西海岸シンセサイズへの旅

西海岸と言われると房総半島の九十九里浜を連想してしまう了見の狭いアタクシです。
しかしシンセサイザーの歴史を辿るとかなりの頻度で出てくるワード「西海岸」「東海岸」。
どうやら東海岸と言っても木更津ではなさそうなのでチョイチョイと調べたりしていました。

シンセサイザーのパイオニアと言えば皆さんお馴染みMOOG博士をすぐ連想するでしょうが、
このMOOG博士と同時期に「モーグ式=東海岸シンセシス」とは
別のアプローチで電子楽器を開発したのがドン=ブックラ。
このブックラさんから始まったシンセ方式を「西海岸シンセ」と呼んでいます。

東海岸とはMOOGが拠点にしたニューヨーク、
西海岸とはBuchlaの拠点サンフランシスコの事。

MOOGの方は比較的ポピュラー向けの音楽家をターゲットとするため鍵盤を備えたモデルとし、
Buchlaの方は前衛的な実験音楽家に乞われて制作を始めたそうです。
そして1960-70年代のサンフランシスコと言えばヒッピームーブメント真っ只中!
LSDでガンギマリなサイケデリックカルチャーをバックボーンに持っています。
1990年代のセカンド・サマー・オブ・ラブ=アシッドハウスの文化的ルーツ
・・・とも言えなくはないでしょう。ちょっと強引なこじつけかもしんないけど。

ブックラさんのシンセ、
開発された60-70年代には年間十数台しか生産されない幻のシンセだったんです。
どうもブックラさん、気に入った奴にしか売らない頑固職人なようで、
商業的にはMOOGとは正反対、ぜんぜん儲からないけど
オレ様の作った至高のハンドメイドモデル買えるモンなら買ってみろってノリなんでしょうね。

しかし今はお金さえ持ってけば手に入る復刻版が再生産されています。
https://fukusan.com/products/buchla/
またTiptopから発売されたブックラ本社の太鼓判付きレプリカモデル。
https://tiptopaudio.com/buchla/
寸法や電圧、ジャックなどの仕様をユーロラックに合わせていて他モジュールと互換性もありますよ。
しかも安い。なんで?と訝しむくらいに安い。他のモジュールより1ランク安い。
現在発表されているモデルを全部買ったとしても、たぶん別メーカーで組むより安い。

それとだいたい同時期にDIYブックラの巨大なシステムの
デモンストレーション演奏を目の当たりにしました。
参加しているシンセ系パーティに持ってきて貰えたんですよ。
これが生ブックラ初体験。

電子音楽ではあるものの、なんともかんともジャンルに形容し難い素朴かつ摩訶不思議な音。
この時は自覚していなかったものの、どうも脳味噌の奥の方に焼き付いていたようですこの音。
更にはお話の中で、
現在のユーロラックモジュラーシンセはブックラの影響を受けたモジュールが山程あるでよ。
みんな大好きMakeNoiseなんかは西海岸シンセ復権の立役者だしな。
との事なんです。
いやぁ小耳に挟む程度には知ってたけどさほど意識したことありませんでした。
ちょっと苦手意識あったしね。

そんな色んなキッカケに背中を押され自分もイッチョ挑戦してみるかぁ!となったのが始まりです。

◯西海岸式シンセの特徴

MOOG式東海岸シンセに対しての、
西海岸シンセの違いを挙げるとですね、

・フィルターが無い。
・音色は複数のオシレーターを掛け合わせて作る。
・フィルターとアンプが一緒になったような「ローパスゲート」を使う。
・このローパスゲートが独特な減衰をしてくれる
・エンベロープはADSRではなく「RISE」と「FALL」(AとDに近い)

こんな感じです。
そしてココが最も重要なポインツなのですけど、
ユーロラックモジュラーにはブックラからインスパイアされたモジュールが多数あるので、
これらを組み合わせて作る事も出来ます。というよりその方が近道だと思います。

○ブックラを使うアーティスト

古い時代から現代に至るまでブックラを積極的に扱うアーティストは結構いるもんですが、
特にオススメしたいのがCharles Cohen(チャールズ・コーエン)。
即興演奏がメインの為かアルバム化された作品は少ないのですが、
原初の電子音楽のようでいてどことなく狂気が滲み出てくる、そんな音楽です。

○おてほん

Buchlaの中でも比較的シンプルな構成の名機「Easel」というモデルがあります。
5ステップ・シーケンサー、二種類のオシレーター、ローパスゲート等、
これを基準にユーロラックで似たようなシステムを組むユーザーが多いようです。
上で紹介したCharles CohenもMusic Easelのみで楽曲を作っていたそう。

◯オシレーター:Buchla-Tiptop 258t

最初に購入したのがBuchla-Tiptopのオシレーター258t。
デュアルなオシレーターで税込み3万円を切る破格。
一つ購入してあまりの素性の良さに感激、もう一つ買っちゃいました。
Buchlaのブランドバリュー抜きにして非常によくできたオシレーターです。

特にオススメしたいポイントが二点。
スイッチ等を介さずにLFOの帯域まで下げられる事。
アウトプットが2つずつある事。
これによりオーディオアウトとモジュレーションアウトと同時に使えるんですよ。

5万円以上/20HP以上の高級オシレーターには機能面で劣るとは思いますが、
すっごくシンプルで使いやすい。

◯ファンクションジェネレーター:BEFACO RAMPAGE

Buchla-Tiptopのファンクションジェネレーター「281t」が入手困難だった為、
MakeNoiseのMATHSかコレかで迷いました。
決め手はRISEとFALLがツマミではなくフェーダーである事。
ですがチト持て余してるのが正直なところ。

◯ローパスゲート:P4L LPG/Meng-Qi LPG

こちらも本来はBuchla-TiptopのクアッドLPG292tが欲しいんだけど、
発表されているものの未発売。いつ発売になるか見当つかない状況なので、
とりあえずパッシブLPGを2つ入れています。

◯シーケンサー兼コントローラー:MakeNoise 0-CTRL

0-COASTやSTLEGAと同じシリーズのスタンドアロン・シーケンサー。
ユーロラックに対応させるにはちょっとした改造と加工が必要です。
基本的には8ステップ3トラックのシーケンサーですが、
タッチプレートを備えているので多彩な動きを演出できます。

◯シーケンサー:ST Modular SHIKENSA

こちらはEaselによく似た5ステップ・シーケンサー。
3-4-5ステップの切り替えも可能でシンプルながら癖になるフレーズを生成してくれます。
これと0-CTRLの8ステップ・シーケンサーを絡めていくんですけど、
「なんかそれっぽい!」フレーズが楽に組めるのが気持ち良いです。奇数ステップ、ミソですね。

◯マスタークロック:4ms QCD

私的定番4msQCDを使って0-CTRLとSHIKENSAに別々のクロックを送ってやります。

◯エフェクター:MakeNoise Mimeophon

Easelではスプリング・リバーブを備えていますが、
個人的にペダル含めて至高のディレイエフェクターだと思っているミメオフォンを備えています。
デジタルエフェクターってエフェクトのプリセットを変えるときにブツっと音が切れてしまうのが
気に入らなかったんだけど、コイツにはそれがない。
テープエコーからデジタルディレイまでシームレスに変化していきます。
ツマミをグリグリいじって楽しいモジュールです。

で、こんなんなってます。

ゆくゆくはこんな風にしたいな。

○まとめ

どう頑張ってもチャールズ・コーエンには遠く及ばない気もしますけど
モジュラーシンセらしいモジュラーシンセを組めている実感はあります。
今まで組んできたモジュラーやグルボとは明確に違う楽器。
じっくり時間かけて組んでいこうとおもいます。

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