モジュラーシンセのはじめかた2022
年に一度くらい定期的にモジュラーシンセの入門記事を書いています。
ドラムマシンやグルボと違って自由度が高すぎるので何から伝えて何処を目指せば良いのか見当がつかず、
それ故に入門記事を一定期間で更新しているような状況です。
数年前までは「セミモジュラーから始めるのがいいよ!」と言ってましたが、
近年の半導体不足と円安のせいで美味しさが薄れ、あまりオススメできなくなりました。
そこでセミではなくフルモジュラーシステムで、オーソドックスな構成を考えて紹介してみたいと思います。
○まず箱の大きさを考えながら大まかなプランニング
ユーロラックモジュラーの横幅の単位は「HP」と言って1HP=5.08mm。
一般的には84HP(19インチラックと同じ幅になる)から104HPがあります。
それぞれの幅で1段or2段の電源付きケースが主に流通していますし、
小規模システムの為の60HPとか小さな箱も売っています。
どれくらいの大きさが良いかというのはモジュラーを使って何をしたいのかによります。
1、シーケンスをグルボやDAWに任せて小型システムで済ませる。
2、モジュラーシンセのみで一通りのパフォーマンスが出来るようにする。
3、自宅から持ち出さずに制作用途として利用する。
4、ライブパフォーマンス前提で組む。
最も多いのは104HPx2段のTipTop Mantisという箱。
樹脂製で比較的安く最初に選ぶべき1台として選ばれる事が多いです。
ちなみに104HPx2段あればモジュラーのみでパフォーマンスが可能な上、
ライブに持ち歩くのにも丁度よい大きさ重さとなります。
他にはIntellijel Designsのアルミ製ケース、erica synthsのカーボン製ケースなどもありますが、
箱だけで12~13万くらいしてしまいます。もちろん値段相応の品質ではあるけれど。
もちろん、家から持ち出さない前提であればホームセンターで木材をカットして自作するもヨシ、
手頃なダンボールに詰め込むんだって構いません。
電源は別に必要になるけど「とりあえず音出したい」って人には最短の道です。
木材ユーロラック箱の作り方
http://rudeloops.jp/wp/archives/2157
○簡単な道具を揃えよう
プラスのドライバー(1番と2番)、簡単なテスター(1000円くらいので良い)は必須。
あとはネジ等を整理しておけるケースとピンセットがあるといいですね。
ネジはほとんどがM3ネジを使っていますが、ごく稀にインチ規格のネジを使うケースがあります。
(ピッツバーグのケースとか)
非常に面倒なのでナットからM3に変えてしまった方が良いです。
また「紙ワッシャ」というのも揃えておくといいですね。
モジュールのパネルは柔らかいアルミ製がほとんどで、ネジをそのまま締めるとネジ跡がついてしまうんです。
それを防ぐのに紙製のワッシャ(樹脂製でもいいよ)を必ず挟むようにしています。
モジュールは中古の売り買いが凄く頻繁で、そのネジ跡を嫌う人が少なくないからです。
○ModularGridでバーチャルラックを作ろう
世界中で流通しているユーロラックモジュラーを網羅したサイトModularGridで
アカウントを作り自分なりの構成を考えてみます。
https://www.modulargrid.net/
モジュラーユーザーは「音楽活動」と称してこのサイトでモジュールを漁っているのです。
全て英語のサイトですが、モジュラー特有の専門用語などを覚えるのにも役立ちます。
使い方?
頑張れ。
○普通のシンセとモジュラーシンセの違い1「音量の違い」
モジュラーシンセって音量が全然違うんですよ。ケタ違いにデカいんです。
最終的にラインレベルに落とす「アウトプットモジュール」が必要です。
また普通のシンセやエフェクターの「ラインレベル」を「モジュラーレベル」にまで
持ち上げるプリアンプモジュールも場合によっては必要になります。
○普通のシンセとモジュラーシンセの違い2「MIDIとCV/GATE」
普通のシンセやDAWではMIDI規格を利用して音階やその他の操作を制御しますが、
モジュラーシンセはひと昔まえの規格「CV/GATE」を使います。
これは単純な電圧で音階やら各種パラメータやらを制御する方法で、
単純なぶんだけ如何様にも応用が効くのがモジュラーシンセの醍醐味です。
またテンポの同期も「クロック信号」という専用の信号を使います。
これらはMIDIからCV/GATE/CLOCKに変換するモジュールもありますので、
DAWやグルボから操作したい人は用意しておくといいでしょう。
○普通のシンセとモジュラーシンセの違い3「流通量が少ない」
モジュラーシンセのメーカーはほとんどが数人でやっているような個人経営に毛が生えた程度の
「ガレージメーカー」です。近年の半導体不足で有名どころがバタバタ潰れたりしてますし、
そもそもの生産量も圧倒的に少ないと思って良いでしょう。
手作りが原則だし保証なんてあって無いようなものだし、そのぶん値段も高い。
必要な物も「いずれ買えばいいや」なんて待ってるとすぐ生産中止になったりもするので、
覚悟をしておきましょう。
○シーケンサーは必要か?
小型のシステムでシーケンスはDAWやグルボに任せる人も少なくありませんが、
モジュラーシンセらしい個性的な音を出すにはやはりモジュラーのシーケンサーがベターです。
シーケンサーを使わずに他のCVソースで音階を奏でる方法もありますが、それは更に上級者向け。
モジュラーのシーケンサーはかなり特殊で、
自身に「クロック」が無い為に単体では自走できないものもある、
CVシーケンサーとGATEシーケンサーが別々な場合もある、事に注意しましょう。
もちろん最近では普通のMIDIシーケンサーと同じように単体で全て賄えるのもあります。
また「クオンタイザー」という音階に制限を付けてスケール別に奏でるものも別にあります。
逆に言うなら、モジュラーのシーケンサーはスケールにこだわらないのが普通、って事です。
ベロシティですか?他にシーケンサーが必要になりますよ。
他にもグルボで言う所のステップ数。グルボでは16-64ステップが一般的ですけど、
モジュラーのシーケンサーは8ステップがほとんど。16は珍しいくらいで、
なかには3とか4とか5ステップなんてのもあります。この奇数ステップがまた癖になるんです。
この為にグルボのシーケンサーやDAWのピアノロールよりも原始的(=音楽的でない)のが普通で、
ピロリロピロリロ・・・・なんてフレーズしか出来ないんですよ。下手すりゃ休符もできない。
これらの制限ある単純なフレーズがモジュラーシンセらしさ、とも言えますね。
(このせいで「やっぱモジュラー辞めた」なんて人たくさん居ますw)
○オーソドックスなシンセの構成から練っていく
モジュラーシンセにはBuchlaのような西海岸シンセ、MOOGに代表される東海岸シンセといった
流派があり、特に興味の無い(違いが分からない)方は東海岸方式から始めると良いでしょう。
オシレーター、フィルター、アンプ。
西海岸式だとフィルターを使わずに「ローパスゲート」というフィルター兼アンプのようなものを使い、
音色の変化は「コンプレックスオシレーター」や「ウェーブシェイパー」などを使います。
この違いはYoutubeで動画を見比べるのが手っ取り早いでしょう。
最もシンプルで質の良い基本的なブランドにELECTROSMITHというメーカーがあります。
ここのオシレーター、フィルター、アンプは安くて質が良くオーソドックスですね。
https://www.electro-smith.com/
これを基準にして他のモジュールは、
ツマミの数とジャックの数に比例して音色変化における応用性が格段に上がっていきます。
オシレーターなら各種波形を単体でしか出せない物から自由に混ぜる事が出来たり、
フィルターならLPFだけでなくHPFやBPFまで備えているものなど選り取りみどりです。
これら基本的な要素を2つ重ねたり(例えばフィルターを2つとか)するのもアリ。
自分が今非常に気に入っているオシレーターモジュール「Buchla-TipTop 258t」は、
一つのモジュールに二つのオシレーターがあり、それぞれ別の音を出すのも良いし、
一つを変調専用(LFOも兼ねられる)に使うのもアリな自由度の高いモジュールです。
また、オシレーターとフィルターとアンプが
一つになった(=単体で音が出る)「シンセボイス・モジュール」
というのもよくあります。面白みには欠けるけど、スペースに限りがある時などは活用しましょう。
○エンベロープとLFO
モジュラーシンセにおいてエンベロープとLFOはあまり区別つけられていません。
もちろんADSRモジュールとか、LFOモジュールとかもありますけど、
LFOを兼ねているエンベロープが多いと言うか、
それらをより複雑に組み合わせた「ファンクション・ジェネレーター」なるものを使う人が多いです。
ファンクションジェネレーターには厳格な定義はありませんが、
「LFOとEGを兼ねた物が二つ又は四つと複数あるもの」程度の認識で良いでしょう。
これを用いて複雑怪奇なCV信号を作り出すのもモジュラーシンセの醍醐味と言えます。
またこれらCVコントロール系モジュールは、音階だけでなくエフェクターやらミキサーやら、
あらゆるパラメーターを制御するのに使います。沢山あった方が楽しいです。
世界一売れたモジュールと言われるMakeNoise MATHSをはじめ、
スライダーが使いやすいBEFACO RAMPAGE、
4連のADを基本とした分かりやすいIntellijel QUADRAなどなど、
スペースが許す限り二つでも三つでも試すのが良いでしょう。
○エフェクター
単純なディレイ、リバーブを始め個性的なエフェクターが揃ってます。
これもツマミとジャックの数に比例して応用力が跳ね上がるものです。
個人的にイチ推しなのがMakeNoise Mimeophon。
基本的にはリバーブ付きのディレイ、なんですけど楽器のように扱える柔軟性と、
CVでコントロールできる箇所が多く、これだけの為にLFOを大量に欲しいくらいです。
次いで薦められるのがNoise EngineeringのDesmodus Versio。
質の良いリバーブを始めファームウェアで別物のエフェクターに変える事が出来る万能モジュール。
一番シェアが高いのはMutableInstrumentsのCLOUDS系。
「系」というのには訳があって、これオープンソースのプロジェクトだから
色んなメーカーがCLOUDSベースのエフェクターをリリースしてるんですよ。
・・・と、ここまでが基本的な構成と言うか、一つの音を出す為の構成です。
104HPx2段あれば、これを複数の音がでるようにしたり
シーケンサーを二つ用意したりしていく事も可能です。
○マスタークロック
複数のシーケンサーを同期させるのに必要になってくるのが、
マスタークロックと言ってテンポを司る大元のモジュールです。
ModularGRIDでは「ClockGenerator(クロックジェネレーター)」と言われています。
最も有名なのがPamela’s Workout。
8種類のジャックを持ちLFOやシーケンサーまで兼ねる万能モジュールです。
自分が所有するのは4ms QCD。
こちらは4種類までですけどツマミで速さを変えられるのでライブで面白い動きが出来ます。
また「とにかくシンプルなのがイイ!」という御仁にオススメなのが、
CentrevillageのCLKM。これはMIDIクロックのIN/OUTを兼ねたクロックジェネレーターで、
グルボ等との同期にも使える便利モジュールです。
https://centrevillage.net/products/12
自分の構成だとCLKMをマスターとし、そこからQCDに流して
4通りのクロックを自由に扱えるようにしています。
○ミキサー
ミキサーは音を混ぜるだけでなく、CV信号を混ぜる時にも使います。
多機能ミキサーは非常に高価かつ大型でコスパが悪いw
そこだけ外部のPAミキサーを使っている人も多いです。
・・・と、ここまでが自分に紹介が出来る基本的なモジュールです。
○モジュラーシンセでどんな音楽をやるか
グルボやDAWと決定的に違うのが、ジャンルの枠を無視した自由過ぎる音楽が出来る事です。
音楽理論も必要ありません(あればあったで役に立つけどね)。
ノイズやドローンなど音楽と形容し難い音楽も得意分野だし、
敢えて形通りのテクノをやる人もたくさん居ます。
自分自身は今は西海岸系のシンセを構築してクラシックな電子音楽を作れるようにして、
それとドラムマシンで組んだドラムを組み合わせてライブが出来たら良いな、なんて思ってます。
○時間はじっくりかけて最高のシステムを作れ
近年の流通事情と相反しますが、モジュラーシンセを理解して
自分好みのシステムを組めるようになるにはエラく時間がかかります。
幸いな事に60代、70代と高齢になってもモジュラーシンセを楽しみ続ける事ができます。
○ドラムマシン化はコスパ良くないよ
自分自身が陥ったドツボですが、ドラム音源を複数集めたモジュラーシステムを組むのは、
コスパ的にあんまり良くないです。いずれまたやりたいけど。
今現在流通しているドラムマシンで満足出来るならば、それで済ませた方が賢いっすね!
(ここは思いっきり考えが変わるかもしれんけど)
○海外通販も積極的に使おう
円安で苦しい時期ですけど、海外でしか購入出来ないモジュールは山のようにあります。
国内モジュールショップとヤフオク、メルカリに加えて、
海外のショップや楽器の個人売買サイトReverbもアカウント作っておきましょう。
○観測範囲内でのモジュラーコミュニティ
派閥なんて大それたものでもなく東京の自分自身の活動範囲に限った話ですけど、
・P4L/FoW界隈
ダンスミュージックとモジュラーシンセの融合。
大箱クラブや中目黒SOLFAとか。
・高円寺マチモ周辺
クラシック&ジャンルレスな電子音楽がメイン。
中古モジュラー売買会「マチモがらくた機材市」で有名なのよ。
・ノイズな人達。
アバンギャルドでイカれた人達。
下北沢BREATHや落合Soupにいるっぽい。
・アンビエントな人達
あんま知らないけど色んな所に沢山居ると思う。
これらの人達が互いに混ざりあったりしながら切磋琢磨しているように思えます。
もちろん特定のコミュニティに属さずマイペースでやってる人達が最多数だとは思うよ。
○一人じゃ不安な方は
東京近郊の方なら最近になってショールーム営業を始めた
幡ヶ谷のClockFaceModularに行って世話になるのも良いと思います。
https://clockfacemodular.com/
そもそもコチラのサイトは日本語のモジュラーシンセ情報が豊富なのでシッカリ勉強出来ますよ。
もちろん自分の主宰する第一日曜「マシンライブ・ワークショップ@津田沼メディテラネオ」でも歓迎です。
しばらくお休み中でしたが11月から再開しますよ。