アイソレーターの使い途

モジュラーシンセを含めたマシンライブで
マスターエフェクト(最終段にかけるエフェクト)を使っている方は多いですよね。
定番のパイオニアRMX-500やKAOSSPAD、
ステレオフィルターなどアクション重視のエフェクトから、
音質補正目的でコンプレッサー、
アンビエント寄りのセットでは最後にリバーブを噛ませる光景をよく見かけます。

さてさて今回はそんなマスターエフェクトにおけるダークホース、アイソレーターを紹介します。
前記事のモジュラーDIYで紹介したP4Lアイソレーターの提灯記事です。
ここまで書けば何か貰えるかもしれません。
テキーラぶっ込まれて終わりかもしれないけど。

P4Lストアはこちら。
https://p4l-store.com/
DIYキットも完成品もありますよ。

○アイソレーターとは

(おそらく8〜90年代)DJカルチャーから生まれたエフェクトテクニック/エフェクターユニットです。
ミュージシャンや電子楽器界隈の方には馴染みが無いエフェクトかもしれませんが、
平たく言ってしまえば強力イコライザーです。
だいたい3バンド、カットが∞、ブーストの方は+4とか+6くらいに控えめ。
全てのツマミを絞ると完全に音が消えるのがEQとの大きな違いです。

元々好んで使っていたのはハウスDJ、しかもNYディープ・ハウス一派に限られています。
ロータリーミキサー、片耳ヘッドフォンと並んでNYハウスDJ三種の神器の一つであり、
ハウス黄金期~第何次かしらんけどDJブームであった1990~2000年代には、
猫も杓子もデカいツマミひねって悦に浸っていたものです。

ちなみにNY系以外のハウスDJはDJユースに特化されたステレオフィルターを好んで使っていました。

レゾナンスを上げた音がヒュイーン!と鳴って耳に残りやすいフィルターと違って、
アイソレーターは単純に帯域をカットするだけなので機能としては凄く地味なんですよ。

ところがどっこい腕の良いNYハウスDJが使うとアラ不思議!
絶妙なタイミングでキックが「フッ」っと居なくなるんですよ。
消えるというよりは居なくなるといった擬人化的表現の方が近いです。
または歌物のサビの決めどころでローカット/ハイブーストで真ん中のボーカルを強調してみたり、
地味なぶんだけプレイヤーの腕に左右される職人気質なエフェクトなんですよ。

そしてアイソレーターの魅力と言えば何よりも色気。これに尽きます。
大きなツマミと相まってミュートでの抜き挿しやフィルターよりもソフトな減衰になるのがミソ。
元々ゲイカルチャーの中で育ったハウスミュージックは性愛をテーマにした曲や歌が多く、
DJテクニックもセクシーかつオーガニックである事を至上とする価値観があります。
NY系ハウスDJが派手なエフェクトに頼らずアイソレーターを愛用するのも、
このあたりに理由があるのかもしれません。

○なぜアイソレーターが特別視されるのか

特定の帯域をカット/ブーストするだけなら
DJ用フィルターでもEQでもいいじゃん?と思われる方も多いでしょうが、
アイソレーターは「独自の文化に裏打ちされた設計思想がある」のです。
気持ちの問題といえばそれまでかもしれませんが、
音楽なんですから結果に至るまでのプロセスに気持ちがこもっていて当然です。

「アイソだから音が良い」という訳ではありませんが、
ディープハウスやガラージのオリジネーターから現代に至るまで、
NYハウスは異様な程に音質にこだわりを持つ独自の文化があります。
そこから生まれたハウス系機材のガレージメーカーもやはり同じく、
アマチュアのDJでさえピュアオーディオ方面の知識を取り入れていたりします。

現代のような全ジャンル対応型の高解像度・ハイファイな音質ではなく、
優しく温かく、歌物ハウスからディスコやソウルまで映えるタイプの音質を求めています。
もちろん日本にもその文化を継承したサウンドシステムを持つ店は沢山あります。
「音が良い」と評判のお店で、なおかつDJミキサーがロータリーだったら間違いないでしょう。

そういうお店の看板パーティに足を運んでみればこの文化に触れる事は案外容易です。
そしてロータリーミキサーやアイソレーターも、
現在ではこの文化を受け継いできたガレージメーカーが作っている物がほとんどですから、
1970年代のBOZACやUREIの回路を手本に現代流通している部品で構成された回路を使うなど、
伝統文化に則った思想を持って設計されています。

○実際どう使ってるの?

DJプレイの中で育ってきたエフェクトなので基本的には完成された楽曲に用います。
馴染みの無い人でも「あー!これね!」と思い出せるかもしれないテクが、
歌モノのサビの部分の事さらに強調した一節の部分、
そこに合わせてローカット/ハイブーストをします。
するとハイパスフィルターにも似た効果で歌声だけが強調されるんです。

アイソ使いのDJとして有名なのはジョー・クラウゼル。
アグレッシブにギュインギュイン回してますが、
正直いってちょっとウザいwヤリ過ぎだよww

ラフなようで楽曲や歌詞をキチンと理解していないとダサダサになってしまう諸刃の剣でもあります。
歌物ハウスDJならプレイの大詰めの頃に1,2回やればちょうど良いんじゃないかなぁ?
シカゴハウスのトラック物なんかはグリグリ責め立てるように活用しても良いとは思いますが、
シカゴ系はアイソレーターよりクドい(DJ用)フィルターを好んで使っていた記憶があります。
レゾンナスを上げないハイパス/ローパスフィルターでも近い効果は得られますが、
アイソレーターの方はMIDがある分だけ削れる帯域がちょっと変わってソフトな切れ味になります。

○格好良く魅せるコツ

ボク等ハウスDJの間では「ツマミは肩で回せ」と先輩や師匠から教わってきました。
アガっている時ほどオーバーアクションで操作するのが基本です。
ツマミ一つだけ動かす時は肩から大きく回す、
ツマミ二つ同時に動かす時はカットに合わせて腰を落とす、
ローカットでドヤ顔、ハイブーストでアヘ顔、
目線はフロアの中心にいるオーディエンスに向けるetc,

【過去記事】ライブアクトのドヤリング

アゲる為に使うのではなく、アガった後で使う調味料のようなパフォーマンスです。
アイソは基本的にフロアがブチ上がっている時でないと使うべきではありません。
逆にアガっていない時には神経質なほどチョンチョン少しずつ動かしていくと、
「あーアレはミッチリ音質の補正をしているんだな!」と好意的な解釈をしてもらえます。
(いやそこはEQ使えよってツッコミは意外と少ないので安心して職人ヅラしましょう)
出来ればシカメっ面でフロアのスピーカー側をチラ見しながら行うと効果テキメンですよ!

○マシンライブに応用するには?

歌や声ネタの無いミニマルなトラックがほとんどなマシンライブでは
割とグリグリやっても大丈夫だとは思います。
垂れ流しのノイズにブースト/カットで緩急をつけてみたり、
ミュートでのキック抜きの代わりに(よりソフトな)ローカットを使ってみたり、
ブースト側も極端には上がらないんで遠慮なくグリグリやってみましょう。
例えばキックを抜く時の他のテクニックとの違いを説明しますと、

・トリガーミュート

一番簡単かつ安全な抜き方ですよね。

ドンドンドンドン・・・のンが終わった所で音が消えてくれます。

・オーディオミュート

スパっと止まりますね。タイミングを合わせるのが難しいかも。

・ハイパスフィルター

アイソでもEQでも「切れ味」と表現しますが、
そういう意味で本当に切れるように音が消えるのはDJフィルターです。
かつレゾナンスでツマミの動きに合わせて印象的な発振音が出るので効果も派手。

・アイソレーター

そしてアイソレーターは「切れ味」「切れる」と例えられはしますが、
より近い表現をするなら「いなくなる」「あらわれる」と音色を擬人化したくなるような錯覚を覚えます。

○専用機を買う前にお試ししたいなら

OCTATRACKをお持ちの方であれば簡単に試す事が出来ます。
トラック8をマスタートラックにした上で、
「DJ EQ」というエフェクトをアサインします。
その上でSCENEに「ローカット/ハイちょっとアゲ」を割り当ててやれば、
クロスフェーダーでアイソレーターっぽい挙動を再現する事が可能です。
どうせならレゾナンス高めのフィルターも別のSCENEに割り当てて、
音の変わり方の違いを確かめてみてください。

KORGのKAOSSPAD3+にもアイソレーターがありますが、
なにぶんタッチパッドであの動きを再現するのは不可能なので、
雰囲気を確かめる程度にしかなりません。

DJミキサーは古い機種でもない限りはアイソレーターに似た減衰特性をもっています。
PAミキサーはここまで極端なEQカーブではないけど、
「このテクニックが自分に使えるのか?」と試す程度にはちょうど良いでしょう。

○まとめ

相応のリズム感とセンスを問われるエフェクターですが、
マシンライブ/モジュラーライブでは他のエフェクトには無い
新鮮な効果が得られるので必殺技として会得しておくのも損ではありません。

興味がおありでしたら是非是非フロアをブチ上げてください。

 

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