マシンライブの現場心得

最近ではメーカーや楽器店が「マシンライブ」という単語を使うようになってくれて、
少しずつではあってもシーンの拡がりを感じる事が出来ています。
マシンライブの厳密な定義は各々にお任せしますが、
ここでは「電子楽器を用いたDJ的なプレイ」くらいに留めておきます。
ただしDAWでもモジュラーでも広義での電子楽器であればその範疇に入ります。

さてさてネットなどでこういった情報を得て、
実際に機材を揃えて自宅でのプレイが様になってきたら、
いよいよその音楽を他の人に向けて聴いてもらいたいですよね。
ここで選択肢は二つ。
一つはコロナ以降に環境整備に盛んになってきたネット配信や動画作品の制作。
もう一つが従来からある「現場」つまりライブハウス、クラブなどでプレイをする事です。
自分自身が現場至上主義(いや、頭が固いだけかもw)なので、
このブログでも現場のアレコレについてお話します。

○マシンライブ・シーンが抱える課題

ホントの事を言うとシーンなんて言って良いほど拡がっているのかは謎なんですがw
DJと生楽器ライブの中間といっても良いマシンライブは、
そのデメリットも中途半端な立ち位置である事に起因します。

ライブハウスに行けば「なんかDJっぽいね」と侮蔑的意味合いを込めて言われたり、
じゃあクラブに行くと「DJみたいに状況に合わせて曲調変えてよ」と無茶言われたりします。
ついでに言うとクラブカルチャー以前の電子音楽古参組からは小言を延々と言われます。

しゃーないっすね。
どこにも属さない為にどこからも厄介者扱いされるのです。

それはさておき近年のコロナ問題で大打撃を受けている音楽業界と飲食業界。
そのどちらにも頼らざるを得ない僕たちもこの先の活動を見据えて右往左往している訳ですが、
こう言っちゃっ悪いけどこのカオスな状況はドサクサに紛れて自分たちがのし上がるチャンスでもあります。

その為に自分達が活動できるフィールドをもっと拡げようじゃありませんか。
個人的に狙っているのがカフェ界隈です。もちろんテクノやハウスをドカドカやる訳にもいきませんが、
グルボやシンセが得意とするのはダンスミュージックだけじゃないでしょう。

例えば「カフェでモジュラーシンセを使ったアンビエントなBGM係」なんて、
そういうビジュアルがお好きな店主さんなら食いついてくれるはずです。
そういう訳でソッチ方面への開拓を視野に入れたお話もしていきたいと思います。

○業態による文化、慣習の違い

一般的に「お客に音楽を聴かせる店舗業態」を便宜上ライブハウス、クラブ、カフェの3つとします。
コンサートホールとか多目的イベント会場とか規模の大きな場所はここでは触れません。
「バー」という業態もありますが、ライブバー、DJバー、カフェバーといった風に
3つのうち2つ以上の要素を兼ねた業態となります。

ライブハウスではお店における音楽の重要度が占める割合が最も高く、
集客を演者のネームバリューに依存せざるを得ない構造となっています。
クラブでは演者個人のネームバリューよりも、イベント/パーティのブランド力が重要です。
そしてカフェでは演者の魅力に頼る事はあまりなく、お店自身の魅力によって集客します。

この違いにより金銭的、時間的あるいは設備的に演者側の負担が大きく変わる事を念頭に入れてください。
また地域によって特に金銭面での慣習が変わる事もあるでしょうね。

○ライブをしたいと思った時に誰を頼ればよいのか

ライブ文化では「イベンター」クラブ文化では「オーガナイザー」といった、
そのイベントのプロデューサー兼幹事さんがいます。
演者とお店、お客の間を取り持ってイベントの空気を作る重要な役割です。
一般的にはライブ側のイベンターよりもクラブ側のオーガナイザーの方が権力が大きい気がします。
立場上では同じプレイヤーだったり、お店のスタッフか兼ねる事もあります。
こういう人を見つけて相談するのが最初の一歩目。
あるいは向こうから声をかけられる事もよくあります。

この時に一番重要なのが「演者側の金銭的負担がどうなっているか」を確認する事です。
初対面でも気心の知れた友人でも必ず確認して下さい。
ナァナァに話を進めて後で金払え!なんて言われて仲違いしてしまった、なんて話はよく聞きます。

○演者と店や幹事との金銭的やりとり

・出演料

ライブ文化に多い形態で、出番を貰う代わりに数千円〜数万円の徴収が発生する形です。
3.4人のバンドでなら割り勘にすれば然程痛い出費ではありませんが、
基本一人で行うマシンライブではチョット重たいですよね。
とはいえ仕方ない。ニッチなジャンルですから。

・ハコ代

こちらはクラブでよく聞く言葉。
一日の営業に対してイベント側が支払うハコのレンタル料、だと思って下さい。
ライブでは演者単位ですがクラブではイベント単位でいくら、と支払います。
演者の人数が多ければ多いほど1人あたりの負担は減りますが、
当然割当てられる時間も減ります。

・集客ノルマ

これは中規模以上のクラブ/ライブハウスどちらにも見受けられます。
厳密に「○○人呼んでくる必要がある」とか、もう少し曖昧に「○○人呼ぶのを目標にしてね」とか、
ハコによってもオーガナイザーによっても違ってきます。

以下は逆に店から演者に支払いが発生するケースです。

・バック

逆に一定以上の集客が出来る演者/イベントには
「〇〇人以上集めたら一人あたり○○円払うよ!」というシステム。
人気のある演者を店に留める為にこうした支払いもあります。

・ギャラ

普通に出演する事に大して支払われる金銭です。
まぁ一定以上の規模、一定以上の実力のある演者にしかありませんがね。

・足代

ギャラは出ないけど交通費は出すよ!というケースもあります。

こんなところでしょうか。
これがバンドやアイドルになると色んな稼ぎ方があるようですが、
まぁ僕らには関係ないので割愛します。

あとカフェ。上のような金銭的なやりとりはほぼ無いでしょう。
クラブもライブハウスも平日だったり規模の小さい所では
演者の金銭的負担が全くなく、
普通に飲み食いするだけでOKな所も多いです。

自分のやっている「マシンライブ・ワークショップ」では
お客も演者も一律で¥2000/3ドリンク。
食事がよく出るお店なので、そっちで稼げれば良いという考えです。
また本来はエントランスフリーのお店だけど、
経験上電子楽器界隈の人間はあまり酒が進まない事が多いので、
(テキーラ祭りがデフォルトのクラブに比べて、ですが)
強制的にドリンクを頼ませて店にお金を落とさせるシステムとしています。

どんなお店も形は様々だけど、人を集めて稼がないと潰れちゃいますからね。
自分の居場所は自分で守る。演者を志す皆さんはこれを念頭に入れてください。

○何にせよ挨拶と礼節

ハコ入りするにあたって最も大事な点。これに尽きます。
音楽業界はイメージとは裏腹に割と古風な風潮が強く、
当然ながらライブハウスやクラブもその影響を受けています。

飲食要素の強いお店であれば、
事前に下見を兼ねてお店に伺うと良いでしょう。
挨拶がてら設備の確認をしたりしましょうね。

店に入ったら何よりも先に店員さんに、オーガナイザーに挨拶してください。
イベントが終わって店を出る時にも礼を言ってから帰るようにしましょう。

音楽どうこうではなく一般的な礼儀ですが、
「こんなニッチな音楽でもハコとして受け入れてくれる事に感謝」してください。

挨拶ついでにお話すると、

自分の集客、つまり自分の為に来てくれたお客さんに対しては丁寧に感謝を伝えましょう。
普段からの悪友でも、ちょっと気になる異性でも、場違いを承知で来てくれる職場の人にも。
これらの人が帰る際には出口付近まで見送るポーズを取るのが最も良い形です。

たとえばパンクやメタルみたいな、或いはヒップホップなどの悪そうなイカツい人達でも、
お店とお客に対しての礼儀は忘れていません。
というか、イカツい系のジャンルほど礼儀に煩かったりします。

「現場」という呼び方からして職人気質な体質が強く残っているので、
是非とも実践するようにしてください。

とくに年配の方は初心者であるにも関わらずプライドが高く店員さんに横柄な口調で接する機会をみます。
当然、それ以降は出入り禁止となります。そこ以外のハコでも活動出来ないように根回しをする場合もあるよ。

○設備的な注意点

・機材を並べるスペースを確認

ライブ用にブースや長テーブルを用意してくれる店は少なく、
何か別の物で代用するしかない、というケースがほとんどだと思います。
そして案外小さいので、大型の機材をいくつも並べると無理が出てきます。
そういうトラブルは結構多いので、
自分の機材セットを並べた時の寸法を頭に入れておいて、
お店に下見しに行く時はスケールを持参しましょう。

・最終出力はフォーン又はRCA

だいたいのケースでお店に備わっているPAミキサーに自分の機材の出力を繋ぐ形です。
音量はライブハウスであればPA係の人に、
クラブでは大箱でない限りPA専門のスタッフはいませんが店員さんに、
どこまでの音量を出して良いのか確認しましょう。

というのもお店のスタッフは生楽器やDJデッキの扱いには慣れているけど、
電子楽器にはちょっと疎い、ってケースがほとんどです。

特にモジュラーシンセの人。ラインレベル以上の音量を出す事が出来て、
なおかつ演者自身にも予測がつかない音が出る事の多いモジュラーは要注意です。
運が悪いと過大電流がミキサーをスルーして店のアンプやスピーカーを壊す恐れがあります。
音にこだわったハコ特にDJバーでは店の規模に対して途方も無い金額をサウンドシステムに使っています。
キャパ2.30人くらいのハコでも数百万から四桁越え、割とありますよ。
そんなの壊したら何十年かけてでも弁償して下さいね。

ほとんどのケースでPAミキサー、つまりフォーン端子のケーブルを用意すれば良いのですが、
小規模のDJバーやカフェなどではPAミキサーが無くDJミキサーに繋ぐ形だったり、
家庭用の一般的なアンプに繋がなくてはいけない場合もあります。
そうなると最終アウトのケーブルはRCAですね。
出来ればこちらで小さいPAミキサーを用意してアンプの前に繋ぐと良いと思います。
このあたりはライブ当日ではなく事前に確認しましょう。

・地味に大事なコンセントの位置

自分も忘れがちではありますが、
お店のコンセントの位置は必ずチェックしましょう。
そこから延長コードや電源タップを用いて自分の電源とする訳ですが、
この時お客や他の演者さんがつまづくようなコードの流し方はダメですよ。
踊ってるお客がウッカリコードに足を引っ掛けて音が全部止まっちゃった!
なんて話ありますよw誰とはいいませんがねw
店内が暗く客と演者の境界が無いクラブにありがちなトラブルです。

・設営/撤収は迅速に

グルボを何個も並べるスタイルはどうしてもセットアップに時間がかかります。
そして配線/接続トラブルが多いですね。
一番多いケースがACアダプタを忘れたり間違えて持ってくる。自分もよくやらかします。
万が一の時に周りの人から借りられるように、自分のACアダプタの仕様を覚えておくと良いです。

そして撤収作業も速やかに。
お客や他の演者がぶつかって機材を落とされたとしても故意でない限り自己責任です。

○演奏前後の注意点

・リハーサル

ライブ文化ではリハーサルの時間をしっかり設けてくれる場合が多く、
クラブの方では期待できません。「音出し」と称して音量チェックをするくらいでしょう。

・イベント時の外出

ライブ文化では出入りが自由なのに対し、クラブでは正当な理由が無い限りは出られません。
また自分の出演時間+アルファだけ店に居れば良いライブに対し、
原則的にイベントの開始〜終了までが拘束となるのがクラブ文化。
遅刻早退の際は事前に話を通しておきましょう。
このあたりはクラブ系の方が面倒臭いですね。

○集客をしよう

集客ノルマがあろうと無かろうと、集客する姿勢は必要です。
こんなニッチな音楽ですから当然誰彼構わずって訳にはいきません。
全然興味の無い人を無理やり呼んだところで当人に失礼ですからね。
じゃあどうするかと言うと、
そういう時を踏まえて普段からSNS等で同好の士と幅広く交流する、しかありません。
それで自分の晴れ舞台が来た時にはイベントの告知をする訳です。
普段から好意的に接するよう心がけていれば、必ず興味を持って遊びに来てくれる人はいますよ。
こんなニッチな音楽ですから。

○接客をしよう

これはクラブ文化が誇るべき風習であります。
DJは自分のプレイ時間以外はパーティホストとして振る舞う、という風習があります。
お客の相手をし、お客とお客を紹介し合い、一人でポツンとさせない
なんていう事を駆け出しの頃に師匠や先輩から教わります。
集客よりも接客の方が大事ですよ。

それはクラブにおいてはお客と演者、スタッフの境目が曖昧で、
音楽の重要度がライブよりは低くインテリアの一部、又は演出の一つとして捉えている事に起因します。
ライブが演者と観客の間に壁を作る事でカリスマ性を演出するのに対し、
クラブ系のパーティでは主役があまり目立たない群像劇のようなものです。
お店に雇用されている立場のバーテンさんも含めて、みんなが満足して気持ちよく帰って貰う事に専念しています。
自分の出番以外は空いたグラスを下げたりテーブル拭いたり一人でポツンとしているお客の相手をしたり、
あんなにでしゃばっててもわきまえる所はちゃんとしてるんですよ。

○オーディエンスの注意点

ライブでは演奏中はお客が黙っているのがマナーなようですが、
クラブではお構いなしにベチャベチャ喋ったり騒いだりします。

自分が観客として考えた場合、
個人的にはじっとしているのが苦手なので畏まったライブイベントは苦手です。
クラシックのコンサート、ってのなら納得いきますが。
それに自分好みの演奏ならともかくダセェ奴らの演奏なんて聞いてたくないでしょ。

そもそもクラブ育ちなので
自分のイベントで他所からライブアクトを呼んだ時、
「なんでここの客は演奏中にベチャクチャしゃべるんだ?」と愚痴られた事がありますが、
「黙らせたけりゃ実力で黙らせろタコ」と返しました。

○まとめ

ニッチなニッチな、と繰り返して言ってますが仕方ないんですよ。
まだまだ発展途上であるこのシーンを沢山の音楽好きにアピールするには、
腰を低く丁寧な応対を心がけて下さい。
卑屈に思えるかもしれませんが、生き残る為には必要な手段です。

そんでステージやブースに立ってからブッ飛ばしてやりましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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