ユーロラック黒パネルを作ろう

モジュラーシンセ界隈の中には、パネルの色をぜんぶ黒にしなければ気が済まない連中がいます。
銀パネルのモジュールは買わないぞ!なんならカッティングシート貼ってやる!いや缶スプレーで!
・・・と、過激な思想を持っている厄介な輩ですよね。

はい。アタシもです。

中古のモジュールを格安で買ったにも関わらず、
高い送料払って海外のメーカーからパネルだけ直接取り寄せるなんて日常茶飯事。

そんな反社会的危険分子な皆さんに、
「いっその事つくっちゃえばイイじゃ〜ん」という方法を紹介します。

以前は金属加工の工場で働いていたのでアルミパネルや銅や真鍮のパネル作ってましたが、
よくみんながやるのは黒パネルは中国の基板屋さんに作って貰う方法。
それがオーソドックスです。

精密な採寸が出来ないので、一回頼んで合わせてみて、
合わなかったら寸法を修正してもう一度頼む、って方法をとります。
穴位置を測る「穴ピッチノギス」という特殊器具も持ってるけど、べらぼーに高いので紹介しません。
6万円とか7万円とかすんだぜ?ノギスで。

ちなみにMutable Instrumentsのモジュールに関しては、
オープンソースの為にパネルのCADデータがあります。
ネットのどこかにな。

◯必要なもの

・元になるパネル
・パソコン
・電子回路設計CAD(フリー)
・ノギス
・定規
・コンビニのスキャナ

 

CADはKiCADというフリーソフトを落としました。
モジュラー系ビルダーは大抵コレを使ってるそうです。

ノギスはアナログ物は数本持ってるけど、
せっかくだからデジタルノギスをアマゾンで買いました。1000円。

安い樹脂製だけどパネルを傷つけないのでかえって好都合。
ノギスの使い方知らん人はググってな。

◯講師紹介

今回はCADの操作と基板屋への発注はアタシの手に負えないスキルなので先生を召喚しました。
前回「国産モジュラーメーカー」の記事で紹介したビルダー・JAMMING先生です!
モジュール作る訳じゃないし商売の邪魔になんないでしょ!と授業料(メシ)払って教わってきました。

みなさんもこれで黒パネル作れるようになったらJAMMING製品買ってあげてください。
電子工作派の為にキットも売ってるし京王線の柴崎にあるmodという店でDIYワークショップも開いてるよ。

https://jamming.base.shop/


先生こんなDFAMの銀パネルも作っちゃったのよ。非売品らしいけど欲しい人は当人にゴネてみて。

◯制作するパネル

Tiptop-Buchlaの258tオシレーターです。
海外のビルダーで黒パネルを扱っている所もありますがアメリカ以外の発送に
対応していないようなので困ってたんスよ。

◯採寸

※お断り
この測定方法では大抵ズレます。ズレない方法ですか?ありません!
じゃあどうすっか?と言うとそのまま発注しちゃいましょう。
そして現物が届いたらズレた部分を調整して再度発注!
現物さえあれば数ミリのズレも修正し易いです。
一発でピッタリ出来れば万々歳!くらいの気持ちでガンガン進めましょう。

まずモジュールからパネルを完全にバラします。

それをコンビニに行ってスキャニングと、カラーでも白黒でも良いからコピーしましょう。

縦横の寸法は規格どおりに計算すると128.5mm x 91.44mm。
一応実際に測って確認。実測は128.5mm x 91.4mmでした。
横幅の方は万が一にも隣のモジュールと干渉しないように切り捨てた寸法にしましょう。

ネジ穴の位置は、
「四つ角から3mm、3mmの位置に直径3.5mmの穴」が基本的なユーロラックの穴寸法ですが、
横に長い穴(長穴って言います)の方が組み付けに便利なので「3.5nn x.6mm長穴」にしておくと良いです。

・穴位置の測定はメンド臭いよ

1.直線から円の距離

さて他の穴の計測なんですが、これが割りと面倒。

まず円の直径をノギスで測ります。

直線部分から円の手前まで測ります。

それと円の半径を足せばOK。

2.円と円の距離

これは二つの穴の直径が同じ場合に限ります。

円と円の内側を測ります。

そこから円の直径(半径x2)を足せばOK。

こうして数字を出していけば良いんですが、まずズレますw
測る方向や位置を変えて何度でも確認してください。地味に大変だけど。

下の写真を見ての通り、通常の製図でやる測定とはチト違います。
一部を除きほとんどの穴位置を、角から測ってます。
これはCADで作図する時に基準となる原点を決め、そこから数値で移動するからです。
この場合は左上の角を原点としCH1の穴位置を測ってます。
CH2は左下。FREQツマミ穴だけ右上/右下としています。

あらかじめCADに起こす前にコピーした紙の方に寸法を記入しておきましょう。
「まずは紙な」です。あらゆる設計の鉄則です。

 

◯CAD

KiCADと言うフリーの基板設計CADを使うんですが、
アタシVectorworksって建築/機械CADは長く使ってたんですけど基板CADは初めて。
CADってね、製品によってUIも操作性も全然違うんですよ。
ついでに言うとこのKiCAD、Ver.によっても操作が結構変わるみたいです。
これはMac版のVer.8。最新版すね。

もし、回路系以外のCADをお持ちの方がいたらDXFファイルを出力できるか確認してください。
或いはイラレみたいなドロー系ソフトもDXF対応してる物は以外とあります。
KiCADはDXFインポートにも対応してるので、慣れたCAD等があるのならそっちの方が早いです。
将来的に回路設計やってみたいって方はKiCAD慣れておいた方が良いですけどね。

ちなみに、フリーソフトだからなのか結構頻繁にフリーズします。マメなセーブを。

KiCADを立ち上げると初めにこんな画面が出てきます。

この中の「PCBエディター」というのが基板を物理的に設計するところです。

次にソフトの設定。

デフォルトだとマウスやトラックパッドの動きが変な挙動をしてイライラします。
イラレやCADなど他のソフトに慣れている方やMacの人は、ここである程度は好みの設定に変えられます。

 

・四角を描いてみよう

設定が終わったらレイヤー「edge.cuts」を選んで実際に四角から描いてみましょう。
ここで注意したいのは、
このソフト「クリック-ドラッグ描画」ではなく「クリック-クリック描画」だって事。

アタシこれがわからずに1.2時間は延々と悩んでました。
普通のCADなら設定で決められるんですけどね。フリーソフトだから文句言えません。

四角の大きさは初めは何でも良いです。
マウスで大きさを決めるよりも、後で数値指定してあげた方がラクですから。
一度選択ツール(矢印)に戻してから四角を右クリック。
そこから出るメニューに「プロパティ」があります。

その中で数値を入力してやりましょう。

ついでに「ロック」にチェックを入れると、ウッカリ触って形が変わっちゃうなんて事故を防げます。

・穴を開けてみよう

ロック済みのパネル外形が出来たら次は穴です。
四隅は長穴としたいのでここでは触れません。

まず「スナップ(吸着)」の概念についてお話します。
CADソフトでは特定の線や点にマウスポインタが近付けてクリックすると
自動的に線や点の真上に修正してくれる機能があり、これをスナップと言います。

KiCADにもこの機能が備わってますが、どうやら外形線だけ?なのかな?
ロック済のピンクの四角の角にはスナップしますが、
寸法を数値入力して作った補助線にはスナップしません。
(旧来のCADの作図方法なんだけどね)

じゃあどうすっか?と言うと、「原点」を左上の角に設定し、
四角の角にスナップさせながら、そこを中心に円を描きます。
これもプロパティで寸法修正出来ますよ。
円の大きさは実測では小数点第一位まで測ったのですが、
余裕を考えて小数点以下を切り上げてしまいましょう。
6.5mmなら7mm、とか0.3〜0.5mmくらい加えると測定がズレていたとしても多少は誤魔化せます。

円が出来たら右クリックして「数値を入力して移動」コマンドを選び、
計測した数値を入力します。
これから頻繁にやる操作なのでSHIFT+Mとショートカットを覚えておくと良いです。

ちなみにX軸Y軸の関係と方向は設定メニューで変えられます。

・長穴を設計しよう

横に長い穴は独立した部品として設計します。
そうすることで他のパネル設計にも使い回しが出来て便利です。
基板に載せる部品の総称(?)を「フットプリント」と呼ぶらしく、
そこに作成していきます。

フットプリントのアイコンはここ。

 

上の作成アイコンをクリックして、「フットプリントエディタ」の画面を出します。
左上の新規作成をクリックするとダイアログが出てきて、
フットプリントの名前を入力します。ここでは「Long_Hole6xx3.2」としましょう。
またその下で「スルーホール」を選んで下さい。

出てくる文字は邪魔なので上下にどかして右の黄色い丸「パット」アイコンを選び、パットを真ん中に配置します。
置けたらそれを右クリックから「プロパティ」を出します。

パット番号を消しパット形状から「長円」を選び、パットサイズ、穴形状、穴サイズを上の写真の通りに数値を設定します。
出来たらエディタ左上のフロッピーアイコンから保存します。
これでライブラリに長穴を登録出来たので、そこから呼び出して円と同じように配置します。

・文字を入れよう

KiCADでは文字を入れる事が出来ます。

まずレイヤー「F.Silkscreen」を選びます。
右のTマーク「テキスト」を選択、適当な場所でクリックすると、
こんな設定画面が出ます。

ここでテキストを入力、フォント(パソコンに入ってる全てから選べる)、幅と高さなどが設定出来ます。

そしてマウスで位置を決めて配置。この時、写真の「OSC」を書いたんですが、
最初のひと文字目の左下がポインタ基準になってるのに注意してください。

これを繰り返し文字を入れていきますが、
クソ面倒なのがひとつひとつプロパティで設定しなきゃならん事。
配置も含めてかなりメンドいです。

イラレ系で作った文字をまとめて画像として配置する方法もあるようですが、
ご自身で調べてください。それもそれでメンドいから。

・DRCとデータ入稿準備

DRCとは回路が正しく機能するかチェックする機能です。
パネルとはいえ、それを行なって線や穴が正しいかチェックしましょう。

右下の「DRCを実行」ボタンを押すと、

「何たらかんたらにはライブラリには含まれていません」
と出ますが、これはフットプリントで作った長穴の保存場所が違うだけで気にしなくて良いです。
この他の警告が出たら要注意。

次に上のメニューからファイル→製造用出力→ガーバーと選びます。

こんな画面が出ますが、右上の保存先だけ覚えておいて、右下の「プロット」を押します。
それが出来たらプロットの左の「ドリルファイルを生成」を押し、同じようにそのまま出力します。

こんなファイルが出来上がるので、それをZIPとして圧縮します。
ここまで出来てCAD作業は終わりです。

◯業者に発注しよう

いよいよ基板屋に発注していきます。
一番安く仕上がるのはJLCPCBだそうで、とりあえずここにします。

https://jlcpcb.jp/

まずは「ガーバーファイルを追加」という所に先ほどのZIPファイルをドロップ!

するとこんな画面になりますので、必要事項を記入します。

FR-4、2層、枚数は最低の5枚、厚さは1.6、PCBカラーは黒を確認。

ここで大事なのは「発注番号の削除」を「はい」にしてください。
でないと勝手に番号を印字されてしまいます。
他の業者もそうみたいだね。

記入して見積額と送料を確認したらカートに入れて購入手続きをします。

工賃が722円、送料が2334円となってます。

Screenshot

◯到着〜組み立て

だいたい1週間ほどで届きましたね。
肝心の仕上がりはと言うと、塗装のムラなどチョットあります。

ツマミのサイズを正確に測ってなかったんで、一部の印字が隠れてしまいましたw

で、組立時も四つ穴の高さが若干キツいので、
次回は長穴を大きくしようかと思います。
0.2〜0.3mmくらいかな?

まぁ初めてにしては上出来です。

このパネルを高級な艶消し黒で作ってくれる業者で見積もりしたら7000円以上もしたのでビビって辞めました。

◯まとめ

こんな風にCADがフリーなので頑張れば何とか作れます。
ただしCADの説明はザックリな解説なので参考にする際は他のサイトも読んでおいてください。
グラフィック系のソフトを使いこなせる人なら自分のデザインでパネルを作る事も可能。
ぜひぜひ挑戦してみてください。

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