いち選択肢としてのモジュラーシンセ

ユーロラックモジュラーが発足して以来、何度目かのブームが日本でも始まっています。
日本ではやはりTwitter上で情報交換をしながら調べていくのが一番手っ取り早いようですね。
ハードシンセの中の一分野としても、電子楽器機材としてDAW、ハードシンセに続く
第3の選択肢としても勢いを増しているのがモジュラーシンセです。

とはいえまだまだネガティブなイメージがあったり逆に過剰に盲信している狂信者の声がデカかったりと
正しく評価されづらい一面もあるのが実情ですね。面倒臭ぇ奴いっぱい居るしなw

当ブログではモジュラーもグルボもDAWも出来るだけフラットに取り扱っていきたいと思い、
その特殊さを解明しつつフタ開けてみりゃ大して特別なモンではないのよ〜、と提案していきたいと思います。

○モジュラーシンセにまつわる困った誤解

・モジュラーシンセは小難しい電子音楽の為の楽器?

モジュラーは機材のジャンルであって音楽のジャンルではありません。
あくまでもシンセサイザー中心の電子楽器でしかありません。
モジュラーやアナログシンセに手を出すと誰もが一度はハマる、
アンビエント/ドローン/ノイズ系のイメージが非常に強いのもこの誤解を増長させている要因ですね。
素人には取っ付きづらいこれらの音楽のイメージと重なっているようにも思えます。

「モジュラーシンセなら辿り着きやすい手法」は沢山ありますが、
「モジュラーシンセにしか出来ない音楽」というのは無い筈です。
自分が今組んでいるシステムはドラムマシンですし、
柔軟なクロックを自由に扱えるモジュラーはグルボと違ったアプローチでミニマルなドラムを楽しめます。
もちろんアンビエント/ドローン/ノイズ系の音楽に向いているのは言うまでもありませんが、
シンセで出来る音楽なら何を目指したっていいじゃないですか。

・モジュラーシンセは電子音楽に精通したベテランのみが扱えるもの?

自分がモジュラーシンセに興味を持ち出した最初期の頃はそういう風潮がありましたが、
今では情報交換も交流も容易になっています。そして自分自身も驚いているのが
シューゲイザーなどのロック系からもいきなりモジュラーに手を出す人が全然少なくない事。
この辺りの人達はエフェクターに深い造詣と理解があるので割とスンナリ受け入れられるようです。
はたまた音楽経験が無いにも関わらず突然モジュラーから入るツワモノも居ますよ。
下手な思い込みが無い分スンナリ受け入れられるのかもしれませんね。
このブログ最初期のモジュラー記事ではけっこう叩かれましたがそんなクソ老害は蹴り飛ばして結構です。

演奏自体は非常にアナログライクなので女性にも受け入れ易いですよ。
以前「モジュラーの方が女の人にモテるかもよ?」なんて与太を飛ばしましたが、
ルールに縛られない直感操作がキモの楽器ですからあながちデタラメではない筈です。

・モジュラーシンセは金持ちの道楽?

初期の頃はエリート意識の強いクソ野郎を生み出しやすい土壌だったのかもしれませんが、
良識あるユーザーや業界の努力によって払拭されてきています。
アタシのような貧民街育ちのチンピラ半チク野郎がモジュラーシンセをやっても良いのですよ。
周りを見てるとポンポン新しいモジュールを買う人や
どうやって運ぶのか想像つかない程に大きなシステムを組んでライブに臨んでる人もいたりと、
そりゃまぁ羨ましいとは思いますが変に妬まずに自分のペースでノンビリやっていきましょう。
稀にマウンティングの道具としてしか考えていないような輩も居るにはいますが、
噛み付くだけ時間の無駄ですよ〜。嫉妬は禁物です。

またこれはモジュラーに限った話ではありませんが、
ライブや楽曲制作といった他者に向けて発信する音楽とは別に、
ただひたすら自分の為の内に内にこもる為の音楽というものもあるんですよね。
上記のアンビエントやドローンなどはその傾向が強く、
「あくまでも自分の為、他者に聴かせるのは二の次」といった、
哲学をもってシンセサイザーを楽しんでいる方も少なくありませんし、
自分自信もそういうスタンスで臨んでいる人達に共感を持てるようにもなりました。

○モジュラーシンセあるある

・自分の音楽機材全てをモジュラーに収めたい

ある程度慣れてくるとミキサーからエフェクターから片っ端からユーロラックで揃えたくなる願望が激しくなります。
僕らの身内にも病的な大艦巨砲主義者(たぶん巨乳好き)が居るんですけど、
126HPの4段といった超大型ケースを買ってモジュールで埋め尽くした挙げ句、
「重くて持てない」という情けない理由で挫折しかかっている阿呆がいますwww
気持ちはよく分かりますが財布や体力と相談しながら無理の無い計画をしていって下さい。

・迷言「ケースの隙間は心の隙間」

モジュールを詰めていって余ったスペースにブランクパネルと呼ばれる目隠し板を使う事がありますが、
何故かブランクパネルは邪道!とピッタリとモジュールが収まるように計算したくなる衝動に駆られます。
確かにキッチリ収まるプランを考えた時は独特の気持ち良さがあるんですけど、
本来の目的を放ったらかしにしてパズルベームに興じる残念な完璧主義者もいますw

・ModulerGridをしているだけで崇高な音楽活動をしている気分になる

市場で流通しているモジュールを網羅したバーチャルラック構築サイトModulerGrid。
ほぼ全てのユーザーが機材の検討の際に必ず参考にするサイトではありますが、音は出ませんw
そこで「ぼくのかんがえたさいきょうのシステム」を構築して
脳内で音を鳴らすだけで満足してしまう事が多々あります。
いやまぁ、お金かからないからある意味幸せ者なんでしょうけどね。。

・ライブ中に意味の無いツマミを回して「なにか操作してる風」を演出する

CVシーケンスを突き詰めると自分の手で音を変化させなくても勝手に展開をつけてくれます。
するとライブ中なんかでは実は案外ヒマなのか、
かと言って何かやってるフリでもしてないといけないような義務感に駆られているのか、
無駄にツマミまわしたりケーブルを抜き差ししてる人がたまにいますw
きっとイイ人なんだろうな、とは思いますけど意外とバレているので気をつけましょう。

○そもそもモジュラーシンセとは

オシレーターやフィルターなどシンセサイザーを構成する各セクションを独立した「モジュール」として扱い、
自分で組み立てるセミオーダーのシンセサイザーを中心とした電子楽器システムです。
最もシェアのある規格がDoepferの提唱した「ユーロラック」。
現在ではモジュラー=ユーロラックという認識が一般的です。
シンセサイザーを「中心とした」と言うのには訳があって、
サンプラー、エフェクターやミキサーなどの副次的な機材、
はたまた映像を作るビデオシンセなどもリリースされているからです。
シンセサイザーに限らずにエフェクトだけのラック、シーケンサーだけのラックを作るのも可能です。
個人的にはユーロラックのDJシステムなんて出てきたら嬉しいなぁと思いますがね。

各モジュールの連携はCV/GATEといった、
ひと世代前のアナログ信号でやり取りをするので作る側も使う側も理解し易いのが特徴。
MIDIと違って単純な電気信号なので個人でも応用や工夫をする余地が沢山あります。

ワシャワシャーっとしたパッチケーブルとツマミの羅列が男の子の琴線をビンビン刺激してしまうので
電子音楽やシンセに触れた事が無くても興味津々な方も沢山いらっしゃると思います。

○他の電子楽器とはどう違うか

現在こういった音楽を志す人はDAW又はグルーブボックスから始める人が多いかと思いますが、
どちらもルーツを辿ると「打ち込み」というキーワードが出てきます。
これは元々「楽器の出来ない人でも音楽を作れるように」考えられたもので、
メロディやリズムをプログラミングできるようにしたもの、と言い換えても良いでしょう。
リアルタイムでなくても良いので何度でもやり直しが出来るのも大きなアドバンテージですよね。
そして90年代〜2000年代あたりのクラブミュージック隆盛を境に、
ハードウエアシーケンサーをベースにリアルタイムで操作も可能な「グルーブボックス」が生まれました。

これらグルボのUIは如何に直感的な操作が出来るかが開発のキモで
現在に至るまで様々な手法で開発されてきましたが大元の土台はやはり打ち込み式のシーケンサーです。
「打ち込み機材」は楽器の出来ない人でも扱う事は可能ですが、
突き詰めれば突き詰めるほど非常に綿密な作業を要求される事が多く、
性格的に合わなくて挫折してしまう人も少なくありません。

DAWでは画面を見ながらマウスとキーボードを扱う作業が「音楽的ではない」と感じてしまったり、
グルボは小さなディスプレイに隠された「階層」に直感的ではない音楽とは別の能力を要求されます。
複雑なファイル構造、複数のボタンの同時押し、深い設定などなど、
グルーブボックスの扱いに長けた人はたいてい理系的思考に非常に強い人だったりしますね。

・モジュラーシンセの操作性(vsライブ用途でのグルーブボックス)

これに対して現在のユーロラックモジュラーシンセがどういう意図で求められているかと言うと、
打ち込み作業に嫌気がさしてしまった人達が、より楽器に近い電子楽器としてモジュラーを選んでいます。
自分自身もそのクチでして「ELEKTRONの階層が無くて全部の操作子が表に出ていれば楽なんじゃね?」
なんて夢想からモジュラーシンセでのシステムを考えるようになっています。

・モジュラーシンセの創造性(vs制作用途でのソフトシンセ)

シンセを使う人であれば誰でも「自分専用のスペシャルメイドシンセ」を欲しいと思う事があると思います。
DAWを扱う人なら大抵の人が聞くNativeInstrumentsのREAKTORとCycling’74のMAX。
自分は全く扱えませんでしたが、マシンスペック次第で如何様にも構築が出来る夢のバーチャルシンセサイザーです。
これをバーチャルでないリアルなハードウエアでやってしまおう!という
強引な願望の持ち主がユーロラックにドハマりしたりしてます。
そりゃまぁ物理的限界の無いREAKTORやMAXの方が広い可能性を持ってるとは思いますが、
創造力を掻き立てるのはフィジカルなハードシンセに軍配が上がるでしょうね。

○金銭的/時間的コスト

前記事「グルーブボックスvsモジュラーシンセ」でも書きましたが、
買うのは簡単、覚えるのが難しいグルボ/DAWに比べて、
モジュラーシンセは買うまでが難しく、操作を覚えるのは簡単なんですよ。
なのでどうしても初学者にはハードルが高いイメージがつきまといますが、
音楽活動を5年10年と長い目で観ると「先にコストを払うか後でコストを払うか」の違いでしかありません。
DAW?自分にとっては一番カネのかかる選択だと思いますよ。

○インスピレーションを喚起させるアイデアプロセッサ

目的意識をシッカリ持っていないと電源を入れる事すら億劫になりかねないDAW/グルボに対して、
モジュラーは「ツマミひねれば音が変わる」「パッチを挿せば音が変わる」と
直感で音遊びが可能なUIを持っています。知識は後付けでも大丈夫なのです。
あまりに自由過ぎて発想が追いつかないか軍資金が焦げ付くかってオチになりますけどねw

○モジュラーに向いてる人、向いてない人

・カネか時間かのコストを初期段階で惜しみなく払える人

金をかけなくても出来るようになるとは言いましたが、そのぶん時間と知恵は要求されます。
しかも買いさえすれば始められる他の機材と違って初期段階の情報収集はかなり重要です。
最初のシステムを組み上げるまでが精神的に負担が強いかもしれません。
もっとも、これは曲作りにも同じ事が言えそうですよね。最初の一曲目を作るのがキツいもんね。

今回で三度目の挑戦となる自分の場合ですと、
カネが無いから安く仕上げたい事もあって自作キット中心のシステムを組んでいますが、
半年かかっても完成する目処が立ちませんw気長にやりましょう!

・DIYに抵抗の無い人

電子工作をする人ならこれほど相性の良い機材ジャンルはありません。
完成品に比べてビックリするくらい低い資金で深い楽しみ方が出来ます。

まぁ自作までいかなくても電気のごく基礎的な知識(小学校の理科レベル)は必要ですし、
ツマミを回すよりネジを回す事の方が多いかもしれません。
そういう作業を苦痛に感じてしまう人は辞めといた方が無難ですわ。

・機械的トラブルを楽しめる人

流通しているモジュールは一般的な工業製品とは違って、
ほとんど全て「手作り品」だと思って下さい。日本の家電製品とは訳が違います。
初期不良の割合も高いし、壊れる事もザラです。サポート?保証?あればラッキーって位。
モジュール間の相性問題もあるかもしれませんし、意図した通りに動くとは限りません。

そういった諸々の問題を楽しんで解決に臨める人か、
「まぁいっかwww」で済ませられる神経の太い人でないと無理です。
神経質な人や日本人にありがちなお客様姿勢でしか物を買えない人はご退場下さい。

・工夫を楽しめる人

基本的にどんなモジュールでも、間違ったパッチングをしても壊れる事はありません。音が出ないだけです。
(電源ケーブルだけは絶対に間違えるなよな)
入り口と出口の区別だけ把握していれば、何処に挿しても何かしらの変化があります。
システムが完成したら知識は後回しにして至る所へズブズブと挿して音遊びを楽しんで下さい。

逆にPCMシンセのようにプリセットを選んで曲作りをするような思考は(ほぼ)出来ません。
そもそも作った音色を登録する事が出来ませんからね。写真でも撮っておくしかありません。
DTM旧来の打ち込み手法や思考が得意な方は、かなり苦労するかもしれませんね。

○モジュラーシンセのコミュニティ

ネットで仕入れられる情報だけでなく、ユーザーの活きた情報も不可欠です。
その為にはイベント等に顔を出して先生や先輩を見つけるのが手っ取り早いですよ。
まだまだシェアの小さい分野ですからショップの店員さんも商売度外視で丁寧に教えてくれます。

東京圏内でいくつか紹介しますと、

まず自分が開催しているパーティ「パッチングモヲル@高円寺マッチングモヲル」。
高円寺のギャラリーカフェで開催しているユルめのワークショップでして、
スケジュールは少々変わるけどだいたい日曜の午後に集まってダベっています。
(ブログ右上のFaceBookページを参照して下さい。だいたい第3日曜です)
僕らは素人なんで大して役には立ちませんが、
カフェオーナーがモジュラーどころかシンセサイザー黎明期から活動する音楽家でもあります。
当然キャリアの長い常連さんもいるので頼りになります。
もちろん第1日曜津田沼のマシンライブ・ワークショップでも大歓迎ですよ。

また第3土曜には三軒茶屋オービットでライブイベントを兼ねたワークショップが開催されています。
運営の方と直接の面識が無いので簡単な紹介に留めておきますが、
こちらはガチ勢だらけなのでモジュラー教わるにはもってこいのイベントです。

それから神田小川町にある宮地楽器。
自分自身たいしてカネ落とさない癖に毎週のように通い詰めています。
ほんのチョットだけ申し訳ないとは思ってるので宣伝しときます。
かなり頼りになります。

○まとめ

モジュラーシンセに興味を持つに至るまでのプロセスが決まりきったものではなくなりつつありますし、
限られた人の為の崇高な機材というイメージも崩れつつあります。
若い世代が「Abletonにしようか、ELEKTRONにしようか、モジュラーにしようか迷っちゃう」
なんて幸せな迷い方が出来るようになると嬉しいですよね。

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