5万円クラスのグルーブボックス比較

5万円前後で買えるグルボやドラムマシンのラインナップがかなり厚くなってきて、
メーカーの思想や個性が際立った面白いクラスになってきました。
初心者向けの最初の一台にやサブ機にと、比較的買い易い価格帯でもあるのでここらでまとめて紹介します。

◯選ぶ基準

・グルーブボックスとドラムマシンの違い
「ドラムマシンはドラム専用、グルーブボックスはドラムだけでなくベースや上モノなどのメロディもイケる」
というのが僕らの認識でしたが、その境目はだんだん曖昧になってきています。
「なんとなくドラム向き」「とりあえず全部できる」くらいの区別で構わないと思いますよ。

・シンセとサンプラーの違い
シンセサイザーは自前で電気信号を合成したり加工したりして音を作り出す電子楽器。
サンプラーは外部の音声を取り込んで加工する電子楽器。ざっくりだけどね。
サンプラーには元々入っている音を入れ替える事も出来ます。

・サンプラーとサンプルプレイヤー
音声入力端子を持っていて自前でサンプリングできるのがサンプラー。
音声入力端子はないけどパソコンなどから音源をインストールするのがサンプルプレイヤーです。
面倒だから全部サンプラーって言っちゃってますけど、サンプリング派には大きな違いでしょう。
一般的にはサンプラーの方が上位で、直接取り込む事もPC経由で取り込む事もできます。今の機種なら。

Digitaktはサンプラー、model:sampleはサンプルプレイヤーです。
MPCシリーズやSP-404はサンプラー。CIRCUIT TRACKSのドラム部分はサンプルプレイヤーです。

・機種ごとの個性
各メーカーとも価格帯としては安い方となり、コストを下げる為に要らん機能をバッサバサ切ってます。
どこを要らんか判断するのが設計者でありメーカーの哲学でもあります。
上位機種ほど機能や設定が増えていき、広い表現をカバーできるようになると思って大丈夫です。
そのために「初心者向け」ではあるものの「一芸特化型」とも言え、選択に迷ってしまいますね。

・トラック数とトラック用途
ひとつのパターンでどれだけの音色を備えられるかがトラック数。
機種によっては「こっちはメロディに使ってね」「こっちはドラムに使ってね」と決められているものや、
「全部のトラックを好きなように割り振れるよ!」とユーザー任せになっている物もあります。
前者は初心者に優しい構造、後者では完全ドラムマシンとしても、メロディ専用マシンとしても使えるんです。
個人的には後者の方が好きかな。全トラックがキックの馬鹿マシンとか面白いじゃないですか。やらんけど。

・サイズ/重量と電源方式
このクラスはコンパクトで軽く持ち運びがラクなモデルばかり。
電池駆動出来るかどうか。乾電池タイプもあればバッテリータイプもあったりと、選り取り見取りっす。

・PC連携
エディタソフトが用意されていて、DAWを使った作曲の補助として、或いは膨大になったファイル管理に、
シーケンスやパターン管理も出来ると嬉しいですね。
最近ではオーディオインターフェイスも内蔵されているモノが増えたので、そのままDAWに取り込む事も可能です。

・音質と音のキャラクター
現行モデルに関しては音質面で心配する必要はありません。分離も良く音圧も高いので心配いりません。
ただ音のキャラクターが個性的ではあるので、得意な音苦手な音を把握しておくと良いでしょう。
例えば「CIRCUIT TRACKSで極悪ベースミュージックを作りたい」と言ってもキツいです。止めないけど。

・デモ動画の見方
メーカーから上げられている公式デモは、当然その機種の一番得意な部分をアピールしています。
ものっすげぇ緻密につくられているので真似しようたってナカナカ真似できませんが。
その機種のダメな部分は上手く隠されているので信用なりません。それがビジネスって奴です。

対して個人ユーザーが上げている動画。
しかもそれほどクオリティが高くない素人動画の方がその機種の弱点を見抜き易いです。
狙っている機種を絞れてきたら、素人モノもちゃんとチェックしましょう。

 

◯主要モデル

・novation CIRCUIT TRACKS

買ってはいないけど下で紹介するRHYTHMを買い、操作性は分かっています。
先代モデルも持っていました。
あと知り合いに所有者が多いのよね。

「楽器経験が無くても」という謳い文句通りのとっつきやすいシーケンサーで、
初めての一台にはもってこい、なマシンです。
「音作りはPCで、プレイは本体のみで」という割り切ったコンセプトのため、
ライブプレイでの操作性は抜群です。
またクラスで唯一、6和音が出せるのでアングラ感の強い楽曲よりもポップなトラックが得意。

ソフトウェアエディタを使うと機能の残り70%をフル活用出来る北斗神拳みたいなマシンです。

弱点はソフトシンセみたいな、シャープだけど線の細い音色。

【ここ重要】
独立したMIDIトラックが二つ、エフェクト可能な外部入力があるため、
別のシンセを繋いでライブセットの司令塔としての役割を持つ事ができます。
これが出来るのって、他にはOCTATRACKくらいしかないですよ。

○いいところ
バッテリー内蔵、6和音x2のシンセ、プレイに割り切ったデザイン
初心者にもとっつき易いシーケンサーとトラック毎のパターン変更
キラキラ光る。先代よりはチャラくない。

Xダメなところ
パソコン無いと本気出せない、
ディスプレイも無いので音色の呼び出しなんかで割と困る
音が綺麗過ぎてパンチが無い
キラキラ光る。

☆向いてそうな音楽
和音を活かしたポップス寄りのメロディアスなハウス/テクノとかアンビエント

☆他機種と組み合わせるなら
MoogやDoepferなどのアナログモノシンセは互いの弱点を補い合えるのでバッチリ。
MIDI to CVを介してモジュラーシンセを鳴らすのもアリ。
クラシカルなシンセをモダンなシーケンサーで鳴らす音楽、さぞセンスが良い事でしょう。

ポップ方面なら6和音シーケンスを生かしてPCMシンセも良いでしょう。
外部音源にもエフェクトを加えられるので多少古いシンセでも今風に映えますよ。

あと初音ミクとは相性良さそうだよね。

・novation CIRCUIT RHYTHM


買いました。細かい所でイライラさせられて売り払いました。
所有期間最短記録を更新したマシンです。
TRACKS買っておけばよかったな。
先にTRACKS買って、その操作性に惚れ込んだ人がドラム増やしたい、ってなら止めない。
本体でサンプリング出来るけど、ディスプレイが無いから波形でサンプリング覚えた現代っ子には厳しい。

○いいところ
あんまない。アップデートに期待。
Xダメなところ
トラック毎でパターン変更が出来るにも関わらず、そのパターンで音色を変えられない。
音色変えたいなら更に上のファイル階層の「プロジェクト」ごと変えなくちゃならない。
それでいて128もサンプル放り込めるって、なんか意味あんのか?ああ?

悪い事言わないからVolca sampleでも買っとけ。2な。2。
むしろvolca3つ買え。

☆向いてそうな音楽
タイムストレッチが出来るようになったら化ける。

※ご注意
CIRCUITシリーズはユーザー登録をしないとエディタソフトをDLできません。
すると売却時に面倒なんですけど、novation本国に連絡するとすぐ解除できます。
Google翻訳で英文にしてやってね。
そのソフトが無いとvolcaよりも劣るポンコツです。
つまり、中古品を買う時はユーザー登録を解除済か確認しなくてはなりません。
CUICUITシリーズは頻繁にアップデートを行い物凄い機能強化をされていくモデルなので、
重々気をつけてください。

・ELEKTRON Model:Cycles

買いました。書きました。売りました。また買いました。
FMシンセをベースにしつつ難しい所は取り払ったモデル。
上のCIRCUITとは真逆のキャラクターで、とにかく音が個性的です。
CIRCUITの音がチャラくて嫌!という方はコッチを選ぶと幸せになれます。
ELEKTRONらしく暗く冷たい音が得意中の得意なんですけど、
FMシンセが元なのでレゲエでお馴染み極太ベースも結構イケます。
アナログシンセでは出しづらい金属系も楽勝です。
和音も出せるけどCIRCUITと違ってなんちゃって和音なので、
MIDIデータ上では単音です。

ただいくら簡単操作とは言えそこはELEKTRON。理系に非ずんば人に非ず。
マニュアル読むといきなりファイル構造から覚えさせられます。
悪名高い「ELEKTRON語」も少々覚えなくてはなりません。
「+DRIVE」なんて格好いい名前ついてるけど、ただのストレージです。
外せないSDカードが入ってると思って貰ってオッケーです。

【ここ重要】
ELEKTRON独自の謎機能。全モデルに共通する必殺技。
1小節のパターンで無限の表現力を得られます。

・パラメーターロック
・サウンドロック(この機種ではマシンロック/プリセットロックと言います)
・TRC、トリガーコンディション
・条件付きロック

これらの謎機能を把握できたらELEKTRON検定3級合格です。
余所のシーケンサーを触れなくなります。

○いいところ
MACHINDRUM時代から練りに練り込まれたシーケンサー。
1小節でも無限の表現力が得られます。
ここにハマるとELEKTRON以外触れません。

Xダメなところ
やっぱりELKTRON。初見殺し。個性は強いが個性の強くない音は苦手。
パッドが硬い。あんなん叩けって、スウェーデンの人は怪力なんだなぁ。
シンセサイズが独特で他のシンセに応用が効かない。
将来はDigitoneにステップアップ?無理。始めからDigitone買え。
フィルターが無い。
エンベロープがディケイしかない。
LFOが一つしかない。
モバイルバッテリーで動くけど内蔵式じゃない。

☆向いてそうな音楽
ELEKTRON特有の冷たい音が特徴。クール&ディープなテクノ。
アンビエントやるにはひと工夫必要よ。

☆他機種と組み合わせるなら
(自分自身そのつもりで買ったけど)モジュラーシンセ、ドローンシンセ、ノイズシンセ。
俗に言う「モジュラーシンセらしい音楽」に彩りを加えるならm:cがジャスト。

・ELEKTRON Model:Samples

Model系のデザインが可愛くて好き!って人以外にはあまりオススメしません。
普通過ぎるほど普通です。CIRCUIT RHYTHMよりはずっとマシですけど。

○いいところ
こっちはフィルターあるよ。

Xダメなところ
Cyclesは上位機種のDigitoneより優れた面が多くあり(というか別物)ますが、
SampleはDigitaktの機能限定版でしかありません。
このデザインがいいんだ!手軽に持ち歩けるワンショットサンプルプレイヤーがいいんだ!
なんてこだわりが無い限りは辞めときましょう。
Volca sample2の方が良いです。余ったお金で美味しいご飯でも食べましょう。

・Roland MC-101


「どうせ使い切れないだろw」とダメ元で買ったけど案の定ダメでした。
多機能なんだけど操作子が少ないので延々とメニューを深堀りしなくてはなりません。
良くも悪くも日本人らしいクソ真面目なマシンです。MacOSとPC-9801くらい違います。
「あの頃のあの音を」ってコンセプトな訳ではないけど、オッサンには懐かしい音色がテンコ盛り。
Rolandにはこの昭和レトロ路線でいって欲しいです。若い子には新鮮に聞こえると思うし。

4トラックしかないけれど、ドラムは一つのトラックに16個入るので十分でしょう。
ちなみにサンプルプレイヤーとして使うと、タイムストレッチ出来るようです。
そこに至るまで心が折れて売っちゃったから未確認です。

【ここ重要】
断言しますが、テクノではなくハウスやりたいならRolandです。
しかも黒人音楽寄りのハウスが出来るグルボはRoland一択です。
MCシリーズとかTRシリーズ必須です。
できればこのMCでなくてTR-8S/6Sの方が良いんですけど。
あのリズムが今の技術と品質で鳴るって感動モノですよ。
ホントだよ。おれハウスDJが一番キャリア長いんだから!むしろテクノ知らん。

○いいところ
フェーダー素敵。
往年の名曲の「あの音」を再現したいならもってこいのグルボ。
トラック毎パターン変更が出来る。
4トラックとみせかけてドラムだけなら4×16トラック構成も出来る。
深堀りすればド変態マシンになる。深堀りすればね。

Xダメなところ
シーケンスがやりづらい。
UIがクソofクソ
音創りをやる気にならないからプリセットマシンと割り切った方が良い、
緑に光るLEDがボロクソに言われている。

☆向いてそうな音楽
80-90年代のクラブ黄金期のハウスやテクノ。

☆他機種と組み合わせるなら
TR-6S。サイズも同じだし。
MC-101は一つのトラックにドラムを16も詰め込んでいるもんだから窮屈なんすよ。
なんでドラムだけは別機種に開放してやってコレ自体はメロディ専用マシンにすると良いです。

・KORG electribe2/sampler


二回買って二回売りました。でもたまた欲しくなる謎の魅力。
ウッカリ衝動買いしてしまいそうで怖いです。

ひとつ前の世代ではあるけど、中古市場でかなり安く買い易いのでラインナップに加えました。
更に前のEMX/ESXから大幅すぎるモデルチェンジをした為にボロクソに叩かれたりしていましたが、
今の時代で今の価格帯なら勧められるダークホースですね。

なんせSYNC端子装備でモジュラーシンセとも同期が可能で、トラック数も怒涛の16トラック。
使い手によっては上の現行マシンを喰えますぜ。

問題はステップシーケンサーが実用的ではなく、リアルタイム入力(ほぼ鍵盤入力)が苦手な方には無理。
ここはDAWのピアノロールと繋げてMIDI流すくらいしか対策が無さそうです。

音階セクションをバッサリ切り捨ててPCMドラムマシンとして使うのもアリ。
パーカッション系音源が豊富なので非常に個性的なドラムマシンに化けます。
LFOも面白いのでドローンマシンとして使っても面白いですよ。

○いいところ
安い。乾電池駆動。SYNC端子でモジュラーシンセとも相性良い。

Xダメなところ
音階入力が地獄。鍵盤弾けないとかなりキツい。
底の照明がウザい。荻窪のピンサロかよ。

☆向いてそうな音楽
最新の流行りでなければ結構なんでもイケる。
VA+PCMシンセの許容範囲は伊達じゃない。
ヒップホップでもレゲエでも。
なぜか熟練者ほどアンビエントに行く。

○まとめ

手頃な価格帯とはいえ考えなしに手を出すと痛い目に遭いますこのクラス。
その証拠なのか何なのかコロナ巣ごもり需要で売れたはずのモデルが現在中古市場を賑わせていますw
ご自身の用途と方向性をしっかり吟味した上で臨んでください。



 

 

おすすめ