モジュラーシンセ x グルーブボックス

ここ最近は導入のハードルが幾らか下がってきたユーロラック・システムのプランを提唱していますが、
今回はグルーブボックスなど既存の機材との組み合わせで活用する方法を考えていきたいと思います。

ある程度の下調べが出来てくると、どうしても「アレも欲しいコレも欲しい」と
思いつく限りの機能をモジュラーの箱ひとつに収めたくなる衝動に駆られます。
現場でのセッティングの容易さがモジュラーの大きなメリットの1つですから仕方ないんですけどね。
ただ実際に揃えようとなると金銭的時間的、何より経験値的に膨大な労力が必要です。

そこでオススメしたいのが、セッティング云々は目をつぶってですね、
「とりあえずグルボなりペダルなりの既存機材と組み合わせながら徐々にユーロラック化していく」プラン。
一気にシステムを完成させるのではなく寄り道しながらゆっくりじっくり楽しんでいこうよ、って考え方です。
モジュラーと相性が良かったり、モジュラーよりコスパに優れた物を紹介していきます。

○同期

初めに抑えておきたいのが同期関連の機材。
一般的にはMIDIクロックで同期する機材がほとんどですが、
ユーロラックではアナログのクロック信号が普通です。
原理としてはブッブッ・・といったアナログのパルス波です。
KORGのSYNC信号もTR-808などのDIN SYNC信号も同じで一拍あたりのクロック数が違うだけなので、
モジュラー側のクロックディバイダーなどで調整してやれば同期が可能です。

・MIDI⇢クロックの変換に注意

当然MIDIからクロックに変換するモジュールも沢山リリースされていますが、
信頼度は少々不安になる物も少なくありません。
実際に自分が体験した不具合を挙げますと「スタートで一拍遅れてしまう」「認識しない」
「再生中止まってしまう」といったライブ本番でなら致命的な事故があります。
機材間の相性問題なども絡んでくるので詳しい要因は分かりませんが、
安物のMIDI to Clockモジュールにこういう事例が多いです。

○おすすめMIDI to Clock

・HEX INVERTER Mutant Brain


http://www.hexinverter.net/mutant-brain

今でも所有しています。多機能MIDI to CVの中では比較的安い169ドルで販売されてます。
4つのCVと12のゲート信号を好きなように設定出来るのでゲート信号をクロックとして使う事が出来ます。

・Noise Engineering Univer Inter


https://www.modulargrid.net/e/noise-engineering-univer-inter
これはまだ未発売のモデルですが、MutantBrainよりも更に設定の幅を拡げたモデルに思えます。
こちらもWEBアプリを使って自由に信号を設定出来るようです。
MIDIジャックがTRSなのが好みの分かれる所でしょうが、
IN/OUT両方ある上にUSB MIDIまでついています。DAWとの連携もスムーズでしょうね。

・KORG volcaシリーズ

下手なモジュールよりもずっと安全で信頼できるのがvolcaシリーズをMIDI to Clockとして使う方法。
電池駆動だから余計なACアダプタも要らないし中古で安く入手出来るのもメリットです。

○クロック信号を出力できるグルーブボックス

・ELEKTRON analogシリーズ


RYTMはドラムシンセをパルスクロックとして使う事が可能で、
A4に至ってはCVトラックが二つあるので自由に設定できます。

・KORG electribe2シリーズ

先代EMXの陰に隠れて地味な存在のe2ですが、
いよいよ店頭中古相場が2万円を切った(!)ので超お買い得機材となりつつあります。
グルボの中では比較的コンパクトな上に元々SYNC OUT(クロック)が出力できます。

○DIN SYNCを出力できるグルボ

TR-808などでお馴染みのチト古い規格「DIN SYNC」はMIDIとは違いアナログ信号なんですよ。
KORGのSYNCより遥かに速い(細かい)テンポで信号を送りますが、
クロックディバイダーで分割してやれば同期が可能です。
何故わざわざこれを薦めるかと言うと、MIDIから変換するより安全だから、なんです。
理屈は分かりませんが同じアナログ信号だからなのかなぁ?

この図で言う3番がクロック信号なので、MIDIケーブルを加工して取り出してやります。
工夫次第では1と4のスタート関連の信号も利用する事が出来ますよ。
自分は作ってしまいましたが、どこかに変換ケーブルが販売されているようです。

・ELEKTRON analogシリーズ/Digiシリーズ
これらはMIDI OUTとTHRUが備わっていますが、設定でDIN SYNCに変更できます。
例えばMIDI OUTはそのまま、THRUをDIN SYNC化すると、
ELEKTRON一台からMIDI機器とモジュラーと両方同時に制御出来たりしますよ。

○MIDI OUTの出来るモジュール

今までとは逆にモジュラー側をマスターとするアイデアもあります。
これは聞いた話でしかないんだけど、
どうやらモジュラーの「マスタークロック」モジュールはスレーブになると精度が落ちる、
なんて話をチラホラ聞くのでいっその事モジュラーをマスターにしちゃった方が安全かもしれないです。

・Pamela’s NEW Workout

モジュラーのマスタークロックとして定番のパメラ。自分も利用しています。
オプションとしてMIDIアウト出来るエキスパンダーが販売されています。

・WinterModuler ELOQUENCER

http://winter-modular.com/products/
高機能シーケンサーのエロケンサーもMIDIの入出力用エキスパンダーが用意されています。

他にも多機能を謳うモジュールにはMIDI対応の物があるようです。
探してみて下さい。

○エフェクト

ユーロラックにもエフェクトモジュールは多数出ていますが、
コスパやクオリティの面でいうと既存のギターエフェクターを流用した方が良いかもしれません。
勝手な偏見だけどモジュラーの3万円クラスとペダルの1万円クラスの音質がどっこいどっこい。
特に空間系ではノイズの問題もあるのでペダルにしたほうが安全かもしれないですよ。
まぁ超定番のMutableのClouds使ってる人からノイズの話は聞いた事ないから心配し過ぎかもしんないけどね。
自分は某メーカーの4万円弱のリバーブモジュールが音が汚すぎてブン投げた事あります。
4万円ありゃスゲェいいリバーブペダル買えるじゃんよ!

ここで出てくる問題は音量のレベルが大きく違う事。
モジュラーレベル>ラインレベル>ギターレベルの順に桁違いなので、
そのまま繋ぐと歪んで使い物になりません。
そこで「モジュラーの音声信号をギターレベルまで落とし、帰ってきた信号を再度モジュラーレベルに上げる」
そんなモジュールを幾つか紹介します。

・Strymon AA-1

https://www.modulargrid.net/e/strymon-aa-1
ペダルメーカーのストライモンからリリースされている変換モジュール。
単純に変換するだけなので値段も手頃ですね。

・Malekko Heavy Industry SND/RTN

https://www.modulargrid.net/e/malekko-heavy-industry-snd-rtn
こちらはセンドとリターンの量をツマミで調整できます。

○ミキシング

最終的なアウトプットをどこに設定するかでルーティングやセッティングが変わってきます。
前述したようにモジュラーレベルとラインレベルとでは音量が大きく違うので、
ゲイン幅に余裕のあるミキサーか、モジュラー側にラインアウトモジュールを入れる必要があります。

考えられる候補は以下の3つ。

1,モジュラーからの出力を外部入力のあるグルボに入れる

メリット:ルーティングがシンプルで安く上がる。音が馴染む
デメリット:グルボの音質面でのクオリティに左右される

またグルボ側でのゲイン調整の幅に限界がある時はラインアウトモジュールが必要になります。
自分の体験でしかないけれど、A4とDigitoneは気にならないクオリティで入力が可能な上に
エフェクトもかけられるので便利です。
OCTATRACKはノイズゲートと広いゲイン幅があるので有利ですね。
RYTMのMk1とMONOMACHINEはモジュラーの音突っ込むにはオススメしない。

2,グルボ等の出力をモジュラーでまとめる

メリット:ルーティングがシンプル。外部の音をモジュラー側で加工もできる。
デメリット:別途インプット用モジュールが必要。ノイズの影響を受ける場合がある。

Intellijel Audio Interface II

https://www.modulargrid.net/e/intellijel-audio-interface-ii

これは使ったことあります。
個人的にはIntellijel製品はモジュラーメーカーの中でもクオリティが高いので、
音質に関わる地味な用途のモジュールにはココを優先して選ぶようにしています。

3,スタンドアロンのPAミキサーでまとめる

メリット:ゲイン調整幅が広いのでモジュラーレベルもそのまま入力可。音質の調整が用意。
デメリット:デカくて重い。ルーティングが煩雑。

YAMAHA MG06X

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/192124/

コンパクトでクオリティも高く値段も手頃なMG06X愛用しています。
何かと融通の効く12Vセンタープラス電源だし、これぐらいなら持ち歩いても苦にならないしね。

Mackie 802VLZ3

センド/リターンが欲しければ一番マシwなサイズの802。
モジュラーユーザーの中では現行のVLZ4を使っている人をよく見ます。
自分は音質の好みの違いで筐体だけ4で中身は先代のVLZ3を使ってます。

余談ですが、
エフェクトセンド/リターンが備わっているミキサーモジュールはべらぼうに高いので躊躇しますね。
いきなり5万円クラスになっちゃうもん。
しかしキット販売なら比較的手頃なミキサー見つけました。

ST MODULER SUM

https://www.modulargrid.net/e/st-modular-sum

部品購入して現在到着待ちなんですけど、
だいたい1万5千円くらいで揃います。
オペアンプはイイ奴いれてみようかな。

○実際のプレイ

モジュラーとグルボの組み合わせによって、
コストの違いだけでなく実際のプレイにも個性が出てくると思います。

即興性偶発性がメリットのモジュラーシンセと、
ガッチリ仕込んだ上で多彩な音作りを練られるグルーブボックス。
ここでも「仕込みか即興か」の違いが大きく出てくるので如何様にもプランを組む事が出来ます。

例えば
「リズム隊とノート隊、どちらかをグルボに任せて一方をモジュラーで行う」
「シーケンスは使い慣れたグルボにして音源としてモジュラーを使う」
「綺麗なメロディラインをグルボで作って、ノイズやドローンをモジュラーで」
などなど、ご自身の得意分野と互いの長所をじっくり考えた上で考えましょう。

単純に考えれば「コダワリの強い所をモジュラーで、そうでない部分はグルボに任せる」でも良いと思います。

○まとめ

モジュラーと既存の機器を組み合わせる際に覚えておきたいルールを紹介しましたが、
「本当は全部モジュラーで揃えたいけど資金に余裕がない」なんて消極的な理由でなくとも、
モジュラーとグルボなどの既存機器と組み合わせるメリットは沢山あると思います。
稀にモジュラーとグルボの対立を煽るような排他的な考えを他者に押し付ける連中もいるにはいますが、
僕らはもっと自由に楽しんでいくべきです。しょせん道具でしかないんですから。

おすすめ