インプロヴァイス・プレイのすすめ
楽器の演奏においてアドリブや即興演奏の事を「インプロヴァイス」と言いますが、
近年の電子楽器ライブにおける大きなキーワードになっているのは皆さんもご存知の通り。
電子楽器におけるインプロヴァイスなプレイとは、
音色のプリセット登録やパターン登録をせずにブッツケ本番でライブプレイをする手法です。
モジュラーシンセなどは必然的にインプロになる事がほとんどだろうし、
本来ならキッチリ仕込めるグルーブボックスでも敢えてまっさらな状態から始める人も珍しくないです。
パフォーマンス性の高いプレイが出来る事が大きなメリットで、
DJのように本番中でもオーディエンスの雰囲気を読みながら構成を変えていく事だって可能です。
それに対して旧来の打ち込みと同じように音色を作ってパターンを仕込みソングを組んだ物を
シーケンサーに演奏させる方法も根強い支持があります。
こちらを当ブログでは「コンストラクション(建築的・構造的)スタイル」と呼んでいます。
一般的に周知されている言葉ではないけれど、
丁度良いインプロの対義語が見つからないので勝手に定義します。
こちらのメリットは納得がいくまでクオリティの高い作り込みが出来る、
オリジナリティの高い楽曲制作に直結させ易い事が挙げられます。
○コンスト=マゾ、インプロ=サド
完全に振り切れている人は少ないものの、人は誰でも性癖がS寄りかM寄りかに分かれます。
しかもある程度オトナにならないと自分の本当の志向なんて分からないものでして、
Sだと思いこんでいたけど実はMだった、何だかんだ言ってSMどちらも楽しめる、
己の性癖の探求は加齢で精力が枯渇しても終わらないものです。
マシンライブのスキルはM的な論理思考、S的なパフォーマンス力と両方求められますが、
自分がどちら寄りの性質か見極め、壁にぶつかったら反対の志向を試してみる必要があります。
DTM出身ならコンストラクション、生楽器出身ならインプロヴァイスが向いているように思えます。
DJ出身の自分は正直よくわかりませんw
○仕込み作業が苦手な人におすすめ
通常、一般的なグルーブボックスを導入してマニュアル通りに演奏をすると
必然的にコンストラクション・スタイルになりますが、
それでライブをやろうとしても挫折してしまう大きな要因に、
「仕込みが面倒臭ぇチョー面倒臭ぇ」というのがあります。
正確には、
「どこまで仕込めば良いのかわからないので延々と試行錯誤にハマってしまう」
って事じゃないでしょうかね。
完璧主義傾向の強い人や責任感の強い人が陥りやすい罠です。
これね、DAW出身で尚かつ仕込みが苦にならない人には全然共感してもらえないんですが、
生楽器出身だったり根がモノグサな凡人にはけっこう苦痛なんですよw
この苦行をスルー出来るのがインプロヴァイス志向の隠れた利点じゃないでしょうか。
○インプロヴァイス・プレイの具体例
・シンセサイズ
音階ではなく音色に変化をつけて展開を作っていく電子楽器特有の演奏方法。
TB-303に端を発するアシッドベースが一番馴染みのあるインプロ・シンセサイズですよね。
フィルターとレゾナンスの開閉をリアルタイムで行うアシッド的シンセサイズ、
VCAのディケイを一瞬伸ばしてフックを作る、
フィルターにかかったLFOスピードを変えて作るワブルベース、
これらのツマミ芸は全てインプロ・シンセサイズと言えます。
・ミュート
これはいわゆる「抜き差し」ですね。
ジャンルや本人の音楽志向によって「足し算の音楽」と「引き算の音楽」とがありますが、
ミュートプレイを多用するのは後者にあたります。分かりやすいところでは「キック抜き」。
ゴツい低音がヒュッと消える瞬間の浮遊感はフロアで体験すると病みつきです。
他には展開に応じてハイハットを挿入すると同じBPMなのに疾走感が増したりします。
・シーケンス
他のポイントよりも大きく差が開くのがシーケンスの即興。
SQ-1のようなツマミ型ステップ・シーケンサーはインプロ専用ですし、
そうでなくともパターンレコーディングをONにした状態で
空パターンからトリガーを重ねていくのもインプロ・シーケンスの範疇に入ります。
(monotribeのリボンシーケンサーでコレやんのが気持ちイイのよね)
この際「キーの設定が出来る」「パターンリコールが出来る」機種だと
ライブプレイにおいて非常に有利です。
SQ-1もC固定ではあるけど(メジャー/マイナー選択可)乱暴にツマミをいじっても
破綻したフレーズにはならないので便利ですよ。
パターンリコールとはあらかじめセーブしてあるパターンに一瞬で戻す機能で、
トリガーをガチャガチャ増やして音数を密にしていき、
ここぞ!のポイントでチャラ(元パターン)にする手法が出来ます。
元になるパターンは最低限のシンプルな打ち込みでも、完全な空でも良いと思います。
ドラムマシンでコレやると凄く楽しいっすよ。
・マスターエフェクト
マスターエフェクトとは出音の最終段、
ミキサーの先にエフェクターを通して全体の音色をそのエフェクトに支配させる手法です。
最近みんながこぞって使うのがパイオニアのDJ用マルチエフェクター。
KORGのカオスパッドも根強い人気があります。
これらのエフェクトをマスターに挿すとパフォーマンス性がグッと上がりますが、
安物では音質自体が下がるし高級品でも平坦な音になってしまう事に留意しておいて下さい。
出音の相性が悪い機材を馴染ませるという意味でも有効な手段ですが、
逆に言えば個々の味を殺してしまう事にも。
例えばアナログのドラムとモノシンセなんかは、
その美味しい粗の部分が削れて平坦な音になるケースが多々あります。
楽曲制作ならいいんですけどね、ライブではその音が揃わない違和感も良いスパイスです。
別にマルチでなくってもペダルでも良いんです。
ただ相応の高級品を使わないと音が悪くて聴けたもんじゃないですけど。
単体エフェクトでマスターに挿して使いやすいのはリバーブとフィルター。
フィルターもしくはアイソレーターはハウス勢が好んで使います。
○インプロヴァイス・プレイのデメリット
・個性を出しづらい
テクノでもノイズでもモノシンセに頼る事が多くなってくるので、
他プレイヤーとの差別化が難しいという現実的な難点があります。
要は傍から観りゃみんな同じに思えちゃうんですよ。
オーディエンスから観れば出てる音がvolcaだろうとDaveSmithだろうとどうでもいい事だし、
パッチケーブルだらけのモジュラーシンセの人達もこのジレンマにハマり易いようで、
そんなのが何人も連なるライブイベントなんて、お客にとっちゃ苦行でしかないですw
まぁそれはプレイヤーではなくオーガナイザーの責任ですけどね。
ただイベント全体を通してお客を飽きさせないようにする工夫は、
プレイヤー個人にも出来る事が少なくありません。
こんなジレンマから脱却するには、
より個性の強い音を出す機材を探すか、
より難易度の高い機能をプレイに取り入れるしかないようです。
・熟練度が増す程に機材の味が顕著に出る
これはもうグルボの宿命かもしれませんが、
手に馴染む事を優先して機材選びをすると同じメーカーで揃えたくなり、
使い込めば使い込むほどにそのメーカーのカラーに染まっていきます。
KORGならKORG、ELEKTRONならELEKTRONの販促員のようなプレイになります。
ここを避けるには飛び道具を使ったり安機材でハズしたりして違和感を演出するのが良いでしょう。
○インプロプレイに適した機材
シンプルな機能で全ての操作子がパネルに出ている物が適しています。
ページ切り替えがあったり階層の深いファームウェアの物は難易度が格段に上がります。
シンセやシーケンサーならモノフォニックだったり、
シフトキーを使った副次的操作に頼らずに済む物とか、
エフェクターならツマミの大きなものがお薦め。
シンセサイザー
・アナログモノシンセ全般
全ての操作子が表面に出ていて、階層が無いものが最も適しています。
シーケンサー
・KORG SQ-1
手頃な値段で買えるステップシーケンサーとして人気のあるSQ-1。
アナログモノシンセとの相性は抜群ですが、
生楽器系のPCMやソフト音源を鳴らすと凄く新鮮です。
ピアノ音源でスティーブ・ライヒごっこも出来ます。
・KORG monotribe
シンセx1ドラムx3のアナログシンセ+ドラム+シーケンサー名機。
独自のリボンシーケンサーが非常に面白く、試奏するだけで病みつきになります。
次に紹介するDFAMもそうですが、ルーパーと組み合わせると面白そう。
中古市場にたまーに出てくるくらいになってしまいましたが、
欲しい人は即食いつきましょう。
・MOOG DFAM
前回の記事でレビューしたDFAMもインプロ専用機として主役を張れます。
8ステップのピッチとベロシティをツマミで操作するフレーズは唯一無二のグルーヴを生み出します。
用途としてはmonotribeに似ていますが、
こちらの方が音の可変域が広く同じ音色を二度と再現出来ないんじゃないかって位。
それでいて名門MOOGの大らかさがあり極端な出音にならず絶妙なシンセサイズが可能です。
・Artruia BEATSTEP PRO
MIDI、CV/GATE、TRIGGERまで対応した万能シーケンサー。
ノート2トラック、ドラム16トラックのシーケンスが出来ます。
ドラムマシン
・Roland TR-8/8S
インプロプレイを世に知らしめた名機と言っても過言ではないでしょう。
可搬性より操作性を優先した大柄な筐体は即興演奏でも安心感がありますし、
何より各パートに設けられた縦フェーダーでフレキシブルな抜き挿しが必殺技。
・Arturia DRUMBLUTE/IMPACT
こちらもTR-8に匹敵する使いやすさ、分かりやすさで人気があります。
下段に並んだパッドで指ドラムも出来るし(BEATSTEPも)、
パターンシーケンサーもライブプレイを考え尽くした構成と機能が備わっています。
エフェクター
・Pioneer RMX-500
「ザ・チートエフェクター」として
マシンライブ界隈でもエラい勢いで普及しています。
触った事ないからよくわからんけど。
・KORG KAOSSPAD
KORGのお家芸カオスパッドも根強い人気がありますよね。
ミキサー
・DJミキサー全般
サンプラー
・OCTATRACK
操作は難解ですが覚えてしまえば最強のマルチエフェクト付きのサンプラー兼デジタルミキサー。
8トラック全てをルーパーにしてしまうとか、
そのルーパーで録音したループをリアルタイムで刻んだりして大変な事になります。
○まとめ
今までは機材の機能をキッチリ使いこなさないとインプロなんて無理!と勝手に思っていましたが、
実はコッチの方が楽に習得出来るような気がしてタマりません。
前記事で紹介したDRUMBLUTEとDFAMとの出会いが非常に大きく、
「もうこの2台だけでいいんじゃない?」くらいに思ってきてます。
(もちろん思ってるだけなんですがね)
従来のコンストラクション系スキルで壁にぶつかっている方なら、
一度アタマをまっさらにしてインプロに臨んでみるのも悪くないですよ。