アシッドベースによる脳髄破壊入門
87年に発信されて以来たくさんの脳味噌を掻き回してきた毒電波アシッドベース。
最初期のアシッドハウスや90年代以降のアシッドテクノなどでハマってしまった方も多い筈。
このミヨミヨブヨブヨとしか言わない奇っ怪な電子音こそ
クラブ文化の陰を象徴する音と言っても過言ではないでしょう。
◯アシッドベースの生い立ち
82年にローランドから発売されたベースシンセサイザーTB-303。
音色の再現がプアで本来のターゲットに全く売れなかったところ、
シカゴハウスのクリエイターDJ PIERREが
遊んでいたのかラリっていたのかで奇妙な音が出せる事に気が付き、
Phuture名義で『ACID TRAX』という曲をリリースして大ブレイク。
パクってナンボのヤクザな業界だったシカゴハウス・シーンでフォロワー激増、
ハウスどころかテクノ、トランスにまで影響を与えた上に、
現在に至るまで数年周期で「アシッド・リバイバル」とか言って流行らせちゃうもんだから、
ハウス/テクノ/トランスの四つ打ち音楽では伝統芸能のような扱いをされています。
◯TB-303
現在では入手が困難、20万円以上の高値で取引されている上、
MIDI端子はなくDIN SYNCという一世代前の規格なので
他マシンとの同期にはコンバーターが必要です。
MIDI仕様やエフェクター内蔵など改造されたモデルもあるけど市場に出てくるのは稀。
クローンモデルも色々出ているけど、どれも本物に比べて「下品さが足りない」と言われてます。
一般的な演奏方法は1小節のフレーズを打ち込んで再生させた後、
フィルターの「CUTOFF」と「RESONANCE」ツマミを曲の展開に合わせて操作します。
はたまた後付のエフェクターをリアルタイムで可変させる事もあり、
「ディストーション」と「オーバードライブ」が定番のエフェクトです。
◯クローンモデルの選び方
TB-303のキモは独特のフィルター回路とシーケンサーです。
打ち込み方法が独特なのでソフトウェアなら同じ方法を採用しているモデルをお勧めします。
「スライド」「アクセント」を加えた音色が「ウニョン♪」って歪むつーか曲がるんですよ。
このウニョンという「粘り気」が一般のシーケンサーやシンセでは再現できないようで、
ACIDやるならどうしても本物orクローンモデルに頼るしか無い所以です。
・ACID LAB[BASSLINE3]
http://www.fukusan.com/products/acidlab/bassline3.html
触った事は無いんですがこれが一般的に入手し易いクローンモデルです。
プロダクトとしても完成度が高いので安心してブニブニ遊べます。
・x0xb0x
http://www.willzyx.com/collections/x0xb0x
「ゾックスボックス」と読みます。
現行製品では一番本物のTB-303に近いと言われているクローンモデル。
キット販売のみなので、個人ビルダーによる完成品の入手は
ヤフオク等で地道に探すのがいいです。
自分の所有するモデルは日本人ビルダー[gizm0x]氏によるハンドメイド品。
TB-303と同じVCOを2つ搭載、MIDI、DIN SINC、CV/GATE端子まで付いて
電池駆動も可能なカスタムバージョンです。
http://gizm0x.handmade.jp/
他所で購入したx0xb0xの修理やカスタムにも対応してくれるようで、
作品の出音に似合わずすっごく丁寧な方なので安心して依頼ができますよ。
そして恐らくは日本一有名なx0xb0xアーティスト[Kick.S]
http://electronica-mini.blogspot.jp/2012/12/xoxbox-sokkos.html
各OSのレビューや操作方法を映像で事細かに解説してくれています。
ココが無ければ購入する勇気が湧かなかったかも。
・Roland[TB-3]
http://www.roland.co.jp/products/jp/TB-3/
本家によるクローンモデルですがTB-303の音を期待するとガッカリ。
なーにが「名器TB-303のすべてを精密にモデリングし(キリッ)」だよバーカバーカ!
でも「303とは別モノのシンセ・ガジェット」として捉えれば
安いし面白いし一番健全です!
・AudioRealism[ABL2]
http://www.audiorealism.se/abl/abl2_announcement.htm
ソフトウェアの中ではこれが一番おすすめ。
同じソフトシンセのphoscyonは持っていますが、
コッチの方が打ち込み方法がオリジナルに近く荒く太い音が出ます。ソフトの癖に。
・finger-pro[Bassline]
https://itunes.apple.com/app/id298147000?mt=8&ign-mpt=uo%3D8
iPhoneアプリだけどちゃんと録音すると侮れません。
iOSのUIに合わせつつも打ち込み方はオリジナルを踏襲。
カオスパッド的タッチパネルでカットオフとレゾナンスをいじれるのが新鮮です。
◯エフェクト
テクノ以降のアシッドベースには過剰なエフェクト加工が不可欠で、
ロック・ギターのようにディストーションとオーバードライブで太く歪ませるのが定番です。
ライブプレイの際はギター用のコンパクトエフェクターを使う人が多いです。
そこでx0xb0xの音をDAWに取り込んで色々試してみました。
1,素の音
本体でCUTOFFとRESONANCEを適当に弄って録音した後、
DAW上でノーマライズをかけています。
2,ディストーション
アシッドテクノ定番のエフェクトと言えばディストーションですね。
思いっきり太く荒く歪んでいます。
3,リバーブ
大抵のリバーブにある「ダークなんちゃら」的なプリセットで怪しさ倍増!
ハウス寄りのリズムにはこの方が似合うんじゃないでしょうか。
4,ディレイ
アクセントをつけたい時に使ってます。
前半4小節は素の音、5小節目から8小節目にかけて
ディレイタイム1/8固定、DRY→WET100%、FEEDBACK全閉→全開
5,フィルター
これもアクセントを付けるのに定番ですね。
6,スプリングリバーブ
レゲエ/ダブ定番エフェクトで「ぴちょん」という残響音が病み付きになります。
レゾナンスをブーストした時の発振音「ビョン!」とこの「ピチョ〜ン」の相性がいいです。
「粘った音」プラス「濡れた音」で普通のリバーブより更に怪しくなりますね。
7.オートワウ
思いつきで試してみたら可愛い音色になって面白いです。
◯まとめ
「アシッド」とはサイケドラッグLSDの隠語でして、
アシッドベースによるハウス/テクノ/トランスも60年代末ヒッピー・ムーブメントに
端を発するサイケデリックアートの一つとしても捉えられています。
アシッド・ハウスが生まれた80年代末〜90年代前半に
ヒッピー文化のリバイバルブームが起こっていたのも密接な関係がある筈です。
社会的弱者の負の感情に共感する形で爆発的な支持を得た「クラブ音楽の鬼子」。
薄っぺらな商業音楽に対するレベル・ミュージックとしても
十分な武器になり得るんじゃないでしょうか。