MakeNoise MATHSレビュー
単体モジュールのレビューをしようとすると何故かMakeNoiseだけになってしまいますね。
もちろんそれだけ素晴らしく、モジュラーシンセがここまで普及したのはこのメーカーのお陰です。
とある音楽クリエイターが(たぶん本職の方?)、
「モジュラーシンセ始めるならMakeNoiseのシェアードシステムを買うのが一番の近道だ!」
とTwitterで言っていました。モジュラーシンセ始めようって輩が
いきなり60万だか70万だかを投資出来る訳ねぇだろ!とツッコミ入れつつも、
確かに最も理にかなってる案だとも思いましたね。
(一人だけそんな蛮勇をしでかした奴を知っているが)
ま、アタシはアレでもないコレでもないと迷走するのもモジュラーの楽しみ方だと思っていますが。
そして今回はMATHS。世界一売れたモジュールと言われ発売から10年経った今でも人気絶頂の名機です。
今ですと新品も中古も5万円前後で市場に出ています。黒いパネルが欲しい方も海外通販でなら30ドル前後で買えます。
ファンクションジェネレーターは今まで色々買ってきたけど、MATHSに辿り着いたのは今回が初めて。
この、音が出るわけでもなくエフェクターですらない「ファンクションジェネレーター」なるものが
キング・オフ・モジュールと言われているのも、モジュラーシンセが如何にマニアックであるかを思い知らされます。
みんな欲しがる純正黒パネル。
シェアードシステムについてくる奴で単品では買えない。
が、細かいデザインにこだわらなければ黒いパネル自体はよく売っている。
最後の奴がカッコいいなぁ。
◯ファンクションジェネレーターとは
以前の記事で紹介したのでここではザックリと。
エンベロープとLFOを兼ねたものが2つまたは4つ(最近は1つのもあるらしい?)あって、
互いに影響し合えるCV信号を生成するモジュールです。
自分が過去に購入したものは、
Intellijel QUADRA
Buchla-TipTop 281t
Befaco Rampage
Hikari TripleAD
といったところです。
クアドラはよく知らん頃に売り飛ばしたけどまた欲しいかも。
281tはデカ過ぎるから売り飛ばした。
ランページは穴の使い途がよくわからんくて売り飛ばした。
TripleADは2つ買ったけど1つ売り飛ばしたわい。
他にも単純なエンベロープジェネレーターとしてNoiseEngineeringのSincBucinaを好んで使ってます。
そうこうして行き着いたMATHS。
数学という名のモジュール、数学どころか算数も苦手な自分に使い切れるのか、かなり不安です。。
◯MATHSの概要と購入に至った経緯
20HPとわりかし大きいっすね。深さは24mmと一枚基板でどんな箱にも入ります。
エンベロープ兼LFOにあたる箇所は2つ。真ん中にアッテネーターやミキサーとなるチャンネルが2つ。
たぶんね、この真ん中のツマミ4つと最下段のジャックがMATHSのミソだと思うんですよ。
このミソ部分を理解出来ていなくて、それでいてクソデカなのが今までMATHSを避けていた理由なのです。
自分の主宰する個人売買交流会「マチモがらくた機材市」でMakeNoiseのQPASを安く手に入れたんすよ。
でもコイツはステレオじゃないと本領発揮できないようで持て余していました。
そして今度はたまたまXPOが中古で出てるじゃないですかい!って事でウッカリ購入。
それならば、という事でMakeNoiseを中心にしたシステムを組んでやろうとMATHS購入に至った訳です。
Buchla-Tiptopシリーズは全部揃えたいなんて気持ちはサラサラ無かったけれど、
MakeNoiseには謎の収集欲が働いてしまいますね。今までの全部中古で今回のMATHSが初めての新品だけど。
以前からワンボイスワンシステムというか「ひとつの音しか出ないシステム」に謎の憧れがあって
そうなるように組んでいったシステムがこれです。
黒パネルは知人に作って貰ったやつ。
メーカー公式の日本語マニュアルもあるよ。
https://www.makenoisemusic.com/content/manuals/MATHSmanual2013-japanese.pdf
◯CV用語解説
・ENV:エンべロープの略。普通のシンセならADSRだけど、モジュラーはAとDだけなのがほとんど。
・アッテヌバーター:アッテネーター+インバーターの造語。
入力した信号を減衰させたり、反転させる機能。
MakeNoiseの他モジュールやMutableのモジュールによくありますね。
・RISEとFALL
厳密には違うけど、アタックとディケイって解釈で大丈夫です。あたし厳密な性格してませんので。
・ゲートとトリガー
同じパルス波だけど、長さが自在なのがゲート(例えば鍵盤を押している時間とか)、
一瞬だけなのがトリガー。詳しい事は詳しい人に聞いて下さい。
BPMのクロックやドラム鳴らす信号にはトリガーが使われるのが一般的。
・バイポーラーとユニポーラー
バイポーラーはプラスにもマイナスにも振れる信号。
ユニポーラーはプラスのみ。
◯参考資料
ClockFaceのMATHSの解説ページ
(だいたいココの説明を砕いた話ですわ)
https://clockfacemodular.com/collections/attenuator-offset/products/make-noise-maths
Five Gのブログ
(目からウロコの知識満載)
【スケール?オフセット?CVユーティリティの用語について】
https://fiveg.jp/ideas/cv_util/
◯MATHSを使う前に用意したいもの
波形の変化を確認する為に、2Ch以上のオシロスコープが欲しいですね。
エンベロープとLFOにしか使わないのであれば無くても良いけど、
それならわざわざMATHSを買う必要はありません。
というかオシロは絶対に買え。買わなきゃ何もわからん。
KORG NTS-2が分かりやすく非常に気に入ってます。
写真のはNTS-2にどっかの外人が3Dプリンタで作ったカバーを付けた状態。
可愛くて良いでしょ。
◯CVだけじゃなくてオーディオ信号にも使えるよ
オシレーターからの音をトリガーINに入れてLFOにしてみると面白くなるよ。
◯実際に使ってみた
それでは左上のジャックにゲート信号、最下段真ん中のSUM(全部の出力の合計)出力からエンベロープを出します。
・・・でねーよ。なんでだよ!?
じゃぁ1番出力は?でねーよ???
初心者ユーザーが一度は体験する「繋いでるのに音が出ない現象」久々に喰らいました。
ちゃんと調べると、1~4番までの数字が振ってあるジャックと、
下段真ん中の3つのジャックはアッテヌバーターがゼロの時は何も出力しないようです。
1番出口のすぐ左下のジャック(又は4番のすぐ右下)がRISEとFALLで調整したCV信号が「そのまま」出るようです。
(マニュアルではユニティ出力と言ってます)
その更に外側、Ch1はEnd Of Rise、Ch4はEnd Of Cycle出力と言って
Ch1のEnd Of RiseはRISEタイムが終わった時点(上り切った時)からFALLタイムの終わり(下がり切った時)まで、
Ch4のEnd Of CycleはLFO利用時のサイクル終了時から次のRISEタイムが終わった時点まで、
それぞれゲート信号は吐き出します。
最下段真ん中の3つはOR、SUM、INV。
ORは4つの信号の中で最も高い物を、SUMは4つの合計、INVはSUMをマイナスに反転させた信号が出ます。
モジュール左右にある4つずつのジャックは、
RISEとFALL、或いは両方のCVコントロール。
CYCLEジャックにゲート信号を入れている間はLFOとして、ゲートが消えるとENVとして使えます。
1番と4番の入力はシグナルINとトリガーINとが両方あるんだけど、
オシロスコープで見ると違いがよくわかります。
シグナルはパルス波で比較的ゆるやかな音に、
トリガーはバツン!というようなパーカッシブな響きになりました。
RISE/FALLツマミのレスポンスはトリガーINの方が良いですね。
シグナルINはややアンビエント向き?フワっとしてます。
◯基本的な使い途
※MATHSにおけるシグナルINPUTとトリガーINPUTの違い
シグナルINではトリガーがオフになった時からフォール(下がり)が始める。
トリガーINではライズ時間の終わりから(上がり切った時点)からフォールが始まる。
・ENV(エンベロープ)ジェネレーター
1か4のシグナルかトリガーインプットにゲートを入れてRISEとFALLで調整すると、
普通にエンベロープになります。
トリガーインプットの方が良いレスポンスな印象がありますね。
・LFO
上の状態でCYCLEボタンを押すか、CYCLEジャックにゲート信号を入れるとLFOになります。
速さや形はツマミで調整するのよ。
一般音楽用語ではボルタメントと言いますね。アシッドならスライド。グライドって言う時もあるか。
これらは音程に限った話だけど、モジュラーではなんでもアリ。
上がサンプル&ホールドの波形。下が同じ波形にスルーリミッターを通したもの。
・逆位相CV
SUM出力から出たプラスのCVに対してINV出力から出るのはマイナスに反転したCV信号です。
また真ん中列のツマミを左に回すとマイナスになります。
・オフセット&CVミキサー
2番又は3番のジャックにバイポーラーのLFOやS&H信号を入れてツマミを回すと、
ツマミに応じた電圧が加算(減算)されユニポーラーになります。
また2番又は3番のジャックに何かしらの信号を入れるとCVミキシングが出来ます。
写真は青が元CV、緑が減算していく様子。
◯で、どう使うのかって?
ここまで把握したら後はご自身のアイデア次第。
考えるな。繋げ。
です。
アンプENVにも音程にも、エフェクトのパラメータにも何だって使えます。
◯「モジュラー界のスイスアーミーナイフ」は本当か
よく言われてるのが、MATHSはアーミーナイフに例えられる名機だ、という文句。
これらの機能を把握すれば、その文句に偽りが無い事を実感するでしょう。
アーミーナイフって便利ですよねぇ。大工時代に活躍したよ。その後レザーマンになったけど。
とりあえずポケットに忍ばせておけば何かと活躍するしな。
だけど紙を切るならカッターナイフの方が良いし、料理をするなら包丁の方が良いですよね。
目的と用途がハッキリしているならば、それ専用のモジュールの方がずっと良いのです。幅も小さいしさ。
目的が曖昧な頃にならCV変調の何をさせてもソコソコの活躍をしてくれます。
そういう意味での「スイスアーミーナイフ」だという事を覚えておいて下さい。
実際に自分も「アンプENVに使うならMATHSよりSincBucinaの方が良いな」と思いましたし。
◯まとめ〜モジュラーシンセ中級者の学習用途に絶好の教材
前述でも前記事でも「ファンクションジェネレーターとは〜」と豪語していましたが、
現状入手し易い物ではMATHSこそが本当の意味でのファンクションジェネレーターであると思います。
自身の用途がわかっていれば実用面で考えるとコレより細くて実用的なモジュールは色々あります。
アンプENVとして使うならSinc Bucinaの方が自分好みの曲線を描いてくれたり、
LFOならDivKidのochdの方が沢山の出力があったりとか。。
しかしパッチング次第で数多くのCV変調が出来る事を踏まえると、やはりキング・オブ・モジュール。
モジュラーシンセ初心者の域を超えて中級者へステップアップする時に最適じゃないでしょうかね。
かといって上級者には幅がデカ過ぎてラックに入れるのを躊躇するでしょう。
最もお勧めしたい使い方は専用のサブケース(どうせ小さいの2つ3つ持ってんだろ?)に入れて
オシロスコープと共に自宅に置いておく、ってスタイルじゃないかなぁ?
CVモジュレーションを深く知りたいとき、諸々の動作検証に大活躍しますよ。
なんつっても自分のは思いっきり一軍のケースに収まってますけどね。