モジュラーシンセの入り方

モジュラーシンセに挑戦したいけど敷居の高さに手をこまねいている人が多いと聞きます。
しかし既にハマっている僕らからすれば「モジュラシンセ教えたってーな」と
ズバっと訊かれても何から答えれば良いのかわからないのです。
システム構築から音楽性に至るまで、あまりにも自由度が高いために、
それまでの音楽経験や当人の性格、得意分野などによって取っ掛かりが大きく違ってきます。
ネットに色々あるモジュラーシンセ入門記事や導入指南、
その辺を全部掬おうとして薄い内容になってしまっている事が多いですよね。

ここでは当ブログを読んでくれている方で一番多い層である
「グルーブボックス/ドラムマシン派」「広義でのテクノ」を通っている方を基準に、
モジュラーシンセのナニが良いのかELEKTRONやDAWじゃダメなのか、
最初の一歩目ではなく更にその手前、そんなこんなをお話します。

他にはDAW(特にmaxやリアクター使ってアレコレな人達)や
生楽器(ペダル並べてシューゲイザーをやるようなギタリストに多いようです)から
モジュラーシンセに参入する方もいますが、
自分自身にその経験が無い為に上手い表現や比べ方が分からないんですわ。ご了承くださいまし。

◯一般論としてのモジュラーシンセの魅力

シンセサイザーの各セクションを分割、各々を自分の好きなように組み合わせられる所から始まっています。
大きなメーカーよりもフットワークの軽い小規模ガレージメーカーから発売される事がほとんどで、
大量生産品よりも個性的、独創的なモジュールが豊富です。
そのためオリジナリティの高いシステムを組み、独創的な音楽を奏でるには最短の近道とも言えます。
ユーザーが思い思いのシステムを組み上げて一つの筐体に収める事から、
箱庭作りのようなシステム構築にのめり込んでしまう方も沢山います。

◯実験的、独創的な音楽を受け入れられるか

ジャンルで言えばアンビエント、ドローン、ノイズなど、
多くの人が音楽として捉えづらい音楽。それをガチで演るか否かは別として、
聴いていて受け入れられるかどうかがモジュラーシンセ導入の最初の壁です。
もちろんガリガリのテクノだって良いし
モジュラーシンセでクラブミュージックをやる人は沢山居ますが、
いわゆる「モジュラーのモジュラーらしい音」を取り込んでいたり、
モジュラーでないと出来ない操作を駆使して臨んでいます。

上の動画にあるような音楽を、音楽として受け入れられるか。
こういう音を自分の持ちネタとして取り入れたいと思う方は、
モジュラー向いてます。

◯曖昧な音楽を曖昧なまま楽しもう

グルボで作るテクノやハウス、ヒップホップと違って
モジュラーシンセらしい音楽って、モヤッとして正直言って曖昧です。
音楽に正解など無いけれど、クラブ音楽にはある程度の物差しがありますよね。
モジュラーシンセで扱える音楽は、その物差しが更にユルいです。
その曖昧さを楽しむものだと思ってください。
そして関わっていくうちに自身の音楽性すら様変わりします。
新しいアイデアを機材から教わったり、偶然とんでもないリズムが産まれたりもします。
悪く言えばブレブレにブレます。そのブレすらも楽しんでください。

グルボやDAWですとキッチリカッチリ努力次第で幾らでも作り込む事が可能ですし、
それらの機能を如何に使いこなすかが命題とも言えますが、
モジュラーシンセは機械的、電子的にもいい加減です。
ワケがわからないまま気持ちよさを感じられればそれでオッケー!な所があります。

(んな事言うとアタマ使えよバカ!と怒られそうですけど)

グルボやDAWで作る音楽にはお手本があったり、
自分のアタマの中のアイデアを具現化するには最適ですが、
モジュラーシンセはアイデア自体をマシンに委ねる事だって容易です。
電子楽器の中でも電子機器より楽器に近いものです。

◯モジュラーシンセでテクノ系

テクノ寄りの音楽をやるにはDAW、グルーブボックス/ドラムマシンなどが代表的ではありますが、
ほぼ全ての操作子がパネルに出る事になるモジュラーシンセでは操作性が高く、
グルボに付き物の「ファイル階層」を意識せずにプレイする事が可能です。
また音色ひとつひとつを自分の好みに合わせて選べるのも大きな魅力。
グルボよりも更にライブ性の強いプレイができます。

◯醍醐味はランダムとクロック、キモはファンクションジェネレーター

音階をはじめ各パラメーターを司る電圧信号「CV/GATE」と、
システム全体/モジュール単体のテンポを操る「クロック」。

これらを自由にモジュレーションさせて独特な挙動を産み出す事が、
モジュラーシンセ特有の楽しみに触れる近道です。
ランダムなCV信号を使ってパラメーターに不作為性を持たせたり、
複数のクロックを個別に分割して各トラックを違うテンポで鳴らしたり、
演奏者の思惑を超える音を産み出す手法はいくらでもあります。

グルボでもあるにはある機能。
最近のドラムマシンでは各トラックのテンポやステップ数を変えたり出来ますし、
OCTATRACKのLFOデザイナーなんかも近い機能ですけど、
これらは階層の奥の奥にある機能なのであまり活躍させられないんじゃないでしょうか?
モジュラーならツマミ一発です。

ファンクションジェネレーターとは多機能CV生成器です。
主にエンベロープ、LFO、ランダムなどの機能を兼ねています。
世界一売れたモジュールと言われるMakeNoise MATHSを始め、色々とあります。
モジュラーやるならひとつは持っておきたいモジュールですね。

◯幾らかかるのか、幾らあれば完成するのか

そして「システム完成までに予算はどれくらいあれば良いの?」皆さん気になる所でしょうが、
経験者に言わせると総額で◯◯万円かかる、というよりは、
「月に〇〇万円ずつ使って◯年かかっている」と表現した方がしっくりきます。
完成したモジュラーシステムの総額の他に、
それまでの試行錯誤で結構なお金を溶かしているんですよ。

自分のシステム、比較的小柄な方ですけど約4000ドルかかるそうです。
(そういう計算してくれるサイトがあるんですよ)
しかしここに至るまでの試行錯誤や失敗などを含めると、正直言って計算したくないですw
だいたい毎月5万円くらいの額を投資して1年強かかっています。
新品ではなく中古品や個人売買、DIYキットなどを駆使して4000ドルまでいかない筈だけど、
それでも1年以上かかっています。

なので人のモジュラー指して「幾らかかんの?」と聞くのは愚問です。
答えてあげたくても出来ないんですよ。
あと当人の音楽性も少しずつ変わってきますし(価値観を変容させる事もモジュラーの醍醐味)
世界中のガレージメーカーが新しいモジュールを開発しています。
って事は本当の意味で終わりはありません。

例外として、一部モジュラーメーカーからコンプリートされたセットが販売されています。
MakeNoiseのシェアードシステム、erica synthsのテクノシステムなどなど。
アレコレ迷うのが嫌!って人はイキナリこういうの行っちゃっても良いかもしれません。

◯他の電子音楽との一番の違いは強烈な没入感

DAWに対してハードシンセのアドバンテージはフィジカルな操作感ですが、
モジュラーシンセは更に輪をかけて没入感が非常に強いのです。
以前「モジュラーには人に聴かせる音楽だけでなく、自分で聞く為の音楽を楽しむ人も少なくない」
と言いましたが、それはこの強力な没入感によるものじゃないでしょうか。

鳴らしているうちにその世界にのめり込んでしまう、
傍から見ればラリっているだけなんだけど、良いプレイヤーはそのラリっぷりを伝播させます。
こういったある種のオカルトめいた体験がモジュラーシンセとそのプレイヤーに
異質な印象を持たせるのだと思います。

◯仲間を募ろう

よほど賢い方でない限りはネットの情報を頼りに独学でモジュラーシンセをやるのは困難です。
ガチ理系で英語の堪能な方ならともかく。
出来るだけ共に悩んでくれる仲間を募りましょう。
ショップの店員さんに差し入れ持って厚かましいくらい質問責めにするのもアリ。

モジュラーシンセのコミュニティもTwitter上で幾つか確認出来ますが、
気質やノリが微妙に違ってくるので気の合う所を探すと良いです。
アタシの主宰する「マシンライブ・ワークショップ@津田沼メディテラネオ」でもいつでも歓迎しますよ。
IQ下がる系の音楽しか出来ないけどなー。

◯とにかく気長にやろう

予算や個人差もあるけど、年単位でシステムを組み上げていく人が多いです。
ある程度シンセの知識がある方でも100万円ポンとだせばすぐに出来るシロモノじゃありません。

最低限音の出るシステム(もしくはセミモジュラー)から初めるとして、
モジュールひとつひとつの特性を体得した上で自分に必要な機能を見定めていく必要があります。
ハコが埋まってくると今度はスペースとの戦いです。
1.2HPのスペースを稼ぐ為に既に持っているモジュールを入れ替えたり、
単機能モジュールから多機能モジュールに交換したりと、
胃の痛くなる地獄のパズルゲームが始まるのですw

まぁホントに悩み過ぎて胃痛がしたら気晴らしとして楽器以外の物に散財しましょう!

◯保証は無いと思った方が良い

大量生産を前提とした大きなメーカーと違って、
モジュラーメーカーはほとんどが数人単位の小さなガレージメーカー。
中には本業の傍ら休日に一人でやっている個人ビルダーも少なくありません。

比較的名の通ったメーカーのモジュールを壊してしまい、
修理を頼んでアメリカに送ったのが1,2年帰ってきません。返事も来ない。
面倒臭いんでしょうね。。。

手作り品も多いので値段が高いわりには製品の不具合も多いです。
そんなんでカリカリしてるようじゃモジュラーやらない方がいいです、と言いたいところですが、
代理店を通して国内販売されているものならお店が面倒見てくれます。
(それでも普通のメーカーよりはレスポンスが悪いので覚悟のほどを)


◯モジュール購入は博打

買った機材がイマイチ合わない、ってのは誰でも経験しますが、
モジュラーシンセの場合は特に多いです。
紹介動画なんかを観てもそのモジュール単体の性能は掴みづらいので、
精通するまではモジュールの購入自体が博打とも言えます。
「ダメならすぐ売り払うわ!」くらいの気持ちで購入し、
ネジでパネルを傷めないようにワッシャーを噛まして使いましょう。
(ネジ穴がアルミパネルを痛め易く、ちょっと売りづらくなります)

こういう事から中古品の売買も盛んで、
ヤフオク、メルカリはじめ様々な方法で取引がされています。
リアルな友達が多い方はTwitterで直接売り買いもしてますね。
自分も年に2回ほど中古即売/交流会を開催しています(いまはコロナでお休み中)。
信用の出来る友人ならモジュールの貸し借りもアリ。

◯シーンからカルチャーへ成り得るか

現在では一部の好事家がやや閉じたコミュニティを形成しているに過ぎません。
仮にモジュラーシンセが他の電子楽器から離れて独自の文化を形成するには、
僕らよりも更に若い世代に託す事が必要です。
僕らのようにコアな電子楽器として入るのではなく、
イカれた不思議ガジェットとして受け止める層が現れてきて、
ファッションやビジュアルアートと融合してムーブメントを作る事が出来たら、
今とは違う意味で世の中に受け入れられる事でしょう。

モジュラーシンセには、
ひと昔前の人達が想像する近未来「レトロフューチャー」と通じるものがあります。
映画「ブレードランナー」のようなサイバーパンクな世界観、
あるいは「モジュラーシンセxスチームパンク」とか格好良さげだと思いますね。
銅も歯車も使わないからスチパン文化に受け入れられるかは謎ですけど、
ファッションとしての「パンク」とは相性が良いように思えます。

◯モジュラーシンセ界の格好イイおねいさん達

モジュラーシンセ界(というより電子音楽界でしょうかね)には、
それなりの割合で女性アーティストが活躍していますし、
アマチュアレベルでも僕らの周りにさえ数人います。

グルボ系じゃ有り得ません(笑


◯まとめ

何年も前からモジュラーシンセの魅力を伝えたいと思い、その都度記事にしてきましたが、
ナカナカ上手い表現が見つからずにモヤモヤしていました。
自分自身の理解度の具合が向上したらその都度書いていくようにしていますが、
モヤモヤそのものが魅力なのかもしれません。

モヤモヤが解明出来ずに踏み込むのを躊躇ってるなら、ある意味時間の無駄です。
そのまま首突っ込んでモヤっとフワっとしましょう。

おすすめ