アシッドベースの選び方

好き者の皆さんなら知っての通り今年はアシッドハウス30周年。
そのアシッドを奏でるベースシンセも元祖TB-303に始まり
派生モデルやらクローンモデルやらが30年経った今でも新製品が続々登場しています。
そうは言ってもナニ買うのが一番なのか結構迷ってしまうんではないでしょうかね。
そこで今回はアシッドベースを作るシンセサイザーを
ソフト/ハード問わず色々と紹介していこうと思います。

◯303系シンセサイザーとは

Roland TB-303に端を発するベース・シンセサイザー。
スライド/アクセントをステップごとに設定できる1小節のステップシーケンサーを内蔵し、
ピーキーな発振をするフィルターで独特な音色を出すシンセサイザーです。
他のシンセに比べて機能は少なく単調になりがちだけど、
ミニマルなフレーズがかえって病みつきになる非常に癖の強い機材でもあります。

◯元祖TB-303


今さら説明不要、もう20万円以上の高値がついてしまっているTB-303。
他のクローンモデルとそんなに音が違うもんなの?とよく訊かれますが、
物によっては別格の音がします。この点ではTR808や909よりも明確な差があるんですよ。
しかし元々が安物シンセであり個体差が激しいものでして、
今まで4台ほど所有者に音を聴かせて貰ってますが全部別物です。
なので高いお金を払っても望み通りのサウンドが手に入るかどうかは運次第。

更にはアシッドハウスもアシッドテクノも思想的に反商業主義な側面があるもんですから、
無理して手に入れるよりvolca bassでも買った方がよほどアシッドらしい気もします。
なんで個人的には「今更数十万出して買う程のモンじゃなくね?」と思いますが、
色々と知り尽くした上での決断なら構わない、というかむしろ応援します。

◯アシッドシンセの価値観

元祖TB-303の音が絶対的基準になってしまっているのは否めないところ。
本家RolandがTB-303を超える物を既に作れないんだから仕方ないですよね。
メーカーやビルダー独自の解釈でアシッド感を求めた良機材もあります。

大事なポイントは二つ「ウニョン」「ビキビキ」です。
音程をスムーズに変化させる「スライド」機能というのがあるんですが、
303には妙な癖があって「ウニョン」とフレーズが歪みます。
普通のメロディからするととても気持ち悪い変化なんですが、アシッドには大事な要素です。
もう一つの「ビキビキ」はフィルターの発振音。
カットオフとレゾナンスのの組み合わせで尖った演出が出来るって所もアシッドの条件です。

なのでシーケンサーの無いモデル(MS404とか)もありますが、ここでは除外します。

◯ハードかソフトか

トラック制作に重点を置くかライブプレイに重きを置くかで分かれます。
もちろん安いのはソフトの方ですが、いわゆる「ラリれるベース」を作るには相応の技術が必要。
アシッドだってのにクソ真面目にじっくり作り込む必要があります。
誰が触ってもそれなりにトベるのはハードの方。
ツマミをグリグリいじってアハハ~んと遊ぶにはもってこいですが、
大抵の人はそこで飽きてしまいますw

◯デジタルかアナログか

アナログの粗い音こそアシッドベースの醍醐味(キリッ)と言いたい所ですが、
自分がDJとして多用している曲はソフトやデジタルで作られた物が多いようですw
曲として完成しちゃうと聴き分けは難しいかもしんない。
でもやっぱり買う前にアナログとデジタルと聴き比べて見て下さい。

◯アシッドハウスかアシッドテクノか

このご時世に無理矢理ジャンル分けするのもどうかと思いますが、
微妙に違う時代背景と意外と差のある奏法によって、
各々の機材のどこに重点を置くかが変わってきます。

・アシッドハウス
時代的にはコチラの方が先。
DJピエールによって発見され、そのフォロワーの多いシカゴで大量にリリースされました。
音数も少なくBPMも120台前半と遅めな曲が多く、独特なシーケンスを活かしている曲が多いです。
ベースを支えるリズムはソウルやディスコなどの黒人音楽、
アフリカ/ラテン音楽の影響を大きく受けています。

・アシッドテクノ
ハードフロアから始まった第2世代とも言えるのがコチラ。
日本では電気グルーヴで知った方も多いかと思います。
BPM130以上でかなりバキバキビキビキ言わしてます。
フィルターの開閉による音色変化にこだわるのはコチラの方。

現在のトラックではBPM遅めのダブテクノやロウハウスにアシッドを絡めるのが主流でしょうかね?
ダブテクノではダウナー系ドラッグをキメたような浮遊感を演出するのにアシッドが使われています。
ロウハウスの方はオールドスクール・ハウスの手法に則りながらも現代の良質なミックスダウンで
迫力のあるベースに仕上がっている曲が多いようです。

◯現在入手できるアシッドベースシンセ

「レア度」は価格や希少価値の度合い、「ラリ度」は主観的な音のヤバさです。
「プア度」はプロダクトとしての質感の低さ。低い方がイイんですw
プロダクトとしてクオリティが高くても「らしくない」っすからね。
オシレーターの種類によってアナログ、アナログモデリング、デジタルと分けています。
一番エグい音がするのはアナログですが、最近ではアナログモデリングの物もイイ線いってます。

◯アナログ

・Roland TB-303

レア度★★★★★
ラリ度★★★★★
プア度★★★★★

前述したようにプレミアついて大変です。
でもやっぱり音は別格です。使える人が買って下さい。

・Cyclone Analogic TT-303 Mk1/Mk2

https://www.cyclone-analogic.fr/en/34-bass-bot-tt-303-0701980493430.html

レア度★★★★
ラリ度★★★★★
プア度★★★★★

筐体デザインまで丸パクリのMk1。現在では「最も303に近い音」がします。
TB-03の発売と同時にRolandからクレームが入ったのかダサ可愛い缶ペンみたいな筐体になってしまいましたが、
出力端子が豊富なのでモジュラーシンセと組み合わせると凄く面白そうですね。

・x0xb0x

http://www.ladyada.net/make/x0xb0x/fab/

レア度★★★★
ラリ度★★★★★
プア度★★★★★

コッチの業界ではなく電子工学界で著名なLady Adaが設計したオープンソース・プロジェクト。
要は「設計仕様を公開するからお前ら作ってみろや」的なプロダクト。
音はTT-303に負けず劣らず。筐体設計に余裕があるので魔改造された物も多いです。

原則的にはキット販売なんで工作経験が無いと作れません。
ごく稀にヤフオクに流れてきます。
完成品の販売は日本でならgizm0x shopで。
http://gizm0x.handmade.jp/

・AcidLab Bassline 3

http://www.fukusan.com/products/acidlab/bassline3.html

レア度★★★★
ラリ度★★★★
プア度★★★

808クローンMIAMIでお馴染みドイツはAcidLabの303クローン。
あまり存在感が無い(持ってる人が少ない)のでじっくり聴いた事がないんですが、
結構イイ選択だと思うんですよ個人的には。
アナログモデルの中で唯一国内代理店があるので入手し易いって利点も大きいです。

・Avalon Bassline

http://www.abstraktinstruments.com/product/avalon/

レア度★★★★★
ラリ度★★★★
プア度★

303に近いとかそんなのどうでもよく最the強のアシッドシンセですコレ。
例えるなら「もしもELEKTRONが303クローン作ったら」こんなん出来そうです。
Youtubeに挙がっている動画ではイマイチその魅力を掴みづらいところがありますが、
スペックだけでもお腹いっぱいです。
ちょっと引っかかるポイントは「音が整い過ぎじゃね?」と疑問に感じる所。
このあたりアナログと謡いつつ雑味の少ないELEKTRONと似ていますね。
船賃込で13~15万円くらいしますが、20数万出してTB-303買うならコッチの方がいいかも。

◯デジタル(アナログモデリング)

・Roland AIRA TB-3

https://www.roland.com/jp/products/tb-3/
レア度★
ラリ度★★★
プア度★★

登場時には世のアシッドフリークを盛大にガッカリさせたものの、
「実は意外とイイ機材じゃね?」と再評価されつつあります。
中古では2万円を切るようになってきましたね。
音は303に比べて滑らかでいわゆる「普通のモノシンセ」に近いかも。
主役は張れないけど脇役としてイイ仕事してくれます。
実際のところ「303とは別物のシンセ」と捉えると小さいし軽いし打ち込み易いし、
なかなかデキる子です。電池駆動だったらよかったのにね。

・Roland Boutique TB-03

https://www.roland.com/jp/products/tb-03/
レア度★
ラリ度★★★
プア度★★★
TB-3で散々叩かれた後に出てきたのでTB-3よりは303に近い音がします。
価格や入手のし易さも考えると一番手堅い選択。
ただレゾナンスを上げた時の発振音がけっこう耳に痛い。
このあたりはアナログモデリングの限界なんでしょうかね。
しかしシーケンスなどの使い勝手は格段に向上しているようで、
ライブプレイでも色々と便利。
オーバードライブとディレイ内蔵ってのもソソるポイントです。

・Twisted Electrons ACID8 MkII

http://twisted-electrons.com/acid8/
レア度★
ラリ度★★★★
プア度★

これヤバいです。303クローンとは違うアプローチでアシッド感を出した良プロダクトかと。
デジタルはデジタルだけど8bitオシレーター特有の個性的な音がします。
原宿FiveGで販売してますが実物見るとチッコくて可愛いです。質感も極上。
チップチューンにも最適でしょ。35歳以上のオッサンはこの音で殺せます。

◯ソフトシンセ

・AudioRealism Bass Line 3

http://www.audiorealism.se/audiorealism-bass-line-3.html
「マジこれソフトシンセかよ?」
ハッキリ言ってTB-3やTB-03より「らしい音」が出ます。
ソフトでここまで出来るんだから本家には頑張って欲しいですよね。
ハード派の方にもお勧め。

・D16 Group Phoscyon 

http://d16.pl/phoscyon

最初に買ったクローンですが、こちらはソフトシンセの域を超えてません。
癖の無い音なので音創りの素材としては使い易いかもしれないです。

・BassLine – Analog Modeling Synthesizer

https://itunes.apple.com/jp/app/bassline-analog-modeling-synthesizer/id298147000?mt=8

iPhoneアプリ。XYパッドを使ったフィルター操作が楽しいです。
楽器屋さんでエフェクターの試聴する時に重宝してます。

◯ライブや曲作りでの使い方

アシッドベース自体は非常に単調なフレーズなので、単体で聞いていてもすぐに飽きてしまいます。
30年前ならともかく、今では使い古され過ぎて古典芸能みたいな扱いになってます。
それを如何にしてサイケデリックな世界観に引き込むかがパフォーマーの腕の見せ所。
他の音(特にドラム)とどう絡めるかが肝なんでしょうね。

初期のアシッドハウスの曲やDJプレイを聴くと、
アシッドを出すまでにかなり時間をかけてジラしていますね。
曲の前半はリズムだけ、ブレイク明けにやっとベース登場、なんて曲も珍しくありません。
スライド機能の「ウニョン♪」を多用したフレーズが多く、
フィルター操作も結構ゆっくりで数小節かけてツマミを回している感じがありますね。

対してテクノ系では初っ端から入って、ピークでフィルター/レゾナンスのプレイがきます。
エフェクターを挟んで音色をアレコレ変化させるのもテクのうち。
ディストーションを使うのがド定番ですから、ハードフロア以降のアシッドテクノが好きな方は
一緒にディストーションペダルも買ってしまいましょう。
かなり激しくツマミ操作してる人が多く、ハウスがアダム徳永ならテクノは加藤鷹の指使い。

◯他機材との組み合わせ

・エフェクター

アシッドベースの音作りに欠かせないのがエフェクター。
種類が豊富過ぎてここでは紹介しきれないんですが、
オーバードライブやディストーション、ディレイあたりが定番なようです。
個人的にはレゾナンスを閉じた音にリバーブをかけるのが好きかも。
デジタル系303クローンを買って出音に物足りなさを感じている方は、
オーバードライブやベース用コンプレッサーを噛ましてみましょう。

自分が色々と試した中で一番気に入ってるのがコチラの動画の組み合わせ。

DanElectroのSpringKingという安いスプリングリバーブと、
秋葉原のエフェクターパーツ専門店「桜屋電気」で買ったオーバードライブのキット。
それを一つの筐体に収めたモノを作ってみました。
実は壊しちゃったんでもう一度作ろうかor何とか直そうかと考えてます。

・ドラムマシン
ベースのフレーズ自体は凄く単調なので、ライブプレイではドラムの抜き差しが重要です。
なのでMUTE機能が得意なモデルを選ぶのが得策かと思います。
TR-8みたいにフェーダー操作出来るのは抜群にイイですよね。

・オールドスクール派
TB-303と同時期に同じコンセプトで発売されたTR-606のチープな音がジャスト。
しかし606は同期方法がMIDIではなくRoland独自の規格なので(TB303も)、
クローンモデルのTT-606やAcidlab Drumtixが良いかと思います。

・ハウス派
TR-909か、TR-707/727がよく使われています。
タムやコンガ、ホイッスルなどアフリカン/ラテン系パーカッションの音が多用されています。
またボイスサンプルをチョップした声ネタを連発するのも馬鹿っぽくてアリ。
727の音は大好きなんで何処かでクローン出して欲しいですわ。

・テクノ派
これといって定番モデルが決まっているわけではないけど、
やはりアナログドラムマシン、特にTR-808系の音をよく聞きます。

◯まとめ

どんなジャンルのリズムに乗せるか、アシッドを主役とするか脇役とするか、
それによってどこまで予算を割り当てられるか見えてくるかと思いますが、
パンク的DIY精神に富んだ文化でもありますから、難しい事考えずに中古の安物を買って
ハードオフに転がってる安ペダルと組み合わせるのもアシッドのコンセプト的にはアリです。
今年は30周年という事でより多くの人がアシッド沼にハマってくれる事を願います。

心からw

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