ドラムマシンの選び方
ハード機材を買うにあたって最初の一台目は何がいいの?
と訊かれたらボクはドラムマシンをお勧めします。
やはりクラブミュージックの要はリズム隊ですし、楽器出来なくても大丈夫!
ほとんどの機種が直感で操作できる上にソフトシンセとは別次元の音をが手に入ります。
◯サンプラーとドラムマシンの違い
上がvolca sample、下がvolca beats。
買って見ないことには違いが分からないのかもしれませんね。
用途や目的は被りますが、
サンプラーは外部から取り込んだ音を加工して(主に)リズムを作る機材、
ここで挙げるドラムマシンは「リズムに特化したシンセサイザー」であり、
単体で発音が可能です。
とはいえ多くのドラムマシンにサンプラー機能がついてますし、
OCTATRACKのようにオシレーター以外は全てシンセの条件を満たしているサンプラーもあります。
PCMドラムマシンもある意味サンプラーの一種ですし、
明確な棲み分けをする必要はありませんね。
◯ハードウェアとソフトウェア
NI MaschineやArtruia SPARK、現行のAKAI MPCなど、
PCソフトと専用コントローラーがセットになった物も手頃で一般的ですね。
ローコストかつ音作りの幅と多機能さではソフトに軍配が上がりますが、あくまでもソフトはソフト。
音の個性や操作感、接続の容易さではやはりハードの方が一枚上手です。
とはいえDAW付属のドラムマシンより遥かに高機能なので重宝します。
安いアナログドラムマシンの音をMaschineなどに取り込んで加工するのも面白いかも。
「どちらがイイ音?」と言われても主観の問題ではありますが、
乱暴に言ってしまえばソフトは「ツルっと」した音、ハードは「ザラっと」した音。
ハイファイだけど平坦な音のソフトシンセ(引き立てるには相応のミックス技術が必要)と、
ローファイかつノイズも多くシーケンスも不安定、だけど迫力のある音が出せるハードマシン。
ポップスならともかくクラブではどっちが「いい音」と判断されるかは言うまでもないでしょう。
◯ドラムマシンのスペックの読み方
●音源方式
ドラムマシンと謳われている物でも発音方式によって音も操作も様変わりします。
・アナログ
TR-606、808、AnalogRYTM、ACIDLAB MIAMI
最もクラブミュージックに適した音色。とにかく強烈な音します。
元はアナログシンセなので音色の調整幅が広く分かりやすく音作りに有利。
ビンテージ機材には低い処理能力のためシーケンスに独特の揺れがあり、
DAWなどで故意にシャッフルさせたリズムとは微妙に違います。
この揺れから生まれるグルーヴ感が本物と言われる所以で、
未だに高価で取引されています。
・デジタル
MACHINEDRUM、TR-8、elektribe
TR-8のようにVAシンセ的にアナログを模擬したモデリングもあれば、
MACHINEDRUMのように独自のデジタル路線の物もあります。
初代エレクトライブER-1は今でならチップチューン系の音にハマりそう。
最も個性が多彩なジャンルですね。
・PCM
TR-707、727、XR20
サンプリングした音を発音する物で、音色の可変幅は比較的小さいです。
OCTATRACKやMPCなどのサンプラーもある意味「PCMドラムマシン」。
・ハイブリッド
TR-909、JOMOX、TEMPEST
楽器ごとに最適な音源方式を複数搭載したモデル。
高級機材によく採用されている方式です。
そういやvolcaもアナログ+PCMだったね。
●シーケンス方式
・TR方式
RlandTRシリーズに準じたもので、ほとんどのドラムマシンがこの方式を採用しています。
横に並ぶ16個のボタンを1小節に見立ててスイッチONでトリガーされます。
・MPC方式
AKAIのサンプラーMPCシリーズに準ずる方式で、4×4列に並んだパッドが特徴的。
ステップシーケンスも出来るけど、
リアルタイムでのパッドプレイを好む人に受け入れられてます。
・シーケンス無し
シーケンスを外部の機器に頼る方式。
これはドラムマシンではなく純粋なドラム音源ですが、
JOMOXやVERMONAなど魅力的な製品がリリースされています。
モジュラーシンセもここに入るね。
●外部機器との同期方法
DAWやPCDJ、他の機材とテンポを同期させる機能は必須です。
・MIDI
最もポピュラーなのはMIDI規格。
大抵の物にMIDI INとMIDI OUT、チョットいい奴だとMIDI THRUも付いてます。
安いモデルだとMIDI INしかなかったり(マスターになれない)、
MIDI OUTしかない(スレーブになれない)事もあるので要注意。
手持ちの他の機材との接続が可能かどうか確認しましょう。
・SYNC/CLOCK信号
クロック単位でパルス波が出力される信号で、
KORGのvolcaやmonotribeなどに採用されているSYNC、
古い機材にあるTRIGGER OUT、モジュラーシンセでよくあるCLOCK信号。
これらは呼び方が違うだけで同じ物です。
・DIN SYNC
RolandのTRシリーズなどで使われていた規格。
ケーブルはMIDIケーブルと同じ物を利用します。
MIDIに変換するコンバーターなども売っています。
●パラアウト
高級機になると各楽器ごとに出力できるパラアウト機能が備わっています。
AnalogRYTMやTR-8のようにPCと繋いだ時にパラアウト出来る物もあります。
個別にエフェクターをかけたい、DAWに取り込んで制作に使いたいという時に有難い機能です。
●サンプル取り込み
WAVファイルを取り込んでサンプラーのように使える機能。
声ネタを入れたり生音打楽器を入れたりと、すげぇ重宝します。
この機能はELEKTRONのAnalogRYTMが凄くよく考えられていて、
一つのトリガーでドラムシンセとサンプルを同時に発音できる、
つまりドラムシンセで足りない音をサンプルで補完する事が出来ます。
●モーションシーケンス/パラメーターロック
近年のハードウェアシンセに備わっている機能で、
ステップごとにパラメーターを変える機能。メーカーによって呼び方が様々。
特定のステップだけにエフェクトをかけたり、
ピッチを変更する事でメロディを作ってしまったりも出来ます。
一番強いのはELEKTRONで全てのパラメーターをステップ単位で制御できます。
●エディタソフト
マシンの細かいパラメーター変更をPCから行える機能。
有名ドコロではELEKTRON Overbridge。
メーカー純正の物もあればサードパーティからリリースされている物もあります。
volca用のもあるってよ。
●キャラクター
シンプルなインターフェイスで現場でのパフォーマンスに特化した物と、
膨大なパラメーターを駆使して多彩な音創りが出来る物と、
大きく分けて二通りのベクトルがあります。
前者の最たる物はマニュアル無しでもサマになるプレイが出来るTR-8。
後者ではMACHINEDRUMでしょうか。
●サイズや電源
当然の事ながら筐体のコンパクトさと操作性は反比例します。
また使ってみて気が付いたのが電池駆動マシンの有難み。
配線の手間が一つ減るってだけで非常に助かります。
◯ドラムマシンの試聴の仕方
その機材の音の良し悪しを判断するにはクラブやライブハウス、はたまたスタジオで聴くのが一番です。
普通のシンセ以上に再生環境に左右されます。
ショッパイ音だと思ってたのにクラブで流したら豹変する機材や、
その逆の残念マシンもあります。
そうは言っても大抵は気になる機材をYouTubeでチェックするのが一般的ですよね。
再生環境はもちろん録音環境によって動画の音が変わっちゃうので気をつけましょう。
公式動画とユーザー動画とできるだけ沢山の動画を参考にしましょう。
楽器屋さんで試奏を兼ねて音を聴く場合も、使い慣れた自前のヘッドフォンを持ち込んだほうが良いです。
◯予算別おすすめ機材
シンセサイザーやドラムマシンの面白いところは「安かろう悪かろう」が通用しないところ。
特にLo-Fi上等のクラブミュージックで育った耳にはチープな音の方が心地よい事もあり、
「高い機材=良い音」とは限らないのでご注意を。
もちろん主観の問題ですし作りたい音使いたい場所で大きく変わってきます。
楽器屋さんの試奏コーナーに自前のヘッドフォン持って聴き比べをしてみるのが良いですよ。
どちらかと言うと音質より操作性を重視した方が長く使えます。
・1万円~2万円
KORG volca beatsとAKAi RHYTHM WOLFがこのクラス。
両方ともアナログ音源でチープながらマッシブな出音です。
コストの都合で仕方ないのが筐体の安っぽさ。
許せる方を選んで下さいな。
AKAi XR20も中古で2万円以下で見つかります。
叩いてプレイしたいHIPHOPな人なら選択肢にいれていいかも。
・3万円~5万円
現行機種ならRoland TR-8やKORG elektribe。
特にTR-8は色んな意味で「間違いのない選択」。
electribeもドラムの音がかなり多いので選択肢に入れて良いかと思います。
中古なら3万円前後で買えるね。
ビンテージ機材TR-606、707、727はヤフオクで5万円前後で取引されています。
707/727はシカゴハウスから小室哲哉まで
当時のダンス〜ポップスに幅広く使われていたようですね。
どうしても「本物」が欲しいなら是非。
サンプラー名機MPC1000も中古で5~6万だね。
・10万円~20万円
一番充実している価格帯ではないでしょうか。
TR-808に最も近いクローンと言われるACID LAB MIAMIと606クローンDramatix。
ELEKTRONもこのクラス。
ここまで予算あるならモジュラーシンセでドラムマシン組んじゃうのもアリだよ。
自分だけの最強の機材が作れるもんね。
・20万円以上
「シンセ界のポルシェ」DaveSmith TEMPEST、
「世界最強のドラムシンセ」JOMOX X BASS 999、
はたまた本物のTR-808や909を買うもよし、もう好きにしちゃってください。
◯所有経験のある機材のレビュー
・AKAI XR20
HIPHOP系でお馴染みAKAIのPCMドラムマシン。
コンパクトで電池駆動も出来るのでラッパーにも人気があるようです。
PCMとはいえAKAIらしいファットなで音。プリセットだけで十分楽しめますね。
・ELEKTRON MACHINEDRUM
2000年代テクノ系アーティストにバカ売れしたデジタルドラムマシン。
音創りの幅が非常に広く奥深く、パフォーマンス性も抜群。
使いこなせなくて手放しちゃったけどもう一度買っちゃうかもしれない。
・ELEKTRON AnalogRYTM
やっぱりアナログだろ!と息巻いてMDを下取りにして購入。
音ふてぇ。作り込みも深ぇ。最近ではライブに使う人が増えてきましたね。
ただ高性能過ぎて808や909のような荒さを求める人には不向き。
・KORG volca beats
遊びのつもりで買ったらドハマり。
チープ&ファットな音で「コレや!オレが欲しかった音はコレや!」と
勢い余ってARをヤフオクに流したくらい、自分の中では革命的マシン。
・SonicPotions LXR
VA音源の組み立てドラムマシン。キット販売で送料込み5万円以下と破格。
「プアマンズMACHINEDRUM」と揶揄されるけど、
コッチの方がシンプルで音作りりもし易いですね。
ただいま改造の為に分解中。
・Roland TR-606
友人から格安で譲って貰いました。スネアの音がお気に入り。
TR-808の廉価版というポジションですが、808とはまた違う味のある音です。
◯ドラムマシンの活用方法
・DAWに取り込んで自作の曲に使う
最も基本的な使い道です。
ソフトシンセとは次元の違う音を自分のトラックに取り込めます。
TR-8なんかはよく出来ていて、オーディオI/F機能もあるからサクサク取り込めるようです。
・エフェクターで過激な音作り
買った機材をクラブで鳴らしてみたら意外とショボくてもガッカリするのはまだ早い。
ハードのエフェクターで出音を荒っぽく変えてしまっている方も多いので、
ドラムマシンを持ってエフェクター屋さんで視聴させてもらいましょう!
ギター用のエフェクターでは「ライン入力対応」と謳われている機種なら安心です。
BOSSやSTRYMONは全機種対応しているようです。
お勧めはコンプレッサーやディストーション、オーバードライブなどなど。
ちなみにOCTATRACK内蔵のコンプもドラムマシンの音を力強くするのに有効ですね。
最近ヤフオクで落札したFMR AUDIOのRNLA7239がお気に入りです。
元々はコンプレッサーの勉強をしようと教材として購入したんですが、
コンパクトで軽く、それでいて出音が様変わり。
volcaのロータムやキックの胴鳴り部分を強調してやると凄ぇのなんのって。
とても1万円のドラムマシンには聴こえません。
・DJプレイに合わせて強烈なグルーブを作る
ハウスミュージック黎明期では既存の曲に合わせて
ドラムマシンや本物の生ドラムを重ねてよりダンサブルにしていたと聞いています。
F・ケヴォーキアンなんて元々はドラマーだったしね。
なんでドラムマシンをDJプレイに取り込むだけでかなーり面白いプレイが出来ますよ。
一人でやるのならTRAKTORやMIDIクロック出力のあるデジタルDJミキサーと同期させてしまいましょう。
・複数の安物マシンで弱点を補い合う
スネアとハットが残念なvolcaとキックがショボいTR-606。
606にはロータム/ハイタムのトリガー出力がありますんで、
それをvolcaのSYNC IN端子に突っ込むと同期できます。
◯まとめ
前記事のレポートでも書きましたが、
安かろう悪かろうが通用しないのがドラムマシンの面白いところ。
機能が多すぎても持て余しちゃうし、
かと言って自分にとっての必須機能に気がつくまでには結構使い込まなくちゃわからない。
音もヘッドフォンで聴くのとクラブやスタジオで聴くのとでは全然違ってくるし、
簡単に楽しめるけど奥の深い機材ですね。
さすがにAnalogRYTMからvolcaに買い換えるアホはなかなか居ないとは思いますが。