MOOG DFAMレビュー

どんなジャンルでもスペックからは読み取れない魅力を放つプロダクトってありまして、
例えばクルマや腕時計などの舶来物でそういうモノ作りが得意な名門ブランドがありますよね。
シンセサイザーでの名門と言えばMOOGとDaveSmithあたりが二大巨頭でしょうか。
DaveSmithはポルシェのような気難しさとセクシーさを、
MOOGにはシボレーあたりのアメリカン・マッスルカーのような大らかさを感じています。
モノシンセも色々と渡り歩いてきましたが、
DRIFTBOXはもちろんMINIBRUTEでさえピーキーに感じてしまう自分には
誰がどういじってもそれなりの音が出てくれるMOOGの方が性に合っているようで、
半年ほど前にMother32を、先日DFAMを導入しました。

○Motherシリーズの特徴

MOOGの廉価版ラインナップとして発売されているセミモジュラーシンセ。
ユーロラック/スタンドアロンどちらでも使える設計が最大の特徴で、
絶妙なトルク感で回し心地の良いツマミなど所有欲を存分に満たしてくれる質感があります。
現在はMother32とDFAMの2種類ですが「Subharmonicon」という第3弾も控えているようです。

Motherの方は半年ほど使っていますが音色から何から全てが絶妙。
ほんと絶妙以外の言葉が出なくてレビューになりませんわw
よく比較対象に挙げられるベース専用機MINITAURほどの個性はないものの、
(MOOGの中では)オーソドックスにまとめられた優等生ですね。
音作りもし易くて初めてのモノシンセに最適。
ベースなんかに使うと他の機材と鳴らしてもDAWに落とし込んでも
浮かないし埋もれない使いやすい音になってくれます。

○ドラムマシンの始祖?

優等生のMotherに対して変わり種の変態モノシンセが欲しくなり、
かといってピーキーなのは苦手なので同シリーズのDFAMに目をつけました。
ドラムマシンというよりは「シーケンサー付きのパーカッションシンセ」。
パーカッション的な短い音に特化したアナログモノシンセです。

同時発音数は当然ひとつだけ、普通のドラムマシンほど音色のパリエーションはありません。
だけどツマミだけでキックからハットまでシームレスに変化させられる柔軟さは、
8ステップと少なめなシーケンサーと相まって万華鏡のような趣きがあります。

○音源部

Motherを基準に考えるとVCOが一つ増え、LFOが無くなっているのが大きな特徴。
ほかにもEGのアタックが無い分VCO/VCF/VCAそれぞれにディケイがあったりします。
またMotherもそうなんですけどホワイトノイズが綺麗!
普通は耳障りなんで控えめにするもんですが、このノイズはずっと聴いていたくなるほど。

面白い所と言えばシーケンサーの上段、ピッチ部の変化をオン/オフ出来るトグルスイッチ。
VCO1と2/VCO2だけ/両方オフと切り替えられます。
オンなら音程をツマミで変える事ができ、オフにする事により一瞬で均一なピッチになります。

○シーケンサー部

8×2段のツマミの下段がVEROCITYとなっているんですよ。これがかなり面白い。
左いっぱいになっている時はオフ(休符)、右に回すにつれベロシティが上がっていきます。
通常のドラムシーケンサーだとベロシティって副次的な要素として扱われる為、
強弱の変化をつけるのが疎かになりがちなんですが、
このシーケンサーでなら直感的に強弱をつけやすい。
このお陰でフェイク感の強いシンセドラムがとても有機的に鳴ってくれるんですよ。

○パッチ部

ジャックはMotherより1列少ない24個ですが、それでも十分過ぎる内容です。
少し惜しいのはMIDIに対応していないため、他機材との同期にクロック信号が必須になってしまう事。
MIDI to Clockコンバーターは単体のDoepferMSV2などでも良いですが、
Mother32を使うか、手っ取り早くvolcaシリーズを使ってみるのが良いですね。

とりあえずは最下段のPITCHやVELOCITYから何かしらのジャックに挿すと、
それぞれシーケンスつまみで変化を施す事が出来るので分かりやすいと思います。

○DFAMを触っていて思い出したあの機材

シーケンサー付きの音源ですからある意味グルーブボックスとも言えなくは無いんだけど、
ドラムとしてもシンセとしても割り切った作りなので限界は低く、
当たり前だけどプリセットも無いしパターンも無いです。
16~64が当たり前の時代に今どき8ステップでどうしろと?と言いたくなりますよね。

それなのに本当に楽しいんですよ。
あらゆる電子楽器の中でも純粋な楽器にかなり近い。
こんな機材って他には中々ないと思いきや、一つありました。

KORGのmonotribe。


もちろん構成は色々と違うんだけど、使いみちはそっくりなんですよ。
アレはアクが強すぎて使いあぐねる事が多かったなぁ。。
その点DFAMは器用に他機材とも馴染む。馴染みながらも自己主張出来る。
「DFAM=monotribeスペシャル版」と言っても過言ではありません。
monotribeの演奏性が好きな方は是非一度試してみてください。

○実際どう使う?

youtubeに挙がってる動画を見てると、
やはり相性の良いMotherと組み合わせてテクノに限らない自由な演奏をする人が多いですね。
エフェクトのノリが良いアナログシンセなので、
とりあえず何かしらのペダルを噛ますと面白さ倍増。
プリディレイ短めのリバーブでアタック部を溶かしてやると気持ちいいですよ。

これ、一緒に購入したCAROLINE GUITAR COMPANYの[METEORE]というリバーブ。
http://umbrella-company.jp/caroline-guitar-company-meteore.html
最新のリバーブにありがちなシマー系ではなくLo-Fi系で残響が程よくノイジーで温かい。
しかも面白い事に右側のフットスイッチを押すと残響音が発振するんすよ。
リバーブなんだけどテープエコー的な効果が得られる美味しいペダルです。
DFAMはもちろんアナログモノシンセと相性バッチリです。是非試してみて下さい。

自分なら普通のドラムマシンは別に用意して、
アシッドベースのように主役を張らせたいところです。
ドラムからベースへ、ベースからリードへと変幻自在。
8ステップのミニマルなフレーズは中毒性が非常に高いのも魅力的。

ただしちゃんと使いこなすのは結構ムズいかも。
何にも考えずにツマミぐりぐり回して遊ぶのは面白いけど、
狙いを定めて音を作ろうと思うとなかなか意図通りにならんのです。

○おまけ


シーケンスつまみとオシレーターのVolつまみが小さくて回しづらいですよね。
とりあえず手持ちのツマミをつけてますがチトしっくりこない。
ネットで探してみたら専用のつまみセットが売ってました。
12ユーロと送料10ユーロでした。
https://www.thonk.co.uk/shop/moog-dfam-knob-upgrade/

○まとめ

ドラムなのにモノフォニック、シーケンスも8ステップと、
時代錯誤かと思えてしまうスペックではありますが、
制約があるからこそクリエイティビティを刺激されるのもあります。
ちょっとでも興味が湧いたら展示しているお店で触ってみて下さい。


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