Moog Subharmoniconレビュー

2年前にプロトタイプの動画を観た時に心臓をガッツリ掴まれた
Subharmoniconがいよいよ一般販売という事で、
組み立て中のモジュラーも衝動買いしていたグルボも蹴散らして前のめりで購入しました。

Mother32から連なるユーロラック互換の廉価版アナログシンセシリーズ、
M32はMIDIシーケンスの仕様が使いづらい為に手放したけど(現在はアプデで対策済)、
DFAMの方はブログで連載をしているように自分の音楽の好みすら変わってしまった経緯があります。
M32がオーソドックスな構成、DFAMはドラムのような短い音を得意とする構成に対して、
今度のSubharmoniconは2VCOにそれぞれ2つずつのサブオシレーターがついたパラフォニックシンセ。
どういう使い方が似合っているのか検証してみます。

○セクションの紹介

・シーケンサー
Subharmoniconを最も特徴づける部分と言えば左側のシーケンサーセクションと思えます。
ゲートのオン/オフは出来ない4ステップx2トラックシーケンサーと、
その下に4つ並ぶ「POLYRHYTHM(ポリリズム)」という謎のツマミ。
16から64が一般的な現在のシーケンサーからすればもの凄い割り切り方ではありますが、
このリズム1~4の「POLYRHYTHM」ツマミと各シーケンサーに割り当てるボタンがミソなのです。
簡単に言ってしまえばこれはクロックディバイダーの役目を果たします。
一番左下の「TEMPO」ツマミまたはMIDI/アナログクロックで設定されたマスターテンポを基準に、
POLYRHYTHMツマミを右いっぱいに回すとマスタークロックと同じテンポ、
左に回していくにつれ1/2、1/4~1/16とトリガー間隔が広がっていきます。
そして下のボタンで分割したテンポをシーケンサー1または2に割り当てる事ができます。

ここで面白いのは割り当てるツマミは一つだけとは限らなくて2つでも4つ全てでも可能だという事です。
複数の分割を割り当てるとシーケンサーが妙な挙動で走るようになり(それでいてマスターテンポには追従)、
なんだか訳の分からない、でもハマると気持ちいいリズムを刻むようになります。

・オシレーター
中央上下段の6つのツマミがオシレーターセクションです。
FREQはピッチの事。音の高さをここで変えていきます。
3×2の三角形に配置されたツマミの下に並ぶ3つずつのボタンがまたミソ。
シーケンスをどのオシレーターに反映させるかを選べます。
各オシレーターの音量をここで調節しますが、プロトタイプとレイアウトが変わっていて
オシレーターと同様に3×2のツマミが三角形に並んでいるデザインが凄く分かりやすくて良いです。
ミキサーにここまでの面積を割り振るデザインからして重要なセクションな事が伺えますね。

・フィルター~アンプ
フィルター以降はオーソドックスな形ですが、
EGがフィルターとアンプとで独立しているのが使いやすくて有り難いところ。
アタックとディケイだけではあるけど、
4つのツマミが音の表情を様変わりさせるのに非常に有益。

・ジャック
Motherシリーズと同様に白い四角で囲った文字が出力、そうでないものは入力です。
セルフパッチングでも楽しめますが他モジュールとの組み合わせで如何様にも化けてくれますよ。
DFAMでは無かったMIDI IN端子もあります。
これでモジュラーだけでなく普通のグルーブボックスなどとの連携も容易ですし、
将来的にファームウェアのアップデートも期待が出来ます。
普通のモジュラーと違ってジャックが片側に集中している為パっと見じゃわかりにくいので、
図にしてみました。
TRIGGER入出力はまだ使ってないのでわかりませんw

○音質的な第一印象

とにかく綺麗なアナログの音がします。
ポリシンセのように派手さはないけど、モノシンセのような荒々しさも無く、
M32やDFAMとは全然違う音ですね。
4つのEGツマミをいじるだけで表情がガラっと変わるのも面白いです。
アルペジオのような短い音のシーケンスから長いパッドまでシームレスに変化させていくと昇天必至。
シーケンスの割り当てを抜き挿しして音程変化を楽しんでみたり、
RHYTHMツマミで予測不能なポリリズムを作ってみたり、
演奏している本人が心地よくなってしまうマジックが備わっています。
ただ単体で聴いてもあまり面白くはないので、
購入予定の方はとりあえずリバーブも一緒に買いましょう!
TCの5000円の安リバーブでも十分。
トレモロやテープエコーも良いですよ。

○つかいみち

「上昇音が全て下降音に変わるまで自ら分割し続ける倍音の万華鏡」と謳われるように、
4ステップx2のシーケンサーをアルペジエーター的に使った上モノや、
テンポを割ったパッドもの、シーケンサーを通さないでドローンとして使うなど、
かなり限定的だけどツボにハマると辞められない癖の強さがあります。
アンビエント系にはばっちりハマりそう。
あと海外発の動画を観ていると80年代のテイストを感じるフレーズが多いように思えます。

○他機材との連携

・エフェクター噛ませて極上アンビエンツマッシーン!


アタック強めのアルペジオのようなフレーズからディケイを伸ばしてパッド/ドローンに至るまで
スムーズに変化させられるのでエフェクト選びは楽しい模索が出来そう。
使った事はないけれど、ディレイ/ルーパー/リバーブが備わったペダルの
CHASEBLISS MOODなんか最適かもしれません。

あと長い音に限定すればトレモロ+リバーブのSTRYMON FLINTも気持ち良いと思います。
(使った経験はないけどpicoDSPのプリセットに近いものがあって、それが似合うんですわ)
短い音ならやはりディレイ。それもテープエコー系のフィルターがかかる物がよく似合います。

DFAMでよく使ったCAROLINE METEOREもおすすめ。
LoFiリバーブ限定だけど5万円以上するハイエンド機よりも良い味だしてくれます。

・ユーロラック化

立場的にはセミモジュラーシンセではありますが、
むしろ「ユーロラックモジュールの一つ」と捉えた方が可能性が拡がります。
このあたり単体で使ってるケースが多いM32やDFAMよりも
ずっとユーロラック連携が強そうな気もします。
ユーロラックに組み込んで機能拡張してやるのがベストだと思います。

○実際使ってみた

まずシーケンサーで混乱します!
まだ英語のマニュアルしか無いので真面目に読む気も起きず適当に遊んでいたんだけど、
どこがどう繋がって何故こんな音が出るのかサッパリわからない!
それでいてキチンとした音楽的なフレーズが成り立っているのが不思議で仕方ないんですよ。

3つのオシレーターのうちメインのボリュームをゼロに、
サブオシレーターにシーケンスを割り当てればモリモリ低音が出てくれます。
レゾナンス閉じてカットオフ低めにすればイイ感じのドローンサウンドが出てくれますよ。
気を良くしたので買ったお店に持っていって再度試奏。
他モジュールとの連携を色々と試させて貰います。
軽く触って気になったポイントは2つ。

「もうちょっとクオンタイズに幅があるといいな」
「オシレーターひとつ外に出したい」

2つあるオシレーターに対してフィルター~アンプは一つですから、
片方を別のフィルターに振り分けてやればパラフォニックからポリフォニックになるって事ですよね?
ざっくり言えば長い音と短い音とで分けてみたかったのですよ。
そしてお店でクオンタイザー&ローパスゲートを使わせて貰って試奏したところ、
耳と頭との歯車がカチっと噛み合う感触を掴みました。
すぐには入手できないけど、サブハモの方向性が見えてきました。

※注意点

サブハモ/DFAM/M32のシーケンス入出力は「-5V~+5V」。
それに対して一般的なモジュラーシンセの方は「0~+10V」。
なんでそのまま繋げても上手く演奏してくれません。

解決策は二つありまして、
「マイナス電圧にも対応するクオンタイザーを使う」
「erica synthsのpico MSCALEを使う」
となります。
前者で確認が出来ているモジュールはインテリジェルのScales。
これはマイナス電圧にも対応する希少なクオンタイザーです。

後者のMSCALEはMother32系列用として売られている
【5V足して出力し5V引いて入力する】為のモジュールです。
M32やDFAMと違いサブハモはシーケンス信号の入出力が二つありますので、
Picoの場合は二つ必要になります。インテリジェルの方は入出力が二つあります。

○早速バラしてユーロラック化

元々そうするつもりで購入していますんで躊躇なくバラしてしまいます。
抜け殻はいらないので売っぱらっちまいましょう。

ついでに格好はいいけど視認性の悪いツマミを全部交換しました!
見た目がキモいけど使いやすくて良いですよ。

色んなモジュール試させてもらって好感触だったのが上の二つ。
XAOCのBELGRADとMakeNoiseのOptomixです。

XAOC DEVICEはポーランド(だっけ?)のモジュラーブランド。
品質が良くてカッコいい上に「めちゃくちゃ分かりやすいUIデザイン」のがお気に入りです。
フィルター選びに迷ったら買いたいモジュールです。

Optomixは2系統のローパスゲート。
ローパスゲートを通すとボンゴのようなパーカッシブで楽しい音になるんですよ。
オシレーター1と2の3つずつの出力を一旦ミキサーでまとめて、
Optomixに入力、別途用意したADSRなどのEGを当ててやりエフェクト通してミキサーへ。
更にはサブハモ本体のVCA出力を別のエフェクター通してミキサーに挿してやると、
するとローパスゲート経由の音とサブハモ本体の音を最後のミキサーでミキシングできるようになるはずです。
手数が倍増して更に多彩な表現ができると思うんですよねー。


○こんな人におすすめ

かなり癖の強いシンセな上に10万円とそれなりのお値段するので万人に薦められるものじゃないです。
今なら中古のM32とDFAM合わせて10万で買えますし、
ベリのMODEL Dやら何やらコレより多目的に使えるセミモジュラーシンセは沢山あります。
しかしこの唯一無二のクオンタイズ付きシーケンサーと6発オシレーターの組み合わせは
名門ブランドの名に恥じない独創性と新しい音楽体験をユーザーに提供してくれます。

・ドレミわかんないけど綺麗な音だしたい人
・ドローン~アンビエント入門機
・モジュラーシステムの核にしたい人
・LYRA8の音は好きだけど使い勝手が合わなかった人

○まとめ

初見から理屈で理解しようとすると混乱しちゃいますが、
開き直って何も考えずに遊ぶとスゲ〜気持ち良いんですよ。
お店で見かけたり持っている人が居たらぜひぜひ体験してみてください。

 

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