マシンライブの動画撮影【構想編】

本来はカメラの選び方の前に「どんな映像を作りたいか」ビジョンを明瞭にした方が良いですよね。
撮影できる場所も人によって違いますし、自分自身が映るか否かによって機材も変わります。
前回の選び方指南では胸張って薦められる物にはAmazonリンク貼ってますけど、
「マシンライブ撮るならこの一台!」みたいな事は言えませんよw
そこでカメラのスペックは置いといて、どういう動画を作りたいか、考え方を紹介します。
あくまでも考え方なので、考える事自体は皆さんにお任せしますよ。

○記録映像から作品としての映像、音楽の補完へ

僕らの間でTwitterで流れてくる動画、ほとんどが機材の紹介かイベント風景の紹介です。
もちろんそういうチョイ撮りの数をこなす事は音楽撮影共にスキルアップの為に必要ですが、
そこで終わってしまっては勿体ないですよね。
既に持っているスマホを活用しているだけなら良いけど、
立派なシンセを買える位の投資をして買ったカメラで、じゃカメラも泣きますよ。

僕らアマチュア音楽家にとって記録映像以上のもの、それは映像作品と呼べるものであり、
トラックメイカーが曲を作るのと変わらない芸術性を備えている筈です。
もちろん自己満足で全然構わないんですけどね。お金貰って作る物じゃないし。

元来はメッセージ性が明確でない(=キャッチーでない)音楽をやっている僕ら。
それをもう少しだけ幅広い層に伝わるようにする為に映像の力を借りる、というのはどうでしょう?
特にアンビエント系のプレイヤーが映像に力を入れている印象を受けます。

○世界観の設定

ここを読んでいる皆さんはライブや楽曲制作で「自分自身のカラー」というのを分かっている筈です。
何かしらのジャンルに沿った音楽ならそのジャンルの価値観やその音楽から想像できる風景光景、
映画やアニメ、ゲームが好きな人ならそれらの世界観をパクってみたり、アイデアは沢山あるはず。

アタマの中で音と画とが直結しない人は、消去法で考えると想像もラクになると思います。
「この背景は自分の音には似合わないな」とか「凄く格好いい風景だけど自分の音とは違うな」とかね。
いわゆるクリエイター気質アーティスト気質の人はこういう夢想が大好きだと思うんですが如何でしょうかね。

自分がDJ時代によくやっていた事が、
「マンガや小説を読みながらシーンごとに脳内でBGMをつけてみる」作業でした。
SF系やバトル物のマンガが想像しやすかったな。
これを続ける事で「その時その場その人に似合った音楽」を選ぶセンスが養われました。

○自分の顔を出すか否か

割と大きな前提条件だと思います。
「容姿に自身がない」「ネットに素顔を晒したくない」といったネガティブな理由でなくとも、
僕らの音楽は匿名性の強調という価値観があるので全く顔を出さない映像作品だって良いのです。
ここが他分野の音楽MVとの大きな違い。
興味のある方はデトロイトテクノの生い立ちを調べてみてください。そこに匿名の哲学があります。
メッセージ性を曖昧にしたまま、どう感じるかは受け手に任せれば良いのです。

反対に顔を出す事でのメリットは、プレイに説得力を臨場感を加える事が出来る事でしょう。
極端な話、顔が出ないのならライブ一発録りでなくてもDAWで作り込んだ音を流したって良いですしね。

自分の動画チャンネルでは、
顔を出す体勢だけど濃いエフェクトでハッキリ分からなくする手法を採用しました。
プレイヤーの所作さえ伝わればいい、という考えです。
ただ今見返すと「エフェクト濃すぎじゃね?」と思わなくもありませんが。
濃いエフェクトにしたのはもう一つ理由があって、
性能の低いカメラしか用意出来なかったり現場が真っ暗なクラブであった為、
カメラから出てくる画はノイズまみれだったんですよ。
そのノイズや、各カメラの画質の差を誤魔化す為にあのエフェクトとなった経緯もあります。

ぜったいに顔を出したくない!って人は手元だけの映像をメイン動画にしていますね。
映像的にはプレイヤーが主役というより機材が主役、といった風体です。

○撮影条件の制約から出来る画を探す。

3年前に行なっていたマシンライブ動画のチャンネルがコチラ。
https://www.youtube.com/channel/UC58dKofAv-xNRyujAhpzybw

素人感まる出しで汚ねぇ画だなぁ〜、とは思われるでしょうが、
当時はかなーりキツい設備的制約の中でやってたんですよ。

渋谷のクラブの営業時間外を借りていましたが、
クラブですから暗いんですw照明を全開にしてもやっぱり暗い。
撮影用照明を買おうとも思ったけど預けられないし持ち歩けない。
カメラは借り物の古いビデオカメラと、コンデジ、iPhone8。
暗所性能?いい訳ないじゃないですかw

そして編集に関しても低スペックのPC(ヤフオクで買った5万円のゲーミングPC)。
15分の動画を書き出すのにひと晩かかるくらい。
写真は好きだったけど動画撮影経験は皆無。

これら悪条件をカバーする為に採った策は「汚しまくれ!」
暗所から出るノイズも各カメラの映りの差もローファイ感の強いエフェクトで誤魔化しまくりました。
そうして出来た映像がソレなんです。

仕方なく選んだ手法とはいえ、こういう汚した映像は好きなんですけどね。個人的には。
でもあからさまに画と音が似合ってないプレイヤーもいるでしょw
チョット申し訳ないなぁとは思ってます。

○メインの撮影場所を決めてから画作りを考える

顔を出さずに手元動画をメインに据える場合は自宅のテーブルを少し綺麗にするだけでOKでしょう。
或いは元々インテリアに凝るタイプで部屋を晒す事に抵抗の無い人や、
壁一面が機材で埋まってるような人は大丈夫でしょうね。

しかしライブの臨場感を伝えたい場合は、
やはり行きつけのバーやクラブ/ライブハウス又は音楽スタジオを借りる事を考慮しましょう。
最近では動画配信に力を入れている店も多く、大掛かりな設備を借りられる事も珍しくありません。
ここはそういったお店を探すか、行きつけのお店に提案してみると良いでしょう。

自分はと言いますと、絶好の撮影スポットがあるんですよコレが。
(というよりソコがあるから動画再開する気になったんだけどね)

大田区池上 C4R(Channel for Rent)
http://channelforrent.info/

ライブハウスではなくライブも出来る多目的レンタルスペース。
ここで電子楽器系パーティに参加しているうちに縁ができて世話になる事になりました。

通常のバーやライブハウスと大きく違う所は写真撮影やギャラリー用途も想定している為に、
内装がシンプルかつレイアウトを自由に変えられる事。
デザイン性の高い凝った照明や、逆にミニマルな照明も使えます。
もちろん時間貸しなので「客を呼ぶ」必要もありません。当事者だけでじっくり集中できます。
また三脚など大きな撮影設備を預かって貰えているので、
相談して頂ければそこで使う前提でお貸しする事も可能だと思います。

当面はここでスキルを磨いていき、慣れてきたら屋外で撮ってみたいですね。

 

○演奏風景以外の映像を挿入してしまう

動画編集ソフトで遊んでいるうちに思いついた案。
演奏風景をメイン映像として、他の映像を挿し込んでメリハリをつけてみましょう。

試しにやったのがコレです。

これは自宅テーブルの上に置いたモジュラーシンセのドローン音を卓上三脚で撮っただけのもの。
そこに行きつけのカフェで撮った「天井から下がっているドライフラワー」と、
「別モジュラーのゲートシーケンサーをピンぼけにした画」を挿し込んでみました。
そしていつもの癖で暗く汚す、とw

あたかも演奏者の脳内を回想しているような雰囲気を出してみたかったんですけど、
伝わりますかね?伝わらなくても画でメリハリを付けられる事は間違いありません。

なんでこういった雰囲気カットやテクスチャ画像映像をたくさんストックしておくのも良いでしょう。
そういう素材をDL出来るサイトも沢山ありますよ。
3DCGに興味のある方なら実写+CGで演出するのも格好いい筈ですし、
CG作るまでいかなくともVJソフトを導入してゴニョゴニョやるのもアリ。

○割と身近な方々の動画制作お手本集

電子楽器ライブの見せ方をどういう風に行えるのか、
既に実践している方々の映像をTwitterの身近な方から紹介していきます。

・TAKEO WATANABE

https://www.instagram.com/syaseikan/
(こちらのインスタグラムにてアーカイブ化されています)

新潟で電子音楽と絵画制作などの創作活動を行なっているワタナベ氏。
新潟の自然の中で演奏する姿に惹かれる人は多くSNS上でも楽しみに待っている人も少なくありません。
「絵を描く」からなのか上がっている映像はどれも構図が美しい。
聞けばロケーション選びに一番苦労されているらしく、
また天気や太陽の角度も計算に入れなければならないし、
完成した作品を眺めている自分等からは想像できないほど時間との戦いでしょう。
日本人の原体験を思い出させるような風景とマッチする音楽の断片。
ご堪能くださいまし。

・Tomohiro Nakamura aka Ghostradioshow.

「マシンライブ」という言葉が産まれるよりずっと前、
YoutubeがGoogleに買収されるより以前からグルーブボックスのプレイ映像を発信していたパイオニア。
この数年前の動画がアタシ大好きでしてね、これに憧れて動画始めようと思ったくらいなんですよ。
(成果物の差にはツッコミしないでな)
河原を歩く足元の画から始まり古めかしい建築物のシルエットが徐々に工場の姿を現してくる導入シーン。
もうこれだけでストーリーとして成り立っていますよね。
そして本人が浮かび上がり演奏となるんですが、露出は控えめにほぼシルエットのみ。
主役はあくまでも音楽と、異形の建築物って事なんでしょう。

そうそう、音楽映像はもちろんなんですけどナカムラさん写真が物っ凄く上手いんですよ。

Model:Cyclesと女の子のフィギュア。
機材のグレーと背景のグレー、m:cのデザイン上のアクセントである青いツマミとフィギュアの青い髪。
カラーの選択が絶妙かつ被写体の造形を知り尽くしての撮影、なんでしょうね。
このキャラクターが何者なのか全く知らない自分でさえ今にも喋り出しそうな錯覚に囚われます。

空気感が伝わる写真や映像って装備や技術だけじゃないんだなぁ、と思い知らされます。

・6lll

動画で顔を出したくない方は少なくないと思いますが、その好例が6lll氏の動画。
Twitter上でのみアップし続けているものですけど、頻度がハンパじゃないですw

機材を操作する手元だけを撮った動画に原型を分からなくする程のエフェクトを加え、
あとの情報は使用機材と作品の通し番号(?)だけ。匿名性の強い作品ですけど、
デザインに一貫性があり、いつ観ても「あ!6lllさんのだ!」とすぐわかります。

これは作品ひとつひとつのインパクトは弱くても、
「作品群」として観ると強力なインパクトを持つアートだとも言えますね。
出来ればアーカイブ化して貰ってシャッフル再生で延々と流していたいw

○Youtubeで拾ったパクり易いアイデア

・Volca Drum Techno Session

手元俯瞰撮影の好例。単にどアップにしてるだけに見えますが、
敢えて水平を取らないこと、音楽のイメージに合わせて全体の彩度を落とすなど、
細かい調整をする事によって撮ってそのままの只のプレイ動画とは一線を画しています。

同じ人、同じ機材の別バージョン。


・Endorphin.es Life is a trip: DATACHROME interview

モジュラーシンセメーカーでお馴染みEndorphin.esはプロモーションムービーに力を入れています。
この動画は単に機材を舐めて撮っているだけですけど、
LoFiなエフェクトとカットで程良く汚していてセンスの感じる作品。これも真似し易いんじゃないでしょうか。


・Endorphin.es – Shuttle System by Audio_units / Beatworx from Bangalore, India

こちらはライブ風景を軸に地域の光景やスタジオでの作業などを織り交ぜた構成。
単純に演奏風景を流すよりもずっとストーリー性に溢れる映像になります。
手間はかかるけど比較的パクり易いアイデアでしょう。

○電子楽器ライブ動画の宝庫FACTmagazine

YoutubeチャンネルFACTmagazineの中のいちコーナー「PatchNotes」には、
僕たちが理想とすべき格好いい動画が沢山あります。


・Patch Notes: Fronte Violeta

使ってる機材と出てくる音のギャップが面白くてTeitterのネタにしてましたが、
じっくり観ていると非常によく出来た映像作品なのがわかります。
やはり「その土地の街並みを映す」というのは、
世界中に自分たちのルーツを知らせるのに良い手段なんでしょうね。
しかしココどこだろう?南米とか南半球のどこかっぽいな、とは思うけど。


・Patch Notes: cøelho

これも比較的マネし易いアイデアです。ミニマル系のような無機質な音楽には似合いますね。


・Patch Notes: Nik Void

演奏風景とVJ(?)の組み合わせた好例。


・Patch Notes: Pavel Milyakov

レトロなエフェクト加工をするだけで情報量を減らし、より印象的に魅せる事も可能です。


○神領域。ぜったい真似出来ないけど見とれちゃう作品

・Apparition/Hélène Vogelsinger

もうロケーションからして完敗ですね。こんなに神々しい廃墟は日本には無いですよw
もしかするとこの廃墟を神々しいと感じてしまうのは音楽のせい?

・Ceremony/Hélène Vogelsinger

ヘレーネ姐さんもう一丁。
こちらは屋外、林の中での演奏。
どちらの映像もカメラワークが神業なんですよ。
恐らくジンバルで手持ち撮影なんでしょうけど、
演奏者との距離の詰め方が面白く勝手に想像すると、
「ふと聴こえてきた不思議な音楽に惹かれつつも恐る恐る近づく傍観者」
みたいな心理描写を演出しているようにも思えます。
そしてその描写を視聴者に共感させてしまう。

ほらほら、エッチなビデオを観てると主観目線で撮ってる映像あるじゃん?
あたかも自分自身が行為に至っている錯覚を引き起こして激しくアガりますよね?
それと同じ手法なんですよ。

・チャンネル・Cinematic Laboratory

https://www.youtube.com/channel/UC1VbCx8OE96Q5VT-Y9p6StA

演奏者を映さない系の映像では究極の形。
その名の通りシネマティック。クッソ金かかってるんだろうなぁ。

・Shared System Tutorials

機材の説明をするチュートリアル動画だって彼らにかかればまるで映画のよう。
タイトルやテロップの出し方がとても印象的なんですよね。

 

○映像制作指南動画

YoutubeにはVlogerやYoutuberの為に撮影から編集まで様々な指南動画チャンネルがありますが、
中でも秀逸なチャンネルを紹介します。

●Yuichi Ishida
https://www.youtube.com/c/yuichiishidacom

・【動画制作の裏側】実例と共に学ぶ、3つの点を意識したシネマティックな動画の世界観の作り方

機材レビューやチュートリアル動画は数多くあれど、
「映像クリエイターが何を考えてどういう手法を選んでいるのか」
そこまで突っ込んだ話をしてくれるのはココだけです。

・シネマティック動画の企画・構成・ストーリーはこのように考える。Artlistタイアップ動画をもとに解説。

音楽制作にも応用できそうなほど普遍的なクリエイティブワークの話も多いです。

●ETC FILM
https://www.youtube.com/c/ETCFILMTV

スマホに特化した撮影手法と、照明の話が勉強になります。

・iPhoneでシネマティックな映像の撮り方【スマホは最強のカメラ】

iPhoneでカメラ専用機に勝るとも劣らない動画を撮るコツと弱点の説明。

 

○まとめ

半分以上がお手本動画の紹介になってしまいましたが、
映像はブログの文字で説明するよりも映像そのものを観た方が早いですからね。
普段の生活で目に入る光景を「映像としてどうなのか?」考える動画脳を育てられれば、
後はそれを形にするのに必要な機材を揃えていくだけです。

 

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