モジュラーシンセの向き不向き
国内でも少しずつシェアを伸ばしているモジュラーシンセ、
自分のようにドラムマシン/グルーブボックスの延長として始めた人、
DAWでの制作から、あるいは別ジャンルの生楽器からくる人、
中には音楽活動未経験から飛び込んでくる女の子も居たりと、
バラエティに富んだ交流が盛んになってきています。
そういうのを横目にこれからモジュラーシンセを始めてみたいんだけど、
如何せん取っ掛かりが掴めずに二の足を踏んでいる、なんて方もいらっしゃると思います。
グルボやDAWでシンセサイズに慣れた人でも何を買って良いのか分からず右往左往してしまったり、
たった一つの地味な機能なのに数万円といった金額に怯んでしまったりと、
まぁまぁみんなそれなりの苦労を楽しんでいます。
自分自身3度目のシステム構築に勤しんでいますが、
共に迷える仲間や頼れる先輩方に恵まれるようになってきました。
そうして見えてきたのがモジュラーシンセには向いている人、向かない人とが割とハッキリ分かれるって事。
もちろん「向いてない=ダメ」ではなく満足のいくシステム構築に至るまでの苦労が多いか少ないか、
という程度のニュアンスです。お気軽に読んでってくださいな。
この記事では「モジュラーやるならアレ必要。こんなスキルも必要」みたいな事は控えめにして、
如何にして楽しめるか、逆に楽しめないか、というポイントに重点を置いて紹介していきます。
そのうえで「やっべ!超たのしそ!」となるか「いやぁやっぱり合わないかもなぁ」となるか、
迷っている方の判断材料になれば幸いです。
○モジュラーシンセを楽しむツボ
・音遊びを突き詰めたい人には最高の玩具
モジュラーに限らずシンセサイザーが他の楽器に対して大きなアドバンテージを持っているポイントは、
「音階音量だけでなく音色の変化を自在に出来る事」です。
こんなブログを読んでくれている皆さんならフィルターのカットオフを閉じたり開いたりするだけで
ヨダレがダラっダラ出てくるような経験はおありでしょうが、
モジュラーシンセでは音声信号/制御信号のルーティングがリアルで自由自在。
LFOで音階を奏でても良いし、クロックだってシーケンサーで等間隔でない信号を送っても良いのです。
そういう性癖をトコトン開発したい変態紳士の皆様には是非とも
このパッチングワールドに首を突っ込んで頂きたいものです。
・他人の為の音楽か、自分の為の音楽か
音楽を創る、或いは楽器を演奏する行為とは
「演者として観客に聴かせる=表現行為」であるのが普通な筈ですけど、
シンセサイザーと関わっていくうちに必ずしもそうとは限らない人が居る事に気が付きました。
他人に聴かせるのは二の次。究極的には自分自身に聴かせる為に演奏をしている。
そんな内向的だけど決して後ろ向きではないスタンスで音楽と向き合っている人が割と多く、
以前からとても魅力的に感じていました。
まぁ「二の次」な筈のライブだってレベル高すぎてビビりますがねw
・ドラッグか、はたまた瞑想か
自分で聴く為の自分の演奏を行っていると、ウッカリ現実離れした心地よい妄想に浸れる事があります。
アナログのドラムマシンを走らせているうちに強烈に眠くなったり、
ドローンシンセで遊んでいると身体が弛緩する感覚を味わったりと、
電子音楽や電子楽器にはそういう魔力があります。
癒やしかもしれないし、はたまたバッドトリップかもしれませんが、
感受性を少し磨くだけで現実から非現実的な世界へと飛び込む事が出来るようになります。
酒もドラッグも要りません。
様々な電子楽器の中でも特にこういう傾向が強いのがモジュラーシンセ。
アシッドベースよりも簡単に深く潜る事が可能です。
・どんな音楽が出来るか、やりたい音楽に合うか
当ブログを読んでいてくれる方ならテクノ、ハウス、ヒップホップなどの
クラブミュージック/ダンス・ミュージックから入ってきた人が多数だと思います。
これらのダンスミュージックをモジュラーシンセ「だけ」で出来るか否か、と言いますと
個人的には「出来るっちゃ出来るけど結構な遠回りだよ?」と言わせてください。
実際にモジュラーシンセでバリっバリのダンスミュージックをやっている人達も沢山いますが、
相応の努力とセンス、投資が必要です。
逆にモジュラーで入りやすいジャンルはアンビエント、ドローン、ノイズミュージックなどですね。
あるいはリズムを組むけどジャンルの枠に囚われないような曖昧な電子音楽には最適です。
非ダンス系電子音楽とでも言っておきましょうかね。
それまで興味が無かったとしても、一度は試しに聴いてみましょう。
自分自身その手の音楽は割と苦手な筈だったけど、
色々なモジュラーシンセの演奏を聴いているうちにドローンミュージックにどっぷりハマっちゃいました。
既存ジャンルの枠を超えた音楽を志す方がいたら、ぜひぜひモジュラーで頑張ってください。
・不確定要素や音楽的トラブルを楽しめるか
普通のシンセでも初心者のうちは、
パラメーターをいじってるうちにワケがわからなくり収集がつかなくなった経験があると思います。
それを「把握できないからダメ」と断じるか「ワケわかんなくて楽しい~アハハ~」と能天気に振る舞えるか。
例えばフレーズ作り。手弾きでない限り音階を決めるのは普通シーケンサーですが、
モジュラーシンセでは別にシーケンサーでなくても良いんです。
LFOでもエンベローブでも、電圧が変わる信号を作れる物なら何でもシーケンサーになれます。
そうして出来たフレーズは楽譜に沿ったものというよりは偶然の産物に近いんじゃないでしょうかね。
それを気持ち良いと思えるか、気持ち悪いと思ってしまうか。
ここにもまたモジュラーにハマれるか否かのポイントが見え隠れしています。
・西海岸式と東海岸式
モジュラーユーザーの間でよく耳にする言葉ですが、
VCO-VCF-VCAで音創りをするMOOGを始めとした普通のシンセサイザーを「東海岸式」、
それとは別に「ウェーブシェイバー」「ローパスゲート」といった聞き慣れない機能を使って
音を創る「西海岸式」シンセサイズとがあります。
この西海岸式シンセを使ってみたいならユーロラックを導入するのがベターです。
この方式のパイオニアであるブックラのシンセはユーロラックとはまた違う規格のモジュラーシンセですが、
現代におけるモジュラーシンセムーブメントの立役者であるMakeNoiseを始め
西海岸式シンセシスを取り入れたモジュールは沢山リリースされています。
セミモジュラーシンセとしてもMakeNoise 0-COASTやKORG volca modularなどで
西海岸式シンセシスを体験できるのでそこで試してみるのも良いでしょう。
(自分すか?正直言って合わないと思ったんで東海岸式になりましたw)
・グルボやハードシーケンサーにつまづいちゃったら
いくら近頃のグルーブボックスやシーケンサーがライブパフォーマンスを考慮した設計とはいえ、
元を辿れば「打ち込み」「仕込み」前提のプログラミングツールに近い物です。
そこには「ファイル」「ページ」「階層」といった演奏とは別の、
コンピューター的な操作に脳味噌のリソースを割かなくてはいけないのが
人によって好き嫌いが分かれるポイントですよね。
これを苦手とする方にはモジュラーシンセの直感性が救いになるかもしれません。
また近年のグルーブボックスはLFOルーティングの自由度やランダマイズなど、
だんだん(ある意味)モジュラーライクな音作りが可能になっています。
根気さえあればとことん作り込めるのは素晴らしい事ではありますが、
その機能の進化についていけない人も少なくはないでしょう。
その点モジュラーシンセはほぼ全てのパラメーターが表に出ていると言っても過言ではなく、
ライブ本番でも機能の取捨選択が容易に行えます。
直感性重視のシステムを組んだ物は女性や子供にも取っ付きやすく、
この点がモジュラーシンセユーザーに「意外と女性が多い」理由の一つだと思います。
・モジュラーシンセらしい音が欲しいならファンクションジェネレーター
ファンクションジェネレーターとは直訳すると関数生成装置。余計わからんねゴメンw
色々な周期に則って電圧の波を作り出す装置です。
モジュラーシンセの世界ではLFO+エンベローブ+αのCV(制御信号)ジェネレーターを指します。
ここで作り出した信号をオシレーターでもアンプでもフィルターでも好きな所に当てます、と。
こうして産まれる複雑怪奇な「音の挙動」こそがモジュラーのモジュラーたる所以だ、と教わりました。
とりあえずはアンプのエンベローブに使うのが把握し易いかと思います。
最も有名なのはMake Noise Maths。
他にも4ms PEGや自分が購入したQUADRAX、BEFACO RAMPAGEなど、
モジュールメーカー各社が各々の個性を発揮したモジュールがたくさんありますよ。
・ぼくのかんがえた最強のグルーブボックス
とはいえ別にモジュラーだからモジュラーらしい音を出さなくてはいけない、とは限りません。
ひとつのモジュールでシンセ機能の全て備わったモジュールもあったり、
ドラムひとつひとつを自分の好みに合わせたセミオーダーライクなドラムマシンだって作れます。
「ELEKTRONのこの機能は大事だけど、ソコはKORG系かなぁ?」みたいに
その気になれば自分専用のグルーブボックスを作れる訳ですよ。
○モジュラーシンセお試し機材などなど
「自分に楽しめるかどうかわからないけど興味はあるんだよねぇ」
というくらいの認識の人にいきなり数十万の投資を求めるのも酷を通り越してナンセンスですよね。
そういう方に低い予算でカジる事が出来て、ダメならダメで引き返せるプランやアイテムを紹介します。
個人的には単体で音の出るセミモジュラーから始めてみるのが良いと思います。
それからフルモジュラーに行くにしろ行かないにしろ、パッチングの楽しさは十分に味わえます。
・映画「アイ・ドリーム・オブ・ワイヤーズ」
モジュラーシンセを軸にしたシンセサイザーのドキュメンタリー映画。
配信サイトでは見つけにくいのですが、DVDは販売しています。
ドキュメンタリー映画として非常にテンポよくまとまっていて、
シンセサイザーが好きな方なら退屈せずに観られますよ。
・KORG volca modular
1万円台半ばで購入出来るセミモジュラーシンセと言えばコレ。
パッチケーブルを通る電圧の都合でユーロラックとの互換性は(あまり)ありませんが、
東海岸式と西海岸式シンセシスの違いやパッチングで音が変わる楽しさを味わうには十分すぎます。
更には音階系volcaの中ではシーケンサーが最も扱いやすく、
スケールクオンタイズやランダマイズ、リバーブも備えており単体のシンセ/シーケンサーとしても優秀です。
・Make Noise 0-COAST
こちらはvolcaと違ってユーロラックの電圧に対応する(箱には入らないよ)西海岸式シンセサイザー。
シーケンサーは内蔵されていないのですがMIDIにもCV/GATEにも対応するので
DAWでの楽曲制作にも個性的な音を利用できると思います。
・MOOG Mother32シリーズ
名門MOOGの廉価版ライン。
M32は手放しちゃったけどDFAM、サブハモは本当に気に入っていて愛用しています。
これらは単体のモノシンセとしてはもちろん、
筐体を外してユーロラックモジュールとして使える柔軟性があります。
○まとめ
触った事がないと謎が多くて全容を掴みづらいモジュラーシンセ。
お金を使う前にその魅力を紹介できれば、或いは冷静に判断できれば
ご自身にとって向いているのか向かないのか決められるかと思います。
こんな偉そうな事を言ってても自分もまだまだ「セミ」モジュラー止まり。
いずれサブハモを卒業してフルモジュラーにしたいと思いつつも、
まだまだその魅力を掘り下げる余地があるのでしばらく時間がかかりそうです。