【今更速報】KORG monotribeレビュー
初心者向けアナログシンセとしてvolcaシリーズ以前に生産されていたmonotribe。
生産期間が短かった事やアナログシンセとしての素性の良さなどから
現在でも新品当時の価格と変わらない値段で取引されています。
2万円と手頃な値段かつ結構な人気機種だった為に、
一度は所有した、気にいって何台も購入した、なんて諸先輩がたも多い筈です。
世界中で人気を博した機種ですしレビューやプレイ動画、
改造記事や改造パーツ情報など山のようにありますが、
今さら手に入れた自分としてもコレ薦めずにはいられない魅力があります。
◯なんで今さら?
そもそも自分がハードシンセに興味を持った頃には生産中止してまして、
要は自分が知らなかったってだけなんですが、
x0xb0x、volca、AnalogFour、モジュラーシンセ、MINIBRUTEと
渡り歩いた後でコイツに出くわしました。フツー逆だよねw
しかしですね、これらの機種を通った上ででも
アドバンテージを強く感じるポイントがありまして、
サイズ、機能、性能の面で絶妙な割り切り方をしているんですコイツ。
◯グルーブボックスのプロダクトデザイン論
これらのシーケンサー付きシンセ、所謂グルーブボックスとは、
ユーザーインターフェイスと機能のせめぎ合いが非常に難しく、
開発者のセンスがダイレクトに反映される稀有なプロダクトなんですよ。
スペックだけで考えるとアレコレ沢山出来る方がイイんですが、
多機能になるほど操作が煩雑になってライブ性が損なわれます。
DAWのピアノロールなどと違って直感操作が信条で、
楽器経験の無い人でもフレーズ作りを簡単に出来る物が良機材として評価されます。
特にiPhoneやDAW普及以降の現代では、
技術的には僕らユーザーの思いつく事は何でも実現可能なんでしょうが、
恐らくは非常に使いづらい物になってしまいそうです。
そこを敢えて「どの機能を削るか」が開発陣の命題なんじゃないでしょうか。
RPGで言うところの「ステータス割り振り」が製品の個性に直結するのも面白い。
近年のKORG製品の「リーズナブルなアナログシンセを復活させる」という
テーマの元に産まれたmonotronからvolca、minilouge/monolougeに至るまで
安価で秀逸なプロダクトが沢山ありますが、
その中でも最高にKORGらしいプロダクトがこのmonotribeと確信しました。
◯基本スペックとデザイン
1VCOのアナログシンセとキック、スネア、ハット3種類のドラム、
それらを演奏する16ステップのシーケンサーがついてます。
MIDI端子はついておらず(改造で拡張可)、
他機材との同期にはKORG得意のSYNC信号を使います。
volcaシリーズに対しての決定的なアドバンテージは
絶妙なサイズ感と、ズシっと程良い重さのアルミ筺体。
人並み以上に手のデカい自分でも楽に操作できます。
腕の長いトグルスイッチは小気味よく操作できますね。
ボタンの押し心地とツマミのトルク感はイマイチなんだけど、
そこまで贅沢は言えません。なんせ2万円ですし。
◯時間泥棒シーケンサー
ドラムパートは一般的なステップシーケンサーですが、
シンセパートのリボンコントローラーが特徴的です。
(クオンタイズ機能があるんで)monotronほどではないにせよ、
正確に鍵盤を抑えてキチンとしたフレーズを演奏するのは至難の業。
でもいいんです。コイツが前提としている音楽は、
音程の変化ではなく音色の変化に重点を置いてるから。
録音ボタンを押しながら再生させ、
適当にチョンチョンと鍵盤部を突っつくだけで
「なんかそれっぽいフレーズ」ができます。
気に入らない箇所はステップキーで消去して、
またチョンチョンやり直します。
monotronと同じ鍵盤ですがコッチの方が機能は上。
鍵盤のレンジもWIDE/NALLOW/KEYと可変式で、
KEYを選べばスケールクオンタイズが可能です。
FLEXボタンでステップごとのクオンタイズ機能をオフにする事もできます。
この作業が本当に楽しくて、
触ってるうちにウッカリ数十分経ってた、なんてのがザラです。
◯ノイズがキモのVCO
VCOは波形選択、オクターブ選択と独立したノイズのツマミがあります。
デフォルトでは軸の細いツマミですが、
ここに市販のツマミを付ける事によって積極的にノイズを活かす事が出来ます。
◯明快すぎるフィルター
綺麗に切れるカットオフと可変カーブの綺麗なPEAK(レゾナンス)で、
分かり易い音作りができます。このフィルターは自分が今まで所有した
アナログシンセの中でも最も分かりやすく使い易いんですよ。
カットオフ全開、ピーク低めでは一般的なモノシンセの音、
カットオフ11時、ピーク4時ではかなり重たいサブベースに、
カットオフ1時、ピーク12時でアシッドベースに、
などなど、フィルターの素直さがmonotribeの大きな魅力です。
◯最低限のVCA/EG
VCAはシンセパートのボリュームといった扱い方で、
トグルスイッチでEGの切り替えをします。
普通のアナログシンセならADSR4つのツマミが重要なポイントだとは思うんですが、
ここは思いっきり削ってますね。
◯ド変態LFO
削ったEG機能の代わりに充実してるのがLFO。
全体的に少ないスイッチ類ではありますが、
その中で3つのトグルと2つのツマミと、LFOに重点を置いてるのが分かります。
で、何も考えずにツマミをいじると簡単に破綻します。
低速から超高速までレンジが広く、
分かり易いフィルターとは対照的にすんげーピーキーです。
◯チャカポコ系ドラム
ドラムに関してはパラメーターが全くないので音作りは出来ないんですが、
TR-606やCR-78などのクラシックドラムマシンに通じる可愛い音色です。
或いはMFBの808ライクなマシン、TanzbarLiteとか522に似ていますね。
キックはけっこう重たい。AnalogRYTMと同期させても全然負けてません。
改造をすればキックのディケイなどパラメータをツマミで追加する事も出来るようです。
◯エフェクターとの組み合わせ
エフェクトの影響が強く反映されるアナログシンセですから、
お供にペダルエフェクターも欲しいですよね。ってか絶対に必要。
どんなエフェクターでもいいんですが、
個人的にお勧めなのがデジタル・ディレイ。
最近はディレイのペダルといえばアナログの方が主流ですが、
アナログよりもテープよりも、チープなデジタル・ディレイが良く似合うんですよ。
自分が買ったのはtc electronicsの「THE PROPHET」というペダル(緑の方)。
なんせ安い。とにかく安い。6000円で買えます。
ツマミが大きくトルク感も良く使い勝手抜群です。
肝心の音質は「6000円にしちゃ上出来」といったレベルではありますが、
そのチープさがmonotribeにバッチリとハマるんですよ。
シンセパートに面白いのはBOSSのリバーブRV-6。
これも値段の割にはかなりイイ音します。リバーブ界のカローラです!
特に面白いのは原音の1オクターブ上の高さの残響音が出るシマーリバーブ。
建前通りの幻想的な残響から空飛ぶ恐竜の雄叫びまで自由自在。
https://twitter.com/rudeloops/status/892362046808891392
◯こんな人におすすめ
・素性のいいアナログシンセを安く体験してみたい人
・CR-78やTR-606などのチャカポコするドラムが欲しい人
・volcaもいいんだけどチト物足りない人
・303系ベースシンセよりもう少し自由度の高いシンセサイズをしたい人
・レゲエのピュンピュンマシンが欲しい人
・ノイズ/ドローン系の人
・カスタマイズを楽しみたい人
◯まとめ
以前モジュラーシンセを作っていた時に、
「仰々しいシステムを作ってもmonotribeの方がマシ」
なんて揶揄をチラホラ見かけましたが、自分の場合は正に完全敗北だったようです。
何十万もかけておきながら結局はコイツに勝るシステムを組めず仕舞いでした。
そりゃそうですよ。
素人の「ぼくのかんがえたさいきょうのアナログシンセ」が
天才が作る取捨選択の妙技の賜物に敵うワケはありません。
それにしても日本の電化製品全般が最も苦手とする「機能の切り捨て」を
こうも鮮やかにやってしまえるのは見事としか言いようがありません。
本業で建築デザインを経て製造業の末端に身を置いている立場としても、
今後の日本のものづくりに必要なのは「切り捨てる勇気」だろうと思ってます。
もう一つの素晴らしいポイントが、回路図を公開しているところ。
これにより電子工作の得意な人が自由に改造して楽しんでいるようですね。
定番改造ではMIDI追加、ドラムパラメータ追加、パラアウトなど出来るようです。
「ものづくり()」「技術大国()」とか自称しておきながら
何かを作る楽しみを文化として育てようとしない世の中で、
企業として勇気のある行為だと思いますよ。
電子楽器が好きな人のみならず、プロダクトデザインに関わる日本人全てに
この分野の製品開発の面白さに着目してKORGの姿勢を見習って欲しいものです。