モジュラーシンセ・シーンの闇

ユーロラック規格のモジュールも最近では種類や機能が膨大になって選り取りみどりになっていますね。
特にミキサーやエフェクターなどシンセサイズ以外のモジュールが豊富になった事で
色んなニーズに対応出来るようになったと思います。

自分もまたユーロラックでやりたい事が出来たので再度挑戦すべく、
半年くらい前から情報と人脈を辿っていたんですが、
日本のモジュラーシンセシーンの不健全かつ不寛容な一面に閉口しています。
当然面識のある先輩方にはそんな嫌な空気は感じていませんが、
恐らくは面倒くさい輩の声が大きすぎるのではないかと思っています。

声が大きいという事はイメージが一人歩きをしているって事で、
実際周りにいる非モジュラーユーザーはそこに嫌悪感を抱いているのです。
もしモジュラーをシーンとして広めようとしている人達がいるのなら、
初期段階で失敗してしまっている事を自覚して下さい。
でないと挽回のしようが無いじゃないですか。

なぜ自分がこんな事に首を突っ込んで騒ぎ出すかと言うと、
運営するコミュニティにモジュラーユーザーが増えてきた事、
機材のジャンルでしかない筈なのに「モジュラーvs非モジュラー」の不毛な対立が生まれてきた事、
何よりこれだけ面白いシーンなのに先行した悪印象が足枷になっている事、
などなど、これからモジュラーに興味を持つ人の為の露払いをしたいと思いました。

○モジュラーシーンが担う音楽

当ブログの主軸であるドラムマシンやサンプラーはテクノやハウス、ヒップホップなどの
アンダーグラウンドなクラブ・ミュージックがほとんどですが、
これがモジュラーになると電子音楽全般に拡がっています。

反骨精神に溢れたレベル・ミュージックのみならず、
そんなチンピラに嫌悪感を示すインテリも、
高度な教育を受けなければならない現代音楽家も
モジュラー、というかシンセサイズという括りで同じ土俵に上がっている現状があるようです。

「音楽のジャンルじゃなくて機材のジャンルなんだから喧嘩する事ねぇじゃん!」
と言いたい時もありますが、こんなん皆仲良くわかり合おう!って事自体ムリな話ですよね。
でもやっぱり音楽で喧嘩した方が幾らかは健全だと思うよ。。

○ユーロラックモジュラーの理念を想像してみる

自分自身ハウスDJから楽器演奏をせずにDAW、ハードシンセ(グルーブボックス)と渡っている程度ですから、
電子音楽や電子楽器の歴史については深い見解を持っていません。
ユーロラックがこれだけ世界で盛り上がっている理由は軽い想像でしかないけれど、
やはり「無限のシンセサイズ」に惹かれる人がほとんどじゃないでしょうか。
次いで「必要な機能だけを取捨選択して一つの筐体に収める事が出来る」のも大きな魅力でしょう。
ちなみに自分は後者に重点を置いたシステムを製作中です。

しかし現在のユーロラックは本当に膨大で自由度が高過ぎるが為に、
自分自身で制限を課さないと前に進めない(=音楽にならない)のです。
その制限(限界)が高ければ偉い、と勘違いする輩が多いのも事実でしょうね。
「クルマは速い方が偉いので速いクルマに乗ってる俺偉い」
みたいな事言って許されるのはモーティマー・オムラだけです。

ボク若い頃、クラブ遊びをする前はバイクの改造に明け暮れていた頃がありまして、
そのカスタムバイクのジャンルに「チョッパー」ってのがあったんですよ。
70年代のアメリカが発祥で映画「イージー・ライダー」なんか有名ですよね。
スポーツ性を無視して痩せ我慢を強いるようなトンデモカスタムなんですが、
そこにヒッピー文化と融合した独自の美学があった筈なんですよ。
ただやっぱり自由過ぎる上っ面のせいで美学とかけ離れた制約だらけになり、
日本では一時の流行で廃れてしまった残念なシーンです。

ユーロラックも無限の可能性を秘めつつも、
このチョッパーのように美学に至らない不毛な制約のせいで
廃れる恐れがあると危惧しています。

○モジュラーシンセコミュニティの嫌なところ

・選民思想の強い奴がエバっていてカルト宗教じみたコミュニティになる

沼を抜けると宇宙になるとは誰かが言ってましたが、
人によっては幾らでも突き詰められるシンセサイズの宇宙ってのは確かに魅力的です。
修行を積んだ求道者が覚醒するような感覚でしょうかね。

それはそれで素晴らしい事だとは思うけど、
残念な事に取り巻きの連中はそんな崇高な精神を持ち合わせてません。
だいたい変にエリート信仰があって布教に勤しむのはこの取り巻き連中の方なんですよね。
教祖様や仙人様は達観してらっしゃるのでいい人過ぎるくらいいい人ばかりです。

・自由過ぎるが故に少ないロールモデルのフォロワーしかいない

システムを作るまでに一苦労するんですから、
それを使って演奏したりパフォーマンスをしたり出来る先輩方は嫌でもカリスマ扱いされちゃいます。
本人達は単に一人前になれたと思っている程度だろうけど。
その中でエバりたい願望の強い奴が「俺様が面倒見てやる。このモジュール買えよ」と
アドバイスだか命令だか微妙な事を言い出して、シーンじゃなくてサル山を築いていくんですよ。
サル山のボスが権力を維持するには色んな制約を強要するのが手っ取り早いですよね。
それが音楽的に有益かどうかは二の次で、権力の維持が大事なんだから。
そしてトンデモなマナーをポンポン生み出して音楽がつまらなくなっていくんです。

※モジュラーシンセのトンデモマナーの一例

・MIDIは甘え。アナログ電圧こそが漢の道。
・サンプルに頼るな。全てシンセサイズしろ。
・演奏時にツマミを触るのは邪道。真のモジュリストは全てCVシーケンス。

こんな悪い冗談みたいなお作法がまかり通ってるのが外野から観たモジュリスト()の現状です。
自分に制約を課すのは大事だけど、他人にまで強要するから始末が悪い。
受け取る側が過敏になっている節もあるにはあるんだけど、
自分の予測ではこれサル山のボスが支配力を強める為だけに流している風説に思えるんですよ。

・音楽的、機械的見解が浅い為に依存心の強い素人が意外と多い

こんなマニアックな世界なんだからそれなりに心の準備をして臨む人がほとんどかと思いきや、
ヤバいレベルのアホも少なくないようです。
「やりたい音楽がわからない」「ネジの回し方を知らない」「電気のプラスマイナスがわからない」
そんな状態でモジュラーシンセに数十万円をつぎ込んじゃうのが居るって話を聞いて背筋が凍りましたよ。

そういうアホが運良くシステムを作れたとしても、
「はて、どんな音楽が出来るのコレ?」と先人を頼って聞いて回る訳ですけど、
アホなので自分の頭で考える事が出来ないんですよ。というより、頭を使うって発想がない。
聞かれる方も最初は丁寧に教えたりはするんだけど、
ハナから知恵使う事を放棄してるような奴だからだんだん話をするのも辛くなってくるんでしょうね。
ほんと馬鹿にカネ持たせるとロクな事ないから握手券でも買ってろって言ってやって下さい。

○モジュラーシンセに手を出したい人が本当に必要なもの

お金と時間はそれなりに必要ですし、組み立てるだけでも強烈に面倒くさいものです。
ツマミを回すよりネジを回す方が好きなくらいじゃないとやってられません。
それより何よりクリエイターとしてのメンタルを強く持つ事。
そこのメンタルが弱いとコストに見合った成果を得られず闇落ちします。

クリエイターなりパフォーマーなりにとって、
最初の段階で超えるべき課題は「自分のカラーを見い出す」事です。
それがアイデンティティの形成に繋がり、その人の心を豊かにするものなんですよ。
そこを疎かにして自分が無いままカネや労力をつぎ込み続けると、
いずれは疲弊して挫折するか闇落ちします。

そりゃDTMでもDJでも上手く出来ずに挫折する奴は沢山います。
だけどモジュラーはシステムが完成するまで結構な忍耐が必要だったり、
あるいは永遠に完成しないシステムだったりするので、
建前では活動しつつ内面だけで挫折する事が可能なのですよ。
一人で勝手に折れてりゃいいんだけど、
闇落ちする奴は上手くやってる奴や素直に楽しんでる奴を妬んで攻撃するのが問題なんですよね。
こういう輩を根絶やしにしないことにはせっかくのシーンが自滅しますよ。

自分のカラーが分かってきたら、制約をつけて方向性を絞り込む事です。
その制約は他人を支配する為のものではなく、あくまでも方向性を浮き彫りにする為だけのもの。
それが有益な制約であれば、他者からの共感を得て美学にまで昇華させる事が出来るんです。

○シーンを担う自覚はあるか?

文化や流行になる以前のムーブメントをシーンと定義するとして、
(別にモジュラーだけシーンで切り取る必要はモジュラー屋さん以外考えなくていいとは思うけど)
このユーロラックモジュラーのシーンには急速な拡がりと勢いを感じています。

それならそれでメーカー、ショップ、オーガナイザー、コミュニティ単位で
危機感を抱きつつもっと自由で建設的な啓蒙をして頂きたいと思うのですよ。
でないと本当に流行以前の段階で自滅しますよ。
音楽以外でもそういう徒花になっちゃったシーン沢山あるでしょう。

○とりあえず避けるべきは「モジュラーvs非モジュラー」の対立

これホント馬鹿馬鹿しいと思いません?
まだ「ソフトvsハード」の方が有意義な議論が交わされてますよね。
けど実際にこういう対立構造が生まれつつあるんですよ。

これはモジュラーユーザーの執拗な勧誘にウンザリした層が、
防衛本能から反発してしまっているケースが多いようです。
日本じゃこういう趣味はカルト中のカルトなので仕方ないです。
ここは業界単位でカルトなイメージを払拭して貰わないとダメかもしれないですね。

○それでもモジュラーをやりたい人へ

ここまで言ってもモジュラーやりたいって人はどんどん増えると思います。
他でもない自分自身もそのクチだし。
ただ自分の運営する「マシンライブ・ワークショップ」では
モジュラーシンセを教えるって事は出来ません。
モジュラーに限らず自主性の無い奴は来てほしくないので勝手に覚えてきて下さい。

とはいえやっぱり独学は厳しいので先生を見つけて習うのが一番です。
信頼出来る人紹介しますよ。
ここで名前出すと面倒事に巻き込んじゃうと思うからTwitterアカウントでDMでもください。

○それでもモジュラーをやりたくない人へ

人間は得体の知れないものには恐怖を感じるように出来てますが、
たぶんモジュラーシンセユーザーに対する嫌悪感のほとんどは
「よくわからないからムカつく」だと思います。単なる恐怖心です。
分からない事もわかるようになれば恐れるに足りないものって事で、
モジュラーシンセユーザーの嫌な所を洗い出してみました。

それでも嫌ならもう宗教上の理由って事で割り切って下さい。
気になるんだけどイメージだけが嫌って人は、
Mother32買いましょう。MIniBrute2でもいいですよ。
ハードにこだわらないならReaktorでもいいじゃん。

○諸々踏まえた上でのユーロラック・モジュラーシンセの魅力

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美味しい料理を作るなら食材にこだわりたい。
それなら水も畑も田んぼにもこだわって最高の食材から作る。
食器も調理器具も自分の手で作る。
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食文化に恵まれた日本人なら、
馬鹿馬鹿しいと呆れつつも微笑ましく感じる狂気じゃないでしょうかね。
そんな料理マンガみたいな病的なこだわりを音楽でなら実現可能なのがモジュラーシンセです。
当人の人生の至福の為ならたかが数十万〜百万程度の出費は安いものでしょう。
お寺に入って座禅組むよりは簡単に涅槃が見えそうだしね!
想像するに、究極のシンセサイズとは浮世離れしたものなのかもしれません。

それともう一つ、これは今回自分が製作中のシステムなんですが、
自分にとって必要な機能だけを持ち歩けるようにしたい、という願望でユーロラックを始めるのもアリです。

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シンセサイズはMother32で十分、色んなメーカーのドラム音源モジュールを選んで、
センド/リターン付きのミキサーにまとめる。マルチエフェクターを2台。
パッチケーブルはツマミを触る時に邪魔になるので極力縛ってまとめ、
シーケンスは外部のELEKTRONから鳴らそう。
ついでにELEKTRON自体の音も一度モジュラーに取り込んで、
全部まとめてステレオフィルターを通してアウトプット。
———

はい。ただのドラムマシンです。シーケンサーは無いからドラムシンセですかね。
音を出せるようになるまで半年かかってしまったけど、
やっと出た音にも満足がいかないのでこれを基準に少しずつモジュールを差し替えて行こうと思っています。
「スネアが気に入らないからスネアモジュールだけ替えたい」なんてユーロラック以外じゃ不可能でしょ。
ちなみに現段階じゃ4万円のDRUMBRUTEにすら劣る音質なんだけど、
そこはロマンで押し通す所存です。

○まとめ

個人的にはモジュラー音楽だけを切り取って独立したシーンとして捉える気は無いんだけど、
電子楽器界ではiPhone並に革命的な出来事なんじゃないでしょうかね。
そこまでいかなくても「ぼくのかんがえたさいきょうの○○」を作るのに
一番理想的なのがユーロラック規格だと思います。
別に○○はシンセじゃなくったっていいんです。
オレ作ってるのドラム音源システムなので「シンセ入れないなんて勿体無い」
なんて上から目線でのたまう奴が出たら張り倒します。

こんなに面白いシーン(規格)なのに、
初期の段階で妙な輩に目をつけられてしまったのがユーロラックの不幸な所かもしんないです。
その妙な輩の妙な部分とは端的に言って他者に対する支配欲権勢欲が強い事。
他の音楽は知りませんが、レベル・ミュージックにとってのそれは倒すべき敵の筈。

半分だけ足を突っ込んている外野としては、
シーンの活性化でも市場の活性化でも何でも構わないから、
どうかもう少しの間は健全化に努めて頂きたいと思います。

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