モジュラーシンセvsグルーブボックス

現在電子楽器をライブ用途で使う人達の間では
グルーブボックス派とモジュラーシンセ派との二大勢力が増えています。
以前は「DAW⇢グルボ⇢モジュラー」の順番にのめり込むプロセスが一般的ではありましたが、
現在は最初からモジュラーシンセで入る人も少なくはないらしく、
電子音楽を始める上での選択肢としてフラットになりつつあると感じています。
賛否あるかと思いますがカテゴリで優劣が決まってしまう風潮こそが大きな勘違いだと思うので、
そのプロセスを壊してしまおう、というのが自分の狙いです。

○お金の問題、そんなに大差ない

何はともあれ一番大きな問題でしょうが予算の大小は置いといて費用対効果で考えると、
浅く広く何でも器用にこなすのがグルボ、深く狭く単機能を突き詰められるのがモジュラーです。

やたらと金のかかるイメージがつきまとうモジュラーですが、
ELEKTRON一台分の予算があれば60HP前後のスモールシステムは組む事が出来ます。
当ブログで推奨したセミモジュラーシステムから始めるのであれば失敗も少なく済むでしょう。
「トランクケースに詰め込んだ200~300HP以上の大型システム」みたいな
イメージが先行しているせいもあってモジュラーは金持ちの道楽という印象がありますけど、
自分のやりたい音や必要な機能を絞り込めば必ずしもそんな大型システムが必要な訳じゃありません。

そしてグルーブボックスでのライブ、これ一台で済ませるケースは稀で、
大抵の場合は2台以上、それにギターエフェクターやPAミキサーを合わせて利用します。
前世代の中古品を上手く集めて安く済ませる事も出来ますが、
経験が浅いうちは安物買いの銭失いとなるオチが多いですよ。
またUIに関しても旧機種は親切でない物が多いので習熟に苦労します。
(だからこそ安機材や古機材を使いこなしている人や少ない機材で臨む人が尊敬されるんですがね)

初期費用が明確だったり安く済ませる方法が容易なのはグルボ側ではありますが、
3年後5年後にどれぐらい費やしたか、となると大差ないんじゃないかいな?とも思います。

○買うまでが難しいモジュラー、買ってから難しいグルボ

モジュラーシンセは特有の知識やルールが必要になるんで、
音楽的知識というよりシンセサイザーに関わる電気/機械的な勉強をしなければ注文すら出来ません。
更にはYouTubeのサンプル動画を観ても単体の機能の紹介だけじゃ
自分のシステムにどういう影響を及ぼすのか想像つかないケースがほとんどではないでしょうか。
こればかりはネットで調べるだけでは絶対に無理で、
どうしても経験者に頼りながらプランを立てていく必要があります。
しかし一度システムを理解してしまえば後は余計な作業にアタマを使う必要がなくなります。
演奏そのものは身体で覚えていけるのが電子楽器のより楽器らしいポイントですね。

対してグルボ。
メーカーや販売店の売り文句にある「これ一台で音楽制作の全てが出来ます」ですが、
まず嘘っぱちだと思って下さい。信じてはいけません。
一台で制作やライブをこなせている人達は相当の熟練者なんですよ。
だからそ凡人の方々は「なんでもできるはなんにもできない」と肝に命じましょう。
散々無駄金溶かしてきたオレ様の名言です。紙に書いてトイレに貼っておきましょう。

本当なら一台の機種をマスターするのに数年間は必要なんだけど、
大抵の場合マスターする前に他の魅力的な新機種に心を奪われてしまいます。
んで新しいのに替えてしまってフリダシから仕込み作業と格闘する日々が始まるのです。

そうは言っても何とかかんとか一台or単一シリーズをマスターしてしまえば後はこっちのもの。
グルボ一つでモジュラー換算200-300HP分くらいの機能を網羅しているんですから、
この粋にこぎつければコスパはこちらの方がずっと良いですよね。

○ロジカルかフィジカルか。インプロヴァイスかコンストラクションか。

グルボとモジュラー、ワークフローやそれぞれに向いた演奏の仕方について考えてみましょう。

・グルボのメリット
楽曲としてのクオリティを高く保ちたい人はやはり仕込み作業が中心のグルボ向き。
トラックメイクとマシンライブを同時展開したい人も効率が良いです。
現在のグルボはオーディオインターフェイス機能が付いていたり、
DAWとファイルを共有できたりとPCとの連携がスムーズになっています。
自宅で作った曲をそのままライブとして流す事だって可能ですよね。
DAWほどではないにせよ納得がいくまでトコトン磨き上げる事だって出来ます。
これはグルボでのプレイが楽器の演奏というよりは
「絵描きさんが行うライブペインティングに近い行為」だからこそ。

・モジュラーのメリット
再現度よりも演奏性や偶然生まれるインスピレーションを作品やテクニックとしたい方はモジュラー。
グルボにありがちな「階層」「ページ」「シフトキーでの副次的操作」がほぼ無いのがモジュラーの利点です。
実はこの階層、純粋な生楽器に比べると脳味噌のリソースを余計な作業に使わなくてはならないのです。
ここから開放されるリソースを別の所へ費やせるようになるのも侮れないメリットです。

このように電子楽器を楽器と電子機器の中間として捉えると、
電子機器に近いのがグルボ、楽器に近いのがモジュラー、とも言えます。
DJやDTM出身者がグルボから、生楽器出身者はいきなりモジュラーから入るというのも頷けます。

もちろん例外の機種は双方にあります。
インプロ向きなmonotribeやガッチリ仕込みの出来るエロケンサーなど、
数は多くないけど弱点を補う意図でこういう例外機種を取り入れる事も視野に入れられます。

このように、
自分のスタイルがどちらに向いているか、で判断する方法もあります。
しかし境目は曖昧なもので、どちらかにステータス全振りって人は少ないでしょう。
「何も考えずに手の向くままに鳴らしたい」時もあれば、
「腰を据えてジックリと作り込みたい」時もある筈です。

○音質の追求

電子楽器において音の良し悪しを二元論で決めつけるのはナンセンスですが、
「ハイファイで分離が良く、特に低音が綺麗に出る」のが高音質の物差しだとすると、
グルボは世代と値段に比例し、モジュラーは悪いのから良いのまで両極端です。

ちなみにモジュラーシンセのノイズの影響ですが、
パッチケーブルを走っている電気は5Vとラインレベルやギターレベルより遥かに高いので、
最終段のアウトプットさえ気をつけていれば細かくきにする必要はないそうです。
ただし内部で基盤同士が干渉してノイズ発生源になる事もあるので組み立ての際は注意しましょう。

○運搬性やセッティングなど

最も優れているのは大きなケースに入れたモジュラーですよね。
電源も一つで済むしあらかじめパッチングしておけばセッティングもすぐに終わります。
前記事で紹介しているセミモジュラーの複数台運用はパッチングも電源も煩雑なので現場での準備は地獄です。
グルボに関してはご想像の通り。機材の数と苦労の度合いが比例します。

○グルボとモジュラー、どちらがモテるか

当ブログのお約束です。
ケーブルまみれで爆弾魔みたいに怪しい風貌のモジュラーシンセはさぞ嫌われるだろうと思えるででしょうが、
意外や意外、生楽器出身者が多いからなのかモジュラーシンセのイベントの方が女性の率が高いのです。
単純に鑑賞する視点で考えるとライブ感の強いモジュラーの方が有利なのかもしれません。
DJでの経験から踏まえると、みんな最初はコスパの良いCDJから入門して、
男性はPCDJに、女性はアナログレコードに移行する傾向があります。
これもロジカルvsフィジカルの違いでしょう。

ライブでは「どんな音楽が出ているか」と同じくらい重要なのが「どういう動きをしているか」。
この差を侮ってはいけません。できるだけ背筋を伸ばしてフロアにも目を向けるようにしましょう。

ちなみに一番残念なのはDAWでのライブ。
演者はディスプレイに釘付けだし、客から見るとPCDJと何が違うのか見当つきません。
音楽の完成度が高い事が逆に災いして、観ても聴いてもDJと変わりないように見えます。

○まとめ

そんなこんなでモジュラー派とグルボ派の実際の運用している姿を比較してみました。
出来ることならツマラン偏見を持たずに他者を受け入れたり、
出来ることなら両方の利点を上手く取り入れて楽しみましょう。

現在は津田沼メディテラネオで開催している「マシンライブ・ワークショップ」に加え、
高円寺マッチングモヲルにて「パッチングモヲル」といったモジュラー寄りの交流会を行ってます。
ですが津田沼はグルボ、高円寺はモジュラ、と明確に分けるつもりはなく、
双方の交流こそが一番の目的です。
興味がお有りでしたら是非とも遊びにいらして下さい。

イベント情報はブログ右上のFaceBookページに掲載しています。

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