店員もドヤってました。

○まとめ

何を鳴らしたいか、或いはどこを揺らしたいかによって自ずと欲しい機能が定まってくる筈です。
自分が今回購入したVARIGATE8+は非常に気に入ってますが、
CVトラックを使ったノートシーケンスをやるとなると横スライダーはどうもピンとこなかったっす。
やはり音程はDarkTimeのようにツマミ物にしたいですね。
またたくさんのパートを即興で操作するとなると
やはり機材任せで良い感じのフレーズを作ってくれるランダマイズ機能や、
Marblesのように勝手に色々やってくれるモジュールも欲しくなってくるでしょう。

何にせよ最初は写真を見ただけで各々の用途が分かりやすい物を選ぶとよいでしょう。

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