ELEKTRON model:cyclesレビュー

ELEKTRONで最も若い世代の機種であるmodelシリーズ。
sampleは「なんだ廉価版じゃねぇか」という評価が多いのか
実物を目にする機会が少なかったのですが、
今回新しく発売されたFMシンセ搭載モデルcyclesを購入しました。
MD以降のELEKTRONマシンは一通り触ってきているので、
そのあたりや他社製グルーブボックスとの比較を交えてレビューしていきます。
買いたてホヤホヤなので突っ込んだ解説は出来ませんが、
(FMシンセ苦手意識あるんでねw)
購入の検討材料にしてくれれば、と思います。

○経緯なんかをツラツラと

最近の記事の流れであるモジュラーシンセとの組み合わせを実践しようと、
候補をanalogFOURに絞って試していましたが、
CV/GATEトラックを始めスペック的には申し分ないけど如何せん
操作が複雑なのがネックになるだろうな、と考えていました。

その後たまたま見つけた激安のelectribe2を衝動買い。
今回のプランではe2の方がサイズ感も良く
「分かりやすい音」「シンセサイズがシンプル」ではあったんだけど、
コッチはシーケンスが苦手w
特にステップシーケンスが面倒臭過ぎなんですよねぇ。

そんな矢先に発表されたmodel:cycles。
ELEKTRONシーケンスとe2並のシンプルなシンセサイズ、
「自分がA4とe2に求めてたものがここにある!」のと、
モジュラーでは作りづらいFMシンセという事で発売即購入しました!

○初めてグルボを選ぶ人にも

ELEKTRONのmodelシリーズは初めてのグルボにもオススメの機種です。
sampleとcyclesとどう違うの?と言いますと、
sampleはサンプルプレイヤー、cyclesはシンセサイザーとなります。
サンプルとは既に完成されている音声ファイルを、
シンセサイザーは電気信号を調節して音を作っていくタイプの電子楽器で、
sampleは世の中に流通しているどんな音でも取り込む事が出来ます。
それこそ生ドラムの音でも声ネタでも使えますが、音質の変化の幅はあまり広くありません。
cyclesはシンセサイザーなので作れる音に限りはありますが、音質の変化は非常に柔軟です。

○従来機種で挫折しちゃった人にも

ELEKTRONと言えばあまりにも多機能高スペックな故に複雑過ぎるファイル構造が定説。
マシンを使いこなす事が手段ではなく目的になってしまう事もしばしば見受けられます。
その為ちょっとでもモチベーションが下がると電源を入れる事すら億劫になってしまい、
押入れの肥やしとなってしまっている人も少なくありません。
しかしこのcyclesとsampleのmodelシリーズは只の廉価版では終わらずに、
従来機種はもちろん他メーカーのグルボよりも遥かに直感的かつスピーディなトラック制作が可能。
まぁとにかく簡単なんですよ。

○ただの廉価版じゃないのよ「ライブ特化モデル」だとも言えるよ

DAW全盛時代のグルボの設計開発において最も重要なのは機能の取捨選択。
端的に言えば「DAWから何を削るか」にかかっています。
modelシリーズと従来製品を比べると、
特にシンセサイズ関連の機能を統廃合しているように見受けられます。
そっちにこだわりたければ上位機種があるしね。
ツマミ1つに1つの機能しか振らない、シーケンサー周りは全く妥協が無い、
ディスプレイには最低限の情報しか表示させない、
そういったところから、やはりこれはスタジオの外でガンガン使い倒せライブやれ!
という開発者のメッセージを汲み取る事ができますね。

○製品コンセプト

先にリリースされているmodel:sampleが発表された時にはビックリしましたねぇ。
高級グルボ路線で貫いてきたELEKTRONがまさかの廉価版路線。
とはいえ(当初は)6万円前後という事でコスパも良くはなく、
イマイチ反応が悪かった記憶があります。
(でも今回のm:c発売に合わせて大幅に値下げされましたよ)

クルマで例えるならBMWの7や5シリーズがanalog、3シリーズがDigitakt/tone、
今回のmodelシリーズは1シリーズと同じような位置づけに思えます。
あるいは「ホットハッチ」と呼ばれる路線でしょうね。

○デザイン

第一印象は「ちっさ!かるっ!え?え?なにこれ?」
Digitakt/Digitoneに比べてフットプリントは大きいけど、
でも操作感を損なわない絶妙なコンパクトさ。そしてe2並の薄さ。
初めてMacBookAirを手にした時の驚きに近いものがありました。

それまでのELEKTRON製品とはうって変わってポップなデザイン。
model:sampleより若干灰色がかかった色の筐体は決して安っぽいものじゃないです。
点灯するボタン類も赤一色なので他メーカーの同価格帯の機種よりもずっと落ち着いてます。

デザインと言えば同梱されているステッカーをペタペタ貼って遊べるようになってます。
好む人とそうでない人とが居るんでしょうが自分は好きですよステッカーチューン。

○サイズ感

いやもうホント絶妙です。

下にA4の紙を敷いてみたので大きさが想像できると思います。あと超薄い。

100均で買えるA4のクッションバッグにもスッポリ。

○操作感

今までの樹脂製のキーではなくゴム製となり感触もかなり好みの分かれる所でしょう。
トリガーキーはゴム製ながらもクリック感がしっかりあるタイプ。
トラック選択などに使うパッドの方はちょっと硬めかなぁ。
MPCのようなパッドを期待するとガッカリしちゃいます。

ツマミはポットではなくロータリーエンコーダー。
トラックを変えた時のパラメータの変化にも対応してくれます。
ここは手抜きをせずにいてくれて助かります。

ただこのツマミ、滑りにくい素材ではあるものの、
ちょっと小さいのと硬い事もあって必要以上に力んでしまいます。
もう少し大きなツマミに変えた方が良くなりそうです。

○インスタントFMシンセ?

Digitoneと違ってFMシンセサイズの基礎知識なんぞ必要ありません。
小難しい所は全部セットアップ済み。
逆にFMのシンセサイズを学びたい人には役にたちません。
ここをメリットと取るか物足りないと受け取るかで、
Digitoneかmodel:cyclesのどちらを選ぶかの境目でしょう。

音質はもちろんバッチリ。デモ動画の音は大袈裟じゃありません。
クラブでキックを鳴らすとビビって涙出ます。スピーカー割らないように注意しましょうね。
従来のFMシンセにありがちな「ツマミをちょっと回すだけで音が破綻する」ような事故もなく、
安心してグリグリやれます。

※マシンとは?

ELEKTRONのシンセサイズでは機種によって「マシン」という概念があり、
作りたい音に合わせたシンセエンジンのような物と解釈して大丈夫です。

model:cyclesでは6種類のマシンがあり、キック向けだったりスネア向けだったりコード向けなど、
作りたい音の素となります。ホットケーキミックスみたいなもんですね。

勿論これとは別に一般的なシンセの「プリセット」も用意されているので大丈夫。
慣れるまではこのプリセットをベースに各パラメータの効き具合を覚えていくと良いでしょう。

ちなみにこのマシン、6トラックそれぞれに自由に割り当てが可能です。
全部キックでも全部コードでも大丈夫。
トラックごとにやや制限があるRYTMよりもずっと柔軟です。

○従来のELEKTRONマシンとの違い

・嬉しいファイル階層の浅さ

従来ラインと大きく違う点はほとんどのツマミの機能を1つに絞ったところ。
ページ階層もかなり浅くなっているので、
慣れてしまえばディスプレイに頼らなくても手が操作を覚えてくれる事でしょう。

・静粛性に優れたキー操作

従来のバネがしっかりしたプラ製とは違い安価なゴム製のキーではありますが、
打鍵音がしないというのは周りに人が居る静かな環境でも気兼ねなく使えるって事ですよね。
家族が寝静まった夜中でも、バッテリーを使ってカフェや電車の中でも遊んでいられます。

・ファイル操作は少々やりづらい

従来のELEKTRONマシンに必ず備わっていた矢印キーが無い。YES/NOキーもありません。
矢印の代わりに水色のエンコーダー、YESの代わりにそのエンコーダーをプッシュ、
NOの代わりはバックボタンがありますが、やっぱり複雑なファイル操作がチョット苦手です。
特に名前の入力はイラつきますw

・フィルターがない!

ELEKTRONと言えば強力なフィルターでしょ!なんで無いのぉ!?
と騒ぎたくなりますが、ここは本当に潔すぎる割り切り方ですね。
そもそもELEKTRONマシンのフィルターはEQ的な意味合いが強く、
トラック間で音が被る帯域を削ったり、強調したい帯域を持ち上げたりと大活躍なんですけどね。
慣れるしかありません。

・エンベロープはディケイのみ!

ステータスをドラム作りに振っている事もあって、EGはディケイしかありませんwまじかよw
パッドのようなフワァ〜っとした音はLFOの波形選択でENVを選んで作ります。
そうするとLFOもう一個欲しい(泣)と悶える事になりますが諦めましょう。
どうしても揺らしたい場合はモーションシーケンス機能を使って手でグリグリ揺らすしかないっすね!

・音階入力は出来るけど必要最低限

「トーン」マシンや「コード」マシンがあるので当然普通のメロディもイケますよ。
音階入力は16のトリガーキーを鍵盤に見立ててリアルに弾いていく方法か、
パラメーターロック(トリガーを押しながらツマミを回す)の2種類があります。
上位機種にあるようなスケールクオンタイズ機能などは(今のところ)ありません。
しっかりとしたフレーズ作りにこだわりたい人は鍵盤を用意しましょう。

もちろんキックやスネアなどのドラム用マシンでも音階を作る事ができます。
キックマシンで作るベースはゴリっとして格好いいですよ。
(後述する動画の一番下の奴がキックマシンで作ったベースです)

○プリセット管理はPCを使うとラク

ELEKTRONのファイル管理ソフト「Transfer」を使ってプリセットの管理が可能です。
本体では面倒臭い名前の入力もPCでなら楽なので、
ガッツリと音作りをしたい時はPCに繋ぎっぱなしにしておいて、
音が出来たら名前を入力せずに一旦登録して、ソフト上から当該ファイルを右クリック、
Renameを選んで名前入力、という方法が一番ラクですね。

ちなみに上位機種でお馴染みOverBridgeはありません。本体だけで頑張りましょう。

○電源とモバイルバッテリー

付属の純正アダプタは5Vセンタープラス、端子が特殊で現時点では規格を確認できていません。
しかし近日発売予定のバッテリーの為にもう1つのDCジャックが用意されていて、
ここは一般的な5.5mm/2.1mmセンタープラスとなっています。許容電圧は4V〜10V。

ここを利用すれば5Vのモバイルバッテリーで駆動する事も出来ます。
USB-A端子から電源を取れるケーブルは秋葉原の千石電商などで購入できます。

※ご注意
ペダルエフェクターで一般的な9Vアダプタはプラスマイナスの極性が逆なので使えませんよ!

○シーケンサー

他のメーカーのグルボに対するELEKTRONマシンのアドバンテージはやはりシーケンサー。
廉価版とはいえ最新だけあって上位機種よりも優れた機能もありますよ。

・パラメーターロック

ELEKTRONの基本機能でトリガーを押しながら各ツマミを回すと、
そのステップのパラメーターが変わる機能です。
これにより音階や音長、ベロシティといった基本パラメーターはもちろん、
ほぼ全てのシンセサイズをステップごとに変更が出来ます。

・モーションシーケンス

KORGでお馴染みの「ツマミの動きを記録するモード」も可能です。
ELECTRIBEユーザーを始めこちらの方が好みな方も多いですよね。

・トリガーコンディション

ステップごとにトリガーの確率や「○回の○回目だけ鳴らす」とか「FILLキーを押した時だけ鳴らす」とか、
色々な条件に応じてトリガーを鳴らす事が可能です。
このお陰で4小節64ステップ以上に聴かせるシーケンスが可能です。

・マイクロタイミング

スウィング機能を更に細かくしたもので、
トリガーの位置を細かく遅らせたり前のめりにさせたり出来ます。
TR-808に代表されるクラシックドラムマシンの挙動を真似させたり、
似たような音のトリガーを互いにずらして聞こえやすくする事も出来ます。

・トラックチャンス

modelシリーズに初めて実装された、
モジュラーシンセでお馴染みランダムトリガー機能です。
前述したトリガーコンディションでも確率設定ができますが、
独立したツマミの為に更に使いやすくなっています。

例えばハイハットやリムショットなどの細かいドラムを16個全てトリガーさせた上で、
このツマミの調節で様々な表情を見せる事ができます。

○こんな人におすすめ

・初めてのグルボに、セカンドマシンに
・場所を選ばずに色んな場所で遊びたい人
・FMシンセの音は欲しいけど難しい理屈が苦手だった人
・デジタル特有の変わった音のドラムを欲しい人

○ちょっと撮ってみたよ



○まとめ

個人的には久々の大ヒット機材。
毎日持ち歩いて仕事の休み時間やチョット長い通勤時間のお供に愛用しています。
パラメーターの理屈は未だにわかってませんがw
マシンに促されるままに手が勝手に動いて音を作ってくれる、なんて不思議な体験をしています。
ELEKTRONの中では最もライブに向いていて、悩まずにトラックが作れるマシンです。

ノーマークだった人も是非とも一度は触ってみて下さい。

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