beetlecrabTEMPERAとマングラー

最近流行りの「グラニュラー」そしてそんなに馴染みは無いけど「マングラー」という言葉があります。
音楽分野では「素材を極端に分解/再構成する」という事だそうで、
平たく言えば「すごいサンプラー」で「エグいサンプラー」です。
そして「どうしようもなく壊滅的なサンプラー」でもあります。

◯グラニュラーとマングラーどう違うの?

・ グラニュラー(Granular)

基本は「微細な音の粒(グレイン)」を操る技術や手法。
元の音声を 1ミリ秒〜数百ミリ秒程度の“粒” に分解
その粒を再配置・ループ・ランダマイズして再構築
→ 音が滑らかに“ほどけたり”、テクスチャ的になったりする

・ 代表例:
TEMPERA、Tasty Chips GR-1、Qu-Bit Nebulae、AbletonのGranulator IIなど

・ 聴感的特徴:
もやもや・きらきら・夢の中みたい・時間感覚が曖昧になる

・マングラー(Mangling)

もっと広い概念で「サンプル素材を破壊・再構築して別物にする」ためのプレイスタイルやアプローチ。
グラニュラーも“マングル手法”の1つではあるけど、
グリッチ、スライス、リバース、リピート、ステップ的再配置など全部含めて“マングル”と呼ばれる
より パフォーマティブ、ライブ的、DJ的なものも含む
多くの場合、素材の原型を壊しながらもリズムを残す使い方が多い

・ 代表例:
Ectocore、Octatrack、Bitbox、Morphagene、Elektron系

・ 聴感的特徴:
暴れる、カットアップ、破壊感、反復とズレ、機械的・荒削り・物理感

◯ついでにグラニュラーなんちゃらはどういう違い?

・グラニュラーシンセ(Granular Synthesizer)

最初から「合成用の波形」や「内蔵オシレーター」があり、それをグレイン化して加工。

音の元: オシレーター波形 or 内蔵波形
使い道: パッド、ドローン、変化するリードや音色など

例:

Ableton Granulator II(音声読み込みもできるがシンセライク)
Qu-Bit Aurora(シンセ+エフェクト中間)
Arturia Pigments(グラニュラーエンジンあり)

イメージ:
「音を作る」ことに特化したグラニュラー。
粒はあくまで“音色合成の手段”。

・ グラニュラーサンプラー(Granular Sampler)
特徴:
自分で読み込んだサンプル素材をグレイン化して再生。

音の元: ユーザーが入れたサンプル
使い道: 音素材の変形/マングル/パッド〜グルーヴ素材の変換まで

例:

TEMPERA
Qu-Bit Nebulae
Morphagene

イメージ:
「録音素材をいじる」用途。
どちらかというと“加工”というより“変質”に近い。

・ グラニュラーエフェクター(Granular Effect / Processor)
特徴:
リアルタイムに入力された音(外部ソース)をグレイン化してエフェクト処理。
基本的に「スルー音」や「エフェクト音」として出す。

音の元: 外部から入力される音(リアルタイム)
使い道: ボイスの崩し、エフェクトパッド、グリッチ効果、空間演出

例:

Mutable Instruments Clouds(Eurorack)
Microcosm(Hologram)
MOOD(chais Bliss)

イメージ:
「通すだけで化ける」タイプ。楽器じゃなくエフェクターとしての即興性が強い。

 

 

大枠でマングラー、その中にグラニュラーも含まれるって事すね。
TEMPELAはグラニュラーサンプラーでグラニュラーエフェクターとしても使えるってことね。
まぁ実際に一年以上は色々試して(本当に色々。Torso S-4は15万出して買ったけど即売ったw)
最終的に残った二つの機材を紹介します。

◯Beetlecrab TEMPERA(テンペラ)

チェコのBeetlecrab社が開発したポリフォニック・グラニュラー・サンプラー。
ハードウェア単体で動作し、独自のUIによって“音の彫刻”のような操作感を実現しています。
まさにマングラー気質のあるグラニュラー楽器。

最大4レイヤー8トラック同時再生可能で、
ステレオIN/OUTを持ち直接サンプリングやリアルタイムでのエフェクトも可能。
各レイヤーを「エミッター」と呼びHzモード(周波数モード)とBPMモードが選べる。
Hzモードではアンビエント系の音に向き、
BPMモードでは他機材とテンポ同期できるのでリズムに向いています。

◯Infinite Digits/Toadstool Tech Ectocore(エクトコア)


16スロットx16バンクのサンプル・プレイヤー/ビートマングラー・ユーロラックモジュールです。
最大の特徴は、“予測不能なグリッチビート”の生成とランダム性と手動操作の融合。
ランダムCVジェネレータ「Turing Machine」を土台にしたような動作コンセプトを持つ。

「ドラムマシンなのに未来が読めない」
「シーケンサーじゃないのにリズムが生まれる」
そんな感覚が味わえます。

同時発音は1サンプルのみ。しかし専用のWEBアプリを持ち、
そこでスライス等の設定をしてからSDカードに流し込みます。
こちらは手元に届いたばかりなんですが、そのカオス具合に脳を焼かれています。
Youtubeで検索すると分かるんですが主にジャングル/ドラムンベースを目的としたプロダクト
なようです。みんなそうだもん。オレはBPM90くらいで鳴らしてるけどね。

 

◯サンプル取り込み

どちらもmicroSDカード経由です。
TEMPERAはサンプルとは別にプロジェクトのサンプル全部と各種設定の入った「.canvas」ファイルというのがあります。
ちなみにユーザーが作ったcanvasファイルを共有できる「テンペラギャラリー」というのがあって、
慣れるまではここからcanvasファイルを貰っておきましょう。
ほとんどアンビエント向けの物ですがドラムンベースとかチュートリアルもあります。

https://gallery.beetlecrab.audio/patches/

Ectovoreの方はWEBツールを利用します。

https://ectocore.rocks/

ここでBPMやスライスの設定をしてSDカード経由で本体へ送ります。

TEMPERAの刻み設定は本体のチッコいディスプレイでやる必要があります。
どちらもひと手間あるけれど、
WEBツールの使いやすいectocoreの方が好きですね。

◯原音を流せるか

取り込んだサンプルをそのまんまの順番で流したい時もありますよね。
残念ながら両方できません。
たぶんできません。もしかしたらTEMPERAには方法があるのかもしれないけど、
Ectocoreは確実にムリです。音質もローファイ方面へメチャ変わります。
TEMPERAは「やや」ハイファイ寄り。

◯TEMPERAの使い勝手

多機能なグラニュラープレイヤーで、デザインコンシャスな(オレは好きじゃない)筐体は
かなり癖があったりファイル操作が面倒だったりもします。
これこそWEBツールやエディタがほしい。
しかしステレオIN/OUT、USB-A/B、MIDI IN/OUTと入出力は豊富です。
タッチパネルの感度も良く、ゲーミングPCみたいな色は変更可能。
設定箇所が膨大なので、それこそOverBrigdeみたいなツールが欲しいわ。

◯Ectocoreの使い勝手

構造がシンプルな分非常に使いやすいマングラーです。
ただしクイックスタート以外のマニュアルがなく、
エフェクトの種類とかトリガーモードの内訳とか何処にも書かれていません。
デフォルトで付いてくるSDカードにメーカー側でチョイスした音が色々入ってるんですが、
あんま聴いてないです。
EctocoreではWEB上のツールにサウンドをアップロードして管理する方法を採っています。
これが使いやすい。wavファイルを上げてテンポとスライスを確認。

サンプルは最大16バンク16スロットに入りますが、ツマミ一つとボタン一つで選択する為、
あまり多く入れない方が良いですね。

こんな風に非常に使いやすくはあるのですが、肝心の出音は極悪です。
音質はサンプラーと言うよりはデジタル蓄音機。
ドラムに特化してるだけあってくっそローファイです。
あのTuringmachineを元にしたランダムジェネレーターを
サンプルスライスの再生に充てているから原音がわかりません。

◯ランダム具合
TEMPERAはある程度パターン化していて、ツマミを回さない限りは一定のパターンとなります。
対してEctocoreはガチランダム。

◯音声比較

文章だけじゃ分かりにくいので、
ここでは女性の声で「12345678910」と喋ってる声をBPM120で制作しました。
3回繰り返し最初はそのまま、次にグラニュラー加工、更に内蔵エフェクトを加えたものです。

TEMPERA

Ectocore

聴き比べると違いがわかります。
TEMPERAはジューサー。ectocoreはキャベツの千切りスライサーです。
個々の音はectocoreの方がハッキリ聴こえます。やはりドラム特化マシン。
ただしTEMPERAは隣のトラックの音をたまに鳴らす機能があったり、そもそも8トラック同時再生できます。

またTEMPERAはBPMモードの他に「Hzモード」という周波数ベースのグラニュラー変化もできます。

TEMPERA Hzモード

ん〜これはここじゃよくわかりませんね。youtubeに色々アンビエンティな動画あります。

◯内蔵エフェクト

TEMPERAはマルチモードフィルター、ディレイ、リバーブ、コーラスが入っていて全部いっぺんに使えます。
Ectocoreの方はグリッチ系エフェクトが16種類。同時に出せるのは一つ。
更にはそのエフェクトも出現頻度をツマミで制御するという徹底っぷり。
ホント、予測つかない挙動をします。面白いけどね。

◯いちサンプルの制限

TEMPERAは11秒と制限があります。
Ectocoreは開発者曰く「40分のサンプル入れたらバグった」と言ってます。
どちらも16bit/44.1KHzのwavファイルだったと思う。違ったらごめん。

◯元ネタ作り

以前紹介したXLN XOやLOOPCLOUDなんかもオススメします。
どちらも効率よく大量生産に向いてます。DAW開いてる場合じゃないよ。

(過去記事)XLN Audio XOレビューhttp://rudeloops.jp/wp/archives/4543

XOは買い切りで90ドル、LOOPCLOUDは月額790円から。

ループに対応したサンプル試聴ツール。
8トラックまでテンポを合わせてエクスポート出来たりするスゴい奴。

 

◯おまけ:Torso S-4

これも買って即売り飛ばしたけど軽くレビューします。
ステレオ4トラックのグラニュラーサンプラー。

めっちゃオシャレなデザインの筐体だけど、手垢や脂が付きやすい仕上げです。
ボロ機材大好きマンではあるけどこのデザインでそれはかなりゲンナリする。
ファームウェアが未完成だけどアンビエント用途でなら現状でも最適。
ワークフローはELEKTRONによく似ていてめっちゃ分かりやすい。
音質は超綺麗だがランダム的な再生はできないと思う。
Torsoは何年もかけて地道にアプデを繰り返すメーカーなので、
「なんだよこれ!アンビエントしか出来ねぇじゃん!」と言って売ったけどそのうち化けるかも。
化けたらまた買うかも。

◯オススメ出来る人

アタシのように「グラニュラーってなんなの?」という方にはTEMPERAをオススメ。
グラニュラー・オールマイティプレイヤーです。
他の機種ではこうはいきません。

リズムに特化したい人、ランダム道を突き詰める人にはEctocore。
アンビエント特化、ELEKTRONライクな操作がお好みならS-4。

◯まとめ

TEMPERAは半年以上前に購入し、
レビュー書きたいけど何がなんだか全然わからずに過ごしていました。
もちろんライブでもよく使ってるんだけどね。わからないまま使ってる。

Ectocoreは買いたてホヤホヤ。

この手の機材で一番やりたかったのが「リズムを刻んでランダムに鳴らす」ことだったので、
シンプルで一番その用途に特化してるEctocoreは非常に気に入ってます。

おすすめ