ランダムソースの選び方

モジュラーシンセを始めたばかりの頃、
「モジュラーの醍醐味はクロックとランダムだ」と聞いた事があります。
モジュラーに限らずシンセサイズの基礎の基礎とも言われていますが、
自分もちゃんと調べたのは初めてですわ。基礎って大抵つまんないものじゃん?

モジュラーシンセの中には、
電子回路を用いてCVやGATE信号をランダムに生成する装置が数多くありまして、
「自動でメロディやリズムを生成してくれる」シーケンサー(のようなもの)から
純粋なランダム信号出力まで様々です。
高機能なものほど厳密な意味でランダムではなく
製品によっては様々な音楽的制約をつけて演奏に見合った信号を作り出します。

古くからのDTMユーザーからすれば、
「そんなん卑怯だ!一音一音打ち込んでこその作曲だ!」とか怒られそうではありますが、
電子楽器の歴史を紐解くと黎明期の頃からこういった物は開発、研究されていたようです。
身近な例で言うとコンピューターゲーム黎明期(ファミコン〜スーファミくらいまでかな?)
のBGMにはこれらの技術を応用して使われていたそうです、

自分のように全く楽器経験の無い人でもそれっぽい音楽を奏でられるようになったり、
弾ける人も手癖から脱却したい時に使ったり、
フレーズにこだわらず単にCVソースとして活用したりと、
モジュラーユーザーの間でも広く使われています。
ModularGridで機材ジャンル「Sample & Hold」「Random」を選ぶと沢山のモジュールが出てきますよ。

電子楽器のナニをもって演奏とするか、そんな哲学的な悩みにブチ当たりそうではありますが、
固い事考えずに便利で楽しければそれで良いんじゃないでしょうかね。

◯サンプル&ホールド

シンセサイズの基礎の基礎とは言われていますが、
ベテランには当たり前すぎて意識するほどの物ではなく、
しかし初心者にはどうやって音楽に活用するかがわからんものですね。

サンプル&ホールドとは、
クロックを使ってノイズから取り出した(サンプル)信号を、
次のクロックがくるまで固定(ホールド)し、
平たく言えば階段状のランダム信号を作り出す事です。

これをシンセのシーケンスに使うと、
一定の感覚で音程が変わるフレーズになります。

最近「もしかしてLFOより使いやすいんじゃないか?」とマイブームになっています。

代表的なS&Hモジュール

・erica synths/pico RND


https://clockfacemodular.com/products/erica-synths-pico-rnd
Picoシリーズの「クロック連動型LFO」であるRNDにも、S&H出力が備わっています。

クロック入力とサイン波、パルス波、ランダムパルス、S&H、ノイズの出力がありますね。
使い勝手が良く長いこと愛用しています。

・AFTER LATER AUDIO/SHTH

シンプルな2HPのS&H、T&H。国内で入手可能なので、
とりあえず一つ欲しいという方はコチラが良いかと思います。
https://beatsville.jp/products/smth

・Steady State Fate & DivKid/RND STEP


https://clockfacemodular.com/products/steady-state-fate-divkid-rnd-step
S&H出力を沢山欲しい!という方にはコチラ。先日買いました。

4HPの中に6系統(バイポーラx3ユニポーラx3)のS&H出力。
クロックは最大3系統の入力があります。

 

◯シフトレスタ

Benjolinのレビューでも紹介した謎回路。
シフトレジスタについての詳しい説明はコチラを参照してください。
https://note.com/tmnkj/n/n6192459b31b2

アタシら非理系(=バカ)はこのシフトレジスタやサンプル&ホールドなどを
基本にメーカー独自の設定を盛り込んだ、
「何かしらの音楽的意味を持たせたランダムソース」くらいに理解しておけば良いでしょう。

◯LFOのランダムとの違い

上記2つの機能とLFOとの違いは「クロックに連動するか否か」です。
この為シーケンスフレーズとして使う事が可能で、他の音とも違和感なく活用できます。
もちろんクロック連動LFOもあるけど、こちらの方がシンプルで省スペースです。

◯シフトレジスタ臭と音楽らしさ

Twitterのフォロワーさんと話しているときに出てきた言葉。
チューリングマシンやMarbles系モジュールでフレーズを作ると、
なんだか無機質な機械っぽいと言うか、あんまり音楽らしくないと言うか、
スターウォーズのC3POが鼻歌でも歌っているんじゃないか?みたいな錯覚を覚えます。
これはこの手のシンプルで安価なモジュールにありがちな現象で、
言い得て妙だな!と思いました。
もちろん敢えてそのフレーズを好んで使う場合もあるし、
ある意味「モジュラーシンセっぽいね」とも言えますから決して悪い現象ではないです。
クラシックな電子音楽を奏でたい、というのであればそういうシンプルな回路を使った物を
選ぶと良いでしょう。

逆に高級品やクオンタイザーを併用すると、
より音楽らしいCVフレーズを出力してくれるようになります。

◯CV/GATE系ランダムソース

・TuringMachine/Benjolin系

いま市場に流通しているランダムジェネレーターの中で、
シンプルな作りで前述した「クラシカルな電子音楽フレーズ」をするには
このTuringMachine、それを元にしたBenjolinを選ぶと良いでしょう。

元祖のTuringMachine(のMk2)
https://www.thonk.co.uk/shop/turingmkii/
小型化したAlan(持ってたけど売っちゃった)
https://beatsville.jp/products/alan
2hp TM(所有)
https://clockfacemodular.com/products/2hp-tm-black
Benjolin v2(所有)
https://beatsville.jp/products/benjolin-v2

ちなみに、TuringMachineのエキスパンダーはBenjolin v2でも使えます(v1は無理)。
これにより11のランダムゲートと5ステップのCVシーケンサーを追加できます。

・Marbles系

最も売れているランダムジェネレーターがMutable Instruments Marbles。

現在では生産終了していますが、各社からクローンモデルが売られています。
CVとゲートを3系統ずつとよくわかんねぇ謎出力を備えており、クオンタイザーもあります。

使っているユーザーも非常に多く、
音源のシーケンスに限らずあらゆるポイントの変調ソースとして活用されています。

正直に言うとMutableのモジュールには苦手意識があり、
あまり突っ込んで使った経験がありません。ごめんな。

 

◯高機能ランダムシーケンサー

完全に自動生成だと全然面白くないし、ある程度のパラメーターは制御できるようになっています。
ステップ数だったり、スケールだったり、休符の確率だとかをツマミで調整します。
この「どこまで機械に委ねるか、どこからプレイヤーの意図を反映させるか」が、
この手のモジュールの設計思想の要であり、面白さの要因に思えます。

・Qu-Bit Electronix/Bloom


https://clockfacemodular.com/products/qu-bit-electronix-bloom
アンビエント界隈で話題になった、

無限に進化するシーケンスを生成する「フラクタル・シーケンサー」。
試しに中古品を入手しました。
あらかじめ自分で作ったフレーズを元に、それを発展させていくスタイルのシーケンサーです。

・VERMONA/meloDICER


https://fukusan.com/products/vermona/melodicer/
32HPで1トラック分のランダムシーケンスしか出来ない時代遅れというか、

無駄にデカいモジュールですが、贅沢な作りだけあって操作性も抜群、
より音楽的なフレーズを奏でられます。

上4つのツマミがGATEのタイミングを司り、真ん中のフェーダーがCV信号を操ります。
これも買いましたがムチャクチャ使いやすいです。
何か調子が悪くて実戦投入する前に入院する羽目になりましたけど。

・Centrevillage/C Quencer MINI


https://centrevillage.net/products/13
元々リリースしていたC Quencerの小型改良版。
こちらはわずか12HPで1トラックの自動生成をします。
4つのツマミでライブ中に色々な設定をする事が可能で、簡易的なオシレーターも備えています。

・Centrevillage/Cosmos Quencer

https://centrevillage.net/products/19

Centrevillageは最初期から自動生成シーケンサーを開発していて、こちらは最新版です。
かなり突っ込んだ設定が可能かつライブ中でのパラメーター変更も容易です。
自分はメインBPMの半分とか1/4の遅いクロックを入れてアンビエンティ〜なフレーズをよくやってました。

◯ドラムシーケンスの自動生成

CV/GATEではなくGATEのみ出力するモジュールもかなりの数が揃っています。

・Mutable Instruments/Grids



3トラックのトリガージェネレーター。
8HPのクローンモデルも流通していて、一時期使ってました。
https://beatsville.jp/products/ugrids?variant=42886207897754

・bastl instruments/Kompas



https://umbrella-company.jp/products/kompas/
Gridsと同じ3トラックのジェネレーターだけど、
こちらは更に細く5HPです。

・Noise Engineering Zularic Repetitor

https://noiseengineering.us/products/zularic-repetitor?color=black
こちら8HPですが4トラックあります。
アフリカ音楽をベースにしたパターンジェネレーター。
アフリカンじゃなくて普通(?)のヤツもあります。

ADDAC 104という4ボイスのパーカッションモジュールを鳴らすのに使っていて、
CVでパターン変更が出来るのでpico RNDのS&Hを突っ込んでます。
紹介した3つとも所有経験ありますが、コイツが一番気に入ってます。

・Centrevillage/ECQ



https://centrevillage.net/products/8
これは4HPで1トラック。そんなに数要らないよ、という方に最適。

◯ランダムを上手く使う為のモジュール

・何はともあれクロック

S&Hにもシフトレジスタにも、まずはクロックが必要、
出来ればクロックモジュレーターがあると楽しさが倍増します。
4msのQCDを愛用していますが、クロックの代わりに
ゲートシーケンサーを使って変則的なクロックを作るのも面白いですよ。

・オフセットでバイポーラからユニポーラへ

ランダマイズで生成される信号はだいたい「バイポーラ(プラスとマイナス両方の電圧)」です。
しかしそれを受ける側のモジュールは「ユニポーラ(ここではプラスのみの電圧)」を推奨しているケースがあります。
自分の体験から一例を上げると、
WMDのパフォーマンスミキサーはVCAとPANのCV入力がありますが、
PANはバイポーラ、VCAはユニポーラ推奨となっています。
VCAにマイナスの電圧を加えると「ゼロV」と認識されてしまうようです。
これを解決する為に任意の電圧を加えてやるモジュールが「オフセット」となります。

Centrevillage/BiMix


https://centrevillage.net/products/11

また今では生産を辞めてしまったMutable InstrumentsのKinksというモデルです。
これはS&H機能と共に「マイナスの電圧をプラスに折り返す」セクションがあり、
これ一つでユニポーラのランダム電圧を生成できる凄い奴なんです。
https://clockfacemodular.com/products/mutable-instruments-kinks
気になる方はReverbで中古を探してみると良いですよ。

・クオンタイザー

ランダムに出力された信号を12音階(など)に合わせた信号に変えてくれるモジュール。
これも各社から色々出ていますが、ツマミでスケールを設定するタイプの物より、
鍵盤状に並んだボタンを備えた物が圧倒的に使いやすいです。

Intellijel Designs Scales


https://clockfacemodular.com/en/products/intellijel-designs-scales
少々値は張りますが圧倒的な機能を持ちながら使いやすいクオンタイザーです。

一時期所有していました。また買いたいです。

Ornament & Crime


https://beatsville.jp/products/uo_c
定番とも言えるマルチモジュール。この中に様々な「アプリ」が入っていて、

その中にクオンタイザーもあります。
上のScalesに比べると使い勝手で劣るものの一つ持っていると重宝するモジュールです。

・ゲートシーケンサー

CVをランダムソースで、ゲートだけはゲートシーケンサーに使うと
少しだけ自身の思い通りになります。
またS&Hのクロックソースの代わりに使っても面白いフレーズが出来ます。

Noise Engineering/Bin SEQ


https://noiseengineering.us/products/bin-seq?color=black
ドラムシーケンス用に4つ購入していて、ここで紹介するモジュールの中で一番長く使ってます。

単純に8ステップのトグルスイッチですけど、
実はスイッチがOFF/ON/ONと3つあってゲートの長さを変えられます。

 

 

◯メロディ生成の他に使い途があるか

ランダム生成したフレーズはわりと普遍的で使いやすいフレーズではありますが、
どうせモジュラーシンセやってるなら他の用途にも使いたいじゃないですか。
中でも効果が高く自分のレパートリーでレギュラー化したものをを紹介します。

・VCA
前述しましたが、VCAにユニポーラ化したランダム電圧を加えて音量の強弱をつけています。
元となるソースはパーカッションx4。単調になりがちなモジュラードラムがより有機的になります。

・PAN
こちらは高く細い持続音や、リバーブに対して使ってます。
LFOでオートパンにするのが定番ですが、ランダムにはランダムの味があります。

・別のシーケンサーのパターンチェンジ
Noise EngineeringのZularic Repetitorという自動生成ゲートシーケンサーを使ってますが、
このパターン変更にもランダムソースを使っています。
そもそも元がクロックベースなのでこういうパターン変更にもバッチリ似合います。
この時パターンチェンジのクロックとVCAへのクロックを同じにしないのがコツ。

もちろんCVを受けられる所ならどこに挿しても効果はあるので、
使う方のアイデア次第でどうにでもなりますよ。

 

◯まとめ

このようにクロック連動のランダム信号はモジュラーシンセにおいて様々な使い途があります。
フレーズだけ見ても、出力信号を程よく間引いてシーケンサーの代わりに使ってみたり、
予測不能な偶発的フレーズを量産し放題です。
最近自分はMakeNoiseのXPO/QPASと、変調箇所が沢山あるオシレーター/フィルターを入手したので、
更に多くの活用方法を探っていこうと思ってます。

 

 

 

 

 

 

 

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