小規模パーティの接客術
今でこそその役割をSNSに奪われてしまいましたが、
クラブ文化はアート、クリエイティブ、パフォーマンスの実験場であり、
職場や学校、社会や家庭からもあぶれてしまった人達の避難所であり、
金持ちも貧乏人も不良もオタクもゲイもノンケもクズもキチガイもブサイクも、
人は皆ミラーボールの下に平等かつ自由であるという理念を持っています。
現在のクラブシーンでは僕達の扱うハウスやテクノ、ヒップホップなどに加えて、
EDMやアニソン、ポップスが新しい世代のメインストリームとなっています。
好む好まないに関わらず現在のシーンを経済的に支えてくれているんですから無碍には扱えませんが、
僕らが培ってきた言語化しづらい技術がスッポリと抜けてしまっているケースがほとんどのようです。
その最たるポイントがクラブシーン最下層のパーティの空気。
90年代から浸透してきた個人主義が行き過ぎてしまったようで、
クラブ文化のユートピアであるお客と演者、お店との一体感すら失われてしまったように思えるんですよ。
○DJがこだわった「一体感」の正体
特にハウスDJは音楽を繋げる、DJとお客を繋げる、
お客同士、お客とお店を音楽的精神的、時には性的に繋げる事にこだわってきました。
その場にいる全ての人に「みんな繋がっている」という錯覚を作り出すのが理想でした。
なのでDJのパフォーマンスとは本人の技量だけによるものではなく、
それを支える土台からの影響が大きいのです。
パフォーマンスを形成する様々な要素と、パフォーマンスが与える影響の範囲を図にしてみました。
パフォーマンスを軸として演者も観客もその背後にある要素を深く見据える事によって、
クラブシーンが大切にしてきた「一体感」が生まれるんです。
DJは生楽器のミュージシャンに比べれば演奏技術の習得も比較的浅い努力で済むので、
単純な音楽性で言えば軽く見られがちではありますが、それは氷山の一角に過ぎません。
図のように音楽だけでは見えない部分の研究と開発を重ねてきました。
言うなればこの上下の三角形全てが「作品」なのです。
○SNS隆盛と共に忘れられてしまったクラブ文化の心意気
前述した「僕らの世代にはあって今の世代には無くなってしまったもの」とは、
端的に言ってしまえば「雰囲気」でしかありません。
しかし僕達はその「雰囲気」を創り上げる為に無い知恵を絞って切磋琢磨をしてきました。
これは時代の流れと共に変わっていくものですからある程度は仕方のない事でしょうが、
現在自分たちのパーティやイベントを盛り上げようとする皆さんにヒントの一つとなれば幸いです。
それが表題の「接客術」。
ノルマの有無に関わらず集客や宣伝はDJやパフォーマーの義務ではありますが、
集めるだけ集めて「釣った魚に餌はやらねぇ」じゃマズいですよね。
自分の為に来てくれた友達をお客として扱ってやり、
気持ちよく帰らせてあげるのがパーティスタッフの使命です。
ディスコ世代や生楽器のライブイベントに挟まれながら見出した僕達の秘訣もそこでした。
ナンパと下ネタに明け暮れた仲間同士で心理学やら女性の口説き方などの書籍を読み漁り、
自分たちのラッキーな体験をテクニックにまで昇華させていったのです。
これ僕の通ってきたハウスミュージックでは文化的にも音楽的にも密接な繋がりがあります。
「エモーショナル」「グルーヴ」なんて言葉にこだわるのは恐らくハウスDJだけでしょう。
そんなテクニックを自分自身が思い出す事を兼ねて皆さんに紹介していきます。
○演者は主役ではなく舞台装置の一つでしかない
ライブイベントや芝居などは演者と観客の立場がハッキリと別れていますが、
クラブはその境目が曖昧なのが大きな違いです。
演者は芸術家ではなく演出家として振る舞わなければいけません。
ライブパフォーマンスやDJプレイは花形ではあるけど主役ではない、というのが自分の認識です。
主役はお客さんでしょうか?それともお店でしょうか?それらも微妙に違います。
ここで言う所のパーティとは、これといった主役の居ない群像劇のようなものです。
主役、というか作品は雰囲気、場の空気といった曖昧なものなんですよ。
DJに限らずパフォーマーを志望する輩というのはいつの時代も我が強く自惚れも強いものですが、
一度は己を殺して黒子に徹する経験が必要になります。
若いうちは気づけない事なんですが、個性の強さと我の強さは似ているようで非なるものです。
若者どころか40になっても50になっても気づかないまま大人になってしまっている人達も沢山います。
なので自分が個性だと思っているものをとりあえず否定しましょう。
真の個性とは自分を殺せるところまで殺しきって絶望しないと見えないものです。
パフォーマンスの質もコミュニケーションのコツも、
自己否定から始まるってのがアタクシの持論です。
○コミュニケーション能力のキモは観察力
「コミュ力」「コミュ障」なんて言葉が流行りだして久しいのですが、
そういう言葉を使いたがる人に限ってコミュニケーションを正しく理解していないように思えます。
「正しい文法に沿った会話術」なんてのは二の次三の次。
コミュニケーションの基礎は言葉ではない「非言語コミュニケーション」です。
身振り手振りから姿勢、振る舞い、所作、視線、身体の緊張や弛緩などなど
人間は言葉を発する以前に沢山の情報を無意識に発信しています。
これをできるだけ多く感じ取るのが非言語コミュ上達の一歩目です。
一般的に男性より女性の方がコミュ力に長けているのもこの感じ取る能力が発達しているからで、
よく言われる「女の勘」で「男の嘘はすぐバレる」のもこの為です。
○言語化できない情報を汲み取る
これら非言語コミュは心理学でなら専門的に研究されていますが、
DJに限らずあらゆるパフォーマーにとって強力な武器になります。
これって別に学習しなくったって感覚的に捉える事はできるんですよ。
例えば音質の悪いクラブと良いクラブ、踊るお客が多いのは断然後者でしょ。
みんな知らなくても感じ取っているんです。
はたまた微妙なルックスなのに妙に色気のある男女っていますよね?
そういう人は大抵は所作や振る舞い方がスマートでエモーショナルな筈ですよ。
パフォーマーとしてそこを鍛えつつも、それを接客術に応用するには
まずプロファイリングの訓練をしましょう。
初対面の人を観察して年齢や職業を予測してみたり行動から性格を読み取ります。
ファッションから視線、人と話をするときの態度、一人でいる時の態度、
本人は気が付かないうちに沢山の情報を発信しています。
外れても構わないからとにかく観察を続ける事が大事です。
ただし注意して下さい、これは目的は違えどストーカー行為と同じ事です。
観察している事を相手に悟られてはいけないし、ネットでもリアルでも口にしてもいけません。
観察も予測も答え合わせも全て自分の中で完結させましょう。
○観察した成果の利用法
ある程度人を見る目を肥やす事が出来たら、
神様にでもなったつもりで自分の中で勝手にジャンル分けしてしまいます。
この人は○○系、あの人は△△系、○とXは相性が悪く、
△の魅力を活かすには□系の人が必要、、、とかね。
DJが曲を選ぶ時は時間軸に縛られますが、
人と人を繋げる場合はニーズとタイミングを読み取ればOK。
ちょっと練習すれば案外簡単なものですよ。
――
余談ではありますが、
「恋人が欲しいのに出会いが無い」と嘆く人はいつの時代も沢山いますよね。
こんな悩みごとも前述の理屈を応用すれば活路を拓けるかもしれません。
出会いが無い、と思い込んでいる人は自分自身のニーズが分かっていない場合がほとんど。
ニーズが分からなければ自分と釣り合う相手がどんな人なのかも分からないものです。
そこで異性の友達を多く作って、自分の同性の友達を紹介して引き合わせるんですよ。
最初は多人数同士の合コンでも良いですが、慣れてきたら1vs1に絞りましょう。
「コイツとあのコなら相性いいんじゃない?」というシュミレーションを重ねるんです。
それを繰り返すうちに自分自身の真のニーズがハッキリしてきます。
真のニーズを満たす為に要らない要素をどんどん切り捨てていくと、
自分と釣り合いの取れる相手が見えてくる筈です。
がんばってね~(他人事)
――
○オファーの絶えないプレイヤーはプレイ時以外の振る舞い方で決まる
パーティオーガナイザーは常に新しい人材を探してチャンスがあれば自分の元に引き抜こうとしますが、
狭いジャンルでもない限りはプレイのクオリティや音楽性など二の次です。
舞台から降りている時にオーディエンスに対してどういう振る舞いが出来るかをよく見ています。
話の面白い奴、ルックスのいい奴が重宝されるのは当然ですが、
そうでなくても当人の醸し出す雰囲気が周りに影響を与えられるレベルであるかどうか。
自分のキャラと役割を分かっているかどうか、そういう所に注意して観察します。
僕らの時代ですと、
自分の仲間として特に迎え入れたい人材は「飲食店アルバイトの経験者」でした。
若い頃に少しでも経験をしていれば、客あしらいから店内の移動に至るまで
スマートな振る舞いが身体に染み付いているからです。
こういう人が一人二人いるだけでスタッフ全体の雰囲気が締まります。
またそれとは対照的だけど酒場には付き物の、
「どうしようもない呑んだ暮れ」「やさぐれた奴」「自分の世界に浸り切って踊り狂う奴」
「天然ボケ」「色キチガイ」などなど空気の読めない人種も舞台装置としては有能なんすよね。
○店内におけるオペレーション
パーティスタッフはお店のスタッフとお客、お客同士の間に入って、
円滑なコミュニケーションが出来るように促してあげる必要があります。
己を殺して黒子に徹するのがベターなので無理して会話を繋げたり盛り上げたりはしなくても大丈夫。
基本的にスタッフは定位置を決めずに店内をウロウロするようにします。
座るな、とまでは言いませんがずっと同じ場所に居続けるのは辞めましょう。
酒場の空気が淀まないようにスタッフが意識して「流れ」「うねり」を作るんです。
そして要所要所でフロア全体を俯瞰で眺めて観察する事が大事です。
どのグループが盛り上がっているか、一人で暇そうにしている客はいないか、
お店のスタッフがテンパってないか、観察する事はたくさんあります。
○接客と意識させない接客
パーティやイベントにくるお客さんは友達が欲しいから来るんです。
別に恋人でもいいですしその晩だけのセックスの相手が欲しい、でも構いませんけど。
そのニーズを満たす為にはお客には「客とスタッフ」の境界線を意識させてはいけません。
敬語を使ったり丁寧なもてなしをする必要があるタイミングは、
そのお客が店に入ってきた瞬間と、店から出る瞬間だけです。
それ以外は基本フランクに、相手よりリラックスし相手より場の空気を楽しみましょう。
しかし客は客。自分たちの為にお金と時間を払ってくれて来ているので
敬語ではなく敬意をもって接しなければいけません。
じゃその敬意ってのをどうやって表現するのかと言うと、
先程の非言語コミュニケーションなんすよ。
沢山のテクニックがあるんですが1vs1のコミュニケーションで代表的なのを挙げていきます。
・上座と下座
食事の席などでよくいわれるマナーですが、
相手が上座にくるように誘導してやるのが大事です。
・左に立つか右に立つか
二人が横に並んだポジションの場合、
人間は心臓の側に立たれると緊張し、逆の場合は弛緩します。
原則的には相手をリラックスさせてあげる必要があるので、相手の右側に立つようにしましょう。
・人見知りしそうなタイプは正面に向かい合わない
初対面の相手に正面から対峙されると嫌が応にも緊張します。
こういう場合は少し角度をつけてL字の陣形になるように立ちましょう。
○お客のジャンル分け
新しいお客がお店に入ってきた瞬間に、その人がどんなタイプか見極める必要があります。
それによって自分が下手に謙ったり上手としてリードしたり使い分けていきましょう。
初対面かつ相手がどんな立場として来ているのか分からないので、第一声でそれを確認するんです。
「こんちはー!どなたかのお友達ですかー?」ってな具合にね。
・パーティ客
「告知を見てきました」「○○のプレイを見にきました」など、
パーティそのものを目当てに来てくれるホントの意味でのお客さん。
この場合はスタッフが軽くリードしてあげれば、後は勝手に楽しんでくれます。
・店客
パーティ内容は関係無しにお店にきた人。DJや他パーティのスタッフだったり、
コチラを視察する意味合いで来ているのかもしれません。
自分自身より店との付き合いが長いか短いかによって対応を変えていきます。
見分けるコツは相手がどれだけ店に慣れているかの緊張度。
自分より慣れている雰囲気なら下手に出ましょう。
・同業者
たまに他パーティのスタッフやオーガナイザーが視察目的で店に来ます。
自分もよくリサーチがてらに観察しにいきますし。
これも店客と同じで、相手が自分より上か下か瞬時に見極めましょう。
・スタッフの身内
スタッフの恋人だったり夫婦だったりと、友達以上の身内が来る事もありますよね。
一番扱いが難しく、味方につければ百人力、敵に回すと厄介な存在です。
ゲイやレズビアンの場合はネコとタチに置き換えて考えて下さい。
ノンケより遥かに嫉妬深い事が多いので要注意ですが。
・クラブ慣れしている男性スタッフの彼女
マウンティングではこちらが下手に出て、
パーティの「おかみさん」的ポジションに収まって貰うように仕向けちゃいましょう。
こういう女性を味方につけるだけでオペレーションが円滑になります。
・クラブ慣れしていない男性スタッフの彼女
彼氏以外のスタッフが積極的にケアをして場の空気に慣れてもらう事が最優先課題です。
本人的には自分の彼氏のそばにいないと落ち着かないんでしょうが、
あんまりベッタリされるとその彼氏の接客スキルがダダ下がりします。
戦争なんかで地雷踏んで死なない程度に負傷する兵士がいると、
それを助ける為に更に一人の兵士が戦えなくなるパターンと同じです。
・クラブ慣れしている女性スタッフの彼氏
彼氏彼女の空気を持ち込ませない為に出来るだけ離しましょう。
その彼氏を含めて男同士で盛り上がってしまえばOK。
女の子が入ってこれない話題(下ネタとか下ネタとか下ネタ)でバカ騒ぎするのが有効な対策です。
・クラブ慣れしていない女性スタッフの彼氏
こういう男は粘着質かつ束縛志向なので、別れさせてやるのが友達としての努めです(嘘)。
女性スタッフの精神的な成熟度にもよりますがこういう場合は大抵オンナの方がオトナなので、
その野郎は無視して構いません。その女性の面子の為に一応挨拶だけして、あとは放置。
ちょっと空気が悪くなるけど、次から来なくなるように仕向けましょう。
・パーティから排除すべき客
・鬱志向のメンヘラ
こんな音楽やっている輩は多かれ少なかれ精神的にチョットおかしい傾向があります。
ただコミュニケーションこそがパーティの醍醐味なのに、それを拒絶してしまう奴がいますよね。たまに。
目を見ればすぐに判別できます。あんまり目を見てると鬱が伝染るので気をつけてね。
こういう奴は座っている椅子のスペースすらもったいないので排除して下さい。
ただし、鬱志向ではなく躁志向のメンヘラは上手く手綱を引いてやれば
パーティの華として輝いてくれます。丁重にあつかってやりましょう。
・マウントおじさん
ここ数年で悪影響が発生した新種の困ったチャン。意識高い系も含めた広義でのDQN。
確かにコミュニケーションの要はマウンティングではありますが、
露骨に上か下かでしか対人関係を測れないオッサンはSNSだけでなくリアルでも居ます。
しかもクラブ黄金期の世代は既にオッサン化しているので、
僕もあなたも気が付かないうちにマウントおじさんになっている恐れがあるから怖いものです。
さてこのマウントおじさんの退治法ですが、
リアルでマウントをしたがるくらいだからSNSでは暴れまくっている事は簡単に想像できますよね。
場違いなほどマウンティング欲求が強い人は必ず若い頃からの劣等感を持ち続けている傾向があります。
なのでその劣等感を探し出して突いてやれば一撃で殺せます。
若い男性が劣等感を持つ点と言えばいつの時代も知力か暴力、あとはセックスですよね。
こちらの安全を確認した上で遠慮なく心の傷をエグってやりましょうフヒヒ。
また自分自身がマウントおじさんにならないように注意するコツは、
周りから(出来れば目下の相手からも)イジられる事に慣れておく事です。
言葉の節々にツッコミどころを配置しておいたり、
身内でDisり合うのも立派なトレーニングです。
※フィルタリング
いくら「誰でもWelcome!」と言ってもオーガナイザーの人としての器には限度があります。
これら「歓迎できない客」はSNSなどでパーティ本番以前にフィルタリングする事も可能です。
TwitterやFacebookなどでそういう連中が凹むような暴言を普段から吐いていれば、
おのずと向こうからブロックしてくれます。
貧乏人に来てほしくないのなら価格設定を高くしたり、
根の暗い奴が嫌ならチャラい演出を強調したり、
キモオタに来てほしくないのならスタッフのファッションをアップデートさせるのも手です。
・一般社会では煙たがられるけどパーティでは手厚く対応すべき客
・アッパーなメンヘラ
ロックシーンで言う所の「イカれた奴」です。パーティを盛り上げる華になってくれます。
躁が鬱にコロっと変わってしまう事も多々あるので、
長期的には精神衛生的に改善できるように促してあげましょうね。
・ヤリマン
ヤリマンは女神です。異論は認めません。
ハウスミュージックはみんなが繋がる(繋がる)のが理想郷です。
パーティ中で乳繰り合う輩が発生したら、それはオーガナイザーとしての演出の勝利です。
下品だぁ?馬鹿野郎それがハウスだ。カマトトぶってんじゃねぇよこのクソ童貞が。
でもコンドームは付けようね。
女の子も持ち歩くようにしたらいいよ。
・ファッショニスタ
常人の理解を超えるセンスですれ違う人が思わずギョッと振り返るような洋服廃人。
浮世離れした非日常の演出には強力な助っ人です。
○まとめ
音楽を媒介とする社交場がどんどん減っている現状で、
自分の居場所をどうやって守るのか皆さんにも考えて頂きたいと思います。
居場所を守り、場の空気を創造し、オーディエンスを馴染ませる、
それが土台になって初めて各々の音楽性や演奏技術が活きるものです。