ドラムマシンの選び方2021

しばらくモジュラーシンセ関連の記事の方が多かったのですが、
忘れちゃいませんグルーブボックス&ドラムマシン。

初めての方なら特に「ナニを基準に選べば良いのか分からん」と思われるでしょう。
古いモデルより新しいモデルの方が良いとは限らないし、
値段の高い方が偉い!安物は玩具!という訳でもありません。
ライブで使うか制作で使うかの比率によってコワダリポイントも変わってきますしね。
当記事では各機材のレビューは控えめにして、何を基準に選べばよいのかを考察していきます。
スペックを読むだけでその機材のキャラクターを把握出来るようになると良いですね。

◯自分のプレイスタイルを見極める

いきなり究極の選択条件についてお話しますが、電子楽器の演奏や電子音楽の制作は
当人の性格やそれまでの経験によって「即興派」と「仕込み派」とに好みが分かれます。
雑な分け方ですけど生楽器経験がある方は即興の方が得意でしょうし、
DAWを使った狭義でのDTM層なら仕込みが基本でしょう。
もちろんどちらも得意な人だって沢山いますけど、
自分の音楽活動につまづいてしまったら一度考え直してみると良いでしょう。
ライブに重点を置くか制作に重点を置くか、
制作なら万人に向けての曲かアングラ道を突き進むか。ライブだったら現場か配信か。

マシンライブでは機材によってどちらかに割り振る事が多く、
「仕込み7割:即興3割」とか「仕込みゼロ、完全即興」みたいに自分好みの機材構成で臨む事が可能です。
例えばドラムは仕込み、ベースや上モノは即興でやる、とか。
即興といってもあくまでもシーケンサーですから、そんなに難しいものではありません。

最近のドラムマシン/グルーブボックスは旧来のハードウェアシーケンサーの仕込み型をベースにしつつ
即興演奏にも対応した柔軟性を備えています。
仕込み派の人なら「音作りやファイル管理が得意でパソコン連携が出来る機材」、
即興派の方でしたら「どれだけリアルタイムなプレイが得意か」が機材選びのポイントになってきます。


◯高価格多機能モデルの罠

どうせ買うなら初めから良い物を、という考えを持つコダワリ派も沢山いますけど、
ドラムマシン/グルーブボックスは必ずしもそうとは限りません。
高ければ高いほど扱いにくく個性が強いと思って下さい。
多機能である事はそれだけ複雑だという事です。
最初の1台目でひと昔まえのフラッグシップモデルを買っちゃって苦労している方もいますよ。

◯学習コストも考慮しよう

いくら電子楽器とはいえ成果物はあくまでも音楽です。
機材の習得と音楽の習熟は残念ながら直接は関係ありません。
機材習得が上手くても、素晴らしい音楽を作れるか否かは別の話。
簡単な方が素早く「自分の音」に辿り着く事が出来るケースの方が多いです。

初めての場合は仕方ないけど、買い替えの際などに
メーカーを変えた時、上位機種に変えた時など
実戦投入出来るようになるまで結構な時間がかかる場合があります。
たとえばELEKTRONのOCTATRACK。
下手すりゃ数年かかりますね。アタシゃ降りましたがw
多機能である、古い機種である、そもそもUIが好みと合わないetc.
そのへんも考慮して購入に踏み切りましょう。

例えば自分自身の場合、Rolandのグルーブボックスが苦手です。
逆にRolandのマシンで育った友人はELEKTRONをまともに触れなかったそうです。
UIやファイル構造などメーカーによって考え方が全然違うので、
特に多機能マシンを考えている場合は注意しましょう。
購入前にメーカーサイトからマニュアルをDLして、
半分くらい理解できそうなら踏み込んでも良いかと思いますけどね。

だいたいKORG/Rolandの国産機種はマニュアルが不親切、
ELEKTRONはマニュアル自体が難解、
他のメーカーに至っては英語のマニュアルしか無い場合も多いです。

 

◯シーケンサーの使いやすさ

自分個人はライブ用途100%、楽曲制作はぜんぜんしないので、
ドラムマシンのカナメはシーケンサー、だと思っています。
音質?んなもん後でディストーションでも突っ込んどけ!

メーカーごとに様々なギミックが仕込まれていますが、一般的には各トラックを選んで
16のトリガーキーで打ち込むTR-808方式のステップシーケンサーを採用しています。

・トラック数

キック、スネア、ハット、クラップ。。。などなど
何種類の音色を同時に扱えるか、です。
少ない物で4、多いもので16トラックはありますね。
もちろん多ければ多いほど混乱しますよw
4トラックのモデルでもキック、スネア、オープンハット、クローズハットがあれば十分!
という人は意外と多いです。
(ELEKTRON analog FOURやDgitoneをドラムマシンとして使う人、かなり居ます)

またトラック選択キーが独立している方が使いやすいです。
値段の安いモデルや小型のモデルではトラック選択をトリガーキーが兼ねていて、
選択ミスを起こしやすいのです。しゃーないけどね。

・ステップ数

「鳴らすか鳴らさないかのオン/オフできる範囲」。
16ステップで1小節、それをページ切り替えで4小節=64ステップ、というのが一般的です。
キックを1.5.9.13番でオンにすれば典型的な四つ打ちとなりますよ。
だいたい16×4で64ステップが一般的。旧エレクトライブは8小節128ステップまでイケましたね。
制作用途や完全打ち込みではステップ数は多い方が多彩な表現が出来ますが、
ライブでのインプロ演奏ではミスを防ぐ為にページ切り替えなんぞしませんw
またトラックごとにステップ数を変えられると楽しいパターンが組めますよ。
キックは4ステップでスネアは6ステップ、ハットは12ステップで、、とかね。

・ミュート機能

ドラムマシンの演奏で最初に覚えるべきテクニックは「抜き差し」です。
特にテクノ/ハウスの四つ打ちのジャンルでは「引き算」を念頭に置いてドラムを組みます。
ドン!ドン!ドン!と鳴り続けるキックが突然フッと消えるのが気持ち良かったりします。
また曲の途中でハットが入ってくる瞬間とかもね〜。
これをリアルタイムで行なうのがミュート。各トラックの音をオン/オフする機能です。

トラック選択キーと兼用な場合がほとんどですけど、
そこへのアクセスのし易さが大事です。
ファンクションキーを押しながらトラックキーを押す(2動作)がほとんどですけど、
稀に何とかモードとかで3アクション以上必要な物もあります。

また抜き挿しと言えばRoland TR-8S/6Sやerica synthsLXR02などに
採用されているトラック毎のボリュームフェーダー。メチャクチャ使い易いです。

・パターン/ソング

インプロ演奏か打ち込み演奏かによって重要度が変わってきます。
打ち込み主体の人ですと、パターンの登録出来る数やパターンの順番を決めるソング機能が非常に大事です。
即興派でトンガった人は「まっさら」の何も無い状態からライブを始めるのでパターンなんて考えません。

◯音源方式や音質の移り変わり

アナログかデジタルかサンプルか

ちょっと前まではアナログ音源こそ至高であり究極!という風潮でしたが、
今ではゴッツい音の出るデジタルドラムシンセのモデルも増えてきています。
80-90年代のクラブ・ミュージック黄金期の曲をクラシックとして、
TR-808/909の音色に如何に近づけるか、という価値観から脱却してきた人が増えてきたのでしょう。
またサンプルベースのドラムマシン(サンプラー含む)も良い音を作りやすくなりました。

音色の可変幅(=音作りがカオス)という意味では断然アナログよりデジタル。
現行モデルではvolca drum、model:cycles、LXR02などが狂った音を作れそうですね。

そんなこんなで今はアナログにこだわる必要は全くありません。
Rolandの現行ドラムマシン、ジャンル的にはVAになるんでしょうが
旧来のアナログモデルと比べても遜色ない音が出ます。

クラシックなクラブミュージックがメインな人→アナログ(VA含む)
現代のアンダーグラウンドな音→デジタル(FMでも物理モデリングでも)
パーカッションから声ネタまでいきたい人→サンプルベース

といった判断でも良いかもしんないっすね。

・オーディオ的な「音の良さ」とドラムマシン的な「音の良さ」

各トラックの音の分離が良いもの、解像度が高い物が大事ですけど、綺麗過ぎるのも困りもの。
オーディオで言うところの「音が良い」「音が悪い」といった価値観は一度捨てて下さい。
ピュアオーディオの流儀の則った音質向上テクを試した事もありますが、
(電解コンデンサ交換や電源のトランス化などなど)
その機材の「味」が削れてしまったので何とも言えないところです。

【過去記事】TR-606魔改造

音質面では凄く有利なんですけど、逆に物足りなさを感じてしまう事もあります。
こればかりは言葉に出来ない曖昧なニュアンス適度ではありますが、
デモパターンの視聴などで機材本来の味を覚えつつ、
それに逆らわずに自分なりの味付けを覚えていくのが良いでしょう。

それでも音の良さって強いアドバンテージです。
悪い音を綺麗に聴かせるのは難しいけど、良い音を汚すのは簡単です。
ELEKTRONのDigitakt。
サンプルベースのドラムマシンなんだけど、そのオーディオ的価値観で音が良いです。
各トラックにフィルターやEQを備えているのでかなり作り込む事が可能です。
やりたい音のジャンルがイマイチ決まらない、ライブもしたいし制作もしたい、
正直ハッキリ決められない、そんな人はDigitaktが一番良いですよ!

ローファイなドラムが大好きなアタシDigitakt買ったら音が綺麗過ぎて困ったので、
トラックひとつ使ってレコードやテープのヒスノイズをループさせて汚したくらいです。


○サイズと重量

現場でのライブ派なら必須条件、他の方も部屋の広さや机の大きさによって悩むと思います。
ではコンパクトな方が良いかと言うとそうでもなく、操作性が犠牲になってしまします。
自分は他の機材との組み合わせを考慮してだいたい1.5kg未満A4サイズくらいが
ジャストだと思っていますが、なかなか都合の良い機材は見つからないもんです。
TR-8Sなんて大きささえ何とかなればねぇ、、と思っていますが。
かと言って小型モデルの6Sだと今度は小さすぎる。もどかしい話ですw

機材全体の中でドラムマシンにどこまで重点を置くか、にもよりますね。

◯10万円以下で買えるドラムマシンのおすすめどころ

☆初心者からベテランまで長く使える鉄板モデル

ELEKTRON Digitakt

サンプルベースのドラムマシンですが、
前述したように色々な意味でバランスの取れたモデルです。
8割9割くらいの人が支持するベスト・オブ・ドラムマシン。
特に方向性を絞らず、これ一台を長く使っていきたい人にも良いでしょう。
人にはよく薦めます。

Roland TR-8S

クラブ黄金期の「あの音」が欲しい、そんな人にはコレ。
また即興重視で楽器のように扱いたい人にもバッチリな機種です。
更に直感重視なら敢えて前機種のTR-8を中古で探すのも良いでしょう。
難点はちょっとデカい事。
デカいのが嫌なら小型版の6Sもありでしょうが、
ちょっとちっちゃ過ぎじゃん?とも思います。

☆一芸特化な個性派モデル

MOOG DFAM

【レビュー記事】
これドラムマシンって言っていいのかな?って気もしますがw
私的にはドラムマシン観に革命が起きたクラシックなコンセプトの一台です。
トラックはひとつ、ステップ数は8。パターン登録?出来ません。
普通の人がドラムマシンに求めるスペックは全然満たしてません。
だけどこれほど楽しい機材もありません。

novation CIRCUIT RHYTHM

こちらはDFAMとは対極の未来のドラムマシン。
MIDIコンみたいなルックスで正直好みではないんですけど買いました。
最も大きな特徴はトラックごとにパターンを変えられるクリップシーケンサー。
トラックごとに少しずつパターンを変えていけば違和感無くパターンチェンジできます。
まだ届いてませんが即興プレイにも柔軟に対応できるはずです。

KORG volca drum

【レビュー記事】
初心者向けの廉価機という印象が強いvolcaシリーズですけど、
コレに限っては無茶苦茶クセの強い変態マシン。
音作りが大変なんだけど、すごくパンチのある音します。
上手く決まれば、、、ね。

Roland TR-06

TR-606を現代の技術で蘇らせた的なモデル。
音質音圧は現代レベル、それでいてシーケンス訛りが強く(たぶん元祖606よりも)、
今の時代なら新鮮で面白い音が出ます。
80年代風のクラシックなハウス、アシッド等にはバッチリとハマります。

☆お金ない!安くて使えるモデル

弱点を把握しておけば上位モデルにも引けを取らないのがこのクラス。

ELEKTRON model:sample/cycles

【レビュー記事】
ELEKTRONの一番安いモデル。でもヌカリ無いですやはりELEKTRON。
cycles持ってましたがスゲェ音のするFMシンセ。
FMシンセと言っても割と音作りはし易かったですね。
ダークなテクノにバッチリ合います。

KORG volca sample2

初代モデル持ってました。ビットレートを落としてマッチョな音を作る、という割り切りが素敵。
手っ取り早くLo-Fiなドラム組みたい人はマスト。人の声はガサガサになってあんまり使えない。

Arturia DrumBlute Impact

【レビュー記事】
アナログドラムマシンとしてコスパかなり高いです。
シーケンサーも使いやすくツマミのパラメーターもシンプル、
理屈っぽくないので、初めての人や女性にも薦められるくらいのマシン。
ただ音色の可変幅は狭いのよね。一部を除いてパラアウト出来るので、
それぞれにエフェクトペダルを噛ますなんて荒業もアリです。

 

○ドラムマシンと相性の良いエフェクター

せっかく買ったマシンが自分の好みとは微妙に違うとか、
安いモデルしか買えないとか、
そういう場合に買い換える前に試して欲しいのが外付けのエフェクター。
歪み系がメインですけど通常のペダルエフェクターだと音痩せする場合が多いです。
そこで自分が購入したものや試した物で音が別物に代わる機種を紹介します。
基本的にはローファイ志向のエフェクトですけどパンチの強さが全然違います。

Strymon DECO

エフェクターでは高級ブランドとなるstrymonのサチュレーター。
テープシュミレーターとは言ってますけどあんまりテープの音しません(主観)。
だけど他にない味付けが出来る極上の調味料です。

FMR AUDIO RNLA7239

ビンテージコンプをモデルにしたFMRのコンプレッサー。
化けます。volcaがJOMOXになります。
中低域が前に出る印象ですね。
ライブ派制作派どちらにもオススメ。

Waldorf 2-Pole

Waldorfのフィルター。今使ってます。スゲェ気に入ってます。
DJフィルター用途で買ったんだけど、歪み具合がタマんないです。
マスターに通すだけで偏差値ダダ下がりな音します。いわゆるワルの音です。
モノラルなんですけどね。ワルだから良いのです。

 

○ドラムマシン小ネタ集

・キックだけ別トラック

パラアウトの出来ない機種でもトラックごとにパンの振り分けが出来るなら、
キックだけL、そのほかはRから出力するようにして、
ミキサーに繋ぐと音質も良くなる事が多くキックの音作りも楽になります。

・パターンリコール

パターン機能を応用したテクニックを紹介します。
あらかじめシンプルなパターンを登録しておいて、
プレイ中にどんどん音数を増やしたり音色をメチャクチャに変えてみたりして、
ここぞ!という時に一発で元のシンプルなパターンに戻すテクです。
FUNC+YESで出来るELEKTRONマシンが得意ですね。あれ?FUNC+NOだっけ?忘れたw

・ELEKTRONのキック作りはハイパスフィルター

フィルターの無いmodel:cycleを除いてELEKTRONマシンのキックはローパスではなくハイパスを使います。
フリーケンシーを低めにしてレゾナンスを使って中低域〜低域を持ち上げるんですよ。
できればクラブやスタジオなどで試して下さい。ブっ飛びます。

・パターン間のギャップを埋める最終手段は二台使い

パターンチェンジの際に音がガラっと変わるとテンション下がります。
音数が増えるのなら良いんですが、そんなに増やし続けられる訳でもありませんしね。
これを防ぐには色々な工夫や試行錯誤が必要ですが、
変に小細工するより同じ機種を二台使ってDJのようにミックスするのがベスト。
同機種二台使いはなんか玄人っぽい印象をあたられますw
できればパソコン経由でデータのバックアップが出来る物が良いです。

 

◯まとめ

メーカーサイトや提灯レビューではナカナカ気づけない部分をクローズアップしたつもりですが如何でしょ?
ユーザーの願望を全て満たすパーフェクトなドラムマシン、などありません。
モジュラーシンセは底のない沼と揶揄されますが、
ドラムマシン探しは自分探し。終わりのない旅なのでございます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おすすめ