モジュラーシンセのシーケンサー
前記事「はじめかた2022」では書き切れない内容だったので別記事としました。
ユーロラックモジュラーのシーケンサーは個性が際立っていて、
しかもフィジカルな操作で簡単に扱える物が多いんですよ。
自分はその個性的なシーケンサーを扱いたいが為にモジュラーシンセをやっていると言っても過言ではなく、
これまで多くのシーケンサーを所有/試用しました。
通常のMIDIシーケンサーと違ったルールがあり、シーケンサー単体で動かないのが普通だったり
何かと面倒臭いんですけど、ムチャクチャ楽しいんで是非とも色々試してみて下さい。
○モジュラーシーケンサー特有のルール
・自走しないのが普通
シーケンサーの他にテンポを司る「マスタークロック」なる物が必要な事が普通です。
クロックジェネレーターとも言いますね。
初めて知った時は面食らいましたよ。シーケンサー買っても動かないんだもん。
今ではクロック内臓の自走できるシーケンサーもありますが「普通は無いもの」と認識してください。
自走できるシーケンサーでも、外部からクロックを送ってやるケースが多いです(その方が便利)。
・CVシーケンサーとGATEシーケンサーが別扱いな事も
主に音程を操るCVシーケンサーと、ドラムなどに使われるGATEシーケンサー。
一緒に出せるのもあるけど、別々に購入して自分好みのシーケンサーを組み合わせるのも可能です。
例えばGATEシーケンサーとランダムCVを組み合わせるとか面白いですよ。
・打ち込み型シーケンサーは少ない
ほとんどがライブでのインプロヴァイス(即興)プレイを前提としていて、
その即興性に特化した機能が様々あります。
グルボのように「パターンを打ち込んでそれを再生する」という概念が希薄ですね。
というより「パターン」という概念が無かったりするのね。
その代わり即興性や演奏性についてメーカーやビルダーのアイデアが
ふんだんに織り込まれたモジュールが沢山あるのです。
・スケールクオンタイズ
高級シーケンサーではCVの値に制限を付けてクオンタイズ出来ますが、
基本的には独立した「クオンタイザーモジュール」を使います。
これによって例えばCメジャースケールの白鍵だけの音を出したり、
1音2音だけに限定した独自のスケールを奏でる事も出来ます。
・フレーズやドラムパターンを自動生成するシーケンサーも沢山あるよ
ランダムCVで全自動/半自動でフレーズを作ってくれるものや、
「ユークリッド・シーケンサー」と言ってドラムパターンをイイ感じに生成してくれるものもあります。
○シーケンサーの前に用意しておきたいマスタークロック
自走する/自走しないに関わらず、あると何かと便利で助かるマスタークロック。
複数のシーケンサーを同期させたり、テンポを自在に操ったり出来るんですよ。
代表的なのはこの3つ。
左からPamela’s WORKOUT、4ms QCD、MakeNoise TEMPIとなります。
一番人気でシェアも高いのがパメラ。
メインのBPMを基準に8種類のクロックを出す事が出来る上、
コレ自体がシーケンサーになったりLFOとして使えたりする万能モジュールです。
BPMを数字表記できるのって珍しいしオプションでMIDIとの同期も可能。
次いでQCD。アタシこれ愛用してます。
テンポは上の小さなボタンを使ったタップタイプですけど、
それを基準に4つのツマミで分割/倍増が思いのまま。
「このシーケンサーは倍速に、ソッチのは半分の速さで」なんて事が楽勝です。
そしてTEMPI。
こちらタップで6つのテンポを決めるタイプ。これ自体をドラムシーケンサーにする事も。
またクロック信号をミュート/アンミュートする事も出来ます。
○スケールに沿ったCVを作るクオンタイザー
入力したCV信号をスケールに沿った電圧に強制的に変えてしまうクオンタイザー。
ツマミでスケールを決める物と、鍵盤を模したボタンタイプとありますが、
単体で購入するなら鍵盤タイプの方が遥かに楽しいですよ。
スケールに関係なくボタンで指定した音階しか鳴らないように出来ます。
デュアルクオンタイザーをベースにしてシーケンサーにもなる万能モジュール。
他のクオンタイザーはプラスのCV信号にしか対応してませんが、
これはマイナスのCV信号もイケる便利な奴。高いけど重宝します。
○何をシーケンスする?
普通に考えればシーケンサーで操作するのはGATEで発音タイミング、CVで音程ですよね。
ただモジュラーシンセの面白い所はジャックが刺さる所なら何をシーケンスしても良いのです。
フィルターの開閉でもディレイのフィードバックでも、発想次第で自由に操る事が出来ます。
「それって本来はLFOとかEGの役割じゃん?」と思われるかもしれませんが、
逆に考えてLFOやEGで音程を操っても良いのです。
・ランダム・ジェネレーター/自動生成系モジュール
モジュラーシンセの世界ではシーケンサーの仲間に入れてしまっても良いランダムCV/ランダムゲート。
機械に任せた完全なランダムや、ある程度の法則に則った電圧を作ってくれるモジュールです。
「演奏とは自分で操作しなくてはならない」という発想を辞めてしまいましょう。
もちろんランダムCVの後にクオンタイザーを使ってスケール通りの音階にする事も可能です。
左からMutable InstrumentsのMarbles。
3つずつのランダムCVとGATEを吐ける上にクオンタイズも可能です。
現在は生産中止になってしまいましたがオープンソースなので同じ仕様の物やDIY製品が色々あります。
そのうちの一つがAfter Later AudioのPACHINKO。少し小型になってます。
次いでMakeNoiseのWogglebug。
外部からCVコントロールも可能なランダムジェネレーターです。
次はAfterlaterAudioのAlan。
高名な数学者の名を冠したTuring Machineと呼ばれるDIYランダムジェネレーターを、
コンパクトにまとめた製品です。
エキスパンダーで11個のゲートを出したりシーケンサー的な扱いも出来ます。
その右の一番デカいのはCentreVillageのC Quencer DLX。
ランダムではありませんが半自動生成のシーケンサー。
半自動、というからには自分で操作すべき箇所と機械に任せる箇所との
棲み分けが作り手のセンスが問われる部分です。
最後は同じCentreVillageのECQ。こちらはゲート生成してくれるモジュールです。
「ユークリッド・リズム」と言って、
ユークリッドさんという数学者の不思議理論を応用したとにかくイイ感じのリズム生成機ですw
○今まで所有したor試したor気になるシーケンサー
かんたんなスペック
・CV/GATE又はCV又はGATE
・自走する:マスタークロックが必要ない
・クオンタイズ:内蔵か否か
・トラック数:単純に幾つの音を鳴らせるか、幾つのCV/GATEソースがあるか
・ステップ数:普通のシーケンサーと同じ意味
・KORG SQ-1
(CV/GATE、自走する、クオンタイズ:CメジャーかCマイナーのみ、8ステップor16ステップ)
まずは最高の名機というか全てのシーケンサーの基準とも言えるSQ-1。
ユーロラックに内蔵出来ませんが1万円以下で買える物なのでモジュラーユーザー全員一つは持っています。
コイツより高くてコイツに劣るシーケンサーもゴロゴロありますので、
とりあえず一個買っておいて損はないです。
・ELEKTRON analogFOUR
(CV/GATE、自走する、クオンタイズ:無し、64ステップ)
ELEKTRONのグルボA4もCV出力を備えているのでモジュラーシンセに利用する人少なくないです。
パラメーターロック/TRCなどELEKTRON必殺機能をモジュラーで使えるのって結構凄い事なんですわよ。
ちなみにanalogRYTMもゲートシーケンサーとして使えます。あんま居ないけど。
・MakeNoise RENE2
(CV/GATE、自走しない、クオンタイズ:あり、2+1トラック16ステップ)
紹介記事
「スーパーSQ-1」とも言うべきユーロラック定番シーケンサー。
コイツが手放せない理由は「クロック入力が二つあって別のクロックで二つのトラックを扱える」事。
発売からだいぶ年月が経っているにも関わらず、この機能を持ってるのはコイツだけです。
(CV/GATE、自走する、クオンタイズ:無し、1トラック3CV8ステップ)
これもSQ-1が凄くなった奴と言っても間違いないです。
タッチコントロールで鍵盤のようにも扱える上、1ステップごとに3つのCVを吐けます。
・Noise Engineering Bin SEQ
(GATEのみ、自走しない、1トラック8ステップ)
BinSEQはトグルスイッチが8個ついただけの単純明快ゲートシーケンサー。
パチン!パチン!とトリガーするのが気持ち良いんですよ。
通常のクロックを入れてやれば走りますが、
4msのQCDを使う事でクロック速度を自在に変えてやる事が可能となり、
只の8ステップシーケンサーじゃ済まない表現力が手に入ります。
・ST MODULAR SHIKENSA
(CV/GATE、自走する、クオンタイズなし、1トラック5ステップ)
BuchlaのMUSIC EASELを彷彿とさせる5ステップシーケンサー。
3または4ステップにもなります。
奇数ステップの気持ち良さは是非とも体験して頂きたいところ。
ちなみにこれキット販売のみです。ビルダーに作ってもらいました。
・Intellijel Designs METROPOLIS
(CV/GATE、自走する、クオンタイズあり、1トラック8×8ステップ)
185系シーケンサーという昔のRolandシンセに付いたシーケンサーを再設計したモデルです。
これは型落ち。現行機種はMETROPOLIXという名で売ってますが、操作が複雑なのでこの旧型の方が好きです。
最も得意なのは「即興アシッド」ですね。これとx0x-heatを組み合わせれば最高のアシッドベースマシンが出来ます。
185系は他にもこんなのあります。シンプルな造りがお好みの方にオススメ。
https://clockfacemodular.com/products/ryk-modular-m185-sequencer
Mallekko VARIGATE 8
(2CV/8GATE、自走する、クオンタイズあり、8ドラム2CV16ステップ)
これ一つで6ドラム2シンセまで走らせられる多機能シーケンサー。
古くからの愛用者も多く定番品ですが、
ジャックの位置が微妙で挿したケーブルが邪魔になっちゃうのが困りもの。
Mallekko VARIGATE 4+
(CV/GATE、自走する、クオンタイズあり、4トラック8ステップ)
8ステップと半分ですけど、上のVARIGATE8より使いやすいですよ。
4CV、4GATE、2+2CV/GATEと選択出来るのも便利ですが、
ドラムシーケンサーとして使っている人が多いですね。
スライダーの位置によって決まるのが「ゲートする確率」なんですよ。
右いっぱいなら100%、真ん中なら50%といった具合に。
Amtumbra ROT8
(CV/GATE、自走しない、クオンタイズなし、1トラック8ステップ)
これもキット販売のみです。回るシーケンサーに憧れて2つ買いました。
回るのってイイですよ。
・・・以上までが所有経験のあるシーケンサー。
半分以上は手放しちゃったけどね。
ここからは気になってたモデルです。
左:Erica Synths Black Sequencer
(CV/GATE、自走する、クオンタイズあり、4トラック64ステップ)
現時点で最も多機能なシーケンサーです。ほんとELEKTRONみたいな奴。
多機能過ぎて持て余しそうだからRENE2にしたけど、
シーケンサーに求める機能が全て備わってる最強の1台です。
右:WMD METRON
(GATE、自走する、16トラック64ステップ)
惜しくも倒産する事になってしまったWMDの最強リズムシーケンサー。
1度に4トラック分のトリガーを視認できるのが凄いんです。
左:Buchla TipTop 245t
Buchla5ステップシーケンサーのユーロラックVer。
一つのステップで4種類のCVを生成できるんですね。
中:Qu-Bit Bloom
打ち込んだフレーズを基準に展開を作ってくれる自動生成シーケンサー。
右:Flap Tools USTA
なんか物凄い高機能。そして回る。回るシーケンサーは正義。
○まとめ
ここで紹介したモジュールの他にも沢山ありますが、
個性的過ぎて理解できないから辞めとくか!という理由で割愛しました。
どれを選んでもムチャクチャ楽しいので、財力の続く限り色々試してください〜。