DIYモジュラーシンセのはじめかた【道具編】

スタンドアロン/モジュラーシンセに限らずDIY文化の盛んな海外では、
シンセサイザーの組立キットが販売されていたりキット専門のWEBショップがあったりします。
当ブログでもx0xb0xやケーブルなどの自作を紹介していましたが、
2020年版というべきか、今度はモジュラーシンセのキットを中心に紹介していこうと思います。

○モジュラーシンセDIYのメリット

・ローコスト
あったりまえですが安いです。
完成品と組立キットの両方を販売しているモジュールを比べると分かりますが、
だいたい1/3程度の金額で入手できます。

・キットでしか販売されてないレア物も多い
小さなメーカーや個人でも参入できるモジュラーシンセ業界では、
「設計は出来るけど製造まで手が回んないよ~」なんていうメーカーはごまんといます。
こういう人達が基板とパネルだけ販売して残りは自分でやってね~、なんてケースが割と多いのです。

特に人気が高いのがMutable Instrumentsの改造版モジュール。
オリジナルよりも機能が豊富だったりコンパクトだったりとメリットが大きいです。
(難易度はバリ高なんですがねw)

またスタンドアロンの小型ガジェットシンセをユーロラックとしてマウントするキットなんかもあります。
volcaシリーズ、TeenageのPOシリーズ、BOSS RE-20など、
3Dプリンタでマウントを販売している所や、3Dプリントのデータだけ配布している物もあります。

○電子工作に慣れてない人でも

電子工作なんてやった事ない!という人でも難易度の低いモジュールから始めれば問題ないかと思います。
そもそもModulerGridでバーチャルラックを作る事自体が「設計」ですし、
ネジ回したり電源繋いだりパッチケーブルで配線したり何かと「工作」要素が多いじゃないですかい。
なので未経験者でもモジュラーシンセをやってる時点で性格的には向いているって事なんですよ。
理系独特の計算なんて必要ありません。部品の種類と向きを間違えなければ大丈夫です。

○電子工作系DIYの心構え

古強者の諸先輩方には敵いませんが、それなりに組み立ててたまに壊してきた経験からすると、
最も大事な事は「完成を急がない」ことじゃないでしょうか。
自分自身ここを疎かにしてダメにする事が多かったです。
絶対に焦らずに休み休み作業をするようにしましょう。
組立途中で足りない部品に気がついたら「ま、来週でいっかー」なんてくらいに
ノンビリやるのが上達への近道です。

もう一つは「道具にはカネをかけろ」です。
シンセやグルボ選びと違って初心者ほど良い道具を選びましょう。
熟練者なら100均の工具でもホイホイ作業しちゃえますが、
初心者が質の悪い道具(特に刃物)を無理に使うと部品を壊したり怪我をしますし、
便利な道具を使う事で作業の難易度を下げたり仕上がりの質を上げる事ができます。
工具の良し悪しの判断は慣れないと難しいかもしれませんが、
「聞き覚えの無いブランドでも日本製でJISマークがついていれば間違いない」と覚えておいて下さい。
JIS=日本工業規格なのよ。適正な価格帯の工具はだいたい付いてます。

○電子工作系工具あれこれ

ざっくり計算して2~3万円くらいかな?
道具揃えて2,3万って結構高く感じると思いますが、
モジュールキットを二つ組めば元が取れます。
ハナから予算に入れて躊躇なく揃えましょう。

重要度ごとに以下の★マークで表してます。
★★★★★ 絶対必要。頻繁に使うからイイ奴買っとけ
★★★★  絶対必要。頻繁じゃないけど持ってないと
★★★   あると便利。作業がラク
★★    安物で良いから持ってな
★     気が向いたら買おう

○ハンダ系

・ハンダごて★★★★★

温度調節機能が付いているもので、こて先が豊富な物を選びましょう。
メジャーなブランドはHAKKO(白光)とgootの二つ。
イチ推しはHAKKO FX600です。

・ハンダ★★★★★

「音がよくなる!」「このブランドはオーディオ向き!」など
様々な用途のハンダが売っていますが、
「音響部品用」的な物を買っておけば間違いないでしょう。
それより太さの方が重要。
好みにもよりますが、細い方が溶けやすいのでラクです。
スルーホール基板なら0.5~0.6mm、表面実装なら0.3mmを好んで使っています。

・こて台★★★★★

ハンダごてを置いておく為の専用のこて台も必須アイテム。
こて先クリーナーが備わっている物が便利です。

・こて先★★★★

標準でついている円錐のこて先は汎用性は高いけど割と使いにくいです。
いろんな形の物がありますが、
「ナイフ型」「マイナスドライバー型」の二つは重宝します。
円錐形に比べるとハンダ付けが上手くなったような錯覚を覚えるほどw


HAKKOのサイトには「こて先選択ガイド」というページがあります。
ここで自分の好みに合った形状を探すのも良いですよ。
https://www.hakko.com/japan/tip_selection/type.html

・フラックス/フラックスクリーナー★★★★

フラックスとはハンダが基板や部品に乗りやすくする為の薬品です。
慣れるまでは一つ一つ塗りながら作業を進めましょう。
基板の質によってハンダが乗りにくいメーカーの物もあったりします。
ハンダ付け終了後のフラックスはベトベトして汚いので、
専用のクリーナーで洗ってやります。

これは大きなサイズの物を買っとくと便利です。

・ハンダ吸い取り器★★★★★

間違えた部品を実装してしまったり、既にくっついてる物を外したい時に使います。
バネ式のポンプタイプの物を一つ持っていれば良いです。
コテでハンダを溶けた状態にしてポンプでシュッと吸い取ります。

・ハンダ吸い取り線★★★★★

吸い取り器で大きく吸った後も若干のハンダが残っていて部品が外せない場合、
この吸い取り線を使います。ハンダの上に吸い取り線を当てて、
両方にコテを当てると溶けたハンダが吸い取り線の方に移っていきます。
幅が何種類かあるので用途によって使い分けましょう。

○切断/挟み系

・ニッパー★★★★★

ハンダ付け後の余った脚を切ったりなんだり頻繁に使います。
細かい作業がメインなので125mmクラスの小ぶりな物を用意しましょう。

・ラジオペンチ★★★★★

挟んだり曲げたりニッパーより多用すると思います。
こちらは125mmクラスの物と、力の要る仕事用に150mmクラスがあると良いです。
小さい方は品質の良い物を、大きな方は安くても構いません。


・ピンセット★★★★★

ラジオペンチでも摘めない細かい部品や、
ネジ袋からネジを一つ摘むとか、
レール内のスライドナットを移動させるとか色々な場面で活躍します。
これも色んな形の物が売っています。
「つる首」「ストレート」の二種類、出来るだけ先の細い物が使いやすいです。
その他チップ部品を扱う際は「逆作用ピンセット」もあると重宝します。


・カッターナイフ★★★★★

アタシ元々は大工を15年以上やっていたんですけど、
今の時代に大工が一番使う道具はカンナでもノコギリでもなくカッターナイフですw
なので断言しますがカッターは「OLFA」の大型、刃は「黒刃」。これ一択です!
500円チョイで買えます。タジマはよく壊れるのでダメ。


○加工/脱着系

・ピンそろった★★★★★

新品のICは脚が若干拡がっているんですよ。
それを穴に合わせて曲げるんですけど、ラジオペンチだと面倒くさいし失敗も多いんです。
そんな時に役立つのがIC専用の足曲げ器。不器用を自覚する人ほど持っておくべきです。

・IC抜き★★★★★

ソケットに刺さっているICを足を曲げずに取り外すのってコツが要るんですよ。
このトゲヌキみたいな奴もIC専用の治具。
先の細いマイナス精密ドライバーを差し込んでテコの原理でチョイチョイ浮かせ、
ある程度の隙間が出来たらコイツでエイっと外します。

・リードベンダー★★★

抵抗などの足を綺麗に曲げる為の治具。
キチンと使えば教科書のお手本みたいに綺麗な実装が出来ます。
几帳面な方に。
あ?アタシっすか?持ってるけどあんまり使ってませんw

・ピンバイス★★★

1mm以下の細いドリル刃を加えるドリルです。
自分の場合はハンダ済み部品を外す際に、
スルーホールに溜まったハンダを物理的に除去するのに使ってます。
0.5mmの刃で。

○測定系

・テスター★★★★

電圧や導通、抵抗値を測る機械です。特に高級品でなくても良いんですが
sanwaあたりがマトモな国産メーカーなのでソコの安い奴を用意しましょう。
電圧の測定:ユーロラック電源の+12Vと-12V、5Vのピンの確認には頻繁に使います。
その他ビルドガイドで「ここまで組んだら電圧測って確認しろよな」と指示がある事も。
導通の確認:ハンダ付けでちゃんと電気が通るようになっているか、
また通ってはいけない部分などの確認に使います。
抵抗値の測定:値のバラバラな抵抗が混ざっている場合は一本一本測っています。
カラーコードを覚えれば見ただけで抵抗値が分かりますが、暗記するのが苦手なのです。

・ルーペ★★★

ハンダ付けをした後の確認や、印字が薄くなってるICの型番確認など結構使います。
また表面実装部品(チップ抵抗やチップLEDなど)のハンダ付けには必須です。
ポケットに入るような小さいもので十分ですが、
ガッツリ表面実装をやすならば両手の塞がらないスタンドタイプを用意しましょう。


○固定系

・ヒートクリップ★★★★★

本来はトランジスタなど熱に弱い部品のハンダ付けの際に余計な熱を逃がす為の物ですが、
実際はスーパー万能仮固定クリップです。4,5個くらいあると良いです。

・マスキングテープ★★★★

これも仮固定で活躍します。18~24mm幅くらいが使いやすいかと。
はんだ付けの上手い下手って、6,7割は仮止めがしっかり出来ているかで決まります。
なのでこれらに限らず仮固定用アイテムは沢山用意しましょう。
色によって粘着力が違うんですけど、
あんまり気にしないで明るい色の物を選びましょう。
ボールペンなどで書き込んだり出来ます。

・万力★★★★

基板を立てた状態でハンダ付けをしたい、とか
ケーブルのハンダ付けをしたい時に重宝します。
あと万力(とテスター)があるとバスケーブルの自作が出来ます。
例のコネクタをカシメるのに本当は専用のペンチ的な物が必要なんですが、
4,5000円するので万力でやっちゃって大丈夫です。
咥える幅が5cmくらいの小さい物で十分。
1000円でお釣りきます。

○ネジ系

・ドライバー★★★★★

あまり知られていませんがドライバーにはサイズがあります。
プラスドライバーは小さい方から順に00番、0番、1、2、3、~といった具合です。
マイナスドライバーはmmで表しますが、だいたいプラスの番手と同サイズの物があります。
一番一般的でどこにでもあるサイズは2番です。ここでは0,1,2番を用意しておけば大丈夫です。

こだわりだすとキリがないけど、そんなに高くないので色んなブランドを試すと良いでしょう。
個人的にはベッセルの物を好んで使っていいます。


グリップの太さに色々と種類がありますが、
「力を入れて回したい時は太いグリップ」
「早く回したい時は細いグリップ」が適しています。
電子工作系では細いグリップの方が良いでしょう。

最近のお気に入りはこちら。

電工用の絶縁ドライバーなんですが、
軸まで真っ黄色だから視認性が良い(なくさない)。
このタイプの物にしてはグリップが小柄なので、
早回しも力回しもやりやすいです。

余談ですが、ネジを舐めやすい人は(ドライバーのサイズが適正であれば)
力の加減を間違えている場合がほとんどです。
上からネジを押す力が7割、回す力が3割。このぐらいの気持ちでやってみてください。
意識しながらやればそのうち慣れます。

・精密ドライバー★★★★

使うには使うけどこちらは安物で十分です。
またビット(先っちょ)を交換出来るタイプのドライバーはオススメしません。
使用頻度の高さに比例して紛失しやすいです。

・ジャックドライバー★★★★★

モジュラーシンセユーザーには必須アイテム。
ジャックについている丸いナットを回す為のドライバーです。
ラジオペンチでやるのはパネルを傷つけるので辞めましょう。

・六角レンチ★★★★★

小さなL字型のセットを一つ持っていれば大丈夫ですが、
ツマミの交換で頻繁に使うので、1.5mmの物だけは長い物を選んでいます。


このセットはミリとインチと両方あるので便利。

・ボックスレンチ★★★★★

これもパネルを外す時の必須ツール。
ソケット交換式のラチェットレンチでも良いんですが、
どうせすぐに無くしちゃうのでオススメしません。
フェルナンデスから出ている3本セットを愛用しています。


(写真は一つだけど3本セットです。これ一番良いです。)

○環境系

・LED照明★★★

手元を明るく照らすだけでミスが減ります。
照明付きのルーペスタンドがベスト。

・ベニヤ板★★★★★

ハンダやカッターでの切断など意外と荒い作業が多いので
テーブルの上に敷いて、この上で作業をするようにしています。

・iPadやタブレット★

BOMや実装図面などを見ながら作業をするのに最適。
パソコンよりも手軽でスマホより大きいし。
わざわざこのために買う必要はありませんが、
持ってるなら活用しましょう。

・無水エタノール★★

各部の洗浄に使います。
パネルには印字面を溶かしてしまう場合が(ごく稀に)あります。
気をつけましょう。

・目薬★★★★

結構目が疲れるんですよね。
集中力を持続させるのに必要です。

・タッパー、製氷皿★★★★★

100均で色々揃えましょう。
外した部品の仮置き、作業を中断する時の保管など
何かと使います。

○まとめ

出来ればホームセンターや電気街に出向いて
自分の手に馴染むか確認した上で買った方が良いとは思いますが、
そうも言ってられない人に向けてAmazonリンク貼りました。
イチから全て揃えるとなると結構たいへんではあるけれど、
シンセDIYに限らず他の工作にも使えるから一生モノですよ。

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