マシンライブのはじめかた

※現在「マシンライブのはじめかた2022」に新しい情報を載せています。

連載【マシンライブの仕込み方】シリーズも色々とやっていますが、
以前から初心者向けの導入記事をリクエストされていたので、
ここらで一つおさらいがてら改めてまとめます。

ハードウェア/ソフトウェアの電子楽器を使ったライブプレイ「マシンライブ」。
呼び方はともかく歴史は意外と古く、DAW普及後の現代では第何次かは知らんけど
アンダーグラウンドシーンで再燃の兆しを見せつつあります。

何故ただの「ライブ」ではなく「マシンライブ」と呼ぶかは、
演奏の大半を機械に任せているからです。
じゃプレイヤーは何してんの?と言うと、
DJのようなミキシング、音色作り、パターン管理などなど、
要は自作したフレーズの即興リミックスのようなもんです。
ミュージシャンというよりはプロデューサーに近い事をやっているんですよ。

基本的にアングラ志向の音楽なので一般の人達には伝わりにくい所もあるんですが、
最近では「あれあれ!ピコ太郎みたいな音楽やってんの!」と言えば
近所のオバちゃんにも通じるようになりましたしね。ほんとピコ太郎さま様ですわ。

◯マシンライブの醍醐味は異なる文化のぶつかり合い

ジャンル的には広義でのテクノ、或いは電子音楽となるので、
クラブがフィールドになる事がほとんどです。
しかしガチのクラバーは然程多くはないようで、

・DJ/トラックメイカー
・非DJの電子音楽家
・生楽器ミュージシャン
・音響系エンジニア
・ゲーム音楽制作や「音ゲー」から入ったDTMer
・純粋なシンセコレクター

こんな人達が各々の経験と感性を駆使して競い合っています。
年齢層はやや高めで30代~40代と、
若い頃に何かしらの音楽文化にドップリ浸かってきた人達ばかり。
この出自にあたるサブカルチャーの違いから生まれる多様性が面白く、
各々のローカルルールに則った発想をぶつけ合うのが非常に楽しいんですよ。

DAWでトコトン音楽性を追求したプレイもあれば、
プリセット無しの即興演奏でスリルに満ちたプレイも。
シーケンスの上に生楽器を演奏するのもアリ。
音だけでなく光り物や自作機材に走るのもアリ。
パフォーマンスの様式美も確立されていない分野なので、
皆さん自由に模索してますよね。


◯センスを競い合うポイント

当然どんな音楽を演奏するのか、が一番大きいのですが、
電子音楽の特性上、どうも職人的な価値観も重視されてまして、
「どんな機材をチョイスしてくるか」「どういう組み合わせにするのか」
そんな所にもその人の経験と感性が表れてきます。

となると機材のデザインも大きなアドバンテージ。
カスタムペイントや改造を施す人もいるし、
ガレージメーカーのレア機材や自作機材に走る人もいます。
この辺は車やバイク、自転車など乗り物系の趣味の影響や、
電子工作、プラモデルなどの工作系趣味の影響もありますね。

要は「男の子の好きな物事」が凝縮されているのが
このシーンの面白い所でもあります。

◯音楽的には広義でのテクノ

短いフレーズの繰り返しを延々と紡いでいくミニマルテクノが基本になります。
それを元に他ジャンルのエッセンスを加えていくのが良いでしょう。
マシンライブと相性のいい音楽ジャンルを何点か紹介します。

・デトロイトテクノ
80年代半ばに産まれた現代テクノの源流。
「ミニマルテクノ」という言葉が出る前から結構ミニマル。
マシンドラム+叙情的なフレーズの上モノが特徴。

・アシッドハウス/アシッドテクノ
80年代半ばにシカゴハウスから派生したドラッギーな音楽。
ベースシンセの音色変化でサイケデリックな世界観を構築。
90年代にテクノ系アーティストによって再ブレイク。
数年周期で何度もブレイクするゾンビのような音楽。

・エレクトロ
80年代前半に初めてTR-808をフィーチャーしたジャンル。
デトロイト以前のテクノとファンクが混ざった音楽。
ヒップホップと共にブレイクダンスのBGMとして人気。
2010年代のベース・ミュージックに大きな影響を与える。
要はピコ太郎のアレ。

・トランス
テクノとハウスの快楽主義を抽出したような音楽。
派手でキャッチーな方面とダークでアングラな方面とでベクトルが極端に対照的。
どちらもVAシンセを駆使してフロアに神様を降臨させるのが目的。

だいたいこんな感じです。
そもそもDJと違ってジャンルに縛られる必要はあんまり無いんで、
参考程度にとどめておきましょう。

またこれらのダンスミュージックでなくとも、エレクトロニカ、
アンビエントやノイズと言われる非ダンス系の電子音楽もありますよね。
同じ機材を使う音楽ですから互いに影響を与えあってるのは当然。
自分まだまだソッチ方面は疎いので詳しくはおググり下さい。

◯どんな機材を使っているか

電気信号を音声に変えて自由な音作りができるシンセサイザー、
録音した音声を加工するサンプラー、
原音に電気的変化を加えるエフェクター、
それらの音を演奏するシーケンサー、
作った音の大小や強弱を調整して一つにまとめるミキサー、

こんな機能を操って音楽を作っていきます。
現在の音楽制作で主流となっているDAWには全ての機能が備わっていますね。
ちなみにアタクシ歳はアレですがDAWからこの分野に入ってきたもんで、
当初は上に挙げた各機能を分けて考える事が出来ずにいましたね。

 

◯手っ取り早いのはDAW+MIDIコン


AbletonLiveを始めライブ向きDAW、iPadアプリKORG gadgetなど、
コンピュータベースの電子楽器は敷居の低さとコスパの良さが魅力。
またパソコンの性能次第で楽器の数もフレーズも無尽蔵に増やせるので、
ハード主体のライブに比べてより音楽らしい(?)プレイが可能です。

弱点はプレイ中にどうしても画面とにらめっこしなくてはならないので、
パフォーマンス性が低い事。
極端な話オーディエンスからはPCDJと何が違うのか分かりません。

◯花形は未だハードウェア

制作では完全にDAW全盛の時代ですが、いやそんな時代だからこそ
フィジカルに操れるハードウェアのシンセサイザーが再評価されるんだと思います。
結果が全ての楽曲制作とは違い、
ライブパフォーマンスではプレイ時の手捌きも見せ所の一つ。
この操作していて気持ち良いという感覚は
MIDIコントローラーでは味わえないリアルさがあります。
特にアナログシンセサイザーや旧型のサンプラーなどの音質は迫力のある荒々しい音で、
音質だけでもソフトウェアじゃ再現出来ない魅力が確かにあります。

◯複数機材運用のメリット

だいたいライブに割当てられる時間は15分又は30分。
しかし実際にプレイしてみるとこの時間が恐ろしく長く感じます。
そこで2台以上の機材を使う事をお勧めします。
何故かと言うと1台が16のパターンを持つ機材なら、
もう一つ足すだけで16×16=256の組み合わせが出来るからです。

・ドラムマシンとシンセサイザー
一番オーソドックスな組み合わせですね。
お互いの役割が分かり易く、好みの機材を探しやすいメリットがあります。

・シンセサイザーとサンプラー
次いでポピュラーなのがこのセット。現行electribeもシンセとサンプラーの二種類ですしね。

・オールインワン同一機種を2台
余程気に入った機種に巡り会えたのならこの組み合わせもお勧めです。
習得に関わる労力は1台分で済むし、同じ機材を2台使うと何故か玄人っぽい印象を与えられますw

・DAW+ハードシンセ
音に迫力のあるハードシンセと複雑な構成を操れるDAWのシーケンサーを
組み合わせたハイブリッドスタイル。

◯予算別お勧めハード構成例

ここでは主にグルーブボックスと言われるジャンルで、
音源とシーケンサーが一体になっている物を選んでいます。
ドラムに特化した物、ベースやリードに使える物、両方いける複合機だったり、
ワンショット音源だけでなくループ素材を自由に操れるサンプラーも選択肢に入ります。
可搬性を考えて2台くらいまで、なるべく分かり易い操作性のもので、
ジャンルにこだわらず可能性の拡がるセットを考えてみました。

 

・2~10万円コース

・KORG volcaシリーズ

beatsかsampleでドラム、bass/keys/FMでベースと上モノを作るのが良いかと。
新品でも二つで3万、中古なら2万で入手出来ます。
どうもbassとkeysはベース担当と上モノ担当と分かれているようなイメージですが、
実はお互いドッチもイケますんで、気に入った方を2台使うってのもアリです。

 

・KORG ERECTRIBE EMX

操作系が分かり易い為、現行ではなく操作性の良い旧型のモデルをお勧めします。
EMXはドラム8、シンセ5パートと複合機として十分な機能を持ち、
一台でひと通りの音作りが出来ます。
古くからの愛用者も多い名機ですね。
中古で入手しやすく2~3万円で購入可能。

現行のelectribe2/electribe samplerは中古では2万円を切るくらいに値段が落ちてます。
トラック数や音色の数などスペック上では非常に多彩ではありますが、
操作性に癖が強すぎて旧来のファンから好かれなかったようです。
しかしサイズ感といい音質といい2万円なら超お買い得。
カネは無いけど根気ならあるよ!って方ならどうぞ。

・novation CIRCUIT

MIDIコントローラーLaunchPadが有名なnovation、
これはそのLanchPad譲りのUIを仕込んだグルーブボックスで、
シンセ2系統ドラム4系統と必要最小限の複合機です。
覚えやすく使い易い洗練された操作性が特徴。
音自体はソフトシンセに近く、綺羅びやかな出音を得意とします。

弱点は16ステップx8パターンと、ちょっと物足りない。
ミニマル専用機として割り切るか、サブ機として使うかって所ですね。

・Roland TR-8/boutiqueシリーズ

デザインの好みは分かれますがTR-8は非常に使い易い機種です。
TR-8(or09や08)を軸にアシッドやるならTB-03、90年代のテクノやハウスをやりたいならJU-06など、
boutiqueシリーズはキャラクタが明確なので意図する音に見合ったモデルを選びやすいです。

 

・10~15万円コース

・ELEKTRON Digitakt+waldorf Blofeld
  
ちょっと予算に余裕がある方ならこんなセットは如何でしょう?
音数の多いジャンルでも対応できます。
Digitaktのサンプラーにドラムを仕込み、シーケンサーでBlofeldを鳴らすというセットです。
ドラム/シンセ各8トラックずつと、一人で扱うには十分過ぎるトラック数です。
Blofeldはマルチティンバー対応のVAシンセ音源の中でも最もリーズナブルで、
奥の深い音作りも可能です。
ちなみにDigitaktには外部入力があるんで、この組み合わせならミキサー要らず。

 

・Artruia DRUMBRUTE+MOOG MOTHER32

泣く子も黙るフルアナログセット。
操作性が抜群でトリッキーなプレイが容易なDRUMBRUTEと、
リーズナブルながら名門の貫禄は十分なMOTHER32。
M32の内蔵シーケンサーはチョイとつかいづらいんで、SQ-1なんかを足せば尚面白いですよ。
音数少なめでも一つ一つの音に圧倒的存在感があります。

・AKAI MPC LIVE

久々にリリースされたスタンドアロン(パソコン要らない)のMPC。
サンプラー/シーケンサーとしてDAWに匹敵するスペックの機材です。
サンプル音源主体の音楽なら鉄板のブランドですね。
スペックを観る限りではグルボというよりPCレスDAWといった趣きですね。
面倒くさい構成を考えるのが嫌な人はコレが良いかと思います。

◯他に必要なもの

・ミキサー
プレイヤーの最終的な出力はステレオ1系統になります。
なんで複数の機材の音をまとめるのに必要。
現在はコンパクトで安くて音質もソコソコなYAMAHA MG06Xを使ってます。

・エフェクター
必ずしも必要ではないけど、あるとパフォーマンスの幅がグンと拡がります。
ギター用のペダルを流用したり、DJ用の物を使ってます。
稀にラック型エフェクターを抱えてくる強者も。

・ケーブル
オーディオケーブル、MIDIケーブルなど色々と必要になります。
音質はともかく柔らかさにこだわった方が何かと幸せですよ。

・電源タップ
陰は薄いけど忘れちゃいけないよ。
パソコン用の沢山挿せるタップが一般的。
たまにピュアオーディオ仕様の超高級電源タップを持ってくる人もいます。
特にアナログシンセは電気の影響を受けやすいので、
そういうコダワリだって大いにアリ。

・かばん
機材を運ぶのに丈夫な物が必要になってきます。
DJ用のバッグやカメラ用のバッグを流用するのがお勧め。
最終的にはガンガン詰められる旅行用のキャリーバッグになっちゃいますけどね。

◯必要になってくるスキル

一般的な作曲知識は「あれば有利だけど無くても問題ない」といったところ。
それより重視すべきはDJのように長い時間を飽きさせない構成力、
生楽器ミュージシャンのような舞台度胸とパフォーマンス性、
エンジニアのミックスダウンにも通じる音響操作などなど。

またニッチなジャンルですからセルフ・プロデュース力も必要。
クラブやライブハウスでの営業力というか社交性、
呼んでもらえるイベントが無ければ自分で立ち上げるだけの企画力、
アーティストというよりはプロデューサー的なスキルを磨く事になります。

◯どこで学べる?

ほとんどの場合Youtubeなどで上がっている動画を参考に練習を重ね、
自ら動画投稿をしてアピールする、というケースがほとんどです。
動画用の機材はWEBカメラとオーディオインターフェイスがあれば十分。

ネットだけでなくオーディエンスの居る場所でプレイがしたい、という方なら
Twitter等で同好の士をフォローして情報を集めてみては如何でしょう?
SNSではTwitterが圧倒的ですね。

東京限定ではありますが定期開催しているシンセ系ワークショップイベントを紹介します。

・マシンライブ・ワークショップ@bullet’s

西麻布だけど高円寺系

当ブログではお馴染みのアタクシ主宰パーティです。
西麻布bullet’sにて毎月第一日曜17-23時に開催しています。
ワークショップとは名ばかりでカリキュラムなんぞ皆無。
原則的にフリーセッションのみ、レギュラー陣を中心に好き勝手に音を出しています。

ボク自身がDJ、レギュラー陣に生楽器ミュージシャンもいる事から、
音楽的にも社会的にもアングラ色の強い面子が揃っています。
最近は民族楽器+DAWの女の子が2人居るよ。

 

・二水@茶箱

早稲田だけどアキバ系

毎月第二水曜(19-22時?)に開催の「シンセ好きが集まる飲み会」。
飲み会と謳いつつもしっかりしたカリキュラムでセミナーや勉強会をやっています。
同人音楽即売会として有名な「M3」に出展している人達も多く、
傍から見るとキレッキレの理系な人達ばかりに見えます。
あとKORG党の多さが異常。何故かゲーマーが多いw
当ブログでKORG製品推すのも8,9割はここの人達の影響です。

 

◯どこで演奏出来る?

練習を重ねて自信がついたら人前で演奏したいと思うのは当然ですよね。
マシンライブ専門のイベントはまだまだ少ないけれど、
音的に相性のいいテクノ系DJパーティに
ライブアクトとして一組二組と入ってるケースは結構あります。
そういうオーガナイザーと仲良くなるのが手っ取り早いですよ。

 

◯まとめ

電子楽器のライブプレイは意外と歴史が古く、
はたまたハウスやテクノの原型もこういうハード機材しか無かった頃ですから、
「マシンライブ」という言葉が新しいだけだったりします。

現在は何度めかのブームとしてメーカーから新製品が続々登場してますが、
いかんせん生でプレイを出来るフィールドが圧倒的に少ないのが痛いところ。
東京や大阪の大都市でさえ人づてに情報を手繰り寄せる必要があります。

しかし前述したように様々な畑の出身者が一堂に会するシーンですから、
そこから何処に飛び火をするのか僕らにもわかりませんし、
誰も想像できないような形で爆発するかもしれません。

まだまだ小さなシーンですから育て甲斐も育ち甲斐も大きいですよ。
興味のある方の参加をお待ちしてます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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