マシンライブの仕込み方【機材構成編】

これも一応は連載企画のつもりだった「仕込み方」シリーズ。
だいぶ間をあけてたのも理由がありまして、
ズバリ「おれが進歩してねぇから」です!

毎月開催のマシンライブ・ワークショップでは
レギュラー陣ともどもアレやコレやと試行錯誤を続けていますが、
最近ではレギュラー陣が外のイベントにライブアクトとして呼ばれる事が増えてきて、
首魁にして童貞のアタクシはチョット頑張らなくてはいけませぬ。

機材屋さんやヤフオクで出回っている電子楽器全体の流通量にたいして、
ライブやイベントの数が圧倒的に少ないのも問題。
いまだ「シーン」にすらなっていない状況ですから、
逆に言えば何でもアリのやったモン勝ち出たモン勝ちです。

さて本題。
たいていのケースではライブを行なう際は複数の機材を組み合わせる事がほとんどです。
各々が超個性的な出音の電子楽器ですから、
機材選びから音作りが、果てはパフォーマンスが始まると言っても過言じゃねぇっす。
そして「ドラムー!」「ベィス!」「サンプル!」など
各セクションの選び方も大事ですけど、組み合わせ方がこれまたムズい。
これが恐ろしいシンセ沼の実態ですよね。
そこで沼に浸かりながらも溺れずに済む考え方と、
傍観者の脚を掴んで引きずり込む手段を模索してみましょう。

◯仕込み型マシンと即興型マシン

買う前にはイマイチ掴みづらい特徴だけど製品コンセプトによって
パターンや音色の設定をガッツリしておく必要のある機材と、
機能は少ないけどリアルタイムでのプレイに適した機材とがあります。

例えばシーケンサーで言うなら、
YAMAHA QYやAKAI MPC(のMIDIシーケンサー)は仕込み型、
SQ-1やBEATSTEPは即興型に振ったコンセプトです。
volcaやAIRAは即興型、ELEKTRONは仕込み型、とかね。

これどうしても「スペックが高い方がエラい」という認識を招きがちですが要注意。
値段が高ければ高い程、仕込みの労力が大変で挫折率も倍増します。
もちろん仕込み型の方が多機能で多彩な表現が出来ますけど、
安価な即興型はパフォーマンス性が高く純粋な演奏に近いプレイが出来ます。

そしてこの「ライブ感」ってかなり重要で、
高級機材と睨めっこして終わるだけのライブと、
安い機材を壊れるかってくらい使い倒したライブと、
どっちが楽しいでしょうか。
オーディエンス目線をしっかり持って機材選びをして下さい。

電子楽器とは微妙に違いますが、
自分はDJとしてアナログ10年、PCDJ7,8年やってます。
当然PCの方が膨大なライブラリかつ正確なミックスが出来るんですけど、
制約の多いレコードでプレイする時の方がお客さん踊ってくれます。

どちらを重視するかは本人の経験やキャラクタ、やりたい音楽性にもよりますが、
概ね生楽器経験者(プレイヤータイプ)は即興型、
DTM出身(プロデューサータイプ)は仕込み型の比率が多いようです。
仕込み型と即興型を一台ずつ組み合わせるとバランスの良い表現力を持てそう。

◯核になるマシンを音と機能で決める

機材構成を練る時は映画の制作に例えると考えやすいです。
一本の映画を作るような気持でライブ構成を練ってみましょう。
まず役者ありきの作品なのか、監督ありきの作品なのかで分かれますよね。
もちろん監督が主役を務めたっていいんです。
大事なのはその中心になる機材によってプレイの志向や音楽性が決まってしまう事。
コンセプトに合わなかったり向いてない事をやろうとすると苦労します。

・主役を張る機材

端的に当人にとって音がいい、思い入れが強い機材がここにあたります。
弾ける人なら鍵盤付きのシンセや延々と触ってられる即興型ドラムマシンを始め、
モジュラーシンセやTB-303系アシッドベースなど個性の強い物です。
役者ですからデザインが良くアドリブが効く(=即興性が高い)のが重要。

・監督役の機材

プレイの構成を司る多機能型機材がここにあたります。
沢山のパターンを仕込んでおけるシーケンサー、
音色が多彩なシンセやサンプラーなど、
この役の機材が一台あると表現力がグっと上がります。

究極的にはDAWが一番手っ取り早いかも。
あるいはKORG gadgetでパターンの流れを作っておくとか。
ハードウェアでなら歴代エレクトライブ、エレクトロンも監督役に見合った機能を持っています。

ここでメロディ重視のプレイをしたい人にお勧めなのがエレクトライブEMX-1。
古今東西この手のいわゆる「グルーブボックス」の中では珍しく、
1パターンにつき8小節(ってか128ステップ)までいけます。
しかも北欧のズル賢いアレ等とは違って全部MIDI出力できるので、
ドラム+5トラックシーケンサーとして使うのは如何でしょう?
本体でノート入力すんのメンドいけどね。DAW使っちゃえばOK。
単体のシーケンサーを監督に充てるのも良いでしょう。
BEATSTEP PROはパターン管理も即興プレイも出来て有能です。
ドラムとシンセx2のトラックで64ステップに加え「各」16パターンまでいけます。
即興性を捨てていいなら(裏方に徹するなら)
YAMAHA QYなどの旧来のシーケンサーも強力です。

◯コアマシンに足りない機能を脇役で埋める

核になるマシンが決まってしまえば後は簡単だと思います。
作りたい作品とコアマシンの実力との埋め合わせをすればいいんです。
コアマシンとサブマシンの方向性が
自分の作りたい作品に見合っているかジックリ聴きこんで導入しましょう。

簡単なのは「同じメーカー、同じシリーズで揃える」。
操作の習得も容易ですしね。
KORGのvolcaやRolandのAIRA、TeenageのPOシリーズなどは、
コレクション性はもちろん互いの音を補完するコンセプトで開発されてます。

でも販促員ばりにガッチガチに同じメーカーで固めても面白みには欠けちゃいます。
(ウチのレギュラーにはDaveSmith4,5台をチャリで担いで来る販促員が居ますがw)
逆に時代もメーカーもバラバラ過ぎると操作の習得に混乱するどころか、
「買ってみたけど音の相性が悪い」なんて事があります。ええ自分です反省します。
もちろんDAWでのトラックメイク並に音をなじませる必要はありませんし、
本来はその違和感がプレイの個性、マシンライブの味を産むんですが、
あんまり差が大きいとプレイしてる本人が気持ち悪くなる。
これは当人にしか分からない主観の問題なのでどうしようもありません。

◯有能な裏方を使う

ソフトシンセとハードシンセ、PCMとアナログモノシンセなど、
一つの曲として聴くと違和感を産む組み合わせがあります。
違和感を個性として売るか、違和感そのものを無くすかは当人のセンス次第だけど、
こういう音の差を埋めるのに音質補正系のエフェクターやミキサーが有効です。

自分の場合は「綺麗な音が苦手なのでエフェクトで汚す」という考え方で、
Strymon DECOやFMR RLNA7239などを導入する事があります。
またMackieの古いミキサー1202VLZ-PROもミキサーとしては味付けが濃く気に入ってます。
特にDECO有能っす。KORG gadgetに通してハードシンセと馴染ませるなんで事も出来ます。

あとOCTATRACKは4chミキサー兼マルチエフェクターとして優秀です。
何を通してもデジタルマッチョな「OCTAの音」になります。

◯で、テメェはどうなんだよって?

各機材の音の調和をとる、
これは自分自身がしょっちゅうブチ当たってる壁なんですよ。

ドラムマシンだけでもアナログのTanzbarとデジタルのLXRを
一緒に鳴らす事は出来ないし(そのセンスが無い)、
MINIBRUTEやモジュラーシンセの個性が強すぎて
他の便利な機材(EMXとかCIRCUITとか)を殺しちゃったりと、
チグハグ過ぎて耳がおかしくなりますw

・Tanzbar+MINIBRUTE+SQ-1
音質的にはバランスのいいドがつくアナログセットです。
Tanzbarはパラアウトでミキサーに出力すると個性が更に際立つので、
ミキサーにVLZ-PROを使います。
このセットで問題なのはシーケンスやパターンの構成能力が弱いので
10分以上の長時間プレイではダレる事。

・モジュラーシンセ
MINIBRUTEの代わりにモジュラーシンセでもいいんだけどドラムが死ぬ。
強烈な音出る筈のTanzbarでさえ力不足になってアンバランスなんすよね。
モジュラーと釣り合いの取れるドラムなんか無いスかね?
やっぱドラムもモジュラーで組むの?そんなカネ持ってないよ。。。

・KORG gadget/SonicCell+MODSTEP
「音の相性」って問題に気が付いたのが、
上のセットに加えようとソフトシンセやPCMシンセを使った時。
そりゃそうですよねラーメン二郎の麺が素麺だったってくらいの違和感ですよ。
じゃぁ素麺に背脂を練り込んでみよう(?)とStrymonDECOを入れたり
色々と補正を考えましたが、荷物が増えすぎたので外でやるのは断念しましたw

・CIRCUIT/EMX-1
CIRCUITはモジュラーやMINIBRUTEとは真逆の意味で個性的。
ツルっツルのピッカピカな音が得意です。
残念ながら自分のセットにはデザインも音も雲泥の差。
雲泥の泥の方じゃないとダメな性癖なんです。
EMXは比較的チープ(褒めてる)だけど、やはりVAの音。
ここらをPAD担当にしたいな、とは思ってたけど。

今現在はTanzbarとLXRの個性を兼ねる事が出来るanalogRYTMを核に据えて、
またまたセットとコンセプトの練り直しをしようと考えてます。

こう思ってきたのもちょっとしたアクシデントがキッカケでして、
ワークショップの際にanalogRYTM+MINIBRUTE+EMX-1というセットを使ったんですよ。
そん時なぜかARとEMXの同期が取れず、EMXのシーケンサーを使う筈のMINIBRUTEも鳴らず、
仕方がないからRYTM一台で仲間とセッションをして遊んでたんですが、
「あーRYTM一台だけでもいい線イケるじゃん」と気がついちゃった。

そんな事があったから一度自分のやりたいジャンルを全部リストアップして
典型的なリズムパターンをネットで調べて片っ端からRYTMに仕込んでみました。
エレクトロ、マイアミベース、シカゴハウス、NYハウス、NU DISCOなどなど。
クラブミュージックなんだからリズムだけでも自己満足できるジャンルに絞ろう、って。

特に面白みの無い教科書通りのリズムワークだけど、
自宅で同じBPMで順番に慣らしてるだけでかなり楽しい。
となると、やっぱり自分の核はリズムなんだな、と改めて認識しましたね。

それまではビジュアルからして強烈なモジュラーシンセのベースや、
改造MINIBRUTEから出るエグいリードが自分のセットの核だと思ってましたが、
いかんせんそれらを表現できるジャストなシーケンサーに未だ出会えていません。
SQ-1とBSPは手元に残しておくけれどね。

音の抜き差しと同じで、機材の抜き差しを経てベクトルが定まっていくようです。

◯まとめ

1,やりたい音をハッキリさせる
2.そのジャンルに見合った機材を核に据える
3.他の機材は核機材の補完に過ぎない
4.機材同士の違和感を無くすか活かすか選ぶ
5.組み合わせに迷ったら同じメーカー
6.組み合わせに飽きてからハードオフ漁り
7,セッティングやパッキングも限界を覚える

構成の仕方や考え方を紹介しようと書き出したら只の機材沼反省文になりました。
あれこれカタログ眺めて機材屋で掘るのはある意味幸せではありますが、
度が過ぎると自分がどんな音を出したいのかを見失ってしまいます。
ホントは他の人のプレイを生で観るのが一番ですが、
イベント自体が圧倒的に少ないのでもどかしい所もあります。

東京で定期的に開催しているワークショップ系イベントでは、
僕らの「マシンライブ・ワークショップ@西麻布bullet’s」の他に、
早稲田は茶箱で行われている「二水」というイベントがあります。
文字通り第二水曜の夜に開催。ボクも暇みつけて遊びにいってます。

ワークショップとは名ばかり完全放任主義のウチとは違って
コチラはガチのワークショップです。ちゃんと教えてくれます。
セミナーもあります。プレゼンもあります。お餅もあります。
運営方針が真面目なのでカタギの人でも安心です。
ラリった変態とかダメ人間はウチで受け入れます。

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