コンプレックス・オシレーター

西海岸式シンセサイズの特色を機能別に紹介する連載(?)記事。
ファンクションジェネレーター、ローパスゲートに続き
3回目はコンプレックス・オシレーターについて自分なりにまとめたお話します。

過去記事はこちら

西海岸シンセサイズへの旅
ファンクション・ジェネレーター
ローパスゲート

◯コンプレックス・オシレーターとは


(基板を見てもミチミチのミッチリ)

現在ではユーロラック・オシレーターの一種、という認識で良いんですが、
「コンプレックス」とは多くの日本人がイメージする劣等感という意味ではなく
単純に「複雑なオシレーター」というニュアンスです。

元祖ともいうべきモデルはBuchla 259

現在でも259eというモデルを製造していますが、値段は見ない方がよいです
有志によって回路図も公開されています。
https://modularsynthesis.com/roman/buchla259/259cwg.htm
この259を元に様々なメーカーが開発した変調マシマシアナログオシレーターの総称ですね。

厳密な決まりはないけど、

・とにかく変調しまくり。
・音声用と変調用のオシレーターがある。
・特に◯◯用といった明記が無く同じオシレーターを二つ積んだものも多い。
・ウェーブシェイパー(ホルダー)がある。
・アナログ故に特有の挙動を持つ。
・デカい。
・高い。

といった特徴があり、仮にこの条件を全て満たしていなくても
メーカーが「これがウチのコンプレックスオシレーターだ!」と謳っていればOKとします。
オシレーター二つとウェーブホルダーを組み合わせればそれで良いじゃん?
と思う方もいらっしゃると思いますが、はいはいそうですね。としか言い様がありません。

このように、モジュラーシンセの世界では固有名詞が一般名詞のごとく広まってしまい、
勘違いした屁理屈おじさんが「それこそが絶対条件だ!」と言わんばかりにドヤる現象が多々あります。
ファンクションジェネレーターと同様にブックラおじさんが言い出した肩書きが一般化しただけであって、
その定義付けは全然重要でないのです。そのあたり曖昧に解釈しておきましょう。
モジュラーシンセを嗜む上でTwitterで話をする時は気をつけて下さいね。

◯音の特徴


(YoutubeチャンネルJohn Schusslerにも比較記事がチラホラあるよ)

フィルターを持たないのが普通な西海岸系シンセでは、
オシレーターの変調によって音色を変えていくのが一般的であります。
自分自身Buchla-Tiptop 258t(これは只のデュアルオシレーター)で互いに変調させる楽しみ方を
覚えてきましたが、コンプレックス〜はそれを更に発展させたものだと思っています。

まぁとにかく変調に変調を重ねてアナログオシレーターとは思えないような音を作り出すのが得意です。
FMシンセやウェーブテーブルシンセなど時代が変わって様々なシンセ形式が乱立している現代でも
通用するその個性的な挙動は、アナログだからこその余計な雑味が大きな要因かと思います。

どんな音がするのか文章で説明するよりも実際試したほうが早いと思うので、
ソフトウェア・モジュラーシンセVCV RackのInstruo Cs-Lを触ってみて下さい。
これはもちろん実機があるものなので感覚を掴みやすいと思います。

https://library.vcvrack.com/Instruo/CsL

それすらも面倒くさいと思う方は以下の動画をご覧下さい。
MakeNoise DPOの音をオシロスコープで波形を見た動画です。
この波形の動きを見てヤベェと思えない方はお帰り下さい。

◯ウェーブシェイパーとは

オシレーター以外での重要な機能にウェーブシェイパー又はウェーブホルダーというのがあります。
この二つネット上でもイマイチ区別がついていないので一緒に考えちゃっても良いと思います。
波形の変形、成形を行う回路のことで、もちろん単品モジュールとしても流通しています。
それらを触った印象では、まぁ「歪むねぇ」といったところ。
とはいえファズやオーバードライブなどの歪み系エフェクトよりも音痩せが少ない印象がありました。
もちろん原理は分からなくとも歪み方から生じる音は独特なものであり、
積極的に使っていきたい機能でもあります。

 

◯入手性はあんまり高くないよ

どのモデルも10万円前後から、と値段もそれなりにする上に、
FiveGやClockFaceで入荷していればラッキーってくらいには難易度高いです。
店に置いてるタイミングで手元にある10万かそこいらをポンと出せないですしね。

なので世界レベルでの個人売買サイトReverbもマメにチェックしましょう。
個人だけでなくショップから新品も出品されているので安心ですけど、
ショップ本サイトとReverbで金額が違う場合もあるので要注意。

https://reverb.com/marketplace?query=complex%20oscillator&product_type=keyboards-and-synths

またカネは無いけど根気はあるよ!って方は、
ThonkやPushermanなどのDIYシンセショップをチェックしましょう。
現実的な値段で入手できます。

 

 

◯現在発売されているモデル

・定番・MakeNoise DPO

自分の周りでは最も所有率が高く、それだけ鉄板アイテムなんだろうと思えるDPO。
比較的入手性も良く主にFiveGで購入する事が出来ます。

・みんな憧れ・Verbos Complex Oscillator

こちらもBuchla259のクローンモデルとして作られているもので、
Verbosの製品は音の良さに定評あります。そのぶん高いけどね。

・この高級感はシステム選ぶかも?Instruo Cs-L

上で紹介したVCV Rackバージョンの本物です。
ソフトで慣れたらこれを選ぶって選択肢もアリ。
Instruoのモジュールはラックの中に入れたら浮いちゃうかも?ってぐらいの高級感あふれるデザインが魅力的。

・分割式コンプレックスオシレーター?AfterLaterAudio COCO system

元々複数の機能を統合したのがコンプレックスオシレーターなんだけど、
それを更に分割しちゃったのがALAのCOCOシステム。
でもそれってかなり効率的だし自身で機能を取捨選択できるからアリな選択肢です。
他メーカーのものより安く済ませたい方にもお勧め。

・自作派にはコレ!CUBUSYNTH – ENGINE



https://www.thonk.co.uk/shop/cubusynth-engine-full-diy-kit/
フルキットで3万円チョイと最も安く購入できるモデル。
ちゃんとアナログだしウェーブシェイパーもついてます。

・ハードコア自作派にST Modular – Oberhausen

https://www.st-modular.com/oberhausen.htm
https://pushermanproductions.com/product/st-modular-oberhausen-fr4-panel-smd-populated-pcb-set/
こちらはパネルと基板、表面実装の部品だけくっついていて、
あとは部品表を頼りに自分で集めてな!という100%自己責任な組み立てモデル。
42HPと超大型ですけどそれだけ使いやすいレイアウトになってます。

・理解不能だが魅力的・Make Noise  Spectraphon

MakeNoiseの新作オシレーター、たしかにコンプレックスオシレーターと謳ってはいますが、
デジタルらしいしウェーブシェイパーも備わっていません。
説明文を読んでも何を言ってるのか全くわかりません。
でも動画を観る限りコンプレックスオシレーターらしい音だし何より一番ヤベェ音がします。

◯まとめ

現代ではモジュラーだけに絞っても様々なシンセサイズ形式がありますが、
普通のアナログオシレーターの「味」をキープしつつも更に太かったり時間とともに変調していく音だったり、
アナログでありつつもFMシンセやウェーブテーブルシンセの特色を持ったのが、
コンプレックスオシレーターだと思います。
腕時計に例えるなら針を使った構造のまま色んな機能を詰め込んだクロノグラフのようなものですね。

基本モジュラーシンセにしか無いものですから、
いかにも「ザ・モジュラーの音!」を作り出したい御仁には格好のアイテムになるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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