Roland MC-101レビュー

近頃は小型グルーブボックスに興味が出ていまして、
前回記事のmodel:cyclesに続いてRoland MC-101を購入してみました。
お弁当箱くらいのサイズにVA/PCM音源とワンショット/ループサンプルも扱える万能機。
Roland製品とはほとんど縁がなかったのでドキドキしてますが、
はてさて使いどころがツボにハマるんでしょうかねぇ。

○デザイン

AIRAシリーズに準じた黒x緑の筐体に
かなり小さな筐体に2行表示のクラシカルなドットマトリクスLED、
4本のフェーダーと16のパットといった構成で、
競合する他社製品をじっくり研究した末のチョイスといった具合です。

○製品コンセプトと操作感

DAW時代のグルーブボックスのデザインにおいて「どの機能を削るか」が
コンセプトや活用方法を決定するポイントですが、
この機種は音色のエディットをバッサリと切り捨てています。
同じ割り切り方をするnovation CIRCUITは
同時開発されたソフトウェアエディタで細かいシンセサイズが出来ますが、
このMC-101にそんな親切なソフトは無いし
基本PCMなのでシンセサイズ自体が出来ない、といっても大げさではありません。

またかなり多機能でありながら少ない操作子と文字表示のみの少ない情報量が相まって
正直なところ凄く扱いづらいです。
プロジェクト設定や音色のエディットにまつわるほとんどの操作が
右上のプッシュ式エンコーダーのみで操作をするのは控えめに言って地獄です。

しかし地獄の仕込みを乗り切ってしまえばプレイ自体は柔軟で、
フェーダーとクリップ機能を駆使すればかなり攻めたパフォーマンスが誰にでも出来ます。

○「パターン」ではなく「クリップ」

新しいMCシリーズで最も重要な特徴はこのクリップ。
一般的なグルボではシーケンスを打ち込んだ複数のトラックをまとめて「パターン」という単位で管理します。
ここでの致命的な弱点は再生中のパターンと次のパターンの曲調が違うものだと、
パターンチェンジの際に上がったテンションもリセットされてしまうんですよ。
グルボを使い慣れている人は様々な工夫を凝らしてこの問題に取り組んでいますが、
やはり基本的には全体の構成を練って順番通りにパターン登録するのが基本です。
これすっごく面倒臭い作業なんですよねぇ。

しかしMC-101では「クリップ」という概念でそのパターンをトラック別に変える事が出来ます。
DAWソフトAbeltonLIVEを使っている方なら理解し易いでしょうが、
ドラムはクリップ1のままベースをクリップ1から2へ変更、上モノを3から4へ、
なんて風に仕込む時もプレイの際も非常に柔軟な構成変更ができるようになります。
更には1クリップで最長128ステップまで伸ばせるので、8小節の長尺フレーズもイケるんですよ。

ちなみにハードウェアでクリップ方式を採用しているものは非常に少ないのです。
このMCシリーズとnovationCIRCUITと、他に何があるだろう?

○3つのトラックタイプと4つのパッドモード

MC-101のトラック数は4つ、まずは各トラックの用途に合わせたタイプを決めます。

・ドラム
他のドラムマシンなどとは概念が違っていて、
この1トラックの中に最大16までのドラムキットやワンショットサンプルを取り込めます。
4トラック全てドラムトラックにすると他のドラムマシンに例えるなら64トラックにもなる訳です。

・トーン
ベースやリードなどの音階モノを扱うトラックです。
膨大なプリセット数があるので全て把握するには根気がいりますが、
カテゴリ分けがされているので割とスンナリ欲しい音にアクセスできます。

・ルーパー
本体からの再生中の音をその場でサンプリングするのがルーパーですが、
それだけでなくタイムストレッチが可能でループサンプルを自由に操れます。
クリップ機能と同じくハードウェアでタイムストレッチ〜ループを再生中のBPMに合わせる事が出来るのは、
ELEKTRONのOCTATRACKかTORAIZ SP-16くらいではないでしょうか。

・CLIP
パッドでクリップを選択するモード。
トラックを選択した後に任意のクリップを選びます。
一般的なパターン式のシーケンサーよりも遥かにフレキシブルな展開が可能で、
打ち込み時の負担も非常に軽くなります。

・SEQ
ステップシーケンサー。
トリガーを置く場所を決める、任意のトリガーの長さ、音階などを決めたり出来ます。
ELEKTRON式のようにトリガーを置いてからツマミで音階をつける事も出来ますが、
ツマミの感度が敏感過ぎて狙った値にもっていくのが難しいです。
これこそエンコーダーで行うべきだとは思いますが。

・NOTE
音階の選択。ドラムトラックではパートの選択を行います。
MC-101の基本的な打ち込み方は、NOTEモードとSEQモードを
交互に移動しながらトリガーと音階を決めていく方法となります。
打ち込む事自体はともかく、修正や消去が面倒で混乱します。
ここはアップデートで何とかしてほしいものです。

・SCATTER
AIRAシリーズ十八番の飛び道具エフェクト群ね。

○音源/音質

VA/PCM音源とWAVEファイル(ワンショット/ループ共にOK)を扱えます。
VAと言ってもパラメーターが少ないので実質PCMだと思って下さい。
この機種でシンセサイズは実質不可能です。
それでシンセサイザーって名乗るな!とキレたくなります。

とはいえPCM音源を扱うグルーブボックス自体がほとんど無く、
他にはKORGのelectribeシリーズくらいです。
ただelectribeもVA音源重視なのでPCMはオマケ程度。
こちらMCはPCMに重点を置いているので、それだけで個性が際立ちます。

RolandのPCM音源と言えばXV5050やSonicCellを持っていた事がありますが、
MC-101も基本的な部分ではこれら過去の音源モジュールと変わりないように聴こえます。
違う点はエフェクト群とマスターコンプによる現代風な味付け、といった所でしょうか。

PCM全盛時代からDTMをやってきた諸先輩方とはおそらく違う感想になりますが、
90年代クラブミュージック黄金期で耳を育ててきた僕らの感覚からすると、
MC-101の音は「懐かしい音が簡単に再現できる」事に利点があります。
あの頃のハウスやハイエナジーなんかは得意でしょうねぇ。

サンプルの方はと言いますと可もなく不可も無く素直な音質です。
凄く使いやすい音質。
OCTATRACKのようなデジタルLo-Fi傾向もなく、
Digitaktのようなキラキラなパンチもなく、
この後のエフェクトで加工していく事を踏まえると扱いやすい素材として最適な音質ですね。

○得意な音楽ジャンル

テクノ〜アンビエントばっかりの電子楽器とは得意とするジャンルも違ってきます。
現在進行系のテクノをやりたいならMCはお勧めできないかも。
ELEKTRON買った方がラクです。

・90年代のハウス
ピアノやオルガンの音を軽く汚すだけで「あの頃の音」が簡単に再現出来ます。
ハウスDJ出身としては「ハウスの出来るグルボ」ってほとんど無いんですよ。

・ボーカロイド/ダンスポップ
PCM音源だとポップスよりの音が得意ですし、
128ステップ(8小節)の長尺サンプルを複数取り込める利点を活かすならボカロ界隈もピッタリかと。

・頑張れば歌モノも生演奏取り込む事もできるよね
ひとつのトラックに8小節のサンプルを16個仕込む事が出来るって事は、
あらかじめ録音したボーカルや生楽器もサンプル化してしまい、
ミニマルではない通常の楽曲構成だって不可能じゃないはずです。
知らんけどな。

○MC-101活用方法

非常に癖の強い機種なので、メーカー推奨よりももっと割り切った
使い方をしてしまった方が活躍できそうな気がします。

・小型PCM音源として
ライブで使うのではなく制作用途でもPCM音源モジュールとして使いやすいと思います。
オーディオI/F内蔵だからそのまんまDAWに取り込む事も可能。

・4つともドラムトラックにして64トラックのポン出し機
音楽用途ではなく演劇用途の効果音出しにSP-404が人気な事は知られていますが、
効果音を出す為だけの機材としてもMC-101はかなり優秀です。SPより小さいし。
例えばYoutuber/Vtuberのような動画配信用途にも活躍してくれそうですね。

・4つともLOOPERトラックにして「ミニ・オクタ」
ループサンプルプレイヤーと割り切ってしまっても大活躍する筈です。
OCTATRACKの4トラック版、しかもフェーダー付きだからDJライクに扱えます。
マシンライブでは希少価値のある声ネタや、ワンショットでは再現しづらいパーカッションループなど、
それだけで個性の際立つプレイが可能になります。

・音源は無視して単体シーケンサーとして使う
打ち込み方法はやや癖があるけど、このサイズでクリップ機能は強力です。
ここだけを活かしてRoland boutiqueシリーズを複数台繋いだり、
BloferdやvirusのようなマルチティンバーVAシンセを繋いだりしても良いでしょう。
これはPioneer SQUIDやSquarp Pylamidあたりと競合する使い方ですね。
トラック数は4と少ないけどMCの方が軽くて安い!

○実際のところ初心者には薦めらんないw

「普通にマシンライブを始めたい、天下のRoland様だから安心だろう」と思って
最初のメインマシンに選んでしまうと大火傷します。ダメ!ゼッタイ!www

素直にelectribe2を買いましょう。
こっちの方がずっとダンサブルな音が作りやすいです。
ちゃんとシンセサイズできます。
しかも中古市場で2万円切ってますし。
どうしても天下のRoland様を選びたいならTR-8S買いましょう。
アイツはなろう系主人公かよってくらいにはチートマシンです。

ただし「いわゆるマシンライブ的なテクノではなくて、もっとポップな音をやりたい」
といったヒネクレ者の集まるマシンライブ界隈で更に拗らせた360度ヒネクレ残念野郎は止めません。

○まとめ

端的にいうとコイツは入門機の皮を被った変態機です。
欠点と利点のバランスが悪くハッキリ言ってプロダクトとしては二流品ですが、
あまりに癖が強くて持っているだけで個性に直結する、そんな機材です。
仮にnovationCIRCUITのようなフルエディットできるソフトウェアエディターがあれば
完全無欠の変態マシンとして成り上がる事ができますがねぇ。

正直なところ「合わなかったらすぐに売っちゃおう」って腹づもりで買いましたが、
合う合わないの見極めですら難しくて答え出せませんw

でも仮にすぐ手放しちゃったとしても「買わなきゃよかった」とは思いませんね。
触る機会に恵まれたからヨシとしよう、と割り切れる変な魅力があるのは間違いないです。

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