ソフト/ハードのハイブリッド・ライブミキシング
ミキサーの話題もとうとう3回目。
今回は実際に自分が購入した機材のレビューと、
(買った後で気がついたw)先進的なシステム構築のお話です。
前の記事でのミキシングの話題が思いのほか好評で、
フォロワーさんたちから色々な意見を頂きました。
中でも「DAWとアナログミキサーを併用して音質と操作性の両立を図る。ライブで(!)」
という話を聞いていたら「あれ?オレにも出来るんじゃね?もっとお手軽に」と
気がついちゃったのです。
◯当記事の対象ユーザー
廃、じゃなくて中〜上級者向けです。
10万円クラスのオーディオI/Fを所有する方、購入予定の方、
そんでiPadも持っているor欲しいという方を対象にしてます。
◯ソフトウェア/ハードウェアのハイブリッドシステムが身近になってきた
モジュラーシンセxコーディングとか、シーケンスはソフトで行なって音源はハードとか、
各々のコダワリに則った上でソフト/ハードのハイブリッドシステムを組む人が増えてきそうです。
モジュラーシンセ界では名のしれた電子音楽家カテリーナ・バルビエリは
DSPエフェクトとしてパソコンをライブセットに取り入れているそうですし、
僕らの友人でもあり「テクノ・レジェンド」の異名を持つREBUSTAPEは
デジタルとアナログミキサー両方使うシステムを何年も前から模索していたそうです。
※参考動画
[REBUSTAPE Live HardWired 17062017@Akihabara MOGRA]
https://youtu.be/lJX1IXeWh9E
彼ら「先っぽの人達」が苦労して組み上げた手法を
もっと安く手軽にパクってしまおうという魂胆がこの記事の主題です!
◯まだまだ高価だけどオーディオI/Fは大事
スタンドアロンでも使えてコンパクトな割に多入出力、高音質で定評のあるMOTUのUltlaLiteシリーズや、
ユーロラックに収まるExpertSleepersのES-8/9などがこの手のシステムを組む人達の定番なようです。
だいたい10万円弱ってところでしょうかね。ケチってはいけません。
ちなみにアタシ個人の持論ですけど、オーディオI/Fは新しい方が偉いです。
インターフェイスの核となるAD/DAコンバーターという回路が、とにかくエラい勢いで進歩しているから。
下手すりゃ10年前のハイエンドモデルより現行の1.2ランク下のモデルの方が音が良いかもしれません。
とあるエンジニアさんは上級でなく中級クラスのモデルを毎年買い替えている、なんて話もあります。
値段の差はアナログ部品の品質です。各メーカーとも手の抜きどころはココだって聞いた事あります。
なので条件としては、
・入出力が豊富であること。使いたいCh数よりも余裕をもった方が良いよ。
・USBクラスコンプアイラント対応(これが明記されてないとiOSで使えないよ)、
・持ち歩きに便利なハーフラックサイズ未満。
・特にモジュラーシンセの場合耐入力に余裕がある事。
・(ついでに)DSPエフェクター内蔵モデルは何かと助かる
・PCやiPadを繋がなくても使えるスタンドアロンモードも便利そう
これらの条件を概ね満たす機種となると、MOTUのウルトラライトでしょうかね。
このクラスのI/Fは詳しくないので他所様のレビューを参照して下さい。
◯オーディオI/F機能付きのミキサーは?
このあたりは各機種のスペックをしっかり見ないとわかりませんが、
・USBクラスコンプアイラント対応
・各トラック個別に入出力できる
・できればマスターも入出力できる
って所でしょうか。お手持ちのミキサーにI/F機能があるなら調べてみてください。
◯ソフトウェアに移行して一番便利なのは音質補正向けのエフェクト
チャンネルストリップとも言いますが、
フェーダー前の段階でかけるEQやコンプ、場合によってはノイズゲートなどなどです。
これをハードウェアのライブでやろうとすると
19インチラックのアウトボードをトラックの数だけ用意せねばならず、
とてもとても現実的ではありませんが、
ソフトならひとつ買うだけでCPUパワーに応じて幾らでも積めます。
◯でもソフト導入で単純に音が良くなるって訳ではない
前記事のTHDでもお話した通り、好ましいとされるアナログ回路の癖が、
AD/DAコンバーターを通して削れてしまうかもしれません。
ただそれを補って余りある多彩な機能がソフトにはあります。
如何様にも掘り下げて補正が出来るのです。
なので下手をすると「PC挟まない方が良かったなぁ」なんて事にもなりかねません。
徹底的に自分自身の音を創りたい、そんな方には最適ですけどね。
最初アタシ、音質補正向けではなくパフォーマンス向けのエフェクターを入れたんですよ。
スプリングリバーブとかテープエコーとか。
だけどタッチパネルでは使いにくいのなんのって。
BluetoothMIDIコンを使えば良いんですけど、それはそれでMIDIコンが邪魔w
結局辞めちゃいました。
◯神規格AUv3
いつの間にか出ていたiOS用プラグイン規格。シンセやエフェクトまで色々あるでよ。
このプラグインが出来たお陰でパソコン並とはいかなくても、
かなり高品質なシンセやエフェクトが多数あります。
でも値段はアプリクラス。数百円から数千円で入手出来る新しい沼です。
上記のI/FもiOS対応しますし、PCの代わりにiPadを使ってしまえば
DAWベースのデジタルシステムよりも低コストかつ軽量なシステムになる筈です。
もちろん厳密な意味での音質はわかりませんし、PCに比べてiOSでは拡張性に制約がありますが、
それでもこのハイブリッドシステムを採用する価値は十分にあります。
そして何より楽。PCよりも楽にスマートにシステム構築が出来るのが一番のメリットですね。
ソフトシンセや音源はどうなの?というと個人的には大いに活用すべきかと思ってます。
ミュージシャン志向の強い人ほど抵抗はあるでしょうが。
今はKORGのelectribe waveを凄く気に入ってまして、補助音源として使ってます。
他にもサンプラーソフトなどで生楽器の音や声ネタ、ボーカルなんかを使ってみたいですね。
◯これらをmy new gearしました。
・TASCAM Model 12
ミキサー/オーディオインターフェイス/MTRが備わったTASCAM渾身のプロダクト。
恐らくはDAWに慣れないミュージシャンをターゲットに開発されたものだと思います。
今の所レコーダー部分には興味が無いwのでそこは割愛します。
アナログ然としていますが中身はデジタルミキサーでして、
上位機種の24や16とは少し仕様が違います。
モノ6Ch、ステレオ2Ch、縦フェーダー、PFL、2系統の出力etc,
自分自身がPAミキサーに欲しい機能を備えている物で、最も軽いモデルがコレだったんです。
サンクラのEPM6も近いスペックですが、重量的にコッチの方が幾らかマシ。
それでも4.3kgあるので持ち歩くには少し気合が必要なんですけどね。
購入する前は「レコーダーとオーディオインターフェイスは、まぁオマケみたいなモン」
ぐらいにしか思ってなかったんだけどオーディオI/F機能がかなり有能だったので
もう手放せない機材となりました。
何が良いかって「iPadとケーブル一本でオーディオもMIDIも繋がる!」という点です。
メトロノーム専用出力があるのでアナログクロックも吐けるんか?
と思って色々と実験していますが、モジュラー側の挙動が怪しくなるのでまだまだOKとは言えません。
オーディオインターフェイスとしての性能ですか?
レイテンシーだ音質だとか正直わかんないけど、オレの耳には問題ないからオッケー!とします。
ただひとつ残念なポイントが、12in10out。その2コの差です。後でお話しますね。
・アプリ「AUM」
https://apps.apple.com/jp/app/aum-audio-mixer/id1055636344
IPad用のDAWも色々とありますが、もっとシンプルで使い勝手の良いアプリです。
iPad内と外を自由にルーティング出来るバーチャルミキサー。
音声だけでなくMIDI信号も扱う事が出来ます。
それでいてDAWより軽いんだから安心して使えます。
・アプリ「FabFilter proシリーズ」
https://apps.apple.com/jp/app/fabfilter-pro-q-3/id1469019469
https://apps.apple.com/jp/app/fabfilter-pro-c-2/id1468123337
DAWを使った楽曲制作からは何年も遠ざかっていましたが、
FabFilterと言えば超高性能EQでお馴染みのブランド。
iOSにも対応するようになったので、中でも定番中の定番EQとコンプを買いました。
どちらも高機能なのは言うまでもありませんが、扱いやすい所が良いですね。
PC版も使っていたけれど、タッチスクリーンの方が操作が直感的です。
◯iPadのスペック
自分が使っているのはそんなにイイ奴でもなく、
第7世代の無印(中古で3万円)です。
古いモデルだとCPU性能の限界が低いでしょうが、
かならずしもiPad PROが必要!というほどでもありません。
現行モデルでは無印が4万円で買えるので、そのあたりがお勧めです。
◯セッティング実践編
Model12でシステムを組むのは簡単です。
普通のミキサーと同じようにアナログ入力に音源を入れ、USB-C端子でiPadを繋ぎます。
iPad側でAUMを立ち上げて、その中にバーチャルルーティングをしていきます。
まず1-6Chのモノラル入力。
AUMのフェーダー上の丸をタッチして、HardWareを選び、USB 1−6と選んでいきます。
こっちが入力設定で、出力はフェーダーの下。これもUSB 1-6とそれぞれ選んでいきます。
そしてフェーダーの左にある丸をタップすると、エフェクトを選ぶ事ができます。
今回推奨するのはEQとコンプ。これを各トラックに配置します。
EQが先かコンプが先かどちらが良いのかは諸説ありますので興味のある方は調べてみましょう。
Model12の場合各チャンネルの上の方にソースセレクトスイッチがあります。
「DIRECT」だとアナログ入力、「PC」だとiPadを通った音になるので、
簡単に聴き比べが可能ですね。
CPUの負担ですけど、上記のiPadで6トラックEQ&コンプを使って40-45%くらいです。
十分実用範囲ですね。
◯ミックスダウンのイロハ
こうしてミックスダウンに限りなく近い作業が可能になりました。
ミックスダウンの学習はサイトや書籍など情報が様々ですが、
できれば書籍として販売しているもので、尚且クラブミュージックに向いているものを選びましょう。
ロックやポップスの本はアテになりません。
出来ることならセミナーなどでその筋の専門家からミッチリ教わるのが良いです。
アタシもCOLDFEET/watusi氏の主宰するミックスダウンセミナー受けていました。
映えある第一期生なんですよ!実は!もうあんまり覚えてないけど!
さてこのシステムで丸一日iPadと格闘してミックスダウンの復習をした訳ですが、
やはりiPadを通さないよりは自由に音創りが可能な事はわかりました。
◯Model12システムの弱点
先程話した12in10outの罠。
実はマスターだけはModel12からiPad(PC)にデータを送れても、その逆が出来ません。
つまりマスターにエフェクトをかける事が不可能なのです。
この仕様はファームウェアのアプデでどうにかなる問題ではないので諦めるしかありません。
惜しい。本当に惜しいところです。
まぁ開発側もこんな使い方を想定していなかったんでしょうが。
通常のオーディオI/Fであればマスターにも挿し放題だとは思います。
◯マスタリング編
これはModel12では不可能なのですが、
オーディオインターフェイスであればマスターにエフェクトを挿す事も可能な筈です。
AUv3アプリにはマスターエフェクト向きのマルチバンドコンプやリミッターやらも豊富なんすよ。
さすがに天下のOZONEは無かったけど、
FabFilterの全部入りバンドルにはマスタリング向けのエフェクトも揃っています。
◯AUMのその他の使い方
AUMは内部にバスを作れますので、ルーティングが更に自由になります。
センド/リターンでリバーブやディレイを作ったり、
楽器ごとにまとめてバスコンプをかける事も可能です。
あとはCPUと相談ですね。ソフトシンセ使ってリバーブ使って、となると
だんだん重くなるので、そこまで想定している人はPROの方が良いかもしれません。
MIDIのルーティングも自在で、
最近お気に入りのアプリKORG electribe waveと一緒に走らせたりもしています。
(同期が安定しないので要対策ですが)
またMIDIコンが使えます。
Model12経由でDIN MIDI仕様のMIDIコンも良いですけど、お勧めはKORGのnano Kontrol Studio!
Bluetooth接続なのでケーブル要りません!
MIDIのCCアサインも簡単ですよー。
◯お勧めシステム
ひとつはここに挙げたModel12のシステム、
もう一つはMOTUのUltlaLite mk5を中核にしたシステムです。
フィジカルな操作感と接続のシンプルさを取りたいならModel12の方、
マスターにもエフェクトを挿したりトータルでの機材重量を減らしたい人はMOTUの方をお勧めします。
しかしジブン、このあたりのハイエンド(?)クラスのI/Fはあまり詳しくはないので、
購入の際はしっかり調べてくださいね。
◯まとめ
AUMとAUv3でホント色々な事が実現するようになりました。お手軽に。
補助音源を入れても良いし、シーケンサーを使っても良いでしょう。
ミックスダウンやマスタリングに近い事を行なう事によって、
DJの扱う既存曲にも喧嘩を売れるようになりますね。
シーン全体でクオリティ向上する事によって今までと違ったフィールドが開けるかもしれません。
ぜひとも挑戦してみてください。