SOMA Lab. Pulsar-23レビュー

ファイナルアンサー・オブ・ドラムマシン

前々から動画を観ていて気になってはいたPulsar-23、
思わぬところで臨時収入があり勢いで買ってしまいました。
日本でも購入できるのですが、どうしても限定カラーの緑が欲しくて
余分な金を払ってアメリカから購入。お値段は言いたくありません。
この緑(正確にはオリーブドラブという色です)が
どう見ても第二次世界大戦の頃の軍用の無線機か何かにしか見えない、
電子楽器らしからぬデザイン、鉄製の筐体はクッソ重たいです。
しかしこのロシア産れの異形のドラムマシン、
他では絶対に得られない唯一無二の音が出せると信じています。
レビューと言ってもこの記事読んでコレ買おうなんて人は皆無だと思うので、
「こんな変態機もあるんだよ」といった紹介に留めようと思います。


この動画でヤラれましたねー。

〇男の子はこういうのが好きなんでしょ?なド真ん中デザイン

ELEKTORNのように機能美が優れているなら現代のモダンなプロダクトだって
もちろん好きなんですけど、このデザインはドツボにハマりました。
たぶん世代とか、ガキの頃に観たロボットアニメとか、そういうのに影響を
受けているので若い人には共感を得づらいかもしれないですけど、大好きです。
ツマミ!トグルスイッチ!そしてオリーブドラブ!
ミリタリーオタクではない(とは思ってる)けど軍用品の類い、
特にWWⅡの時代に作られた物は機能美と頑丈さに優れていますよね。よね。
サンダース軍曹が「軍機密を保持した秘密の通信機器だ」と手にしていても、
スティーブ・マックイーンがトライアンフのケツに括り付けていても、
全く違和感ないと思いませんかね?

もっとも、SOMA Lab,はメリケンではなくソビエト時代の社会主義の下
黙々と働く労働者階級のプライドを引き継いでいると謳っていますが、
もう冷戦も終わったんだし細かい事は気にしない!

〇オマケのカバンがロシアンクオリティ

パルサー全製品についてくるキャリングバッグと、
それを更に入れる軍用?風のザックがついてきます。
キャリングバッグもリミテッド仕様の緑。
そしてザックはロシア軍、というかソ連軍か?と聞きたくなる仕様。
細かい部分の金具や縫製が良く言えばクラシカル。
ハッキリ言うと使いづらい仕様。パルサー自体の重さに耐えられるのかも不安です。
このザックは実用性はありません。。

〇購入時の注意

日本ではimplant4が扱っておりますが、
極力こちらで購入するのをお勧めします。
というのもPerfectCircuitから買った際の送料と関税がエグい。
送料は購入時にわかるから納得済みなんですが、
関税の無慈悲具合がハンパじゃないです。

44500円。

はじめ4450円と見間違えました。
しかも関税って到着してから1,2週間後に、そりゃもう忘れた頃に請求が届いて
「届いたら7日以内に払ってや」というモンだからホント凹みましたよ。。

〇基本スペック


ユーロラックケーブルと結線の図

SOMA Lab,はロシアのシンセメーカーで、
ウクライナとのゴタゴタを境にポーランドへ引っ越しているそうです。
ドローンシンセでお馴染み「LYRA-8」が有名ですね。
PulsarはLYRAと同じ思想の4トラックのセミモジュラー・ドラムマシン。
オーガニック・シンセサイザーというコンセプトを持っています。
たぶんアナログです。
ここまでカッコいいと、もうアナログとかデジタルとかどうでもいいんです。
4つのセクションのドラムシンセ部分と、特殊なシーケンサー、
剣山のように生えた無数の針(違う)から構成されています。
重さは4,5kgとありますが持ち手が無く体感的にはそれ以上に感じてしまいます。
一応、他のモジュラーシーケンサーやMIDIシーケンサーからの操作も出来ます。
エフェクトはディレイとリバーブのどちらかを選択する方法。
パッチング次第で両方のエフェクトをかける事ができるようですが、
アタシには全然わかりません。
左からキック、ベース、スネア、ハイハットとなっておりますが、
ベースのフレーズをちゃんと弾きたければ外部鍵盤かシーケンサーを
通じて行うようです。

パッチケーブルは鰐(ワニ)口クリップ式。それで針山を挟んでいく事になります。
デッキセーバーを同時購入したものの運搬時には全部外さなくてはならず、
かなり面倒です。外部入力端子もパラアウトも出来るけど、
すべて鰐口でパッチングしなけりゃなりません。悪い意味で徹底してるわw


パラアウトの図

外部入力の図

まぁTR-808から脈々と受け継がれるドラムマシンの様式美を
全否定した上に徹底的にブチ壊すマシンですね。

〇なぜここまで高価なのか

こちらの動画でPULSARの製造工程を覗えるんですが、
PULSARはまさしく(例えるなら昭和の町工場的な)前時代の設備で
ほぼ全ての工程を手作業で製造しています。
表面実装の部品など無く、基板の穴に部品の脚を通してハンダ付けする
昔ながらのスルーホール方式。筐体の印刷までもが手作業のシルク印刷です。
今の時代からするとスゲぇコストがかかるんだと思います。

おそらく60-70年代のブックラやモーグのシンセと同じ手法工法で作っているのです。
言うなれば作業員ではなく職人が作る完全に時代に逆行したこの作り方、
実はとんでもない音を産み出す原動力となっている筈です。

こういったものもじきにロストテクノロジーとして
扱われてしまうと思うとチョット寂しいんですけど、
こうした製品を手にする事が出来て誇らしい気持ちになります。

〇いきなり理解が追いつかないシーケンス

さて実際に触ってみるとどうでしょう。
まず小節とBPMの概念がありません。いや、無い訳じゃないけど希薄。
マスタークロックを決めるところから始めるのですが、
「Hzでクロックを決めてクロックディバイダーで小節数をさだめてね」
と言われても何を言ってるのかわかりませんよ!
具体的にはディバイダー部分とリセット端子を鰐口で繋ぐ、と。
すると1小節なり2小節なりのループになるんですよ。
そして本体下部にあるセンサー(銀色の丸いの)を触って鳴らしていきます。
これはルーパーとなっていて定めた小節数の間を繰り返す、そんなシーケンスです。
TR式ステップシーケンサーに慣らされた身にはとても新鮮なシーケンスで、
どうやってもメタメタなリズムになるんだけどそれがまた楽しいのですよ。

〇音の暴力かリズムの拷問か

なんとかマスタークロックの設定が出来るようになった時点で、
お店で鳴らす機会があって鳴らしてみたところ、
すげぇ。。語彙力なくなりますよ。
マスターボリュームを12時の方向(要は半分ね)に抑えて鳴らしているにも関わらず、
そこに居る者が全員唖然とする音塊を叩き出してくれます。半分で。
まさに「音圧の塊でブン殴るのが目的」の機材です。力こそ正義です。

音のキャラクター的にはKORG Gadgetの「TOKYO」というドラムマシンに似ていて、
無骨さと荒っぽさが魅力の域にまで達しているといった風体です。
もちろんTOKYOの方がこれらのアナログドラムシンセを模したものですけどね。

 

〇ルーパー、LFO、指で端子を触ってシーケンス(?)

この銀の丸をメーカーは「ルーパーレコーダー」と呼んでいるんですが、
それ以外にも本体シーケンスする方法があります。
ひとつはディバイダーとトリガー端子を繋いでしまうこと、
もうひとつはLFOから矩形波を出してトリガー端子に繋げること。
どちらも規則的なシーケンスになりますがパートによっては具合の良い鳴りっぷり。
キックは四つ打ちにしたい!とかクローズハットを16分で打ちたい、とかね。
更には無数に生えている端子のどれかを適当に触ると音が出る事もあります。

なのでテクノなりハウスなり何かのジャンルに特化したリズムを組むというよりは、
前衛的な殴打音と打撃音を重ねていく、といったプレイがよく似合います。
それがイヤならDigitaktから鳴らしましょうね。

〇ツッコミどころもかなり多いよ。

それなりの値段がする機材ではありますが、
おいおい!とツッコみたくなる所は多いんですよ。
何はともあれ鰐口クリップ。もう色々と不便極まりなくパッチング作業がダルい。
同じくパルサー持ちの友人が「そういう設計思想だから。。」と言ってますが、
アタシは絶対に認めません。こんなん手抜きだよ!
パラアウトも外部入力もこの鰐口でパッチングしなけりゃなりません。
外部入力のボリュームはありません。外部機器の方でなんとかしてください。
但しパルサーの強烈な音圧にタメ張れるならね。
各トラックにボリュームとエフェクトセンドが備わってはいますが、
ボリュームを殺してもエフェクトに送った音が残ります。ちゃんと消せよ。
ミュートも出来るっちゃ出来るけど、センサーを触りっぱなしにしないといけません。
オーガニック&エキセントリックなCV出力もあります。
センサー触ると微弱な電流(1V未満)が流れるだけですが。
ベースセクションはチョットくらい音階変えさせろよ!本当にブー!というだけ。

〇音圧高すぎて他の楽器を殺すマン

パルサーの相方にどんな機材が良いのか考えてみましたけど、結構難しいんですよね。
たぶん普通のシンセやサンプラーじゃ役不足。
強烈なドラムには強烈なシンセでないと合わないとは思いますが、
とりあえずモジュラーシンセをラインレベルに【下げずに】使っています。
この音を殺さず活用するにはそれなりにに悩みそうです。

〇結局コイツに合わせて他の機材を見直さなくては

ならないでしょうねぇw
まずゲイン幅の広いミキサーは必要でしょう。
エフェクトも内蔵の物でなくて質の良い物が欲しくなります。
ったく面倒臭い機材だよ!


〇ちょっとバラしてみたよ

パラアウトと外部入力くらい内側でやってくれよ!と思っていたので、
いっそのこと中で結線出来ないだろうか?と調べてみました。


謎のスイッチ(結局わからんかった)

パルサーの中身はやはり昔ながらのスルーホール実装。
これなら素人にも取っ付きやすい。
故障時に自分で直せる可能性も上がります。
今どきの製品だと表面実装の方が生産性もコストも上なんでしょうがね。

で、どうでしょう?例の端子が基板から直に生えているので
結線するスペースは内側の方がかえって広かったんですよ。
ハンダ付けでも良かったんですが、せっかくナットで固定する方式だったので
圧着端子を付けて固定する方法を採りました。


最初こんな風にハンダづけしたけど、


やっぱり圧着端子の方が信用できるよね。

結果は大成功。
地味な改造だけどいちいち鰐口で挟まなくて良いので
ライブのセッティングが圧倒的に楽になります。

〇まとめ

文句は色々あるけれど、やっぱりコレ愛せます。
ファイナルアンサー・オブ・ドラムマシンであるのは間違いない。
そこらのドラムマシンをバッタバタなぎ倒す魅力が確かにあります。
わからない所も沢山ありますが、長い目でゆっくり付き合っていこうと思ってます。

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